国別サイトの出来があまりにも悪い理由
多国籍企業がローカライズした国別サイトを制作すると、ユーザビリティが失われてしまうことは多い。現地の広告代理店がデザインするのが、見栄えはいいが、情報が伝わらないサイトだからである。
国際的ユーザビリティ調査をここ数回、観察していて、悩ましく思ったことがある。それは世界中でテストしたウェブサイトのうちの多くが、並外れて質が低かったことである。それらは1990年代にアメリカで目にしていたものと五十歩百歩だったのである。
この観察結果を検討してわかったのは、ひどく質の悪いサイトというのは現地の企業や政府機関によってデザインされた本当の意味でのローカルサイトではない場合が多い、ということである。それよりむしろ、その原因のほとんどは、ひどいユーザビリティの国別サイトを送り出した巨大な多国籍企業にあった。
オーストラリア向けサイト: 情報の匂いなし
Sony Australiaのこのカテゴリーページを例に考えてみよう:
オーストラリアのテストユーザーは、適切なSony製テレビを見つけ出すというシンプルなタスクを試み、無残に失敗していた。メルボルンのあるテスト参加者はこう言った。「たぶん、私は何かを見落としているのでしょう。それか、私がばかなのかもしれません」。
もちろん、自分のところの見込み客に自分がばかであるかのように感じさせるべきではないだろう。
スクリーンショットが示すように、Sony Australiaは以下のような製品説明を提供して、ユーザーが選択肢を絞ることを支援しようとしていた:
- 決定的なインターネットテレビ体験
- 息をのむほどの美しさ: 絶対に手に入れたいフルHDテレビ
- インターネットによるホームエンタテイメント
- 比類なき画質と可能性の世界
- 一枚岩のようなデザインと没入できる3Dテクノロジー
- ネットワーク機能を搭載したフルHD 3D
- 究極の、テレビとネットサーフィンの体験
- 高画質ネットワーク機能
- 鮮やかな画像、スムーズなネットワーク能力
- 優れた画像技術と省エネ性能
- 総合的なエンターテイメントとお楽しみ
「息をのむほどの美しさ」、「比類なき画質」、「鮮やかな画像」、「優れた画像技術」は何が違うのだろうか。画質に本当にこだわるなら、この4種類のテレビのどれを買えばいいのか。
一方、一番気になるのがテレビのインターネット接続なら、「決定的なインターネットテレビ」は「ネットワーク機能」より優れていそうだと考えるかもしれない。しかし、「決定的」が「スムーズなネットワーク」より良いものなのかどうかはもっとわかりにくい。(おそらく、6番のテレビのためのネットワーク利用はスムーズではないのだろう。論理的に考えるとそう結論せざるを得ない)。
Sony Australiaのコピーライターが誇張した表現を好んでいるのは明らかだが、彼らは情報の匂いという基本的コンセプトを理解していない。なぜならば、宣伝文句のリストの目的はサイト内でのユーザーのページ移動を支援することにある。それなのに、どれもが何もかもにおいて最高なら、なぜ、11もの製品を提供する必要があるだろう。
(細かいことだが、そのサイトのコピーライターが、並列提示や一貫した大文字化のような事柄について学ぶために、「ウェブにふさわしいライティング」コースに出席していなかったことは明らかである)。
オーストラリア人のスキルが不足しているのか
1つ、はっきりさせておきたい。それは、オーストラリア人がユーザビリティを理解してないためにオーストラリア向けのサイトの出来が悪いのではない、ということである。今までに1,792人のオーストラリアのユーザーエクスペリエンスの専門家がオーストラリアでのユーザビリティウィークのトレーニングに参加しており、この8月にはさらに340人が出席することになっている。国の規模でいくと、これはアメリカでの参加人数の2倍にあたる。
オーストラリアにあるユーザビリティの人材プールは巨大なものである。そして、現地でのテストで、我々は優れたローカルサイトを多数、目にしている。また、Intranet Design Annual(:イントラネットデザインについての年次レポート)の過去の受賞団体の5%はオーストラリア企業である。人口が全世界の0.3%の国にしては、これはかなり良い成績だろう。
