グローバルWeb:
加速する国際的ネットワーク経済

かつて「多国籍企業」という言葉が、「大企業」と同義語であった時代があった。ウェブにはこれは当てはまらない。事実、あらゆるサイトが多国籍なのであり、インターネットのおかげで、最も小さな企業でも世界中の顧客にアクセスできるようになった。

地球規模のウェブへの参入にあたっては、難点が3つある。

  • 国によって国民性が違うので、国際ユーザビリティ問題が発生する。私は最近、ホームページから様々な記事へリンクの張るやり方について調査した。この中には、われわれの製品が有名企業にどのように利用されているかという事例紹介が含まれていた。合衆国内でこのホームページをテストしたところ、ユーザは事例紹介に興味を示した。だが、国外で再度このテストを行ったところ、同じ記事に対する興味の度合いはかなり低かった。この場合、言語が問題になっているわけではなかった。この記事が難なく理解できるくらい、どのユーザも英語に堪能だったからだ。問題は、この「有名」企業が、海外ではあまり名を知られていないという点にあった。このため、記事の内容も、「有名企業がいかにしてXをなしとげたか」から「聞いたこともない企業がいかにしてXをなしとげたか」へと趣旨を変更することになった。これではあまりおもしろくない。
  • インターネットに関する成熟度は国によって違う:
    • 北ヨーロッパやオーストラリア/ニュージーランドは、合衆国/カナダに比べて約1年遅れ
    • 中欧、アジア圏は2年遅れ
    • 南欧、およびその他の世界は3年、もしくはそれ以上の遅れ

    国によって顧客の期待するものや、サービス利用能力に大きな違いがある限り、全世界に包括的なウェブサービスを展開するのは難しいかもしれない。インターネットに対する意識の高いオーストラリアのような国では、より高度なサービスが喜ばれる-場合によっては期待されている-だろう。だが、同じサービスでも、それがメインストリームを対象にするならば、インターネット利用者数が人口の1パーセント以下というような国では間違いである可能性もある。

  • 海外への商品発送。純粋に情報だけを扱っているサイトには、この問題は発生しない。だが、物理的な製品は、これを国外の顧客の元に移動させなくてはならない。通常、これによって、税関やその他の官僚機構と関わりを持つ必要が生じる。ところが、これらはいずれも効率が低く、ネットワーク経済が前提とする基準に達していない。これは余談だが、税関当局がインターネットを本当に理解した瞬間、国際間の情報の流通に課税したり、規制をかけようとしてくる恐れもある。そんなことをすれば、ネットワーク経済の生産性は台無しになり、世界経済に与える影響は、それと引き換えに得られる歳入をはるかに上回ることになるだろう。この点を、政治家が理解してくれることを祈ろう。

こうした一連の問題にもかかわらず、国際的にリーチを広げられるということは、ネットワーク経済にもっとも期待されている点のひとつだろう。莫大なユーザ層を単一のシステムで結びつけることで、たとえどんなに特殊な要望でもウェブは満たしてくれる。小国(あるいは大国の中の遠隔地)の住人が、主要な人口集中地帯と同じ幅広い選択肢と機会を、ついに得られるようになったのだ。

多くの国々でインターネット成熟度が向上

インターネット成熟度曲線で見ると、ほとんどの国々が、合衆国にわずかな遅れをとっている。だからといって、アメリカのサイトのすべてが、海外のあらゆるサイトをしのいでいるというわけではない。反対に、合衆国サイトのほとんどは無価値だ。合衆国は他に先んじて、よりたくさんの企業をオンラインに送り出している。まさにそのことが原因になっているのだ。初めてウェブサイトを立ち上げる際に、誰もが同じ過ちを犯すというのが自然の法則のようだ。こうして、入手可能なあらゆるユーザビリティ調査で否定されているにも関わらず、デザインを肥大化させるために、多くのアメリカ企業が何百万ドルものお金をドブに捨てている。とは言うものの、数年経ってもヒット率が向上せず、ユーザからは怒りの電子メールが舞い込むというありさまなので、ほとんどの企業は、やり方にまずいところがあったのだと気が付いて、より速く、より役に立つサイトにするべく再デザインを行うわけだ。合衆国には、古くからウェブを立ち上げている企業が多いので、質の高いサイトも多いわけだ。

