DesignOpsの基礎
デザインオペレーションの実践では、一貫性のある質の高いデザインを作成するデザイナーを支援するプロセスと手段に焦点を当てる。
DesignOpsとは何か
定義:DesignOpsとは、スケールしたときのデザインの価値と影響を増大させるために、人材とプロセス、プロダクトを組織化して、最適化することである。
DesignOpsは、以下のような課題に対する取り組みの総称である:
- デザインチームの成長と進化
- 適切なスキルをもつ人材の発掘と採用
- 効率的なワークフローの作成
- デザインアウトプットの品質と影響の改善
DesignOpsの目標は、これらの課題に対するスケーラブルなソリューションを支援するプロセスと手段を確立して、デザイナーがデザインと調査に集中できるようにすることである。
それには、スケールするにつれて増大する官僚主義と間接的なコミュニケーションをすべての領域で軽減する方法を見つけ出さなければならない。領域によってそのソリューションはそれぞれだが、我々のソリューションになるのがDesignOpsだ。しかし、効率的に「より多く」処理する方法をUXの専門家は誰よりも見つけ出す必要がある。我々の領域の成長ペースは社内の他部門よりも速いことが多いからだ。組織がUXの価値と高いROIを認識して、UXチームにスタッフと責任を早急に追加し始めているからである。
DesignOpsはすべてのUX専門家に適用できる
今回の説明では、「デザイン」と「デザイナー」という漠然とした総称を用いているが、DesignOpsは、ユーザー中心のデザイン思考プロセスによって問題を解決しようとする人なら誰にでも適用が可能だ。つまり、この「デザイナー」という用語には、UXデザイナー、ユーザーリサーチャー、ビジュアルデザイナー、コンテンツストラテジスト、サービスデザイナー、コミュニケーションデザイナーやエンドユーザーエクスペリエンスに貢献するその他のデザイナーが含まれている。
今、DesignOpsが重要な理由
デザイナーの仕事の仕方、また、デザイナー同士や他チームとのやり取りの仕方に変化が起こっている。そして、こうした変化によって、DesignOpsの必要性が注目されているのである。
「交渉のテーブルに」つくという戦いでは、デザイナーはいろいろな意味で勝利を収めてきた。我々が戦略的な広範な話し合いの場に参加する機会はますます増えており、多くの組織ではもはやデザインの価値について説得をする必要はない。もう理解されているからだ。(バンザーイ! いい時代になったものだ!)
しかし、残念ながら、このように認められたということは、デザインや調査という「本業」と並行して、戦略的な業務にまつわる追加の作業までこなさなければならなくなったということを意味する。要するに、デザイナーは、往々にして、あまりにも忙しく、デザインをする時間がないのである。
こうした現状に合わせて、さらにデザイナーがかつてないほど複雑なコンテキストを処理しているという事実も考えてみてほしい。製品やプロジェクトごとの組み込みチームという形式を採用している組織が多くなり、そうしたチームに散らばっているデザイナー間のつながりが不足してきている。また、我々がデザインする製品やエクスペリエンスはますます精巧になっている。そして、チームは各地に分散していることが多い。その結果、ワークフローや意思決定もより分散したものになっていっているのである。
急速に増大するデザインの複雑さを管理するには、独自のデザイン思考とユーザー中心の手法をデザインプロセスに適用して、デザインをスケールする必要があるだろう。(これがメタだ(:スケーリングのためのスケーリング)ということはわかっている)。
デザイン運用の構成要素
DesignOpsというトピックの範囲は、意図的に広範なものになっている。一貫性のある質の高いデザインの実現に関わる項目にはさまざまなものがあるからだ。
私はDesignOpsをキュレーションされた持ち寄りディナーのようなものだと考えたい。DesignOpsにはたくさんの構成要素があるが、その中から組織が何を選択するのか(あるいはパスするのか)は、その組織の現在のニーズと最も深刻な問題点に基づくべきである。したがって、DesignOpsのかたちは、組織ごとに大きく異なって見えるはずだし、そうであるべきだ。また、単一組織内のDesignOpsの焦点も、課題が時とともに進展したり、変化したりするにつれて、変わっていく可能性がある。
