ユーザビリティレポートをアーカイブする

多くのユーザビリティ実務担当者は、ユーザテストの価値を最大限に生かしきれていない。レポートを体系的にアーカイブしていないからだ。イントラネットベースのユーザビリティ・アーカイブは、4つの実質的な利益をもたらすものである。

ユーザビリティの実務担当者245名に、これまでに実施してきたユーザテストのレポートをどのように管理しているかを尋ねてみたところ、回答は以下のとおりだった:

  • 12%は、ナレッジ・ベースとしてレポートを保管している。
  • 27%は、ネットワーク上に場所を設け、まとめて保管している。
  • 29%は、ネットワーク上に保管はしているが特定の場所があるわけではない。そのため、必要に応じて探し出さなければならない。
  • 33%は、ユーザビリティ・レポートをネットワーク上に保管していない

言い換えれば、多くの組織がアーカイブ・ポリシーを整えていない、ということになる。これは残念なことだ。なぜなら、過去に行われたユーザ・リサーチの結果を容易に見られるようにしておくことには多くの利点があるからだ。

アーカイブ戦略

ユーザビリティ・レポート用に立派なナレッジ・ベースを構築することはお勧めしない。昨今のナレッジ・マネージメント(KM)はまだ発展途上にあり、金額と労力に見合う利益に繋がる見込みは低い。例外があるとすれば、会社が他のドキュメントを対象として既にKMを構築している場合だ。だとすれば、既存のシステムに便乗するができる。

最低でも、イントラネット上にユーザビリティ・サイトを作り、集中管理するべきである。そこに、ユーザビリティ・レポートを漏れなく保管することのできる場所を常設するのだ。プロジェクトごとのサブサイトに入っていってユーザビリティ・レポートを探さなければならない場合、多くは失敗することになる。あるいは、そもそも何を探せば良いのかさえわからないだろう。入手可能なユーザビリティ・レポートを一覧できる場所がないのだから仕方がない。もっと悪いことに、プロジェクトに関わったメンバーが、プロジェクトの結果を知る唯一の情報源だとしたら、そのメンバーが会社を辞めたり、配属替えで部署を離れることになったりしたときに、組織に蓄積されるべき重要な記録を失う危険を冒していることになる。

詳細な分析に基づく徹底的なレポートを苦労して書き上げたときには、そこで得た洞察を将来に役立たせられるようにすることで投資収益を最大にする必要がある。略式のユーザビリティ・レポートもアーカイブすべきだ。“速報”やメールで提出したサマリーは、プロジェクトの進行中に重要な役割を果たすだけでなく、長い目で見たときは詳細なレポートほど有用なものとなるわけではないが、将来的な価値も見逃すことはできないだろう。

アーカイブすることによる利益

ユーザビリティに関する所見を上手くアーカイブしておくことには、主に4つの利点がある。それらは、一時的なものから戦略的に有効なものまで幅広い:

  • プロジェクトに新たなメンバーが加わるとき、過去の所見は、ユーザに関する既知の事柄を簡潔に教えてくれるものとなる。短時間で、他のメンバーに追いつくことを可能にし、過去のテストで既にレポートに載せたことを繰り返して報告してしまうようなミスを防ぐことにも繋がる。
  • プロジェクトによっては何年もかかるものもある。リリースや改訂が複数回に及ぶプロジェクトは特に長くなる。年数がかさむと、多くの人間が関わりを持つことにもなる。特に、変化の著しい外部のエージェントにデザインをアウトソースする場合にはそれが顕著である。そういった状況では、ユーザビリティ・レポートが唯一、なぜこのアプローチが採用されたのか、他が見送られたのは、ユーザにとって上手く機能しなかったからだ、といったデザインの論理的根拠を示し得るものとなる場合も多い。過去に何がテストされてきたのかを知らなければ、過去の過ちを繰り返してしまうかもしれない。ユーザ・ニーズについて、何がわかってきているのかを知らなければ、次のヴァージョンでそれらのニーズを支援することができなくなるだろう。また、ユーザビリティに関する洞察が実装されるには、長い時間を要する場合もある。最近、過去にコンサルティングをしたお客様から電話があった。“2年前にいただいた推奨事項を実装するのがやっと終わりそうですよ”と言うのだ。かつて提出されたレポートを保管し、デザインを進める中で参照し続けてきたからこそ、こうして、要した費用の元を取ることができるのだろう。
  • 個々の所見も、繰り返し観察されるものであれば、ユーザビリティ・ガイドラインへと一般化することができる。ユーザビリティチームの生産性を向上させる最も有力な方法の一つは、ある特定のタイプのユーザ・インターフェイスに対応する専用のガイドラインを構築することである。
  • 多数のレポートが蓄積されれば、長期に渡って傾向を追跡し、自らのユーザビリティ活動による長期的な成果を評価することができる。ユーザビリティは向上しているのか、それともしていないのか。プロジェクトという枠を超えてデータをメタ分析してみることで、個々のプロジェクトに縛られない洞察を得ることもできる。ユーザ満足に関する私の研究の中では、たとえば、209個のウェブサイトをテストして得てきたデータを使って、満足度の分布を示したり、ウェブ上にある他のサイトと比較したときに、平均点以上の顧客満足を得るのに必要なポイントを算出したりした。同じように、企業の中でも、複数回実施した調査の結果を総計し、次のプロジェクトの成果として納得を得るために必要な成功率やタスク達成時間、満足度などを知ることができる。

個人レベルで考えると、アーカイブされたユーザビリティ・レポートは、ユーザビリティのスキルを向上するための恰好のラーニング・リソースとなる。立派なユーザビリティ専門家になるための最良の方法は、多くのユーザテストを経験することだが、他の調査で得られた所見を読むことは、次に良い方法となり得る。自分の書いたレポートを独占したり、他者がなかなか手に入れられない状態にしたりすることは、同僚や組織全体の技能低下をもたらす行為である。

2005 年 6 月 13 日