新鮮さ vs. 慣れ:
デザインの見直しはどのくらい積極的に行うべきか

ユーザーは変化を嫌う。したがって、彼らが慣れ親しんでいるデザインを継続して、それを徐々に進化させていく方が良い場合が多い。しかしながら、長い目で見れば、漸進主義を取ることによって一貫性は徐々に失われ、その結果、新たなUIアーキテクチャが必要になってくる。

デザインチームのメンバー(あるいは彼らの上司)がこう言うのを耳にすることは多い。「新鮮なデザインが必要なんだ」。こうしたきっかけによって始められたデザイン変更プロジェクトは、そもそもの基本の部分が間違っている場合が多く、ゴールや戦略の設定も誤りがちである。

よくあるのは、新しいデザインが前よりも悪いデザインになってしまうことである。というのも、単純に言って、それは新しいがために、ユーザーの予測を裏切ってしまうからである。システムがどのように動くかに関するユーザーの慣れを重視し、それについての彼らの既存の知識を元にデザインを進めていく方が作戦としては優れている。

なぜ内部の人間はデザインを新しくしたがるのか

一日中、何年も同じ物をじっと見ていれば、そのUIも古ぼけて見えてくるというものだ。自分たちのデザインに対する過去の「接触時間」を計算してみると良い。もし何年か同じデザインチームで働いてきたのであれば、それは数千時間に達することもありうるだろう。

それとは逆に、典型的なユーザーがあなたのところのデザインを見るのに費やした時間は、ここ数年間でもほんの数時間に過ぎないこともありうる。インターネットのユーザーエクスペリエンスにおけるJakobの法則を思い出そう。ユーザーはほとんどの時間をあなたのところ以外のサイトで費やす。

人々の滞在時間は1つのウェブサイトにつき2~3分未満である場合が多い。したがって、彼らがあなたのところのサイトを毎日訪問したとしても、2年間での接触時間は通算でも30時間に過ぎない。忠実な顧客でさえ、あなたがたのサイトで過ごす時間は1年間で5時間にも満たないのが普通だ。そのデザインを見て過ごす時間自体が非常に短いため、顧客は簡単にはうんざりしないのである。

なぜユーザーは慣れ親しんだデザインを好むのか

一番重要な理由? それはデザインのためのデザインにユーザーは関心がないからである。彼らはただ用事を済ませて出かけたいだけなのだ。普通の人はコンピューターの前に座るのが好きなわけではない。そうではなく、アメリカンフットボールを見たり、犬を散歩させたり、単に何か別のことにもっと関心があるのである。コンピューターを使用することの方が、ごみ出しをすることよりもおそらく価値があると見なされているにしても、だ。

人々はウェブサイトを訪問したり、アプリケーションを利用する時、そこでのデザインを分析したり、感心したりするためには時間を使わない。彼らは自分たちのやらなければならないタスクやコンテンツ、自分のデータやドキュメントに意識を集中している。

したがって、好まれるデザインとは、機能がわかっていて、自分の必要なものをすぐに見つけられるものである。すなわち、彼らが好きなのは既に慣れ親しんでいるデザインなのである。

実際のところ、デザインを見直すと、怒りのEメールが顧客から大量に来ることは常に覚悟しておいた方が良い。ユーザーが変化を嫌うというのは自然の法則であり、何かを移動させるたびに、あるいはそうでなくても、彼らがいつもやっていたとおりのことをやりにくくするたびに不満を言われることになるだろう。

(デザインの見直しについてユーザーから不満を言われたからといって、必ずしもそのデザイン自体が悪いということではない。ユーザビリティが実際により優れていれば、その新しいデザインは次第に好まれるようになるものだ。したがって、顧客からクレームがあるからといって、デザイン変更を全て避けなければならないわけでない。しかし、ただ「新鮮さを保つ」だけのために、デザイン変更をしない方がよいという理由にはなる)。

頻繁に利用されるUI

イントラネットを運営していたり、アプリケーションを開発していたり、あるいは非常に人気のあるサイトを所有している場合、あなたのところのUIにユーザーが実際に接触する時間が、1週間で数分以上になることもありうるだろう。そうした場合、デザインを新しくすると顧客から大騒ぎされると思うかもしれない。が、それは違う。

人々は1つのUIを定期的に利用することで、熟練したユーザーとなり、彼らのユーザーエクスペリエンスはその熟練した動作に支配されることになる。初心者とエキスパート向けのデザインは、学習しやすさや効率の良さといった重要なユーザビリティの属性の相対的な重要性が異なる。

