デジタルネイティブとしてのミレニアル世代:俗説と現実
ミレニアル世代はユーザーインタフェースへの期待が高く、また、自分たちのスキルに自信を持っている。しかし、エラーが多く、マルチタスク志向であるため、タスクの作業効率が悪いのだ。
「ミレニアル」は現在、メディアで最もよく目にするキーワードの1つだ。2015年時点で、ミレニアル世代はアメリカの労働力に占める最大の勢力(労働統計局によると35%)となった。
ミレニアル世代を興味深い研究対象にしている特徴はいろいろとある。たとえば、人種が多様であること、史上、最も教育程度の高い世代であるということ、婚姻率と出生率が低いことなど、ごく一部挙げただけでもこれだけある。しかし、UXの専門家に最も関係があるのは、この世代が子どものころにテクノロジーに触れる経験を持っていること、そして、それが彼らの今の行動にどのような影響を及ぼしているかということではないか。
しかし、デジタル育ちのミレニアル世代について論じる前に、その根本になる定義をしっかりとしておく必要があるだろう。
ミレニアルと見なされるのは誰か
この解答は誰に質問したかによって違ってくる。ミレニアルというのは広義には2000年ころに成人した人のことである。しかしながら、この世代の誕生年の範囲を具体的に決めようとすると、話は少し込み入ってくる。
もともと、世代の研究自体、すっきりといく類のものではないが、ミレニアル世代の範囲というのは、中でも特に曖昧な傾向にある。最も偉大な世代やサイレントジェネレーション、ベビーブーマーのような彼らより上の世代は、第2次世界大戦や世界大恐慌、1946年のベビーブームのような大きなできごとが定義のもとになっている。ミレニアル世代の親にあたるジェネレーションXの始まりも1964年の産児制限の普及(訳注:この年、米政府が産児制限を普及させるプロジェクトを開始)がそのきっかけだ。しかし、ミレニアル世代をその前のジェネレーションXやその後ろのジェネレーションZと区切る明確なできごとというのは存在しない。その結果、ミレニアル世代の正確な誕生年というのは錯綜しており、研究者によって範囲が微妙に異なることが多いのである。
世代 | 誕生年 | 2016年時点の年齢 |
---|---|---|
ジェネレーションZ | 2000年代~現在 | 0~16歳 |
ミレニアル | 1980年~2000年代 | 16~36歳 |
ジェネレーションX | 1960年代~1980年代 | 36~56歳 |
ベビーブーマー | 1946年~1964年 | 52~70歳 |
サイレントジェネレーション | 1928年~1945年 | 71~88歳 |
最も偉大な世代 | 1928年より前 | 88歳以上 |
(この表からおわかりのように、ジェネレーションXとジェネレーションZの間のアルファベットには切れ目がある。これは「ジェネレーションY」という名称がミレニアル世代の代わりに利用されることもあるからだ。しかしながら、「ミレニアル世代」と呼ぶのが最も一般的ではあるし、ユーザビリティ的な観点からいってもより好ましいと考える。というのも、これは名称として、多少なりとも意味を持っており、任意に選んだ文字というわけではないからである)。
一般的に最も受け入れられているミレニアル世代の誕生年の範囲は、1980年から2000年である。研究者がこの期間とは異なる定義をしていたとしても、たいていの場合は(たとえば、1982年から1997年など)この範囲内に収まっていることが多い。
「ミレニアル世代向けのデザイン」についてのトレーニングコースのための調査で、我々は1986年から1997年生まれの人たちに焦点を当てた。この範囲にした理由は、1990年代半ばから後半という、個人のインターネット利用が急増した時期に子どもだった人たちに特に興味があるからだ。情報技術が身近にある環境で成長した最初の人々、つまり、「デジタルネイティブ」と呼ばれる最初の人々になるのがこの人たちだからである。
「デジタルネイティブ」としてのミレニアル世代:俗説と現実