オーストラリアのデザイナーは優れているのに、なぜオーストラリアでデザインされるオーストラリア向けサイトは出来が悪いことが多いのか。それはオーストラリア人のせいではない。というのも、多国籍企業の国別サイトは出来が悪いものなのである。ユーザビリティ調査を実施している他のすべての国で我々はまったく同じことを経験している。
本社から現地の支店へ=ユーザビリティの喪失
大企業の各国事務所にウェブサイトをローカライズさせると、以下の3点の問題が付いて回る:
- 現地のスタッフの関心が売上だけの場合、製品ごとの真の目的やその国の製品戦略を理解していない可能性がある。この結果、製品ラインのプレゼンテーションは表層的なものになる。
- 現地のマーケティングスタッフはインターネットマーケティングを理解してないことが普通なので、その契約のために雇われた広告代理店がどういうところだろうと言いなりになってしまう。そうした代理店はユーザー中心のデザインプロセスを追うのではなく、華やかな見かけだけのデザインに力を入れている。
- 現地の人間は本社から自立していることを示したいので、ローカルサイトをデザインがよく考えられているグローバルサイトからあえて変えようとする。
この3番目の問題は動きの鈍い多国籍企業だけに見られるわけではない。たとえ、それによって、ユーザビリティの質が低化し、デザインの一貫性がなくなろうとも、NIH(自社開発主義)は人間の感情として普遍的なものだからである。非営利組織のウェブサイトを調べたときにも、地域団体(市や州)のウェブサイトは国の組織のものよりかなりユーザビリティが劣ることが多かった。
お粗末な国別サイトによるブランドダメージ
標準以下の出来のウェブサイトを与えられていると、現地の顧客も気づいている。B2Bのウェブサイトのテストでは、国際的ベンダーのローカライズしたサイトをビジネスで利用している顧客が馬鹿にするのをよく耳にした。ユーザーはこうしたサイトの製品情報は固有の業界用語を理解せずに訳された貧弱なものではないかと疑っている。また、メインのグローバルサイトに比べると、情報が古いとも考えている。
別の例をみてみよう。これは香港で中国人ユーザーをテストしたときのものである。彼らは様々な銀行から提供されているクレジットカードについての情報を入手しようとしていた:
中国人のテスト参加者が言うには、片方の銀行のサイトは「ローカル」に、もう1つは「国際的」に見えるそうだ。ページが読み込まれるやいなや、こうした違いをとらえられる高い能力がユーザーにはある。Bank of Chinaの少々ごてごてしたデザインはユーザーの銀行に対するイメージに、即、影響を与えたといえる。
解決策: ローカルデザインをデザインプロジェクトとして扱おう
多国籍企業はどうすればこの問題を解決して、国別サイトの質を向上させられるだろうか。デザインの質を下げている原因を逆手にとり、インターネットマーケティングを理解していない広告代理店に対して、現地事務所に死に金を使わせないようにすればよい。その代わりに、ローカルサイトもグローバルなインターネット戦略の一環であると考えよう。具体的には:
- ウェブサイトや製品ラインの戦略のために、デザインの論理的根拠を文書化し、なぜ本社のウェブ担当チームがそういうやり方をしているのかを現地チームに必ず理解させよう。
- 広告代理店から来た意味のないデザインアイデアを拒めるよう、ウェブユーザビリティやインターネットマーケティング等について、現地スタッフを教育しよう。(さらに良いのは、ローカルウェブについてのスキルを向上させることである。そうすれば、代理店の作ったサイトに悩まされることなく、本社内でローカルサイトを制作できるようになる)。
- 現地事務所は本社からの命令を腹立たしく感じるものだということを認識しよう。しかし、デザインプロセス全体に各国の代表者を加えることによって、世界規模のウェブ戦略への賛意を生み出すことは可能である。(そして、もし、上記のアドバイスに従い、ローカルウェブについての専門知識を確立していれば、現地の人々からいろんなことを学べるようになるだろう)。
要するに、このリストの項目はすべて1つのことに集約される。つまり、ローカライズされたウェブサイトはユーザーインタフェースデザインのプロジェクトであり、そういうものとして扱えばよい。