子ども向けWebサイトデザイン時のユーザビリティ上の課題

3才から12才のユーザーを対象にした新たな調査で、年長の子どもたちは前回調査の時よりかなりウェブに習熟していることがわかった。一方、年少の子どもたちはいまだ多くの問題に直面している。子ども向けのデザインには異なる年齢層ごとにコンテンツを厳密に定める等、独特なアプローチが必要である。

インターネットを利用している子どもは既に何百万人もいるが、さらに毎年、数百万人もの子どもがオンライン上にやってきている。教育やエンターテイメント系のコンテンツを持つ、子どもだけをターゲットにしたウェブサイトは数多くあるし、大手のウェブサイトにも、公共サービスとして、あるいは幼いころからブランドロイヤリティを構築するため、専用の「キッズコーナー」セクションがあることは多い。

このようにユーザーもサービスも増加しているにもかかわらず、子どもたちが実際、どのようにウェブサイトを利用しているのか、あるいは彼らが使いやすいであろうサイトはどのようにデザインしたらよいのかはほとんど知られていない。子ども向けのウェブサイトは子どもとはこう振る舞うはずだと巷で思われていることのみをベースにデザインされている。あるいは、せいぜいデザイナーが自分の子供を観察して得た洞察をベースにしたデザインであって、平均的な子ども、あるいは典型的なインターネット習熟度やウェブに関する常識をベースにしているとは言いがたい。

デザイン上の神話をユーザビリティにおける現実と区別するために、我々は実験ベースのユーザー調査に取り組むことにし、幅広い年齢層の子どもたちが様々なウェブサイトを利用しているときの様子を観察した。

この調査の対象は3才から12才までのユーザーである。(13才から17才までをターゲットにしたサイトのためのガイドラインは、我々の別のレポート、ティーンエイジャーを対象にした調査で入手可能である)。

ユーザー調査

2回の別のユーザビリティ調査を実施し、合計で90人の子どもたち(41人の女の子と49人の男の子)をテストした:

  • 調査1(9年前)。この調査では6才から11才の55人の子どもたちを対象にして、27のサイトをテストした。この調査の約3分の1はイスラエルで、あとの残りはアメリカで実施された。
  • 調査2(新しい調査)。この調査では3才から12才の35人の子どもたちを対象にして、29のサイトをテストした。これらのユーザーセッションは全てアメリカで実施された。

調査1では、参加者の家と学校、及びユーザビリティラボでセッションを行った。調査2のセッションは全て、ラボで行われた。友達2人組でテストしたユーザーもいれば、個別にテストしたユーザーもいた。6才から8才までのユーザーにはペアでのセッションが一番効果的だった。逆に6才より下、あるいは8才より上の子どもたちには個別セッションが効果的だった。(その上、明らかにコストもかからなかった。なぜならば、セッションごとにユーザーを1人だけリクルートすればよかったからである)。

シャイな子や、かなり幼い子には難しいこともあったが、ユーザーにはサイトを利用している間、思考発話するよう働きかけた。子どもたちには君たちはその道のエキスパートなのだから、子どもがウェブサイトをどう利用し、どう思うかについて、我々に教えて欲しいと伝えた。そして、我々の勉強のために、考えていることを常に説明してくれる必要があるとお願いした。

たいていの場合には、我々はユーザーを特定のサイトに連れて行き、サイト毎に準備しておいた、指示に従って行うタスクを与えた。こうしたタスクはユーザーの年齢や性別によって、変えることが多かった。例えば、lego.comでは、6才から8才までの年齢の女の子には乗馬ゲームを見つけるように依頼したが、9才から12才までの男の子にはマルチプレイヤーゲームであるLego Universeについての情報を見つけることを依頼した。全員に同じタスクを与えることもあった。例えば、jitterbug.tvでは、ユーザーに「The Wheels on the Bus(:バスのうた)」という曲のビデオを見るように依頼した。最終的に、いくつかのサイトではターゲットの年齢層や性別にあてはまる子どもだけをテストした。例えば、crayola.comでは3才から5才までのユーザーのみでテストし、一番仲の良い友達の似顔絵を描き、印刷してもらうことをした。

我々がテストしたのは主に子ども向けのウェブサイトであったが、多数の大手ウェブサイトが子ども向けのコンテンツを提供している専用の「キッズコーナー」についてもテストを行なった。調査1では、大人向けの一般ウェブサイトもいくつかテストして、そうしたウェブサイトを子どもたちがどう利用するかを評価した。さらに、調査2ではいくつかのウェブ横断型タスクについてもテストを行ない、一般的な質問をユーザーに与えて、その答えを彼らの選ぶサイト上で見つけてもらうことをした。例えば、6才から12才までの子どもたちには「thank you」を日本語ではどのように言うかを見つけ出すように依頼した。

