最もよく作成され、シェアされているUXの成果物はどれか
UXの専門家が作り出す成果物はさまざまだ。たとえば、我々の調査では、回答者の半分以上が11種類もの成果物のフォーマットを利用していた。だが、最も有効であると評価された成果物は伝える相手によって大きく異なっていた。
UX関連の作業が発生する状況というのは、アジャイル手法を利用して、ほとんどドキュメンテーション(文書化)をしない小規模なスタートアップから、外部クライアントのためのコンサルティング、プロセスやドキュメンテーションについての要求が厳しい大企業や政府機関のような環境まで多岐にわたる。こうした非常に多様な作業環境をまとめるのに必要なのが、デザインのアイデアや調査結果、プロジェクトの状況をUXの専門家がさまざまな相手に伝えるということだ。我々は他者との会話の中で自分たちの作業状況を伝えることが多い。しかし、成果物を利用することで、議論やプレゼンテーション、実装、後の参照のために作業を記録することができるようになる。
成果物と中間生成物
それではちょっと話を戻して、「成果物」という語を我々がどういう意味で使っているかを説明しよう。
伝統的には、ユーザーエクスペリエンスにおける成果物というのは、発生した作業の記録としての役割を担うドキュメントのことである。プロジェクトの成果物は、その作業が調査であれ、デザインであれ、発生した作業の具体的な記録ということになる。UX業務から得られる典型的な成果物には、ユーザビリティテストのレポートやワイヤーフレーム、プロトタイプ、サイトマップ、ペルソナ、フローチャートなどがある。
多くの場合(特にコンサルティング業務の場合には)、成果物は作業が開始する「前」にまとめられて、契約書や作業指示書に記載される。しかし、プロジェクトのライフサイクルを通して、具体的なアイデアを伝えるために、必要に応じて作成されることもある。
(この「成果物」という言葉がよく使われるのは、コンサルタントやデザイン会社等の有償で「成果を提供する」外部の第三者と一緒に作業をする場合である。しかし、この記事の目的上、社内で作成されたドキュメントも成果物と見なすことにする。したがって、たとえあなたがプロジェクトや組織での唯一のUX担当者で、自分自身の楽しみのためにドキュメンテーションをしているとしても、ここではそれも成果物と考える)。
UX業務が発生する環境は非常に多様なので、成果物の種類も正式なレポートやプレゼンテーションから、誰かがスマートフォンで撮った写真をプロジェクトメンバーにeメールすることで文書化しただけのホワイトボードスケッチまで、大きな幅がある。我々が伝えたいものは数多くあるので、自分たちの言いたいことが明確に伝わるように、相手ごとに仕上げのレベルを変えなければならないこともよくある。かつては、丁寧に作って編集された長いドキュメントという正式な「成果物」と、UXの作業中に自然に生じる断片的な「中間生成物」の間に区別をつける必要があることも多かった。
しかし、ドキュメンテーションの優先順位が低いアジャイルやアジャイル的なワークフローを採用する企業が増えるにつれ、完成度的には劣る中間生成物をチームメンバーやプロジェクトの利害関係者、上層部、開発者、クライアント間でシェアする理由はさらに増えていっている。
最もよく作成されている成果物
先日、UXの専門家、86人を対象にアンケート調査を実施し、定期的に作成している成果物と、それをシェアする相手についての質問をした。
結果として興味深かったのは、アジャイル環境で作業している(あるいはアジャイルの特徴を取り入れたハイブリッドワークフローを採用している)回答者のうちの実に83%が、ワークフローの中でいまでも定期的に成果物を作成しているということだ。アジャイル手法が「不必要な」ドキュメンテーションに重きを置かず、それを一種の無駄と見なしているのにもかかわらず、だ。このことはアジャイルは成果物がない、というわけではないことを明確に示している。つまり、アジャイルでは単により有益な成果物に労力が費やされるだけであり、あまり読まれないことが多かったレポートには労力をかけなくなったということである。
成果物の種類ごとに、「頻繁に作成する」から「まったく作成しない」まで、どのくらいの頻度でそれを作成するかを回答者にはたずねた。よく作成される成果物は下の図に挙げたとおりである。こうした成果物が最も頻繁に作成される傾向にあるというわけだ。しかし、後で見るように、それらのうちのすべてがどんな相手にも同じくらい有益と認識されているわけではなかった。
当然ながら、典型的なタイプのUX成果物の人気が非常に高く、ワイヤーフレーム、プロトタイプ、フローチャート、サイトマップ、ユーザビリティやアナリティクスのレポートが最もよく作成されるトップ5だった。だが、スタイルガイドやパターンライブラリ(アジャイルチームに人気のある比較的新しいタイプのUX成果物)がユーザビリティやアナリティクスのレポートのすぐ後に続いているのは興味深い。回答者の61%がそれらを「頻繁に」あるいは「ときどき」作成すると答えていた。
どの成果物がどんな相手に向いているのか