デジタルネイティブとはデジタルメディア漬けの世界で育った人のことだ。この用語は「ミレニアル」の同意語として利用されることが多いが、デジタルネイティブが皆、ミレニアル世代というわけでもない。たとえば、最も若い世代のジェネレーションZもデジタルネイティブだし、さらにいうと、ミレニアル世代だからといって、デジタルネイティブになるとも限らない。ミレニアル世代の中にも、子どものころに(たとえば、貧しい家庭で育っていて)通信技術に接する機会が限られていたという人はたくさんいるからである。
「デジタルネイティブ」という用語は教育コンサルタントのMarc Prenskyによって、2001年に作られた。デジタルネイティブの子どもたちは学習しなければなければならないことが、彼がいうところの「デジタル移民(:訳注:デジタルテクノロジーが存在する前に誕生し、ある程度大きくなってからそれを取り入れた人)」とは大きく異なっており、デジタルネイティブは「情報についての考え方や処理の仕方が根本的に違う」と彼は主張した。
Prenskyの主張は当然のことながら物議をかもした。そして、デジタルインタフェースに接して育つと、人間として違う機能を持つようになり、情報の処理能力も変化するのか、という決着のつかない論争を引き起こした。(Dr. Gary Small(訳注:UCLA長寿研究所所長)のような)研究者や評論家の中には、デジタルネイティブはデジタルインタフェースが作り出す新しい種類の刺激にさらされてきたため、脳の回路が実際に異なっている、という説をとなえる人もいる。そうした主張はモラルパニック(訳注:世間一般の人々から道徳や社会秩序に関する脅威とみなされること)や、新しい世代が受けたダメージは修復不可能であるだとか、彼らは根本的に異なっている人たちであるという恐れを生じさせるものとして、ときには批判されることもある。
デジタルネイティブの認知能力がデジタル移民と実際に違うのかどうかははっきりしていないし、立証もされていない。しかしながら、はっきりしているのは、こうした考え方によって、ミレニアル世代について、以下のような3つの誤解が広まった、ということである:
- 俗説1:「デジタルネイティブはソーシャルスキルが劣っている。つまり、人間同士の直接のやり取りを避け、デジタルによるやり取りを好む傾向にある」
- 俗説2:「デジタルネイティブはデジタル移民よりもマルチタスクがはるかに得意である」
- 俗説3:「デジタルネイティブはコンピュータなどのデジタル製品を本能的に利用したり、修理したりできる」
しかし、我々の調査結果(および他社の調査結果)からは、こうした主張はすべて誤りであるということが示されている。
俗説1:「デジタルネイティブはソーシャルスキルが劣っている。つまり、人間同士の直接のやり取りを避け、デジタルによるやり取りを好む傾向にある」
デジタルネイティブを取り巻くモラルパニックの主な要因は、青少年がSMSメッセージやインスタントメッセージ、ソーシャルメディアのような電子フォーマット経由で仲間と主にやりとりをしていると、彼らの社会性の成長が妨げられるのではないか、という懸念である。
しかし、若いミレニアル世代、つまり、早ければ小学生のころから、SMSメッセージやソーシャルメディアにアクセスできていたような人たちが成人に達しはじめるにつれ、我々の懸念は根拠のないものだったという兆しが出てきている。Pew Research Centerが実施したスマートフォン利用に関する最近の調査によると、アメリカの若年層ユーザーは中高年ユーザーよりSMSメッセージを実際に多く送ってはいる。しかし、彼らの音声通話の利用率は中高年とほぼ変わらなかった。この調査結果が示唆しているのは、少なくともこのタイプのインタラクションにおいては、若年層ユーザーは声によるインタラクションをテキストで「補っている」ということだ。つまり、彼らが人間とのやり取りを本能的に恐れているために、それをテキストによるインタラクションに置き換えている、というわけではないのである。
