モバイルのUXがユーザビリティガイドラインを厳格化する
ガイドラインの多くはモバイルデザイン向けもデスクトップデザイン向けも似たようなものである。しかし、モバイルの場合はその解釈の仕方がずっと厳密になる。
最近、書いたコラム、モバイルコンテンツ: 不確かならば省略しようでは、モバイルユーザーに向けて書くときには副次的な内容は削除しよう、ということをサイトオーナーに向けてアドバイスした。すると、多くのツイートやブログの投稿、コメントが、このテーマについて敷衍した。そう、モバイルコンテンツからは無駄な部分を確実に取り除いたほうがよい。しかし、デスクトップウェブサイト向けに書くときにも副次的なコンテンツはカットしよう。
私はある意味、これには同意するしかない。1997年以来、ウェブ向けに書くときの簡潔さというのはずっと重要なガイドラインだったからだ。人々はウェブではあまり読みたがらないし、サイトの価値がはっきりとわからなければ、数秒以内に離脱してしまう。こうした調査結果からはさらにきめ細かいガイドラインが導かれる。例えば、ナノコンテンツ(例: ヘッドラインや検索エンジンのリンク)では最初の2語を強調しよう。
そう、つまり、デスクトップサイトでもどうでもいいような部分はカットしたほうがよいのである。
モバイルはデスクトップほど寛容ではない
しかしながら、それでも、ウェブ向けとモバイル向けでは書き方に以下のような違いがある:
- デスクトップでの文案は簡潔でなければならない。
- モバイルでの文案はさらに簡潔でなければならない。
高レベルのガイドラインでもそれは変わらない。すなわち、副次的な情報は削除したほうがよい。違うのはその程度だ。つまり、デスクトップサイトなら受け入れられそうなある種の情報も、モバイルのサイトやアプリからは削除する必要があるのである。
我々が最初に実施した、人々がモバイル機器で情報をどのように読むか、についての調査では、特別価格のクーポンをユーザーに送るという例を使った。その調査で一番評価の高かったデザインは、最初の画面に載せる情報をかなり限定したもので、「More about this deal(:このクーポンについての詳しい説明)」を読むには、ユーザーはリンクをタップしなければならなかった。
これがデスクトップのデザインだったら、最初の画面ですべての情報を提示し、ユーザーのクリック回数を1回減らしたことだろう。では、なぜこのような違いが起こるのだろうか。
- モバイルの画面はずっと小さい。つまり、のぞき穴を通して読むことになるため、認知的負荷が高くなり、デスクトップに比べて、モバイル機器上でのテキストの理解はおよそ2倍難しくなる。短期記憶というのは不十分なものなので、スクロールで画面から消えてしまった後に覚えなければならない量が多くなれば多くなるほど、記憶しておくのは難しくなるのである。
- モバイルのユーザーは移動中という状況であるため、デスクトップのユーザーよりもさらに急いでいる。
この2つの違いによって立証されるアドバイスは同じである。つまり、デスクトップ向けよりもモバイル向けのほうがテキストの削減には厳しくあたらねばならない。
同様の調査結果が機能の選択にも適用される。つまり、デスクトップ向けよりもモバイル向けのほうが機能をずっと減らすべきである。デスクトップサイトでも可能な限り、機能を減らすべきであるのはわかっている。機能が減るたびに、ユーザーがUIで混乱する機会も減り、残った機能が使いやすくなるからである。
しかし、モバイルサイトではデスクトップサイトよりもさらに機能を減らすべきである。(したがって、デスクトップサイトのみが提供する機能を必要とするユーザーに向けて、モバイルサイトからフルサイトへのリンクを提示する、というのがここでのガイドラインになる)。モバイルサイトはモバイルのユースケースにとって意味のあるような機能だけを備えるべきである。例えば、企業のフルサイトにはPR情報や投資家向け情報のページがあるが、こうした情報はモバイルサイトからは除く必要がある。
デスクトップの情報アーキテクチャ (IA)では階層を深くし過ぎないシンプルなナビゲーション空間を常に用意すべきである。しかし、モバイル向けには、空間が限定されていることから、ユーザーの方向感覚を失わせないことがさらに重要になる。したがって、ナビゲーションの選択肢の数は制限したほうがよい。なぜならば、すべての画面であらゆるコンテクスト情報を示すのは不可能だからである。(典型的なデスクトップサイトでナビゲーションに割り当てられる画面の延べ面積は、典型的なスマートフォンの画面全体よりも広いため、そうしてしまうとコンテンツのための空間が残らなくなる)。すなわち、ナビゲーションストラクチャはモバイルのIAではさらに浅くしなければならないといえる。
二者択一で判断できるユーザビリティガイドラインはめったにない
人々が私に期待するのは例外のない次のような規則である。表示するメニューアイテムはX個以下にしよう。1ページあたりの文字数はY文字以下にしよう。ホームページからのクリック数はZ回以下にしよう、など。しかし、残念なことに、UIのデザインはそういうふうにはうまくいかない。ユーザビリティに関する疑問に対する答えが1つになることはめったにない。むしろ、そうしたことこそが、デザインの避けられないトレードオフの方向や性質を規定する質的な論点になる。
ウェブページの応答時間が0.1秒増えるたびに、サイトの訪問者は数%ずつ減っていく。しかし、10秒なら皆、待てるが、11秒待てる人は誰もいない、というわけではない。
簡潔な書き方についてのガイドラインをもう1つの例として挙げよう。もっとも簡潔な文案は1語か2語からなるものだろうが、それでは満足できるレベルのウェブページにならないことは多い。実際、長い記事のほうが適しているような場合もある(内容を掘り下げる記事でも無駄はそぎ落とすべきであるし、ターゲットに合った言語レベルで書かれるべきではあるが)。
最後まで残った要点はシンプルだ。つまり、ウェブ向けに書くときには、テキストも絞るに越したことはない(他の多くのウェブコンテンツのガイドラインに従うだけでなく)。そして、モバイル向けに書くのであれば、オレンジはさらに搾ったほうがよい。副次的なコンテンツを次のページに先送りすることを考えるのなら、対象がモバイルユーザーのときには、切り捨てる内容を主要なページと副次的なページの間で動かす必要が出てくる。原則はここでも同じである。しかし、モバイル向けなら判断はさらに厳格にすべきだ。
機能、IA、文章、画像等、ユーザーエクスペリエンスのすべての分野でモバイルのユーザビリティに要求されるのは、デスクトップのユーザビリティよりも厳密で絞り込んだデザインである。だからこそ、独立したモバイルサイトが必要となる。フルサイトにモバイル機器からアクセス可能にするために、レスポンシブウェブデザインを導入するだけでは、モバイルのUXは標準以下になってしまうからである。(実際、これは新しいメディアに対して繰り返されてきた昔からの教訓である。つまり、アクセシビリティ≠ユーザビリティなのである)。