2003年 イントラネット・ベスト10

今年入選したイントラネットデザインでは、ワークフローのサポート、セルフサービス方式のコンテンツ管理、電子メールからコラボレーションツールへのタスク移行といった点に重心が置かれていた。平均すると、再デザインの周期は 3年、再デザインそのものには 1年かかっている。

応募作の中には、私たちが前回のイントラネットデザイン年鑑とイントラネットユーザビリティのテスト報告で提言したユーザビリティガイドライン、およびベストプラクティスの多くを実現した作品がいくつかあった。これは今年が初めてのことだ。私たちがこういったレポートを出版しだしたのは 2001年後半以降のことである。大規模イントラネットの再デザインにかかる時間を考慮すると、前回の推奨事項が、今になってやっと現実のプロジェクトに影響力を持つようになったのもうなずける。

賞という性格からして、称賛を受けるのはごく少数の勝者に限られる。だが、今年のイントラネットデザイン賞では、優秀なイントラネットが数多く存在することがわかった。年を追うごとに勝者の選定が難しくなり、優れたデザインでありながらトップ 10 からは割愛せざるをえないものが増えてきた。

受賞者

2003年イントラネット・ベスト 10 は…

  • Amadeus Global Travel Distribution、スペイン
  • ChevronTexaco
  • Design Matters, Inc.、ウェブデザイン事務所
  • FIGG Engineering Group、橋梁を専門とするコンサルタント会社
  • Fujitsu Siemens Computers、ドイツ
  • Landor Associates、ブランド戦略コンサルタント
  • Mayo Clinic、非営利医療センター
  • North Tyneside College、イギリス
  • United States Coast Guard(合衆国湾岸警備隊)
  • Wachovia Corporation、合衆国第 5 位の銀行

以前に受賞したイントラネットの再デザインとして優れた作品にも敬意を表したい。それはカナダの silverorange、2001年の受賞作である。

受賞作の特徴

今年の受賞作の大部分は、従業員を何万人も抱える大組織であるが、昨年のように 10 万人を超えるような組織はひとつもなかった。大企業にはイントラネットユーザビリティにかなりの投資をする余裕がある。数多い従業員が生産的になってくれれば、ROI が向上するからである。

とはいえ、優れたデザインには多額の予算が必要、と決まったわけでもない。受賞作の中には、比較的小さなコンサルティング会社が含まれている。その中で、ウェブデザイン事務所という「フェアでない」アドバンテージを持っていた企業はひとつだけだ。このようなナレッジ主体の企業では、優れたデザインのイントラネットがもたらす密なコミュニケーションと意識の向上は、予想以上のメリットをもたらしている。

North Tyneside College のケースは、イントラネットの優秀さを決める上で、予算の潤沢さよりも、意志、才能、明確な使命感、それにユーザビリティへのコミットの方が重要であることを、これ以上なく証明してくれている。この受賞作は 300 名のスタッフと 1万 5000 人の学生を対象としたものだが、デザインと開発は 1 名、Adam Liptrot という人物がひとりで行っている。彼こそは、今年の賞における本当のヒーローかもしれない。

優れたイントラネットは世界中に存在する。2001~2003 年の受賞作 30 件の分布は次の通り(多国籍組織の場合は、本部所在地を国籍とした):

  • 合衆国:57%
  • カナダ:10%
  • ヨーロッパ:27%、うち
    • ドイツ:3%
    • スペイン:3%
    • スウェーデン:7%
    • スイス:7%
  • イギリス:7%
  • オーストラリア:7%

アジア、ラテンアメリカからも受賞候補がいくつか出ているが、これらの地域からの受賞作はまだない。

合併によるイントラネット向上

本年の受賞イントラネット 10 作のうち 3 作は、企業合併の産物である。吸収する側、される側、どちらの従業員にとっても、合併には大きなストレスがつきものである。このため、優れたイントラネットができるなんて、にわかには信じがたい話に聞こえるかもしれない。理由は 4 つ考えられる。

