ニュースレターのユーザビリティ:
新聞記者ならもっと上手くできるのか?
Washington Post の電子メールニュースレターは、高いユーザビリティ評価を獲得した。特に、ユーザがニュースレターに何を期待できるのかを登録前に説明しているという点で優れているが、取り消しのインタフェースにいくつか問題がある。
最近行った Bush 陣営と Kerry 陣営の電子メールニュースレターの評価で、どちらの大統領候補者もよいコンテンツのニュースレターを発行しているものの、コンテンツのユーザインターフェイスに重大な欠陥を抱えていることがわかった。
Washington Post は Weekly Campaign Report という名前の大統領選に特化したニュースレターを発行し、候補者たちのニュースレターと同様の話題を多く扱っている。そこで私は次の質問に答えるべく行動した。はたして新聞社のプロであれば、選挙陣営サイトよりも上手くニュースレターを扱えているのか、ということだ。
結果:文句なく一番よい
washingtonpost.com の登録と取り消し用のインターフェイス評価を 2004 年 9 月 21 日に行い、Weekly Campaign Report ニュースレター自体の評価を 2004 年 9 月 6 日から 10 月 3 日までの 4 週間で行った。評価は、最近行った沢山のニュースレターに登録しているユーザに関するリサーチから導き出された、ニュースレターのユーザビリティに関する 127 項目のデザイン・ガイドラインにどれだけ準拠しているかを元に、採点を行った。
Washington Post は楽々と George W. Bush と John Kerry を上回った。Post は、両候補を全般的な評価で上回っただけでなく、ニュースレターのユーザビリティで主となる 4 つの各区分全てで上回った。
Washington Post | Bush | Kerry | |
---|---|---|---|
登録インターフェイス | 79 % | 47 % | 44 % |
ニュースレターの内容とその見せ方 | 74 % | 71 % | 67 % |
登録情報管理と取り消し | 56 % | 43 % | 54 % |
ジャンクメールとの見分けのつきやすさ | 67 % | 33 % | 33 % |
全 127 ガイドライン | 72 % | 58 % | 57 % |
確かに 72 %は満点ではない。80 から 90 %のユーザビリティ・ガイドラインに準拠しているサイトを見たいものではある。(どのサイトも、いくつかガイドラインに準拠しないことが正当化できる特殊な事情を持っているため、100 %準拠する必要はない。)しかし、今日のインターネットにおいて 72 %は見習うべき値だ。そして 57 から 58 %だった Bush や Kerry に比べたら、はるかに高い。
登録インターフェイス
ニュースレターに登録すると、何が得られるのかというユーザの期待を設定するという点で、washingtonpost.com は両大統領候補陣営のサイトよりも高得点を出している。基本的に Bush と Kerry は「電子メールのアドレスを登録すれば、[ 何なのかは教えないが ] 何かを送る。」といっている。今日の基準で言うと、よいことではない。一方 Post は登録前に何が送られるのか、ユーザに確認することに関するガイドラインのほとんどに準拠している。そのため、より多くのユーザが登録することが見込めるのだ。
Post の登録インターフェイスが 100 %に満たない主な原因は、ユーザ登録が必要だからだ。このユーザ登録では、個人情報などの沢山の立ち入った質問に答えることを要求している。これはおそらくユーザを統計的に分析することが、インターネット上でのターゲットを絞った広告の成功につながるという神話によって行われているのだろう。しかしユーザ登録はユーザビリティの妨げになり、ニュースレターの登録をする人の数を減らすことになる。したがって、結果的に広告収入も減ってしまうのだ。(また、広告は各ユーザの明示的な行動によってターゲットを絞ったほうがよい。つまり、そのユーザ 1 人だけの統計で行うのだ。このほうが、ユーザをステレオタイプ的に大きなグループに分けてしまうよりも、はるかに価値が高い。)
驚くことに washingtonpost.com は、部分的に適切なコンテクスト内でニュースレターのプロモーションを行うという、基本的なガイドラインに違反している。サイト内にある記事のうち、話題がニュースレターを宣伝するのに適切なものの中にニュースレターへのリンクがないのだ。”2004 Election” ( 2004 年大統領選)のカテゴリーのページからは Weekly Campaign Report へのリンクがあったので、半分の点数をつけた。だが Dan Froomkin の 9 月 21 日の White House Briefing コラムには、ニュースレターに関する記述が一切なかった。この記事は、そのとき “Let the Debate Spin Begin” (討論を始めようじゃないか)という見出しで、サイトの中で 2 番目に大々的に扱われていたにも関わらずだ。このタイトルだけでも、ニュースレターに登録しそうな読者を沢山ひきつけただろうが。
