なぜ携帯電話は迷惑がられるのか
周りから見ると、携帯電話の会話は対面の会話より、気になり、うっとうしく、迷惑と感じるものだ。声の大きさも問題だが、会話の片方しか聞こえないという要素も苛立ちに影響を与えているようだ。
University of YorkのAndrew Monkたちは、公共の場で他人が携帯電話で話しているのを見ると迷惑に感じる理由を調べるために、非常に優れた調査を行った。
調査員たちは、電車に乗っているか、バスを待っている、何も知らない通勤途中の人たちの前で1分間の会話を行った。半分のケースでは、被験者の隣で2名の役者が対面の会話を行った。残りのケースでは、被験者の隣で1名の役者が携帯電話を使って会話を行った。
また、半分の会話は(音量メーターで測って)普通の声の大きさで行い、もう半分では強調して大声で会話を行った。会話の内容や時間は全て同じにした。
会話の後、調査員たちはその被験者に声をかけ、会話について簡単なアンケートに答えてもらった。言い方を変えれば、会話が行われている間、被験者は調査に参加していることを認識しておらず、会話は1名または2名の通勤者による普通の行動だと思っていたのだ。
承諾を得た上での質問
事前に参加者のインフォームド・コンセントを得ないで調査を実施することに対して、倫理的な面から疑問を抱く人もいるかもしれない。だが、私の考えでは、これは完璧に倫理的な調査なのだ。真に問われるべきは、参加者が実害を受けているかどうかであって、お役所仕事的にみて十分な書類が作成されているかどうかではない。
この調査では、被験者に事前に同意書にサインしてもらうのは不可能だ。会話のことを事前に知っていたならば、被験者の体験はまったく違うものになってしまう。それに、被験者になりたくなければ、アンケートに答えるのを拒めばよいだけの話だ。公共の場で会話を耳にするのは一般的なことだ。何も害にはならないし、ユーザビリティ調査の倫理ガイドラインにしたがっている。
調査結果
結果は以下の通りだ。数字は1から5で評価した平均値で、1が最も好ましいことを示している。
最初の表は、他人からみた、携帯電話と対面の会話の評価を比べたものだ。
会話がとても気になった | 会話がうっとうしかった | 会話の声の大きさが迷惑だった | 平均 | |
---|---|---|---|---|
携帯電話 | 3.4 | 2.5 | 2.4 | 2.8 |
対面の会話 | 1.8 | 1.4 | 1.6 | 1.6 |
2番目の表は、他人からみた、違う声の大きさの会話への評価を比べたものだ。
気になった | うっとうしかった | 迷惑だった | 平均 | |
---|---|---|---|---|
大きい声 | 3.2 | 2.4 | 2.4 | 2.7 |
普通の声 | 2.1 | 1.5 | 1.6 | 1.7 |
明らかに、携帯電話は、対面の会話よりもかなり評価が悪く、事例証拠の多くを裏付ける形となっている。予想できた通り、大声の会話は小声の会話よりも評価が悪い。しかし、携帯電話の会話が大声の会話よりも評価が悪いのには、目を引かれる。客観的な測定によってコントロールされていて同じ声の大きさだったにもかかわらず、被験者は携帯電話の声の大きさが、対面の会話の声の大きさよりも迷惑だったと言っている。
携帯電話をもっと迷惑でないようにできないのか?
調査員たちは、被験者に携帯電話の呼び出し音がどの程度迷惑だったかを評価してもらった。(対面の会話ではこれと比較できる質問がなかった。)しかし、彼らはそれほど迷惑がっておらず、呼び出し音は周りの人が携帯電話の会話を嫌う理由とは言えないことがわかった。
声の大きさは、周りの人の迷惑の度合いに影響した。大声の携帯電話の会話は、普通の声の携帯電話の会話よりも悪く評価された。もっとソフトに話すようにユーザーに働きかける電話機をデザインすれば、他人に与える影響を減少させる。たとえば、もっと敏感なマイクや音質の改善によって、ほとんどのユーザーが叫ぶのを減らすことができる。
しかし、携帯電話で一番の問題は声の大きさではなかった。実際、普通の大きさの声であっても、携帯電話の会話は対面の会話より悪い評価を受けている。一番の問題は、携帯電話の会話は、対面の会話よりも、気になりやすいことのようだ。これは妙な話だ。2人が対面で会話していると、1人が電話で話す2倍の音を出しているはずなのだから。
残念ながら、Monkたちは最終的な結論を出していない。更なる調査が必要だとしている。しかし問題は、会話の片方だけを聞いたときに人は多くの注意を払うことであるように思われる。どうやら、1人が会話と沈黙を繰り返すのを無視するよりも、2人が順番に話す普通の会話を無視する方が簡単なようだ。
音声発信における役割交代の問題を解決した電話を作るには、どのようなデザインにすべきか? この初期的な調査では、それを知るのは難しい。スピーカー付の電話が解決策であるかもしれないが、私はそうは思わない。
確かなのは、この調査は携帯電話が確かに迷惑だと証明しているということで、声の大きさは一つの要素にしか過ぎないということだ。もし携帯電話業者が製品に対する不評を避けたいならば、この調査でわかったことを心に留めて、周りの人にとってもっと迷惑でない携帯電話を作る努力をするべきだ。
方法論の進歩
これらの発見は答えよりも多くの疑問を出す結果となっているが、私はこの調査を2つの理由でとても興味深いと思っている。
- 第三者のユーザビリティの先駆的研究である。直接的なユーザーだけをテストの対象とするのでは不十分だ。私たちは、意志にかかわらず「ユーザー体験」してしまう人たちのことも考慮しなければいけない。この問題はユーザーインターフェースが画面を飛び出し、もっと物理的または可搬的になると重要になってくる。
- フィールド調査と、自然な利用状況での被験者データを集める優れた事例である。ユーザビリティ調査で役者に演技をさせるのは一般的ではないが、共同作業システムや環境デザインにユーザビリティがかかわり始めると、このような方法はもっと一般的になるかもしれない。
参考文献
Andrew Monk, Jenni Carroll, Sarah Parker, and Mark Blythe: “Why are Mobile Phones Annoying?” Behaviour and Information Technology, vol. 23, no. 1, 2004, pp. 33-41.