Webでのロイヤルティ

良いサイトを作れば、ユーザがやってくる。だが、一度しか来なければそれは負けだ。生の「ヒット率」がサイト成功の尺度としては役立たないのは、ここに一因がある。検索エンジンにひっかけてもらうためにエサを撒いておいたり、他のサイトに気前よくバナー広告を打ったりすることで、見かけ上驚くようなトラフィック量を稼ぐことができる。1ページや2ページしか見ない人からはほとんど何も得ることはできない。あなたのサイトに捜しているものが載っていなかったり、広告でかき立てられた期待にそぐわないものであったりした場合、がっかりして立ち去ってしまうだろう。サイト観光客は、ヒット数を底上げしてくれるかもしれないが、サイトの長期的可能性に関しては何の役にもたたない。リピートユーザが満足した顧客であり、サイトの礎となるものだ。

ロイヤルティの高いユーザの価値は、Binary Compass Enterprisesによる最近のインターネット購買客の調査でも顕著であった。商用サイトの新規ユーザは1回の購入で平均127ドル使っているが、リピートユーザはおよそこの2倍、251ドル消費している。この調査では、期日どおりの納品できるかどうかが、顧客ロイヤルティを得る上で重要な役割を果たしていた。そのサイトでもう一度買い物したいと思うか、と聞かれて、「そう思う」、あるいは「かなりそう思う」と答えた人の数は、期日どおりに納品があった場合には96%にも上ることがわかった。納品が遅れると、もう一度買い物をしたいと答える顧客の数は、60%にまで低下する。

インターネットと同じ仕組みでソフトドリンクが売れたら新しいソフトドリンクを試して、それが気に入ったとしたら、他の5人を相手にランチの席上でこの話をするくらいではすまない。ソフトドリンクに興味を持つ何100万人もの人々に向かって、このニュースを大声で触れ回ることになるだろう。新しいドリンクに魅力を感じた人が「よし、ひとつ試してみよう」といって試供品を請求すると、20秒でFedExが届けてくれる。試供品が気に入ったら、翌日には世界中のありとあらゆるスーパーマーケット、コンビニエンスストアの商品棚に、新しいドリンクが山ほど常備されるのは確実だ。

ソフトドリンクの販売がインターネットと同じ仕組みだったら、もっと頻繁に新しいブランドが登場し、消費者も、ころころブランドロイヤルティを変えるようになるのは間違いない。

残念ながら、スピーディな配送だけではロイヤルティは構築できない。従来の顧客サービス品質は、明らかにウェブでも不可欠だ。ウェブユーザはもともと非常に疑い深く、ウェブはその性質上、いつでも競争相手のサイトに行けるようになっている。推薦ページへのハイパーリンクをたどったり、会議室やニュースグループ、メーリングリストやチャットルームで新しいサービスの話を聞いたりするわけだ。ウェブでは新しいサイトを味見するのはとても簡単だから、ユーザも好んでそうするし、コミュニケーション性の高いインターネットでは、ニュースやユーザの反応を世界中に広めるのにも、最小限の時間しかかからない。

初期には、インターネットユーザは心変わりの激しさで悪名高かった。ちょっとしたことで、すぐに新しい製品に移行してしまうのだ。ウェブは、今までに4段階のブラウザ支配を経験している。

  1. CERNのラインモード閲覧、およびその他のテキストのみによるインターフェイス(1991年と1992年)
  2. Mosaic(1993年と1994年)
  3. Netscape(1995年と1996年)
  4. 複数のブラウザによる寡占(1997年)

第1段階から第2段階、第2段階から第3段階への移行は、両方ともあっという間に起こった。両ケースとも、新しいブラウザが、古いブラウザの市場シェアを毎月20%以上奪い取り、半年も経たないうちに移行は完全に終了した。言い換えると、古いブラウザはごくわずかなロイヤルティしか集めていなかったということになる。

現在の複数ブラウザ環境への転換は、ずっとゆっくりしたものだ。Netscapeの市場シェアは、毎月1.2%しか減っていないと考えられている。オフラインの世界では、毎月1.2%というのはそれでもかなりの数字である。ペースがスローになったことは、ウェブユーザがより保守的になり、最新のガジェットに移行する可能性が減ったことを示す兆候である。これは、競合サイトがオープンするたびに消えてなくなったりするユーザではなく、ロイヤルティの高いユーザベースを確保する望みがいくらかはあるということを意味する。とはいっても、ウェブでロイヤルティを獲得するのは、現実世界よりやはり難しい。例えば、立地条件は関係ないから、サウスダコタのどこかでサーバを立ち上げても、以前からのユーザの口コミを得て、数日のうちに世界中に広まる可能性があるのだ。