調査では、UXの専門家に、3タイプの相手それぞれに対してどの成果物が最も効果的か、という質問もした。回答者には対象とした相手ごとに効果的と思う成果物を最大で4種類選んでもらった。
1. 社内の管理職
下の図3で説明するように、管理職や社内の利害関係者とのコミュニケーションに関して、回答者が最も多く選んでいたのは、インタラクティブなプロトタイプとユーザビリティやアナリティクスのレポートだった。
インタラクティブなプロトタイプは最終製品を最も反映したインタラクティブな体験を提供できる。したがって、ユーザーエクスペリエンスが最終的にはどうなるのかを見せるための強力なツールとなるというわけだ。また、ユーザビリティレポート等の調査関係の情報も管理職に対しては特に有益であると考えられていた。こうした成果物は自分たちが行おうとしているUXの具体的な提言に関して明確な証拠を提示してくれるからである。
ピクセルパーフェクトなビジュアルモックアップを、管理職にアイデアを伝える有益なツールと考えている回答者は25%しかいなかった。忠実度の高いビジュアルデザインを利害関係者に提示しなければというプレッシャーを感じるという話をUXの専門家からよく聞くことから考えると、この成果物が社内の管理職にアイデアを伝えるには特に効果的であるとは思われてないのは興味深い。
2. 外部のクライアント
しかしながら、社外のクライアントと作業する場合の成果物としては、ピクセルパーフェクトなモックアップは非常に多く選択されていた。47%の回答者が忠実度の高いモックアップを効果的な成果物であるとしており、クライアントとの作業用の成果物としてそれより多く選ばれていたのはインタラクティブなプロトタイプだけだった(67%)。ここから示されているのは、UX成果物に対する経験値が低い可能性のある社外のクライアントとの作業時にはデザインのビジュアルも重視するということだ。つまり、こういうタイプの利害関係者に対して、機能性や情報アーキテクチャ、インタラクションデザインを美しく写実的なモックアップに組み込んで見せるということにはメリットがあるという認識がある。
3. 開発者およびエンジニア
(コラボレーション目的でも、実装の仕様を伝えるという目的でも)開発者にアイデアを伝えることに関して、インタラクティブなプロトタイプが最も効果的なものとしてまたも選ばれていた。彼ら以外の利害関係者にはあまり有益でない成果物の中にも、特にフローチャートやサイトマップ、スタイルガイドのように、エンジニア向けとしては非常に人気が高いものもあった。このタイプの成果物では実装に不可欠な構造の詳細やインタラクションの仕様に強く焦点があてられている。したがって、こうした成果物が開発者とのコミュニケーション時に特に有益であるというのは当然だろう。
得られた教訓
これらのデータからは明白な傾向が見て取れる。成果物として、さまざまな伝える相手のタイプに共通して、最も人気があるのはインタラクティブなプロトタイプであり、UXの専門家のほとんどがそれを今回の相手にプランの実行を説得する効果的なコミュニケーションツールと見なしているということだ。また、我々は調査では静的なワイヤーフレームとインタラクティブなプロトタイプをきっちり区別したが、非常に興味深いのは、静的ワイヤーフレームは全体で見ると最もよく作成されている成果物であるのに(回答者の71%が静的なワイヤーフレームを「頻繁に」作成している)、最も効果的な成果物のトップ4を見ると、「どんな」相手に対して最も多く選ばれているわけではない、ということである。
このことから示されるのは、インタラクティブではないワイヤーフレームというのは、デザインプロセス中の自然な一過程としてであれ、ユーザビリティテスト用であれ、UXの専門家が自分自身のために作る中間生成物であることが多く、彼らはそうしたワイヤーフレームを他の人とはあまりシェアしないということだ。しかしながら、(ビジュアルやインタラクション、コンテンツの忠実度はさまざまだが)インタラクティブなプロトタイプなら相手にその製品のユーザーエクスペリエンスの雰囲気を伝えられる。ブロック図のワイヤーフレームほど表現が抽象的ではないからである。
ユーザビリティのレポートもほとんどの相手に向いた成果物の中核になりうる。しかし、その明らかな例外が開発者だ。ユーザビリティの課題が存在していると、回答者が開発者を「納得させる」必要性は他の相手ほどはないということ、そして、この相手に向けた成果物では、技術や実装の詳細が重視されるということだろう。
このデータからさらに明らかになったのは、プロトタイプを別とすれば、すべての相手のタイプに同じくらい効果がある「万能の」成果物はないということだ。UXの専門家の道具箱には各種の成果物がツールとして備わっている。だが、それらは適切な相手に対して、適切な状況で利用されることで、効果的なコミュニケーションツールとなることだろう。
この調査の結果についてのさらに詳しい情報は、我々の1日トレーニングコース「UXの成果物」にて。また、人気のあるフォーマットについては、1日トレーニングコース「ワイヤーフレームとプロトタイプ」でさらに詳しく学ぼう。