  • 合併後、新しい統一的なイントラネットを作成するために、何かをしなくてはならないことは明らかだ。よって、双方の従来のイントラネットで当たり前だった「今まで通りのビジネス」を乗り越えるべく、多少なりともクリーンなデザインにするためにリソースが割り当てられることが多い。
  • 合併後のイントラネットは、合併前の双方のイントラネットからベストの機能およびアイデアを引き継ぐことができる。対照的に、平均的な企業のイントラネットチームがインスピレーションの源にできるのは、自前のデザインしかない。(イントラネットデザイナーは、優れたデザインに触れる必要がある。私たちがイントラネットデザイン年鑑を出版するのは、主にこの理由からである。)
  • 新しく合併した組織は流動的で、縄張りがそれほど確立していない。閉鎖的な政治的利害関係を満たすためのお決まりの手続きも、まだそれほど多くない。イントラネットユーザビリティにおけるもっとも深刻な問題の多くは、個々の部門の狭い利害関係を押し切る能力が、イントラネットチームに欠けていることから生じている。
  • 合併企業の CEO は、明確な企業統一プログラムを策定することが多い。単一の企業文化を創造し、全従業員が新しい組織にコミットするよう促すのだ。役員からのこの指示によって、イントラネットチームには統一的な一貫したユーザ体験を創造するための権限が与えられる。

イントラネットをよりよくするためには、合併という大変動を経験した方がいい、というつもりはもちろんない。だが、既存の組織の中で、同じような利点を得る方法がないか探索してみる価値はあるだろう。

論理的にいって、合併の場合、かなりあわただしく「初日」をにらんだデザインを求められる可能性がある。合併が有効となった瞬間にスタートして、従業員が新企業のアイデンティティとポリシーに即応できるようにしたいわけだ。二段階戦略をとるのがよい場合も多い。「初日」向けのイントラネットは、あえて中間的なソリューションと位置づけ、長期的イントラネットに向けたユーザ中心デザインに、より多くの時間を割くわけだ。

ワークフローのサポート

イントラネットは、文書の集積所から業務補助ツールへと変わりつつある。今年の受賞作の多くは、自らの情報アーキテクチャ(IA)に手を加え、文書の生成過程(通常、その企業の部門構造)ではなく、ユーザのタスクを主体にしたものに変更している。だが、業務サポートのトレンドは、IA のみにとどまらない。

Landor 社のイントラネットに見られるクライアントとのリレーション管理機能は、ワークフローサポートの好例だ。このシステムは現在のプロジェクトを追跡して、過去の豊富な事例記録と、ブランド開発におけるヴィジュアル資産へのアクセスを提供する。このシステムではまた、クライアントとの交信記録や、担当者とその内容も監視していて、販売担当者用アプリケーションと連動して、未来のプロジェクトの見込みや、販売プロセスを通じた損益も管理できるようになっている。

モニタリングツールが全盛であり、イントラネットのユーザは、これで重要なイベントを一目で確認できる。Design Matters 社では、緑-黄-赤のコードでプロジェクトの段階を表現しているし、Mayo Clinic では、さまざまな施設のベッドの空き状況を示すようになっている。沿岸警備隊でも、現在の武力防衛状況が確認できるようになっているなど、実例は幅広い。必要が生じたときにユーザが探しにくるのをじっと待っているのではなく、タスクに必要な情報を、その都度ユーザに提供するというのがトレンドだ。

このトレンドは言うのは簡単だが、実装するのは大変だ。本当に求められているものを、必要なときに提供するには、業務内容を深く理解しなくてはならない。このために、イントラネットチームは、通常よりも徹底的なタスク分析を行う必要がある。過去には IA がイントラネットデザインの主要な関心事項であった。何 100 万ページもある大規模イントラネットのための分類体系を考えるのは、たやすい仕事ではない。IA は、あいかわらずイントラネットプロジェクトの課題であるが、今後は、より伝統的な人間工学的関心に重点が移って行きそうだ。個人レベル、およびワークグループ/コラボレーションレベルでの業務行動の理解が重視されるだろう。このデザイン上のフォーカスの移行にしたがって、関係するユーザビリティ活動も変わってくるはずだ。フィールド調査などの手法が多用されるようになるだろう。

中には、あえて電子メール量の減少を狙ったプロジェクトもあった。添付ファイルの配付といった領域で、これに取って代わろうというわけだ。電子メールは、高度に非形式的なコラボレーション技術である。構造化されていないことにも利点はいくつかあるが、たいていの場合、誰にも何も探しだせない混乱の元凶となる。プロジェクトが終盤に差しかかってくると、特にそうなりやすい。反対に、今年の受賞イントラネットの多くは、明確なコラボレーションツールを組み込んでいる。会議室も当たり前のものになってきた。ある程度の非形式性を残しながら、永続性、検索性、それに若干の構造を合わせ持っているからである。イントラネットの会議室グループには、さらに大きな利点がある。プロジェクトのジャンルや、その他のイントラネットセクション内の文脈に沿って、適切な会議室を設置することができるのだ。

