サービス産業の生産性

ホワイトカラー労働者がより効率よく働いて生産性を向上することは可能だ。イントラネットのユーザビリティでは初期的な利点が大きいのに対し、ワークフロー・ユーザビリティの利点はさらに大きく、何百万もの人員削減が可能になるだろう。

海外へ仕事をアウトソーシングすることについては毎日のように白熱する議論が行われ、それをなげく人がいる。しかし、私がここで取り上げるのはアメリカ国内でのことだ。また、この問題については、西ヨーロッパ諸国、日本、オーストラリアといった、裕福な経済市場を持つ国々でも当てはまる。

ほとんどのコメンテイターたちは生産性の向上によって雇用問題を解決するのが好ましいことに同意している。時間あたりの生産性の価値が、時間あたりのコストを十分に正当化できるからだ。

しかしながら多くのコメンテイターは、生産性の向上は、生産業主体の経済では有効だが、最近のサービス業が主体の経済では有効でないと考えている。

例: データ分析における生産性の向上

私の個人的なサービス業の問題を例にする。1 日セミナーに私は 1 日を要する。これを短縮することはできない。

しかしながら、セミナーを行うのに必要な労力の大部分は、セミナーの最中ではなく、その準備期間中に使われる。私は、現在行っている一連のユーザビリティセミナーの生産性を、予測では 17% 向上させた。速くしゃべったのではなく、参加者の登録行動の変化に柔軟に対応したのだ。

私は、このために最終登録者数の非線形多重回帰モデルを組み立てた。過去数年にわたる私のカンファレンスの参加者 7591 名の登録日をもとにしたものである。この分析で、オーストラリアで唯一の開催地、メルボルン会場に収容できる倍の人たちが押し寄せることが予想できた。その高くなった需要を満たすため、シドニーでの開催の追加を決めた。

20 年前なら、私はこの中規模のデータセットをモデリングするために、とても複雑な操作が要求されるメインフレームのソフトウェアを使う以外になく、新しい会場を予約できる期間内に予測結果を得ることはできなかっただろう。現在は、Excel の探索的データ視覚化機能を用いており、これに Excel 用の基本的なプログラム言語を使って特別に組み上げた公式を組み合わせている。PCの画面上でデータを簡単に操作できるので、結果が出るまで何度でも試行錯誤できる。

情報技術と生産性

より優れた情報技術の導入によって、多くの分野の仕事で、大きな生産性の向上を行える。たとえば、空港でチェックインを行うときは毎回、カウンターの向こう側で搭乗手続き係りがコンピュータを半狂乱になってたたく間、待たされる。このとき、ほとんどの時間は、航空会社のソフトウェアのひどいユーザビリティが原因で無駄にされている。よりよいユーザインターフェイスによって、係りの人たちはより速く手続きを行えることになり、すぐに生産性は上がり、乗客たちの時間も節約できる。

イントラネットでは、よいデザインは従業員の生産性を倍にすることができることがわかっている。この見積もりはイントラネットのユーザビリティ調査から出したものだ。ユーザビリティの低い 25% のイントラネットでは、普段従業員が行う業務に年間 99 時間使うのに対し、同じことをユーザビリティの高い 25% のイントラネットで行った場合は年間 51 時間で行えている。

もちろん、全ての企業がイントラネットのユーザビリティを向上させたとしても、生産性の向上はイントラネットを使っている時間に対してのみになる。その一方、この生産性が倍になるという見積もりは、イントラネットの究極の潜在能力の足元にも及ばない。私たちが調査したもっともよいデザインでは、先に述べたのと同じタスクを年間27 時間で済ませているのだ。また、今日のベスト・デザインがイントラネットのユーザビリティの究極だという証拠はどこにもない。将来、さらに生産性を向上させる、さらに改良されたデザインが現れる可能性が高い。

ユーザビリティの方法論をイントラネットのユーザインターフェイスに導入し、既存のタスクのパフォーマンスをあげるのはすばらしいことだ。まずはそれを行おう。平均的な企業ならば、何百万ドルもの節約になるだろう。

しかし、話はまだ続く。私たちはもっとスマートに仕事をするべきだ。企業向けソフトウェアは、これまでの間、おおむね失敗に終わっている。ソフト自体の扱いにくさもさることながら、それによって自動化しようとしている業務が厄介で、非効率的だからだ。ビジネス・プロセスの再設計はただのスローガンであってはいけない。特に、その定義を見直すべきだ。ただ単に「既存のプロセスを自動化する」のではなく、「コンピュータのサポートによって最適化されたワークフローを設計する」べきだ。

フィールドスタディやタスク分析、ユーザテストといった手法を使って、組織は仕事を行う新しい方法を見つけることができ、よりよい情報技術による作業のサポート方法も見つけられる。特に共同作業のインターフェイスの改善、ナレッジマネジメントの改善、決断サポートの改善は計り知れない生産性の向上につながる。既存のシステムはその名に値しない。それらは共同作業をよりよく行う手助けになっていないし、ナレッジの活用を向上させていないし、決断を早く、またはよりよく下すサポートを行っていない。しかし、不可能ではない。これが企業ユーザビリティの次なる開拓分野だ。

ユーザビリティの仕事の成長

アメリカ国内には現在、230 万人のプログラマーがいる。現在、ユーザビリティに開発者スタッフの 10% を割り当てることがベストプラクティスだとされている。ということは、23 万人のユーザビリティ専門家がいるべきだ。だが、間接的にでもユーザビリティ専門家と呼べる人はアメリカ国内に 3 万人もいないのではないだろうか。したがって、少なくとも、あと 20 万人分のユーザビリティの雇用がないと、よいデザインはできない計算になる。

プログラミングの仕事を部分的にアウトソーシングする肯定的な側面はソフトウェア開発のコストが安くなることだ。正しく行われれば、節約した分でユーザビリティを向上させ、エンドユーザの生産性を向上させることにつながる。劣ったデザインの主な理由のひとつとして、全てのユーザビリティ推奨事項を適用するだけの資源が不足しているからだ。(この最大の理由は、多くの企業がユーザビリティを全く導入していないからだが、ユーザビリティに献身的な企業でさえ、全てのガイドラインを適用できるだけの労力を注いでいない。)

究極的に言えば、優れた情報技術のためには 10% よりさらに多くのユーザビリティを必要とするということになる。その壁を越えるには、ユーザ調査に携わる人数と、ユーザビリティ的発見を実装する人数は同じくらいの数が必要になるだろう。したがって、長期的に見ると、アメリカ国内だけで、200 万人のユーザビリティの専門家が必要になるかもしれない。彼らは現在のユーザビリティ専門家たちと同じような方法論を使わないかもしれないし、肩書きも別かもしれない。しかし、アメリカの生産性を本当に向上させるに足りる必要な企業向けソリューションを作るには、アウトソーシングによって失っている雇用よりも多くのユーザビリティ専門家が必要なのは確かだ。

ユーザビリティはサービス業経済の生産性を向上させるための鍵だ。なぜなら、人間がどう働くかに注目しなければ、彼らがスマートに働けるように助けることができないからだ。着目する場所を正しく修正できれば、生産性の向上によって何十億ドルもの節約を行えるばかりか、何百万という人員削減を行ったうえで、何百万という新しい雇用を作ることもできるのだ。

2004年3月29日