ウェブでロイヤルティを上げようと思うなら、古典的なやり方としては、更新を定期的に行って新鮮なコンテンツを提供することだ。新しいコンテンツ公開のお知らせを受け取れるように、ユーザが電子メールのニュースレターにサインアップできるようにしてあるサイトも珍しくない。更新が週1以下の頻度のサイトでは、こういったお知らせは非常に有益だ。更新がこれ以上に頻繁だと、多くのユーザにとって電子メールはうるさいものになり、送信リストから外してくれ、といわれるようになってしまう。ユーザのメーリングリストには計り知れない価値がある。存在をアピールできる間は、彼らはほぼ確実にサイトに来てくれるからである。こう考えると、更新が頻繁なサイトでは、更新のお知らせメールは、主なイベントの時だけに利用する方がいいかもしれない。または、メーリングリストを2種類用意することだ。電子メール量にまだ余裕のある人向けのデイリーのお知らせと、それ以外の人用という分け方である。

ユーザにサイトをブックマークしてもらえれば、電子メール受け取りの承諾を得たのと同じくらい価値がある。ブックマークしてもらったら、そのユーザとはほとんど一生の付き合いになると思ってもいいくらいだ。データはまだそれほどないが、今の証拠からすると、ブックマークリストからサイトを消去するユーザはめったにいない。長期的には、ブラウザベンダーがブックマーク管理を改善して、長年使ったことのないブックマークを、例えば除去したり、降格したりする機能を搭載するべきだろう。だが、今のところはブックマークは永久的だ。ユーザにサイトをブックマークさせる上で、できることはほとんどない。少なくとも、それを妨げないことだ。URLを隠してしまうフレームは使わないこと。そして、繰り返しの利用に適さない、使い捨ての奇妙なリンクも避けることだ。繰り返し訪問して役に立つランドマークページを用意して、ユーザのブックマークを誘うことも可能だろう。例えば、すべてのコラムを列挙したページとか、最新ベストセラーの一覧ページとか、あるいは新製品リストのページなどである。

もしどうしてもユーザ登録やパスワード、その他の面倒な障害物で純粋なハイパーリンクを妨害したいのなら、ナビゲーションの負担を極力下げておかなくてはならない。毎回ベルリンの壁なみの国境警備をくぐり抜けなくてはならないのなら、ユーザが何度も再訪してくれる見込みは薄い。よほど高度なセキュリティを求められるのでない限り、ユーザの追跡にはcookieを用い、明示的なログイン手続きを避ける必要がある。ログインが必要な場合には標準のHTTP認証機構を用い、独自のログイン画面は使わないようにすべきだ。こうしておけば、たいてい、ユーザはブラウザにユーザIDとパスワードを記憶させることができるはずだ。ユーザビリティ調査では、パスワードを記憶しているユーザなどめったにいないことがわかっている。このため、どのみち彼らはどこかにそれを書き留めてしまうのが普通なのだ。

ユーザにとって価値あるサイトになればなるほど、彼らのロイヤルティは高くなる。もっともシンプルなやり方は、常連閲覧者ポイントを使うことだが、サイトそのものを、徐々にユーザのニーズと好みに合わせていくことも可能である。何度か訪問してもらえれば、ユーザのニーズにぴったり合ったサイトにすることができる。始めから同レベルのサービスを提供できるサイトは他にないだろうから、ユーザも移行する気はなくなるだろう。このために一番良く使われるのは、ユーザにプロファイル情報を入力してもらうという方法だ。例えば、株式サイトで、1クリックするだけで評価額がわかるようになっているポートフォリオ一覧とか、興味のあるキーワードにしたがって、パーソナル化された第1面をユーザに提示するニュースサイトといったものが挙げられる。ユーザプロファイルに共通の欠点としては、何らかの見返りを得るまでのユーザ側の負担が大きいことが挙げられる。よって、ユーザがプロファイルを入力するのは、ユーザ側にすでにロイヤルティが醸成されたサイトに限られるだろう。

パーソナル化は、ユーザの情報をさりげなく集められるサイトが一番うまくいく。例えば、Amazon.comでは、最初の注文時に、ユーザは送り先住所を完璧に入力するよう求められる。だが、次回の注文時には、サーバに住所が保存されていることがわかるだろう。このため、2回目の取引はきわめて迅速に行える。他の新しい書店に浮気をせず、Amazon.comで注文を続ける限り、ユーザはオーバーヘッドなしでより高速な処理を堪能できる。さりげないパーソナル化のもうひとつの例は、検索エンジンだ。検索結果リンクのうちで実際にユーザがクリックしたものを監視して、ユーザの好みに関するデータベースを構築できる。このデータをしばらく収集し続けていれば、そのユーザがどんなリンクを好むかを検索エンジンが把握できるので、それ以降の検索では該当リンクの評価を高くすることができる。

1997年8月1日