パーソナライゼーションを成功させるための6つのヒント

適切にデザインされたパーソナライゼーションは、役割やタイプの構築が慎重に検討されていて、それぞれの役割が利用可能なコンテンツが保証され、コンテンツ以外にも範囲が及んでおり、ユーザーにもエクスペリエンスをコントロールできる部分があるものである。

パーソナライゼーションによって、システムはユーザーを特定のタイプ、あるいは個人と見なし、そのユーザーに合ったコンテンツや機能を提供できるようになる。パーソナライゼーションとは、ユーザーが必要とするときに必要なものを提供するために、ユーザーに合わせてエクスペリエンスを絞り込むものだからだ。しかしながら、パーソナライゼーションがその後もずっとうまくいくようにするためには、注意深く実装されることが必要だ。

そこで、今回はパーソナライズされたエクスペリエンスを成功させるためのガイドラインを紹介しよう:

1. 役割は注意深く割り当てよう

パーソナライゼーションはうまくいった場合には、適切なユーザーに適切なタイミングで適切な情報を提供することによって、エクスペリエンスを豊かにすることができる。しかしながら、ユーザーを誤った「タイプ」に分類してしまうと、パーソナライゼーションの結果、エクスペリエンスはイライラするものとなり、訪問するたびにユーザーが不快になったり、下手をすると、彼らがそのシステムをまったく利用しなくなってしまうこともある。

パーソナライゼーションとは、データ分析をベースにして、そのユーザーに最も役立つものを推測する、というものだ。しかし、過去の振る舞いから、未来の行動を常に予測できるとも限らない。たとえば、パーソナライズしたエクスペリエンスを1つのアクションや処理だけに強く関連づけてしまうと、提示される情報がユーザーの関心の幅に対して、絞リすぎたものになってしまうこともある。たとえば、レスポンシブデザインについての本を買った買い物客はその本をトレーニングコースや仕事のために買ったとも考えられるが、もしかすると、同僚のために買っただけで、普段は韓国のポップミュージックやクロスワードパズル、「THE TUDORS~背徳の王冠~」などの話ばかりしているのかもしれないからだ。こういう顧客を「テクノロジーに関心あり」と判断するのは、不正確だし、決めつけすぎだろう。

図
Pinterestから送られてきた「パーソナライズされた」サジェスト、自家製フローズンヨーグルトと串を使ったデザートは見当違いの内容だった。というのも、Pinterestは私が関心のあることについてのデータをまだ持っていなかったからである(その時点では、私はまだ何のコンテンツも「ピン」していなかったからだ)。

パーソナライゼーションに利用するデータのソースには注意が必要だ。たとえば、イントラネット用に場所や役割によって情報をパーソナライズするのなら、これらの情報を保存しているデータベースは常に最新の状態にしておく必要がある。イントラネットチームがパーソナライゼーションを実装したい、と、こぼすのを何度か聞いたことがあるが、データを引き出すための信頼できるデータベースを彼らは持っていないのである。データのソースは必ず信頼できるものにし、ユーザーには最適なエクスペリエンスを提供できるようにしよう。

2. アクセス制限は慎重におこなおう

パーソナライズされたエクスペリエンスには、コンテンツへのアクセスを排除するかわりに、コンテンツを追加したり、入れ替えたりするようになっているものが多い。たとえば、Amazon.comは自サイトでのユーザーの過去のエクスペリエンスによって、商品へのアクセスを制限することはしていない。その代わりに、パーソナライゼーションによって、サイトでの過去の振る舞いにもとづいて、ユーザーの興味に合う商品を勧めてくるのである。

とはいえ、特定の情報へのアクセスを排除せざるをえない場合もある。例としては、ある種のコンテンツへの未成年のアクセス制限や、グローバル企業のイントラネットで他エリアの従業員向けセクションにアクセスできないようにすることなどが挙げられるだろう。南アフリカにいる従業員がドイツの事業所向けの人事方針にアクセスする必要はないからだ。それどころか、アクセスできてしまったために、自分には関係ない人事方針をたまたま見てしまって、混乱してしまうこともあるかもしれない。

