ユーザビリティ調査はどこで実施しても同じ

ユーザテストを実施すれば、場所に関係なく同じ洞察を得られる。だから、複数の都市でわざわざテストをする意味はない。ただし、その業界一色になっているような都市は避けて、どこか別の場所でのテストを検討しよう。

一ヶ国でしかテストをする予定がないならば、移動にリソースを費やしてまで、複数の都市で同じユーザビリティ調査を繰り返す意味はない。どうせ同じ行動を繰り返し観察することになるだけで、新しい発見は期待できないからだ。そんな予算があるのなら、別のデザイン案をテストしたり、競合の評価に使ったりする方がずっと賢明である。

どこでテストをしても同じだとする今回の結論は、マーケットリサーチでよく言われる教訓とは違う。マーケットリサーチでは、同じ国でも地域が違えば、違う結果が出ると言われていて、グループインタビューを4~5つの都市で実施するのは当たり前のことである。予算が許せば、もっと多くの都市で実施されることもある。

複数ヶ所で調査を行うべきだという先人の教えに従って、私たちも随分と長い間、多くのプロジェクトでそうしてきた。しかし、後で紹介するいくつかのケースを除くと、ユーザビリティに関して得られる知見は場所をかえても変わらなかった。今ならはっきりと言える。同じ国であれば、2都市以上でユーザテストを実施することはお金の無駄である。

行動 vs. 意見

何ヶ所で調査を実施するか、という話になったときに、ユーザビリティ調査とマーケットリサーチで見解が異なるのはどうしてだろうか? ユーザの意見を聞くのではなく、行動を観察するのがユーザビリティ調査だからだ。もっと言うと、私たちは、ある特定のモノを使うときのユーザの行動(つまり、あるユーザ・インターフェイスをユーザがどう使うのか)を調査しようとしているのである。

地域が違えば、人びとの考え方や態度もやはり違っている。ある製品に対していくらまでなら払っても良いと思うか、そもそもその製品を欲しいと思う人がどのくらいいるか、地域によって答えは違う。

しかし、あるインタラクションデザインに対する人々の反応はどうだろう? 多くの場合、どこに住んでいるかには関係なく、人々は画面に表示されるものを同じように解釈する。ある街で簡単に使ってもらえたものは、別の街でも同じように簡単に使ってもらえるのだ。たとえば、ウェブサイトの階層構造を示してナビゲーションの支援をするパンくずは、ロサンゼルス、ニューヨーク、アイダホ州のボイシ、どこでも同じようにうまく機能している。多くのユーザが検索を頼りにするのも、田舎に住んでいるからとか、都会に住んでいるからとかではなく、広大無辺に散らばった情報空間を行き交うときには、検索が便利だからに他ならない。

なぜ一ヶ所で十分なのか?

一ヶ所でテストをすれば十分な理由を、パーキングメーターを例に考えてみよう。

ある都市では、駐車料金がかかるなんてけしからん、空気に課金されているようなものだと人々は考える。またある都市では、1時間で25セントなら払っても良いと考えられている。1時間の駐車をしようと思ったら数ドルかかるのが当たり前と人々が考える街もある。このとおり、駐車料金についてマーケットリサーチをしようと思うなら、各都市で別々に実施しなければならないだろう。

では、パーキングメーターのユーザビリティ をテストすることを考えてみよう。ユーザは、どこにコインを入れれば良いか分かるだろうか? 1時間の駐車料金がいくらになるかをユーザは理解できているだろうか? 支払った金額でどのくらい駐車しておけるのかがディスプレイに表示されていることに気づくだろうか? 数字が、払ったお金で駐車しておける残り時間だと分かるだろうか?

答えがどうなるかは、メーターのインタラクションデザインにかかっている。そして、どこで調査をしてもだいたい同じ答えになるだろう。一ヶ所でテストをすれば十分なのは、このとおりである。

何度かテストをした方が良いという場合もある。まず、これまで駐車料金が課金されたことのない地域に新たにパーキングメーターが設置される場合。パーキングメーターの概念をまったく持たないユーザに協力してもらうことを考えよう。初心者の方が、利用経験者よりも多くの問題に遭遇してくれることは間違いない。次に、駐車料金の高い都市では、クレジットカードや紙幣でも料金を払えるようにしておく必要があるかもしれない。そうなると、ユーザ・インターフェイスも変わってくるので、別にテストをする必要が出てくるだろう。ただし、いずれの場合も、わざわざ別の都市に出かけていってテストをしなくても、どんなユーザに来てもらって、どんな機能を使ってもらうかを検討すればすむ話である。

違いが出てくるのは、多くの場合、ユーザの周囲の状況や事情が多様なためであって、地理的なばらつきによるものではない。つまり、幅広くユーザを集めることが重要なのである。経験豊富なユーザと初心者、若い人とお年寄り、お医者さんと看護師さん、自社の上顧客と競合の上顧客、どちらかに偏ることなくユーザを集めることだ。たいていの場合、幅広いユーザを一ヶ所で十分に集められる。多様なユーザが、やはり多様な行動をとるのかどうかを知りたいのであって、都市ごとの違いを見たいわけではないのだ。

