アクセシビリティのための代替インタフェース

ユーザインタフェース(UI)における晴眼者と視覚障碍者との違いで重要なのは、グラフィックスかテキストかという問題ではない。それは 2 次元と 1 次元の違いである。障碍を持つユーザにとって理想的なユーザビリティを実現するには、新しいアプローチと新しいユーザインタフェースが求められる。

ウェブサイトをアクセシブルにする際によくあるアドバイスとして、全ユーザを対象に単一のデザインを作成し、その後、それが障碍者向けのガイドラインにも適合していることを確認していけばよい、というものがある。これは、私たちがアクセシビリティガイドラインの策定にあたって採用したアプローチでもある。これは、障碍者向けのユーザビリティを改善するために、従来のウェブサイトやイントラネットに手を加え、特別なニーズに配慮することをねらったものであった。

このように、単一のデザインで複数のユーザをまかなうアプローチを勧めるのは、ほとんどの企業にとって、2 種類の異なったデザインを常に更新していくのは不可能だからだ。障碍者向けに最適化したデザインを別個に作ると、「メイン」ウェブサイトとの同期が、あっという間にずれてしまうリスクを背負うことになる。

ほとんどウェブサイトが、この仮説に該当するだろう。平均的な企業では、障碍者のために使えるリソースはごく限られている。このため、このリソースを別サイトのデザイン、実装、メンテナンスのために利用するのではなく、メインデザインの改善のために利用するのがベストなのだ。

だが、障碍者のためのユーザビリティを完璧なものにしようと思うなら、デザインを分けるしかない。主なアクセスの形態、それぞれに最適化したデザインを作成するしかないのだ。例えば、全盲ユーザ向けのインターフェイスでは、聴覚プレゼンテーションを意識したデザインにしておくべきである。このようなデザインは、画面ベースの視覚的プレゼンテーションをたんに音読しただけのデザインよりも、必然的に優れているはずである。どれほど全盲ユーザに配慮しても、ひとつのデザインではやはり限界があるのだ。もちろん、理想論を言うなら、低視力のユーザや、運動機能に障碍を持つユーザ、その他のためにも、同じように専用のデザインを用意しておくべきである。

リニアアクセスへの最適化

専用のデザインを作成するメリットが一番大きそうなのは、聴覚プレゼンテーションに最適化したデザインだろう。よくできた 1 次元の聴覚向けデザインは、全盲あるいは低視力のユーザに役立つだけでなく、車内その他の状況で、聴覚によってインターネットコンテンツへアクセスするユーザにとっても有益だろう。

視覚と聴覚のプレゼンテーションの間には、次元の点で根本的な違いがある。画面は 2 次元であり、プレゼンテーションにおいてはレイアウトが重要となる。聴覚は 1 次元であり、プレゼンテーションにおいては順序が重要となる。2 次元のレイアウトをたんにリニア化しただけではたいして使いやすくならない。優秀なデザイナーが作成した専用の 1 次元レイアウトを超えるものにはならないのだ。

2 次元レイアウトでは、優秀なグラフィックデザイナーが情報のブロックを整理して、ウェブサイトの構造を視覚化し、相対的なサイズと、2 次元上の位置によって最重要なタスクに優先順位をつけていく。例えば、ウェブページでもっとも重要な要素は画面内の最上部中央に持ってくることが多いが、これは晴眼者ユーザが一番最初に目をとめる見込みの高い場所だからだ。1 次元の聴覚向けプレゼンテーションでは一番重要な情報から始めるべきだが、ほとんどの聴覚変換手段は、たんに 2 次元のページを読み上げているだけなので、最上部左端から読み始めてしまう。この場所に配置される情報の多くは、晴眼者ユーザのほとんどが読み飛ばしてしまうような情報だ。また、たんなる読み上げではサイズの違いもわからない。これは 2 次元デザインにおいては、キーとなる要素である。

このように、晴眼者ユーザと全盲ユーザのユーザインターフェイスを分ける根本的な違いは、グラフィックか、テキストかという問題ではない。1 次元と 2 次元の違いなのだ。残念ながら、インタラクションデザインにおける優れた 1 次元レイアウトに関して、あまり多くのことはわかっていない(優れたラジオ番組を制作するノウハウならあるが、これらはインタラクティブな形態の聴覚コンテンツとは言えない)。視覚的一覧性の恩恵にあずかれる 2 次元レイアウトに対して、理想的なリニア型プレゼンテーションは、2 次元レイアウトよりも、もっとハイパーテキストを利用したものになりそうだ。このため、聴覚利用のためのデザインは最終的に、純粋な 1 次元ではなく、もっと N 次元的なものになるだろう。

また、3 次元ユーザインターフェイスのもたらす恩恵は、全盲ユーザにとって、晴眼者ユーザよりも大きなものになるかもしれない。私はジェスチャーインターフェイスというものを考えている。そこでは、ユーザを取り囲む形で、様々な情報が、それぞれの位置に配置される。空間の一点を指し示すことで、この情報にアクセスするわけだ。デザイナーは、これによって、検索結果やその他の重要な情報を特定の場所に「ぶらさげて」おけるようになる。ユーザは、それらをジェスチャーで入手するのだ。晴眼者ユーザにとって、このようなインターフェイスは無益だ。実際に空中に単語が浮かんでいるわけではないからだ。もちろん、あのわずらわしい VR ヘルメットをかぶる気なら、話は別だけれど。だが、全盲ユーザにとって、ジェスチャーや目に見えない(だが、簡単に覚えられる)3 次元上の位置は、リニアな読み上げを超えるものになるかもしれない。

さらなる可能性

理想的な 1 次元デザインが、ハンズフリーでのコンテンツへのアクセスを必要とする晴眼者ユーザにも役立つのと同じように、他の障碍を持つユーザのためのデザインが、それ以外のユーザの選択肢をも増やすことになる。例えば、低視力ユーザが一定時間に視認できる情報量は限られている。彼らのニーズを満たすように最適化されたデザインは、モバイル機器や、その他の画面の小さい機器を利用するユーザにも役立つものとなる。彼らは、基本的に同じ制約を共有しているのだ。

ターゲットとなるユーザ層がなんであろうと、すべてのデザインが同じ機能を提供し、同じコンテンツへアクセスできるようにしなければならない。優れたコンテンツ管理システムには、あらゆるバージョンが同期し、ミスひとつなく更新できるものであることが求められるようになるだろう。

もちろん、私がここで提唱するアプローチは極端な理想論だ。現状では、障碍者のために十分な予算を割いて満足いく代替デザインを作成する企業すら珍しいのではないかと思う。なにしろ、そういったデザインには、まったく新しい一連のユーザビリティガイドラインが求められるのだから。だが、未来は明るい。インターネットコンテンツに聴覚でアクセスすることがもっと一般的になれば、理想的な聴覚デザインを作るためのリソースもより潤沢になると期待している。

2003年4月7日