DesignOpsのメニュー
DesignOpsの包括的なメニューを以下に示す。このメニューは、デザイナーを支援するプロセスを計画して実装する際に、組織が重点的に取り組むことを選択できる項目からなっている。そうした項目は主に以下の3つに分類することができる:
- 一緒に仕事をする方法
- 自分たちの仕事を成し遂げる方法
- 自分たちの仕事で影響を与える方法
一緒に仕事をする方法
DesignOpsは、以下の項目に関する方法を計画する際に役に立つ:
- 組織化する:チームを構成し、適切なチームを構築するにはどうしたらいいだろうか。組織化には以下のような要素が入る:
- デザインチームの組織構造のデザイン。
- スキルを備えた相補的なデザインチームの構築。
- 個々のデザイナーの役割と、デザイン部門全体の役割の、両方の定義。
- 連携する:効果的なコミュニケーションを可能にする環境や集団を作り出すにはどうしたらいいだろうか。連携するための要素には以下のようなものが入る:
- 定期的なイベントや会議の仕組みの定義。
- グループの空間と環境が連携に確実に役立つこと。
- スキルを実践して、利益を共有するコミュニティの確立。
- 人間味のあるものにする:採用や新人研修、専門的な能力の開発の場で、従業員をまず人間らしく扱うようにするにはどうしたらいいだろうか。人間味のある従業員の扱いには以下のような要素が含まれるだろう:
- デザインチームのニーズに特化した採用面接のデザイン。
- 新しいチームメンバーが成功できる一貫性のある採用と新人研修の確立。
- 管理職と非管理職両方の透明なキャリアパスの標準化。
自分たちの仕事を成し遂げる方法
DesignOpsは、以下の項目に関する方法を計画する際に役に立つ:
- 標準化する:一貫したツールセットとプロセスによって、質の高いデザインを促進するにはどうしたらいいだろうか。標準化の対象になる要素は以下である:
- 開始からテスト、引き渡しまでのデザインプロセス全体の文書化と最適化。
- デザインプロセス内の重要なデザイン活動の定義とすり合わせ。
- 効率的な連携を目的とした同じデザインツールの利用の監査と強化。
- 一元化する:皆が共有する同じ理解のもとに働き、共通の土台を築くには、どのようにデザインインテリジェンス(デザイン知)を共有し、展開していくといいだろうか。一元化には以下のような要素が入る:
- デザイナーの効率を上げるためのデザインシステムの拡張と管理。
- 誰にでもアクセス可能なユーザー調査データリポジトリの構築。
- デザインの資産とテンプレートをチームメンバー間で共有するためのデジタルアセットマネージャー(DAMS)などのシステムの利用。
- 優先順位をつける:どのようなプロジェクトに取り組むのか、そしてそのプロジェクトにどのタイミングで取り組むのかを決定するにはどうしたらいいだろうか。優先順位づけを構成する要素は以下である:
- デザインワークフローにある障害の発見と公開。
- プロジェクトを正確に見積もり、配分するためのデザインチームの作業能力の把握。
- 機能やプロジェクトに優先順位をつけるための客観的で一貫性のある手法の利用。
自分たちの仕事で影響を与える方法
DesignOpsは、以下の項目に関する方法について考える際にも役に立つ:
- 測定する:デザイン品質を定義して測定することによって、デザインに責任をもたせるにはどうしたらいいだろうか。測定には以下の要素が含まれるだろう:
- デザインチーム向けの「良い」と「完了」の定義の策定。
- デザイン品質の指標の選択およびすり合わせと、そうした指標の経時的な追跡。
- デザインプロセス全体の客観的な尺度としてのデザイン原則の作成と活用。
- ソーシャル化する:デザインの役割と価値について、周りをどのように教育したらいいだろうか。ソーシャル化を構成する要素は以下である:
- デザインの役割と価値に関する一貫したメッセージを作成し、そのメッセージをデザインパートナーと積極的に共有。
