帯域幅はどれくらいあれば十分か?

最近では、ウェブサーファーは個人用のT1回線を夢見ている。だが、日曜の朝、玄関先に投げ込まれたNew York Timesを拾ってくる時、私はT1の10倍の速度で情報を運んでいる。長期的には、T1の100万倍の帯域幅が必要になるだろう。その理由として、以下に、完璧なユーザインターフェイスに求められる条件をリストしてみた。

  • オーディオ: 秒150キロバイトというCD並の音質があれば、コンサートホール級の音質を十分に実現できる。確かに、オーディオマニアの中には、CD録音と生音との微妙な違いを聞き分けられるという人もいるだろう。だが、絶対的な上限として秒300KBもあれば、おそらく誰もが満足できる完璧なステレオ音響が可能なはずだ。中には3-D「サラウンド音響」を利用するインターフェイスもあるだろう。しかし、これらも再生デバイス、およびシグナルプロセッサこそ違え、帯域幅への要求には変わりがない。
  • カラー:24ビット「トゥルーカラー」モニターで十分。これで、人間の目が識別できるよりも何100万もたくさんの色を表示できるからだ。
  • 解像度: 現在のコンピュータ画面は、通常80dpi(dots per inch)程度の解像度であるが、これはあまりにも低すぎる。画面を読むスピードは、紙を読むスピードより約25%低下するが、その大きな理由のひとつがこれだ。300dpiという、レーザープリンタ並の解像度を備えた画面がすでに発明されている。だが、理想的なユーザインターフェイス品質を考えるなら、約1200dpiという印刷物並の品質が必要だろう。
  • 画面サイズ: 最近の大型モニタで一般的なサイズは約1024×1024ピクセルである。同じ広さの画面領域で満足できるとして、画面解像度を300dpiに増加すると、モニタは4096×4096必要ということになる。もちろん、「大型」モニタといっても、例えば新聞紙見開きに比べればずいぶん小さい。よって、モニタは最低でも横3倍、縦2倍のものが必要だ。これは解像度300dpiでいうと、12K×8Kのサイズである。1200dpiの解像度を求めるなら、モニタの表示能力は48K×32Kピクセルという結論になる。
  • スキャンレート: 秒60フレームというリフレッシュレートがあれば、意識レベルでの画面のちらつきを抑えるには十分である。だが、完璧な画質を求めるなら、最低でも秒120フレームは欲しいところだ。
  • CPU速度: 完璧なユーザインターフェイスに求められるようなデータをリアルタイムに変換するには、今のコンピュータはあまりにも遅すぎる。私の知っている顧客には、SPARCcenter 2000をパソコンとして使っている人がいる。この機種は、本来、巨大なデータベースのサーバとして設計されたものだ(Sunのウェブサイトでも利用しているが、インターネットコミュニティ全体からのアクセスを、この1台ですべてまかなっている)。

ピクセルあたりの色数24ビットで、48K×32Kピクセルのモニタには、4.6GBのビデオRAMが必要だ。よって、このような完璧なモニタが一般的になるのは、おそらく17年ほど後のことだろう。リフレッシュレートを120fpsとすれば、4.6GBの画面には、圧縮なしで秒あたり約4テラバイト(4Tbps)の帯域幅が必要だ。なんらかの圧縮をかけても、1Tbpsにはなるだろう。

以上の分析から、人間工学的な観点から必要とされるコンピュータディスプレイには、1Tbpsの接続があれば十分ということになる。ユーザひとりに毎秒1兆ビットというのは、今だと帯域幅の無駄遣いに思えるかもしれない。インターネット経由の高品質ビデオを常時全画面で表示する必要など、ほとんどのユーザにはないというのも確かだ。一方、ユーザインターフェイスのデザイナーで、帯域幅は少ない方がいいと思っている人はほとんどいない。画面上でユーザが目にする以上の情報を、コンピュータはダウンロードする必要があるからだ。情報洪水とうまく折り合いを付ける唯一の方法は、より多くのデータをダウンロードし、情報フィルタリングを利用してユーザに見せる部分を決めることである。

この分析から、ごく現実的な結論が導き出される。当面の間は、私たちが十分な帯域幅を手にすることはないだろう。よって、新たなWWWソフトウェアの開発、新しいウェブサイトのデザインにあたっては、帯域幅が非常に貴重な資源であることを肝に命じ、これを節約するよう心がける必要がある。

1995年11月