図
法律事務所のCadwalader, Wickersham & Taftは役割ベースになっている所内の閲覧許可を図で説明している。サイト内の一部コンテンツの機密性の高さから考えると、こういう構造にしたことで、この法律事務所では守秘義務についての制限がしやすくなったといえる。

しかしながら、ユーザーのニーズは、時と場合によって変わってくる。たとえば、我々の実施した大学のWebサイトについての調査でわかったのは、卒業後の生活について実感するために、入学希望者もサイト内の「卒業生」セクションをときには見るということだ。もし、サイトがあるユーザーを入学希望者に分類し、そのユーザーに対して、卒業生用の情報へのアクセスを排除したり、制限したりすると、その入学希望者は重要な情報を見逃したり、そのサイト(や大学)は卒業生を適切に支援していないと感じてしまうだろう。

3. 自分たちがサポートできる以上の数の役割を作り出してはならない

パーソナライゼーションシステムを構築するときには、すべての役割に対して関連コンテンツを提供できるようにしておく必要がある。我々のIntranet Design Annualsに選出されたイントラネットチームの中には、かつて、調子に乗って自分のところのユーザーをグループ分けした結果、ユーザーセグメントが多くなりすぎてしまい、後になって、そのメンテナンスが不可能、あるいは時間がかかりすぎるということを思い知った、というところもあった。

覚えておかなければならないのは、パーソナライゼーションを機能させるためには、そうした役割に対して提供できるコンテンツが必要だということだ。ユーザーの区分の仕方が細かすぎると、コンテンツ制作者はコンテンツに合う、適切なターゲットオーディエンスを選び出すのに苦労することになる。場所や部門、管理職かどうかといった、もっと大まかな特徴によってパーソナライズするほうが、プロフィールを詳細で微妙なところまで突き詰めるよりもうまくいくこともある。

4. コンテンツだけでなく、機能もパーソナライズしよう

パーソナライゼーションはコンテンツ以外でも可能であるし、そうであるべきだ。ユーザーのエクスペリエンスを効率的にするためには、プロセスや機能もパーソナライズするとよい。たとえば、ユーザーの情報がすでにわかっている欄については、オートフィルで入力しよう(とはいえ、オートフィルで入力される情報は、不正確だったり、更新が必要な場合にそなえて、必ず編集ができるようにしておこう。そして、後で使うときのために更新した内容はすべて保存しておこう)。

過去のアクティビティでよく利用された選択肢は記憶させておこう。そして、毎週のタイムシートで、あるユーザーの勤務時間が100%管理業務に費やされているというなら、その選択肢を最初に表示しよう。

図
MapMyRideのアプリはユーザーが最近おこなった運動の種類を記憶しているので、繰り返しおこなっている運動についての記録がつけやすい。また、「All」というタブによって、利用可能なすべての種類の運動をユーザーが見られるようにもなっている。

最近おこなった、あるいはよくおこなうアクションや検索を必要に応じて記憶しておけば、利用することが多い情報にユーザーがすぐアクセスできるようになる。もし、あるユーザーが地図アプリで調べる内容の半分が自宅への道順だというなら、ユーザーが目的地として「自宅」を選びやすいようにしておけばよい。(Uberでは「自宅」の住所はカスタマイズ可能だが、さらに進んで、ユーザーが前回乗車したときの出発点にワンクリックアクセスできるようにパーソナライズできることも多い。この機能によって、ホテルなどのユーザーの旅の拠点に戻る往復乗車、というよくあるユースケースをカバーできる)。

時間のかかるエクスペリエンスやワークフローは、進行したところまでの保存を定期的におこない、中断したところからユーザーが再開できるようにしておこう。たとえデバイスが変わっても、だ。タブレットで「ゲーム・オブ・スローンズ」を見ているユーザーは、その後、続きを携帯電話から見まくれるようにしておくべきなのである。これはオムニチャネルのシームレスなインタラクションの一例といえる。

5. 必要に応じて、逃げ道を提供しよう

巧みに計画されたシステムでも、うまくいかないことはある

イントラネットでのパーソナライゼーションがどんどん可能になるにつれ、パーソナライゼーションに対する「逃げ道」を提供するサイトが増えてきているが、それはトラブルシューティングが目的であることが多い。パーソナライゼーションに対する懸念として、ユーザーによって、あるいは少なくともユーザータイプによってエクスペリエンスが違ってくる、というのがある。そのため、トラブルシューティング作業が難しくなってしまっていて、サイトでその従業員が見ているバージョンに該当するリンクやセクションが表示されない場合には、イントラネットのどこを見るとよいかをマネージャーが指示できなくなっているのである。