慣れに頼れば頼るほど、習慣的な行動は自動化せざるをえなくなる。したがって、サイトの使用頻度の高いユーザーもまた、慣れているデザインを好む。

見ている者 vs. 利用している者、というのが、デザインチームとユーザーの間の究極的な違いである。あなた方はデザインを何度も何度も繰り返し見て、その中のごく小さな要素について、果てしなく議論をする。顧客もその同じ機能を繰り返し利用するかもしれないが、彼らが考えているのはタスクのことである。ユーザーの関心はデザイン以外の別のものにあるので、デザインの印象は強く残らないのである。

いずれにしろデザインを見直すべきなのはいつか

一般的には、デザインを完全に新しくするよりは、1つのUIをゆるやかに進化させる方が良い。したがって私が強く勧めるのは、サイトを公開する前に、まず、基本的なデザインを正しいものとすることである。そうすれば、小規模のアップデートによって数年間、そのUIは利用可能となる。顧客に何かを公開する前に、急速反復デザインペーパープロトタイプといったテクニックを利用し、その設計スペースを十分に調査して、ユーザビリティに磨きをかけよう。

このアプローチは、何が続くかを見るために単に「機能を試してみる」というアプローチとは対照的なものである。 実際、自分たちが一番良いと思ったものをただ公開すればよいと主張する人もいる。ウェブの長所は間違いがあれば、いつでもそれを変更可能なところにあるからだ。これは真実ではあるが、そうすることによって、あなたがたのサイトは人気を落としてしまうだろう。なぜならば、

  • 公開前のほんの数日のユーザーテストで直せたような欠点を持つデザインにユーザーを対峙させることで、ユーザーを虐待してしまうことになる。さらには、
  • 嫌がられることがわかっている大規模な変更にさらすことで、ユーザーを敵に回すことになる。

一般的には、正しいものを作り、それを後々、ゆっくりと変更していくのが良い。そうはいっても、もっと急激なアプローチの方が適切な場合も2つある:

  • 現時点でほとんどユーザーがおらず、ユーザー基盤を劇的に拡大するためにデザインの大規模な改良が必要だと思われる場合。この場合には、現在のユーザーに悪影響を及ぼすことによるビジネス上の損失は、被ったとしてもたいしたことはない。もちろん、今よりも大幅に多くの読者を実際に引き付けられるかどうかは依然、賭けではある。そこで、この古いことわざを覚えておこう: 手の中の鳥1羽は藪の中の鳥2羽分の価値がある。その藪の中に何百万人ものユーザーがいるのかどうか確信が持てない限り、そっちには行きたくないと思うだろう。
  • 従来のデザインが非常に長い時間をかけて徐々に進化させてきたものであるため、全体のユーザーエクスペリエンスが複雑になりすぎてしまい、あらゆる意味で統一された概念構造を失っている場合。

2つめの例として、Microsoft Officeについて考えてみることにしよう。そのパッケージソフトはWord(1983年発売)やExcel(1984年発売)のような独立したアプリケーションの進化パッケージとして、1989年に発表された。2000年になるとその基本的なUIアーキテクチャは17年目となり、MS Officeにはその端々できしみが出ていた。そうした古いアプローチによって、機能が一緒くたにされた乱雑なセットになってしまっていること、そして、メニューとダイアログボックスはさらに複雑で、そのせいでユーザーがその項目のほとんどを見つけるのに苦労していること、に私はしばしば苦言を呈していた。

MS Officeのユーザビリティの問題が大きくなってきていることを私は批判していたが、その一方で、自分がBill Gatesだったら、急激なデザインの見直しを必ずしもしないだろうとも言っていた。新しいデザインはユーザーのためには良いかもしれないが、ビジネスにとっては良いとも限らないと思ったからだ。少しだけ進化させたアップグレード版を販売する方が、全く新しいUIを販売するよりは簡単だからである。案の定、Office 2003は20年目になったその同じUIに少々磨きをかけただけで出荷された。

そうはいっても、その古いデザインは実際のところ、簡単に言って、あまりに古すぎ、増加した膨大な機能のため、一から再設計されたユーザーエクスペリエンスが求められていた。こうして、ようやく、Office 2007は発売された。その新しいUIが利用されるようになってから2年が経つが、Office 2003やその祖先に戻りたいとは絶対に思わない。新しいデザインの方が優れているからだ。しかしながら、その発売時には大量の不満が聞かれたものだ。ユーザーは変化が好きではないし、新しいUIに慣れるには時間がかかるからである。

そんなわけで、既存のデザインが新しいアーキテクチャを必要とするような、後付けの機能によってめちゃくちゃになりすぎない限りは、ユーザーの好む彼らにおなじみのデザインを継続する方が良い。そして、自分たちだけがわかるような、今までにないデザインに取り組みたいという気持ちは持たない方が良いだろう。