セルフサービスのコンテンツ管理

受賞イントラネットの多くは、コンテンツの追加・管理のためのシンプルなツールを従業員に提供することがいかに重要かを理解している。イントラネットの生命はコンテンツの鮮度にかかっている。イントラネットには、かなり多様な部署やチームから発信された大量の専門的情報が含まれている。自前でコンテンツを制作できる人が増えれば、それだけコンテンツの鮮度も保てるようになる。

受賞作のいくつかは、複雑なコンテンツ管理タスクをサポートするためのウィザードを作成していた。これはたとえば、新しいプロジェクトのサポートエリアを新規に生成するような場合に利用する。一般的にいって、ユーザインターフェイス機構としては、私は、ウィザードをそれほど高く評価していない。ユーザのインタラクションスタイルを狭い範囲に制限し過ぎるし、インターフェイスの柔軟性と性能を低下させてしまうからだ。だが、めったに使わないような複雑なタスクなら、ウィザードにも出番がある。受賞作のひとつには、もともと、完成するのに 1 時間もかかるウィザードを組み込んでいたものがあった。これはあまりに面倒だとわかったので、デザイナーは、ウィザードをかなり短縮化した。ウィザードを使う場合は、結果を後から変更して、高度な機能を調整できるようにしておくのが一番だ。

受賞イントラネットの大部分は、日常的なコンテンツ管理に、よりアプリケーション指向のアプローチを選択していた。ニュース記事の追加とか、社員名簿の更新といった作業だ。こういったタスクには、ウィザードは行き過ぎなのだ。

セルフサービス技術で広範な出版が可能になるが、こうした場合に付き物の承認プロセスは、企業によって様々だ。ある企業では、担当管理者や審査委員会による明示的な承認を求めていた。一番重要な機能を特別な「パワーユーザ」だけに限定して、このユーザに、所属グループ内のさらにローカルな更新権を任命させる、というところもあった。

一貫性の強制/誘導

受賞作の多くは、統一的なルック&フィールと、一貫性あるユーザインターフェイスを確保するために、コンテンツ管理システム(CMS)を導入していた。これにより、すべてのページが、テンプレートから生成されることになる。一方、詳細なユーザインターフェイス基準を策定して、各部署がイントラネットの自エリアをデザインする際に、これを遵守させているところもあった。

大規模イントラネットにとっては、一貫性はやはり大きな課題だ。だが、年を追うごとに、より統一的なデザインに向かうトレンドを感じることができる。

テクノロジープラットフォーム

結論はない、というのがここでの唯一の結論だ。各受賞者がイントラネット構築に採用したプラットフォームはまちまちで、ほとんどのチームは、かなり大規模なカスタマイズを行うか、もしくは自前で追加のソフトウェアを書く必要性を感じている。イントラネットテクノロジーがまだ成熟していないのは明らかだ。

受賞者の半数は、メインのプラットフォームコンポーネントとしてMicrosoft テクノロジーを利用していた。これほど広く Microsoft 製品が利用されているのを見るのは、今年が初めてだ。同社の製品は、従来、企業向けのソリューションとしては堅牢性が足らないと考えられてきた。だが、Microsoft 社の影響力が強まるのと同時に、正反対のトレンドも見られる。受賞プロジェクトの中には、独占的なサーバやプラットフォームを捨て、より柔軟性が高く、低コストで、商用ソフトよりも安定性が高いと思われるオープンソースツールを利用したプロジェクトがあった。

イントラネット、エクストラネットの双方をサポートするテクノロジーを統一化しているプロジェクトもあった。中には、統一化ソリューションに、外部向けのウェブサイトまで追加しているものがあった。統一化によって、ユーザは、情報を一度更新するだけで複数のシステムにその内容を反映できるようになる。フィルターをかけて、内部向けの情報はイントラネットのみにとどめ、クライアントの関係する情報だけをクライアントのエクストラネットサイトに出版されるようにしておくのが普通だ。

イントラネットが(休暇既定の検索に利用するような)贅沢品から、(日常業務のための)必需品へと発展するにつれ、信頼性と稼働時間への要求は高まっていく。たとえば、何千万ドル規模の橋梁建設に入札するつもりなら、過去の橋梁建設プロジェクトの写真や技術文書ライブラリへのアクセスを止められたくはないだろう。おまけに、ユーザビリティが向上すれば、イントラネットの利用率もまず間違いなく高くなる。よって、イントラネット改善プロジェクトでは、それを支えるハードウェア、ソフトウェアを強化する技術的努力を怠ってはならない。いずれも、集中的なアクセスに耐えられるようテストしておくべきだ。