これに対して、近年は「ビュー」(view)という機能を提供して、従業員が他のユーザータイプ向けのコンテンツのビューを確認できるようにしているイントラネットが増えてきている。この機能によって、サイトの構造がどうなっているかを別の役割の視点から見ることができるというわけだ。(LinkedInにも似たような機能があり、自分のプロフィールが他のユーザーにどう見えるのかを確認できるようになっている)。

図
スウェーデン議会のイントラネットでは、役割ベースのパーソナライゼーションを利用し、適切なユーザーに適切な情報を提供している。そして、サイトのメインナビゲーションにある「Byt roll」(役割の変更)というリンクに行けば、ユーザーは自分に見えるコンテンツのビューを変更することが可能だ。スウェーデン議会の議員のために事務作業やサポート業務をおこなう従業員にとって、この機能は不可欠といえる。

「逃げ道」を提供することで、自分用にパーソナライズされたもの以外の情報にも簡単にアクセスできるようになる。たとえば、天気予報アプリではユーザーがいつもいる場所に合わせた表示がされるが、そのユーザーが別の場所を入力することも可能になっている。ニュースサイトもその地域の情報の優先順位が高くなっているものだが、すべての記事へのアクセスも可能だ。

図
AMPのイントラネット、「The Hub」では、ユーザーはニュースのパーソナライズされたリストを眺めることもできるし、ページの左上隅にある「The buzz」というラベルの下にある「Me」と「All」というタブを切り替えることで、すべてのニュース記事を見ることができるようにもなっている。

パーソナライゼーションでは、ユーザーの過去の振る舞いをベースにシステムが推測したそのユーザーのニーズが基準になり、ユーザーがこうした推測の内容をコントロールできることはほとんどない。「スマートな」デバイスがますます増えていく世界を迎えた我々がやらなければならないのは、パーソナライズされている設定がユーザーのニーズに合わない場合にユーザー自身がその設定を無効にできるようにしておく、ということだ。たとえば、自分の家の中でもセーターを着なければならなくなってしまった同僚のことを想像してみるとよい。というのも、家にあるスマートサーモスタット(訳注:Nestなどの屋内全体の温度を管理するスマートデバイス)が彼女の嗜好を無視するからだ。電化製品やデバイスが我々の振る舞いを継続的に学習し、それにもとづいた選択を我々のためにし続けていることを考えると、こういう「スマートな」システムでも、ユーザーが適切にコントロールできるようにしておくということが、デザイナーや開発者にとって今まで以上に重要になっていくだろう。

6. 役割は定期的に見直そう

パーソナライゼーションはユーザーの特徴や過去の振る舞いをベースに、ユーザーに最も役立つものを推測するものだ。ユーザーやビジネスのニーズは時とともに変わっていく可能性があるので、パーソナライズしているサイトの要素はうまく機能するように、以下の点について、定期的に見直すのが賢明である。

それぞれのプロファイルにプッシュされるコンテンツへのトラフィックをチェックしよう。つまり、自分たちの期待したとおりに、ユーザーはそのコンテンツを読んだり反応したりしているのか、ということだ。

パーソナライゼーションに関わりのあるユーザーから出た不満についてはその後の経過を追うようにしよう

パーソナライゼーションのデータのソースは見直しをおこなって、そうした情報源がずっと最新で正確な状態であるようにしておこう。パーソナライゼーションの取り組み開始時にはデータベースは新しく実装されたものだったり、最近、クリーンアップされたものだったりするかもしれないが、それ以降は更新されていない可能性もある。

パーソナライゼーションで取り組んでいる内容は定期的に見直すことで、その有用性を徐々に高めていくことが可能なのである。

要約

パーソナライゼーションにはユーザーのための効率的で焦点の合ったエクスペリエンスを作り出す力がある。最も適切にパーソナライズされたエクスペリエンスとは、慎重な計画と、きめ細かい実行を組み合わせて、適切な情報を適切なユーザーに提供するものなのである。