海外サイトのホームページには、美しいけれども重いページがまだまだたくさんある。そこからリンクされたページにもほとんど中身がなく、本当に顧客にとってメリットになるものは何も提供していない。こうした状況も永遠に続きはしない。多くの国々では、インターネット成熟率曲線が急成長を見せているからだ。例えば、最近私はデンマークのベストウェブデザイン賞の授賞式で基調講演を行った。受賞スピーチで繰り返しテーマに取り上げられたのは、受賞者が、ダウンロードを速くするためにサイトをどう変更したか、自己宣伝よりもユーザ中心のサイトにするにはどうしたらいいのか、という点であった。

地域によっては、合衆国より先に進んでいる国もある。デンマーク政府は暗号化を恐れてはいないし、全国的なデジタル署名計画が進行中だ。これは、あらゆる公的機関で市民が身分証として利用できる。いつの日か、アメリカ人も、デジタルサインひとつで、連邦税と州税、両方の還付申請がインターネットでできるようになればいいのに、と思う。支払期限の過ぎた税金は電子的に支払いができ、同じサインで陸運局のウェブサイトでは車両登録更新ができる。

海外ウェブサイトは同時に、ウェブの国際的な性質をよりよく理解していることが多い。オランダで開催されたあるウェブユーザビリティカンファレンスで、参加者のひとりが私にこんな話をしてくれた。彼の会社は、ウェブを競争上重要な利点と考えている。彼らの最大の商売敵はアメリカの大企業で、そのウェブサイトは、従来から好意的に評価されてきた。だが、このサイトは、その性質上非常にアメリカ度が高く、海外のユーザにしてみれば、外国サイトに来たような気持ちをどうしても拭い去ることができなかった。反対に、こちらのもう一方の企業は、完全に国際的なものを目指してサイトを作り上げた。数多くの言語にローカライズされるかもしれないし、中には翻訳の可能性さえ疑われるような言語さえあるだろう。このサイトは、少なくともアメリカ色を脱却した国際性を感じさせるサイトになるだろう。

InternetWorld Hong Kongで印象的だったのは、ほとんどの大きなブースがコンテンツ会社、例えばCharles Schwabといった会社で占められていたという点だ。アメリカで同じようなトレードショーがあると、いまだに技術展示が主体になる。インターネットの発展という観点からすると、間違った問題に目を向ける傾向があるのだ。例えば、昨年、合衆国でもてはやされたプッシュ技術は、多くの企業を巻き込んでその資源を浪費させた。この行き場のないテクノロジーを探求するあまり、ユーザが本当に必要とし、望んでいるコンテンツとは何か、ということには目が行かなかった。海外のサイトが最新のウェブ技術に対して控えめな態度をとっていることは、かえって本当に重要な領域での進歩につながるかもしれない。それはすなわち、良質なコンテンツと、顧客サービスだ。

多くの国々の読者には、ひとこと言っておく必要があるだろう。Charles Schwabとは、財務サービスの会社である。多くの人は単なる証券屋と思っているかもしれないが、ここで私は、あえてこの会社を「コンテンツ会社」と言っておきたい。将来、株式取引は純粋なコンテンツビジネスになるだろう。物理的な取引は、納品会社に任せられるはずだからだ。顧客との関係上重要なのは、口座情報をより使いやすいユーザインターフェイスで提示することである。さらに、そこから特定の株式銘柄に関する背景情報、財務教育、その他のコンテンツへのリンクを設けることも大切だ。事実、小規模の専門ブローカーでも、大手ブローカーと同等の低価格と、効率的なサービスを提供できるはずだ。なぜなら、双方ともバックエンドは同じだからだ。だが、小規模業者なら、専門的なコンテンツを用意し、特定のタイプの顧客に特化したユーザインターフェイスを設けることで、ロイアリティの高いユーザを集められるだろう。

1998年4月19日