デザインプロセス

平均すると、受賞プロジェクトは、イントラネットの再デザインに 12ヶ月かけている。これまでのデザイン年鑑では 2 年がかりのプロジェクトが多かったのだが、これに比べるとかなり速い。このように所要時間が短縮化したのは、イントラネットのデザインにともなう苦労が少なくなってきたせいだと思いたい。

合併がらみのプロジェクトを除くと、新しいイントラネットのデザインは、前回のイントラネットデザインから平均して 35 ヶ月後に公開されている。基本的に、大規模な再デザインプロジェクトは 3 年ごとに行われ、デザインそのものに 1 年を費やしている。当然ながら、イントラネットチームは、その間の 2 年間、怠けているわけではない。どの受賞チームも、常時改善という戦略を採用していて、ときどき小規模な改良を行い、言うことを聞かない部署のサブサイトを企業の標準デザインに変換することに力を入れている。

一連のデザインプロジェクトが採用した主なユーザビリティ手法は、以下の通り:

新デザインのプロトタイプを使ったユーザテスト 50%
アンケート調査(電子メールが多い) 40%
旧イントラネットのユーザテスト 30%
ヒューリスティック評価(エキスパートレビュー) 30%
カードソーティング 30%
フィールド調査 20%

数字を合計すると 100 %を超えてしまうが、これは多くのチームが複数のユーザビリティ手法を組み合わせていたせいだ。これは私がお勧めする戦略でもある。

チームの中には、これ以外の手法を使って、デザインプロセスの中にユーザを取り込んでいたものもあった。ある受賞者は、参加型デザインを採用し、最終デザインの決定にあたって、全従業員に投票させ、何種類かの代替案の中からベストと思うものを選択させていた。また別の受賞者は、プロトタイプのデザインをテスト用サーバに設置して、20 名のボランティアにこれを試してフィードバックをくれるよう依頼していた。実際に動かせるデザインを使った方が、たんに画面を見てコメントをもらうよりも、フィードバックの信頼性は高くなる。

ユーザビリティ活動の中に海外のユーザを取り込むべく、特段の配慮を行った受賞者もいた。この場合、WebEx のようなリモートテクノロジーを使うことが多い。複数の国を訪問して、実際にサイトのテストを実施したチームはひとつしかなかった。海外への配慮には、Amadeus 社のように、ナイジェリア支社でも十分高速にページが読み込まれるか確認するといったことから、ナビゲーション用ラベルの選択まで、様々である。たとえば、ChevronTexaco 社員のうちで、「ホワイトページ」が従業員名簿のことだとわかった社員は、合衆国以外にはほとんどいなかった。

改善指数

イントラネットの詳細なユーザビリティ指標は、まだそれほど多くない。ほとんどのチームは、自己の存在理由を正当化することではなく、よい仕事をすることに力を注いでいる。全体的にみて、受賞対象となった再デザインの結果、イントラネットの利用率は目覚ましい向上をとげている。成長率は 47 %から 1500 %となっていた。

より狭義の利用度指標は、ユーザビリティ向上の結果、劇的に増加している。例えば、Mayo Clinic の検索エンジン利用率は、700 %の成長を見せている。検索結果ページに、よりよい要約をつけるようにした結果だ。Mayo のイントラネットはまた、ポケベルへのメッセージ送信を 20 秒も高速化した。Mayo でのポケベル利用頻度を考えると、一見ささいなことに見えるこの節約が、結果的には 1 事業所だけでフルタイムのスタッフ 1 名分に相当する節約につながっている。Landor Associates 社では、販売の成否、追跡情報の収集・配布にかかっていた時間が、30 日から 5 日に削減された。タスク効率の向上率は 500 %になる。

私としては ROI 指標をもっと見たいところだが、イントラネットのデザインを改善することで、(今年の受賞者が証明したように)従業員のユーザ体験をはるかに向上させることができるのは間違いない。世界中のイントラネットは、その可能性をまだほとんど生かせていない。ほとんどの企業が優れたイントラネットデザインへ投資するようになったら、職務生活はどのように変わるのだろうか。この点で、私は、イントラネットの時代はまだまだこれからだ、と確信している。

くわしくは

受賞した 10 作品からの画面ショット 97 点を含む 175 ページのイントラネットデザイン年鑑がダウンロードできる。

2003年10月13日