お気に入りの街、つまり、あなたが生活の拠点にしている街でテストをした方が良い理由がもう一つある。そこでテストをすれば、デザインや開発のメンバーが簡単にテストを見学に来られるからだ。もちろん、後でビデオを見てもらうことも理屈では可能だが、顧客が自分たちの作ったものを使う様子を生で見るという経験に勝るものはない。ユーザテストの様子を、直接、自分の目で見ることは、これ以上にない刺激となる。見た人には、ユーザビリティの問題を真摯に受けとめてもらえるはずだ。別の都市でテストをすることに論理的には利点があったとしても、ホームグラウンドでテストをしたときの方が、テストで得られた知見が反映されやすい。

場所を選んだ方が良い場合

いつものことだが、やはり例外がある。場所を選んだ方が良い場合があるのだ。

一個の産業がある地域を支配していて、企業城下町風情になってしまっている場所がある。一社による独占支配の場合もあれば、複数の企業が軒を連ねてという場合もあるだろう。そんな企業城下町を例にあげるとしたら次のとおりで、いずれも関連業界のウェブサイトをテストするのにふさわしい場所とは言えない。

  • デトロイト:自動車関連
  • ワシントンDC:政府関連
  • ハリウッド:映画関連
  • マンハッタンの商業地区:投資関連
  • ブリュッセル:EU(欧州連合)関連
  • シリコンバレー:テクノロジー関連

シリコンバレーの例として、10年前に実施したテストのときのお話をしよう。テストに向けてユーザを募集するときには、ユーザビリティ、インターネットマーケティング、インターフェイスデザイン、グラフィックデザイン、プログラミングなどに関連する職業の人をお断りするのが慣例だ。このような職業の人がユーザ としての役割を全うするのは難しいため、直接的にターゲットユーザとなる場合を除いては、応募をお断りした方が良い。彼らは批評家 になってしまいがちで、良いウェブサイトを作るにはどうするべきかという持論で目の前のデザインを評価してしまう。ユーザビリティテストとは、ユーザがインターフェイスをどのように使うのかを見せてもらうためのものであって、他の人がどんな使い方をするか推測してもらうための場ではない。

このとき、不適当なユーザはすべて排除できたと思っていたが、あるユーザがその批評家になってしまった。条件をすべて満たしていたはずの彼女のルームメイトが Yahoo! のマーケティングマネージャ だということが終盤になって判明したのだ。彼女は、少しずつ、ウェブ業界の事情に通じてきてしまっていたのである。

企業城下町の問題は、そこに暮らす人たちがその業界や製品について知りすぎてしまっているところにある。業界のゴシップにも興味津々で、普通の人なら気づくこともないような広告も目にしてしまっているということがある。

結果として、他の街のユーザよりもいとも簡単にウェブサイトを使えてしまうことになる。95%のユーザがどんなエクスペリエンスをしているのか、本当のところを知りたいなら、業界色の強くない地域でテストをしなければならない。

他の国にもユーザがいる場合は、テストの場所を選んだ方が良いだろう。複数の国でテストを実施する必要性がどうしても出てきてしまうからだ。

イントラネットの場合は、本社に加えて、現地法人または支社でもテストした方が良い。本社以外の従業員は、会社をよく知っている人から、疎い人までさまざまだったり、アプリケーションの使い方や重視する機能が違っていたりする場合もあるかもしれない。さらに、イントラネットのユーザビリティを向上しようとするチームにとって、本社の外にいる人たちを巻き込むことは妥当な政治活動と考えられる。そうすることで、イントラネットが上から押しつけられるものではない、と社内に思わせることができるからだ。

最後に、ある地域では単純にまったく利用されない製品(あるいは、まったく別な使い方をされる製品)というのがある。たとえば、超強力住宅暖房システムを売ろうとするウェブサイトのテストをフロリダで行うべきではない。そんな高性能の暖房を使ったことのある人はフロリダにはほとんどいないからだ。同じように、観光地を宣伝しようとするウェブサイトを、まさにその観光地でテストしても仕方がない。そこを訪れる旅行者に使ってもらうためのウェブサイトなのだから。

例外はあるものの、原則ははっきりしている。ユーザビリティに関して見えてくる知見は、どこでテストをしても同じである。旅費の予算は節約して、テストは一ヶ所で行うことにしよう。信じられないというなら、次のバージョンのテストを別の場所で行って、場所がかわったことで新しい知見が得られるかどうかを試してみれば良い。新しい発見は何もないと思うがね。

2007 年 4 月 30 日

公開: 2007年4月30日 (原文:2007年4月30日)
著者: Jakob Nielsen
原文:Location is Irrelevant for Usability Studies

分類キーワード