最近、我々が実施したユーザビリティテストやインタビューでも、困ったとき、特に自分では容易に解決できないことがあったときに、(電話ごしであれ、直接であれ)誰かと話をしたい、という発言をした若年層参加者は多い。ミレニアル世代のあるユーザーは、病院のWebサイトで利用案内を見つけられなかったときに、こう言った。「普段なら単にもう電話しています。検索するより電話するほうが好きなので。より的確な回答が得られますから」。ミレニアル世代の多くの人にとって、個人対個人の直接のやりとりというのは、今でも、問題を解決するための信頼できる有効なソリューションであり、恐れたり、避けたりするようなものではないのである。
俗説2:「デジタルネイティブはデジタル移民よりもマルチタスクがはるかに得意である」
デジタルネイティブは情報過負荷な環境で育っているため、2~3個の作業を同時に効率よくおこなうのが得意だ、と思っている人は多い。しかし、ある世代全体のマルチタスク能力を測定するというのは容易ではない。実際に複数の情報の流れを同時に処理する能力というのは、そのときの情報やコンテキストの複雑さといったさまざまな変数に左右されるからだ。
我々はここで以下の2つを区別する必要がある:
- マルチタスクを選択すること-すなわち、複数の作業を、見たところ同時におこなおうとすること。
- マルチタスク遂行能力-すなわち、複数の情報ソースを同時に効率よく処理できること。
カリフォルニア大学アーバイン校とカリフォルニア州立大学による2つのヒューマンコンピュータインタラクションの研究では、ミレニアル世代が上の世代よりマルチタスクを実際によくおこなう、ということが示唆されている。たとえば、彼らは上の世代よりもタスクを頻繁に切り替えるし、同時に異なるメディアを利用することも多い。
しかしながら、他の世代と同じく、ミレニアル世代もマルチタスクの代償は支払わねばならない。つまり、タスクを頻繁に入れ替えることで、認知負荷は増加するし、タスクを入れ替えるたびにそのタスクに再度、自分を適応させなくてはならない。Cliff Nass(訳注:スタンフォード大教授。人間とコンピュータとの関係の研究で有名)など、心理学者は長期にわたるマルチタスクは効率や認知能力に悪影響が出るということを立証している。Nassの研究チームによると、マルチタスクをよくおこなう人たちは無関係の刺激を除外することがより難しくなり、2種類のタスクの切り替え時に再度、対象に集中するのに、マルチタスクを少ししかおこなわない人たちに比べて、0.5秒長く時間がかかるという(このことから示唆されるのは、認知にマイナスの影響があることで、よくマルチタスクをおこなう人たちのほうが、ごくたまにしかマルチタスクをおこなわない人たちよりも、マルチタスクが実際にはうまくいかないということである)。
また、Gloria Mark(訳注:カリフォルニア大学アーバイン校情報学科の教授)の研究チームによると、ミレニアル世代の大学生による頻繁なコンテキストの切り替えは高いストレス状態と相関がある(とはいえ、両者の因果関係は明らかになっていないが。もしかすると、ユーザーはストレスを感じると、マルチタスクをしようとより思うのかもしれない)。
2番目の俗説についての考察の結論をいうと、デジタルネイティブはマルチタスクを選択することが「多い」かもしれないが、マルチタスクを他の世代よりも「効率よく遂行できている」というわけではない、ということになるだろう。
俗説3:「デジタルネイティブはコンピュータなどのデジタル製品を本能的に利用したり、修理したりできる」
デジタルネイティブについて蔓延している誤解に、デジタル製品に関するある種の知識や学習能力を彼らが生まれつき持っている、というのがある。それはミレニアル世代の中のある特定のグループには当てはまるだろう(たとえば、ミレニアル世代のソフトウェアエンジニアなど)。しかし、世代全体としてみるとこれは間違っている。ミレニアル世代のあるユーザーはコンピュータのサイトにあった技術仕様におびえて、こう言った。「店に行くか、オンラインチャットをしたいです。私にこれをわかりやすく説明してくれる人が必要です」。