- ユーザー中心のデザインプロセスの成功事例を入手し、共有。
- デザイン事例を自分たちの業務に応用したチームの表彰と報奨。
- 利用可能にする:デザインチーム以外の人にもデザイン活動への理解と活用を促進するにはどうしたらいいだろうか。デザイン活動を利用可能にする要素には以下のようなものが入る:
- デザインのツールと活動の利用方法に関するデザインチーム外の人への教育。
- デザインチーム自体が障害になるという課題を回避するために、誰でもアクセス可能なデザイン活動のプレイブック(戦略集)を作成。
- 活動が適切に理解され、利用されるようにスキルトレーニングを実施。
DesignOpsの構成要素を組織に適合させよう
1人のユーザーだけで、あるいは1つのチームだけで、同時にこれらの構成要素のすべてに取り組むことは不可能だ。したがって、DesignOpsチームやDesignOps思考をする人は、特定のコンテキストで特に重要な領域を認識して、そこに取り組んでいくことになる。
DesignOpsに着手する前に、(たとえば、社内の声を聞くリスニングツアーやステークホルダーのインタビュー、アンケートなど)の内部調査を計画して、最大の問題点とROIが最も高くなりそうな領域がどこであるかを調べて、そこから始めるとよい。
誰がDesignOpsを「やる」のか
DesignOpsをおこなうことは誰にでも可能だが、組織内でDesignOpsへアプローチする方法を決めるのに役立つDesignOpsの捉え方には、「役割をDesignOpsする」と「マインドセットをDesignOpsする」の2つがある:
役割をDesignOpsする
「役割をDesignOpsする」とは、デザインチームがデザインや調査に集中できるように、デザインチームの支援を担当する特定の人やグループがいる、ということである。そして、このやり方がさらに成熟していくと、以下のようなDesignOpsに関する役割が置かれることが多くなる:
- デザインプロデューサーまたはUXプロデューサー:プロジェクトレベルのデザイン運用に携わる人。
- デザインプログラムマネージャーまたはUXプログラムマネージャー:プログラムまたは組織レベルのデザイン運用を担当する人。
- ResearchOps担当者:調査参加者のリクルートと選別、調査と調査に対する依頼の間で発生する情報の管理、調査リポジトリのメンテナンス、調査のツールやスペース、機器の管理などの、ユーザー調査の運用面の担当者。
すべての組織が役割をDesignOpsする必要があるわけではない。非常に大規模なチーム、また、タイムラインが短く、変動要素がいろいろとある組み込みをおこなうチームや機関は、他の種類のチームよりも役割をDesignOpsする必要があるだろう。
マインドセットをDesignOpsする
しかしながら、「マインドセットをDesignOpsする」ことのメリットはどんなチームでも享受することが可能だ。DesignOpsのエコシステム、つまり、デザインをサポートして、デザインを効率的にスケールできる標準化されたプロセスや手法、ツールのセットの必要性を認識して、実装すればいいだけだからだ。効率を高めて、アウトプットを向上させる観点からいうと、現在のプロセスを監視するのに、DesignOpsと明示された役割は必要ないのである。
DesignOpsの必要性
DesignOpsは、デザイン組織を結びつける接着剤のようなものであり、さまざまな領域出身のチームメンバーの連携を可能にする架け橋であるともいえる。
デザインチームの規模が拡大を続け、UX関係の作業に対する要求が増え続け、デザインチームのメンバーの分散が続き、デザインプロセスの複雑さが跳ね上がっている状況では、後から思いついてもDesignOpsを付け足しでおこなうことは不可能だ。
どのように一緒に仕事をして、どのように仕事を成し遂げ、どのように我々の仕事によって影響を与えるかについては、意図的かつ賢く作り上げていかなければならないのである。
DesignOpsについて、さらに詳しくは
DesignOpsについて、さらに詳しくは、我々の1日トレーニングコース、「DesignOps: Scaling UX and User Research」にて。