53のウェブサイトをテストし、幅広いジャンルを対象範囲とした:

  • ゲーム(例:Herman’s Homepage、PoissonRouge.com)
  • マスメディアのサイト(例:Cartoon Network、Discovery Channel、PBS)
  • 教育(例:Children’s Discovery Museum of San Jose、Funbrain.com、Girl Scouts、National Geographic)
  • おもちゃ等の子ども向け商品(例: Barbie、Fisher-Price、Harry Potterの本、Hasbro、Lego)
  • その他の商業サイト(例:Belmont Bank、National Football League)
  • 政府機関(例:Jet Propulsion Laboratory、Library of Congress、United States Mint)

経年的な変化

2つの調査を9年の間を開けて実施したが、9年間でユーザビリティ上のほとんどの側面はさほど変化していない。つまり、繰り返し同じデザイン上の疑問をテストしても、たいていの場合は同じ結果が得られるということである。例えば、メニューの最適な構成方法、あるいはメニューにはいくつアイテムを入れるべきか、についてのガイドラインは、年月を経ても通常は変わらない。こういうユーザーインタフェースに関わる問題は技術の変化よりも、人間の脳の特徴と限界によって決定されることが多いからである。(それ以外のデザイン上の課題は技術的なことによって決定される場合が多い。例えば、ウェブサイト上のビデオに対する人々の姿勢というのはここ10年間で大きく変わった)。

人間の心理には変化がないものだが、ユーザビリティの調査結果というのもあまり変化がない。なぜならばユーザープールが安定しているからである。例えば、単純に20才から80才までの人を成人ユーザーとすると、83%のユーザーは10年経っても入れ替わらない。(実際には、ほとんどのウェブサイト上では顧客の年齢分布には偏りがある。しかし、結論は変わらない。つまり、大まかに言って、10年後の成人ユーザーは今、ウェブを利用しているのと同じ人たちなのである)。

これが子どもだと話は違ってくる。少なくとも2つの理由で、現在のユーザビリティの結果は9年前とは違うだろうと思う:

  • 我々の調査の3才から12才までの年齢層の子どもたちは100%入れ替わってしまっている。(我々が6才から11才の子どもをテストした)9年前に一番小さかったユーザーは今や15才になろうとしており、もはや今回調査のターゲット層ではない。我々が相手にしているのは完全に新しい世代の子どもたちなのである。
  • Kaiser Family Foundationの調査によると、この10年で、子どもがコンピューター上で過ごす時間は3倍になった。その上、我々の調査でも他調査でも、子どもがどういうふうにウェブサイトを利用するかを予測する一番良い判断材料となるのは、彼らがどのくらいオンラインで活動したかである。

この2つの見解から総合的に考えると、今と9年前では、子どもにとってのユーザブルなサイトを構成する要素に大きな変化が起きている。

このように大きな変化が起きていると考えられるにもかかわらず、実際には1回目の調査のガイドラインのほとんどが2回目の調査でも確認された。一方で、もちろん新しいことも多数学べたので、デザインガイドラインの数は70から130に増加した。それは今までにない事をやろうとしている新しいサイトをテストしたからというのもあるだろうし、非常に幼い子どもたち(3〜5才)にまで年齢層を広げたからというのもあるだろう。

一例として、9年経っているにもかかわらず、まったく同じユーザビリティ上の問題がまたも観察された。それはSesame Streetのテレビシリーズ向けのウェブページが利用しているナビゲーションバーで、番組のキャラクターが出てくるものである。不幸なことに、UIであるこれらのアイコンはナビゲーション用とミニゲームの登場人物の両方の役目を果たしている。その結果、ユーザーがその上にマウスオーバーするたびに、キャラクター達は曲を演奏する木琴の鍵盤としての機能を果たすことになる。9年前も今も、その木琴機能のおかげで、子どもたちの気はナビゲーションから逸らされてしまった。さらに、子どもたちは曲を演奏しようとしては、そのようには意図してないクリックによって、自分がどこにいるかわからなくなってしまった。

ユーザビリティガイドラインの多くは9年前と変わらないといえ、1回目調査から大きく変わった点もあった。それは以前に比べ、今の子どもたちがコンピューターやインターネットの利用にかなり習熟しているということである。結果的に、1回目の調査の時に見られたような、一般的な初心者ユーザーが起こす問題の多くは、彼らには関係がなかった。最近の子どもは座って、マウスを動かしたり、あるいは画面をタップするのとほぼ同時にコンピューターを使えるようになる。今日では7才の子どもが数年の経験を持つ年期の入ったインターネットユーザーであることは珍しくないのである。