Pew Research Centerのインターネットのさまざまな側面について回答者の知識をテストした大規模調査で、若年層ユーザーは中高年ユーザーよりインターネット利用に関する一般的慣例に関する質問の成績はよかった(たとえば、wikiや高度な検索、ハッシュタグといった概念を彼らは知っている)。しかしながら、若年層ユーザーはWebの根本的な構造や(Bill Gatesのような)テクノロジー業界の有名なリーダー、さらにはネットの中立性といった重要な概念については、中高年ユーザーほど知識がないということもその結果からは示されている。
ユーザビリティテストで、難しいインタフェースに遭遇して、四苦八苦しているミレニアル世代のユーザーを目にすることは多い。彼らのインタラクションはテンポが速い傾向にある。つまり、どんなページであろうとあまり時間をかけないので、ミレニアル世代はエラーを起こしやすいし、平均的なユーザーよりもさらに内容を読まないのである(すなわち、ほぼまるで読まないということになる)。
デジタルネイティブであることによる行動への影響
我々は、ミレニアル世代がハイテク方向に一部進化した特別な世代(あるいはサイボーグのような反社会的な画面中毒者)であるとはまるで思わない。しかし、子どものころにデジタルインタフェースに触れた経験が、少なくともある程度は、彼らの行動を形づくっているということは実はわかっている。
我々の調査によると、ミレニアル世代の通信技術に対する態度や嗜好、情報の探索方法は独特である(たとえば、ブラウザのタブを利用して、ページパーキング(訳注:ページ内のアイテムを見るために、複数のページを矢継ぎ早にまず開き、後から各ページを再訪問すること)をするし、フラットなインタフェースでクリックできるかどうかを判断する能力も平均よりやや高い)。
平均してみると、ミレニアル世代はまったく新しいデザインパターンに遭遇した場合でさえ、デジタルインタフェースの扱いにかなり自信があるように見える。しかし、このことは彼らがエラーを起こしやすいことの一因となっている。
ミレニアル世代の多くはGoogleが最初にブームになったとき、小中高校生、あるいは大学生だった。Googleはミレニアル世代がインタフェースに期待するシンプルさやダイレクトさの基準に決定的な影響を与えた。(たとえば)あなた方のエンタープライズアプリケーションに考慮すべき非常に複雑な機能があったとしても彼らにはどうでもよい。つまり、インタフェースが非現実的ともいえるシンプルさの基準に達していなくても、ミレニアル世代が自分自身を責めることはほとんどない。この点が上の世代のユーザーとの違いである。しかし、そうではなく、ミレニアル世代はインタフェースや企業、デザイナーたちを即、批判するのである。
結論
この記事では、ミレニアル世代の興味深い行動や態度を表面的に論じたにすぎない。好奇心旺盛なUXの専門家にとって、このグループはユニークさだけを取ってみても研究に値するだろう。しかし、だからといって、ポップカルチャーの中で彼らがそう頻繁に論じられているわけでもないが。
ミレニアル世代は今や成人期に達しはじめ、憶測やモラルパニックの対象から、1つの現実になりはじめている。現在、彼らはアメリカの人口の4分の1以上、ヨーロッパ連合の人口の約4分の1を占めるようになった。彼らはWebのヘビーユーザーであり、Youbrand実施の調査によると、世界規模では2.45兆ドルの購買力を持つとされている。彼らの多くが家族を持ちはじめたり、キャリアの入口に立ちはじめている。今後、購買についての決断を下し、ブランドへのロイヤリティを形成し、仲間に影響を与えていくのは、まさにこの人たちなのである。
ミレニアルという強力で大きな世代は今、真価を発揮しはじめたところだが、彼らが求める基準は高く、また、彼ら自身も独特の特徴をもつ。彼らに注目する価値は大いにあるといえるだろう。
さらにくわしくは、我々の1日トレーニングコース、「ミレニアル世代向けのデザイン」で、ビデオクリップや調査結果、この巨大なオーディエンス層に向けてアピールできるユーザーエクスペリエンスの作成方法とともに、調査の詳細な考察として提供する予定である。
参考文献
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