また washingtonpost.com はユーザ・ガイダンス機能の中で、ニュースレターの情報をユーザが見つけやすくするという点においても、低い点数を取っている。検索のユーザビリティ・ガイドラインでは部分点をつけた。”subscribe” (登録)や “newsletters” (ニュースレター)といった言葉を検索すれば、最も適切だと思われる検索結果として、ニュースレターのページが一番上に表示されるようになっている。しかし “unsubscribe” (登録取り消し)という言葉で検索しても、検索結果には何も表示されず、ヘルプやサイトマップへのリンクといった、次にどうすればよいかというアドバイスすらない。ユーザがサイトマップを見つけることができれば、それは多くのサイトマップのユーザビリティ・ガイドラインに準拠していて使いやすいのだが、ただひとつだけ難点は、推奨されている “site map” (サイトマップ)ではなく “site index” (サイト・インデックス)という名前が付けられているということだ。またサイトマップは、サイト内にあるニュースレターのページへのリンクがない。
登録情報の管理と取り消し
取り消しのユーザビリティで、ユーザ登録が Post にとって、再度害になる。推奨されている、 1 クリックでのニュースレターの取り消しが行えないのだ。そのかわり、ユーザはログインする必要がある。つまりパスワードを覚えておかないといけないのだ。これや厄介だ。
忘れてしまったパスワードをリカバーするためのインターフェイスは、よくできている。これで幾分かユーザがログインを、メーリングリストから抜ける際行わなければいけないという問題を緩和している。
一度ログインしてしまえば、登録しているニュースレター 1 つ、または全部の取り消しを行うのは簡単になっている。これはよい。
いくつかの場合、ニュースレターの頻度を変更できるようになっている。メールの洪水にさらされていると感じたユーザは、日刊から週刊に切り替えることができるのだ。これ自体はよい。だが今まで登録していた日刊版のニュースレターを取り消した際、週刊版に切り替えるためのインターフェイスが提供されていない。このサイトでは、そのような選択肢があるのをユーザ自身が膨大な数のニュースレターの一覧から見つけることに頼っているのだ。ユーザが時間に追われ、速やかに登録を取り消したいと思っている場合、そうしてもらえることはまず、ありえない。
ニュースレターの内容
Post はニュースレターのコンテンツで高得点をあげているが、大統領候補者たちも同じく高得点をあげている。大手新聞社であれば、執筆と編集が上手くできる人たちがいるだろうと思うだろう。予想通り、彼らはこの分野でも大統領候補たちのニュースレターよりも高い得点をとっている。
見出しは短い(よい)が、オンライン用としては明確さに欠けることがある(悪い)。例えば、9 月 8 日のニュースレターは、”Over the Top”(頂点を越えて)という題名がつけられていたが、ニュースレターの内容を説明できているとは言いがたい。”Campaign Rhetoric Takes a Nasty Turn”(選挙キャンペーンの弁舌が厄介な展開に)といった題名のほうが、ニュースレターが開かれる可能性が高かっただろう。
小見出しは多くの場合、単刀直入でわかりやすい(よい)。例えば “Poll Analysis”(支持率分析)や “Kerry Blasts Bush on Guns”( Kerry が銃規制で Bush を攻撃)といった具合だ。
Washington Post には、印刷という一般的なタスクに対する点数で半分しか与えなかった。電子メールソフトで、プリントボタンを押しただけでプリントした場合、記事の右側が用紙からはみ出てしまうからだ。ガチガチに固められたレイアウトが、またもや仇となっている。
広告の扱いは、とても上手くできていてユーザ体験を害していないが、逆に論説コンテンツのいくつかが広告に見えすぎて、ユーザが見落とす可能性が高い。広告に間違えてしまいやすいデザインにしてしまうことは、以前から言われているウェブデザインで犯されることの多い間違いのひとつであるため、避けるべきだ。
ニュースレターのユーザビリティの向上
果たして大統領選キャンペーンのニュースレターを、大手新聞社のプロが発行しているニュースレターと比べるのは不適切だろうか。私はそうは思わない。もちろん片田舎の市長選に望んでいる人の物と比べれば、確かにそれは不公平だ。しかし大統領選ともなれば、話は別だ。彼らはそれぞれ 3 億ドルもの予算を持っているのだ。そもそも予算はあまり問題ではないはずだ。私たちがテストした 111 の電子メールニュースレターのうち、よいデザインを持っていたのは、多くの場合かなり小さな企業によって発行されたものだった。候補者たちの犯した間違いは、最低限のリソースで直せるはずだ。ほとんどの場合はプログラムの修正も必要ないだろう。最大の間違いのひとつは、執筆のスキルの欠陥ではなく、編集判断の欠落によるものだ。
私が評価を行ってから、Bush と Kerry のニュースレターは幾分か改善がなされた。良心的に見れば、これは両陣営の管理者たちが体験から学ぶことができることを示しているといえる。しかしながら、今年の初めに発表されていたレポートで明確にドキュメントされていたのと同じ間違いを、8 月の時点で犯す必要はそもそもなかったはずだ。犯した間違いによって失った読者たちは、もう二度と帰ってこないだろう。オンラインで提供されるサービスに失望したユーザを取り戻すことは、とても難しいことなのだ。
Washington Post は、よいニュースレターの展望を明確に示している。Post のウェブデザイン・チームと、ニュースレター編集者たちは、最高の仕事をして、George W. Bush と John Kerry を圧倒した。また Post のニュースレターは、私たちが評価した、ほとんどの企業ウェブサイトやインターネット・マーケティング業者たちの物よりもよい。もちろん、改善の余地はまだまだある(私が満足することはないのだ)。が、私の結論はこうだ:Post のみなさん、よい仕事していますね。
くわしくは
電子メールニュースレターのユーザリサーチについての 293 ページのレポートがダウンロード可能。
2004年10月11日