このようにコンピューターに接する年齢が早くなっていることが、対象年齢を広げて、3〜5才の子どもも調査に含めることにした理由であった。

調査1からの最大の変化は、我々が前回、中間の年齢グループ(6〜8才)で見た行動の多くが、今回は年少グループ(3〜5才)の強い特徴となっていることである。対照的に、7才以上のユーザーにはかなり高度な行動が見られた。例えば、今回、スクロールに問題があったのは最年少の子どもたちだけだった。9才以上の子どもたちはスクロールを好む傾向にあり、事実、多数の小さなページに分割されているより、1ページ内でスクロールできるようになっている記事の方に彼らはうまく対処した。(ウェブページをスクロールする能力というのは1997年以降、大人のユーザーに見られるようになったものである。とはいえ、人というのはページの下の方にある情報よりもいまだページ上部にあるコンテンツを見がちではある)。

読むことに関しても変化があった。1回目の調査の時、子どもたちの多くは、ゲームをする前には、前もって説明を読もうとした。ところが、今や多くの子どもは大人と同じような行動をとるようになり、テキストを読むのを嫌がるようになってしまった。このようにテキストを読もうとしなくなったことには経験というものが関係しているように思う。つまり、経験を積めば積むほど、ユーザーというのは読まなくなるものなのである。

子どものユーザー vs. 大人のユーザー

子どものためのウェブユーザビリティに関する2つの大きな結論とは以下のようなものである:

  • 子どもと大人は違う。したがって、大人とは別のユーザビリティガイドラインに沿ったデザインスタイルが子どもには必要である。
  • とは言うものの、大人が利用しやすくするための事柄の多くは、子どもにも役に立つ。ユーザブルなデザインやサイトをシンプルにする方法について、既に知っていることを捨て去る必要はない。特に、ウェブ全体に及ぶUIの慣習には従うようにし、サイト内では一貫性のあるデザインを用いると良い。

以下の表は(今回の調査での)子どもと(他の多くの調査を通しての)大人の間で見られたユーザー行動の主な相違点をいくつかまとめたものである。

子ども 大人
ウェブサイトの訪問目的 エンターテイメント 用事を済ませること
コミュニケーション/コミュニティとして
最初の反応 サイトについて、即、判断(そして良くなければ離脱) サイトについて、即、判断(そして良くなければ離脱)
待とうとする気持ち すぐに満足感を得たい 限られた忍耐力
UIの慣習を踏襲 望ましい 望ましい
ユーザーコントロール 望ましい 望ましい
探索行動 多数のオプションを試したい
画面をしらみつぶしに見る
本来のパスにこだわる
複数の/重複したナビゲーション 非常に混乱 少し混乱
戻るボタン 使わない(年少の子ども)
頼りにする(年長の子ども)
頼りにする
読むこと 全くない(ごく小さい子ども)
あやふや(年少の子ども)
流し読み(年長の子ども)
流し読み
読みやすいレベル ユーザー個々の学年に合ったレベル 幅広い消費者向けには
8年生から10年生のテキスト
のレベル
現実のメタファー
例:空間ナビゲーション
まだ字の読めない子どもには非常に有効 オンラインUIとしては気が散る、あるいはかっこ悪い
フォントサイズ 14ポイント(年少の子ども)
12ポイント(年長の子ども)
10ポイント
(シニア向けには最高14ポイント)
物理的制約 タイプが遅い
マウスコントロールが下手
身体障害者でない限りは)無し
スクロール 避ける(年少の子ども)
することもある(年長の子ども)
することもある
アニメーションと音響効果 好まれる 通常は嫌われる
広告宣伝 本当のコンテンツと区別できない 広告は敬遠される(バナーは視界に入らない
宣伝は懐疑的な目で見られる
プライベートな情報の公開 問題だとわかっていることが多く、情報の入力をためらう 無謀にも個人情報を進んで公開することがよくある
年齢を絞ったデザイン 年齢ごとに非常にきめ細かく仕分けしたデザインが不可欠 シニア向け以外には)ほとんどのサイトにとっては重要ではない
検索 検索よりもブックマークに大いに依存。しかし、年長の子どもは検索もする ウェブへの中心的なエントリーポイント

ユーザブルなウェブデザインの基本ルールの多くは、子ども向けも大人向けも変わらない。とはいえ、それの程度に関しては差があることが多い。

例えば、重複したナビゲーションスキームを避けるという成人ユーザー向けのガイドラインを我々は昔から持っている。複数の異なる場所でナビゲーションを探す必要があると、人というのはイライラするものである。また、ページの中に同じ行き先へのリンクがいくつもあるのは紛らわしい。様々なリンクが実際に同じ場所へのリンクなのか、少しずつ違う意味で使われているのかが、ユーザーにはわからないからである。この結果、成人のユーザーは「同じ」リンクを何度もクリックして、時間を無駄にせざるを得なくなり、自分がどこから来たかがわからなくなってしまう。

我々のウェブサイトのナビゲーションデザインのセミナーでは25の異なるナビゲーションテクニックと、それを利用するときに必要なガイドラインを取りあげる。そのどれにも意味はあるが、1つのガイドラインによって全てを規定することにより、1つのデザインの中に多すぎる数のナビゲーションスキームを詰め込むことは避けられる。

大人にとっても過剰な量のナビゲーションはうっとうしく、混乱させられるものであるが、子どもには致命的なものとなり得る。

子どもというのは学習パスバイアスに囚われている。つまり、あるアクションを起動するために、前に利用したことのある方法を再び利用しようとする傾向にある。調査では、1つのサイトであるアプローチを利用してうまくいった子どもが、断固としてそのアプローチに繰り返し固執する様子がよく見られた。異なったナビゲーションスキームを利用することが求められる後続のタスクに取り組んでいて、そのせいでうまくいかないとしても、彼らはそうしていた。

年齢に応じたデザイン

新旧双方の調査からの一番大きな発見は、子ども向けにデザインをするときには年齢層をかなり絞る必要があるということである。実際のところ、3才から12才までの全年齢を対象にする「子ども向けのデザイン」といったものは存在しない。少なくとも、年少(3〜5才)と中間(6〜8才)、年長(9〜12才)の子どもは区別する必要がある。グループごとに行動が異なるし、ユーザーの年齢が上がるほどウェブにどんどん詳しくなっていくからだ。その上、そうしたニーズの違いは、まだ字が読めない子や、字を読み始めた子、ほどほどに読める子に対してデザインを変えなければならないという明白な義務をはるかにしのぐ。

幼いユーザー達は彼ら自身よりわずか1年でも上か下の学年向けにデザインされたコンテンツには否定的な反応を示すことがわかった。子どもは年齢の違いに敏感である。例えば、あるウェブサイトで、6才の子どもはこう言った。「このウェブサイトは赤ちゃん向けだよ。たぶん、4才か5才向けだね。ここの漫画や電車を見ればわかるよ」。(5才も6才も「小さい子」ではないかと思うかもしれないが、6才の子どもの頭の中では、両者の差は非常に大きいのである)。

最後になるが、ユーザーを異なる年齢グループ向けの複数のページに放り出すよりは、一貫したユーザーエクスペリエンスを保つことの方が重要である。特に、子どもが注目するものが何か、ということを理解すれば、彼らがクリックしないような場所に親向けのサービスコンテンツに飛ぶリンクを「隠す」ことは可能である。テキストだけのフッターはこうした目的に向いていた。

親と教師に向けてのアドバイス

この調査は子ども向けウェブサイトをデザインしたい企業や政府機関、大きな非営利組織のために、ユーザビリティガイドラインを作り出す目的で実施された。しかし、そうであっても、調査結果の中には、1人1人の子どもたちがインターネット上でうまくやれるように手助けしたいと考える親や、先生等に向けた個別のヒントも含まれている:

  • 子どもがウェブサイトを利用する能力を判断する主な材料になるのは、彼らの事前の経験量である。また、わずか3才の子どもでも、こうした非常に幼い子ども向けのガイドラインに沿ってデザインされている限りは、ウェブサイトを利用できることもわかった。この2つの調査結果を併せることで導き出されるアドバイスは、子どもには小さい頃からインターネットを始めさせた方が良いというものである(ただし、制限時間を設定する必要はある。あまりにも長い時間、コンピューターと接するのは子どもにとって良くないからである)。
  • 子どもたちをインターネットの潜在的な危険性について敏感にさせ、個人情報の送信に慎重になるように教える一連の活動は成功しようとしている。この素晴らしい活動は今後も続けていこう。
  • 否定的な面としては、子どもはまだウェブの商業的性質を理解していないので、広告を識別するために必要なスキルや、それを実際のコンテンツとは区別して扱うために必要なスキルが足りない。新しいメディアのこうした事実を子どもたちに教えていくために、我々は今よりもさらにずっと努力していく必要があるだろう。