電子書籍 - 悪いアイデア

新しい電子書籍の製品が2つ登場して、報道にも大きく取り上げられた。例えば、ABC NewsNew York Times(アクセスには登録が必要)、 San Jose Mercury News、それにWIREDなどを参照されたい。

両製品とも実際にはタブレット型のコンピュータである。ただ、この言い方では「電子書籍」という比喩的な言い回しに比べて、魅力に乏しい。中でもSoftBookにはきれいな皮の装丁がしてあって、携帯用コンピュータにありがちな従来の(そして退屈な)工業デザインとは一線を画している。RocketBookはより工業的なデザインで、典型的な最先端の電子ガジェットと言えるだろう。

ヘビーな入力作業をともなわないタスクであれば、タブレット型コンピュータはかなり有望だ、という強い持論を持つ私としては、この両者がタブレット型デザインを採用したことをまずは賞賛したい。あらゆるコンピュータが同じユーザインターフェイスである必要はないし、キーボードが必須と言うわけでもない。残念ながら、ウェブサイトを見る限り、これらの製品の画面解像度(1インチあたりのドット数)がどれくらいなのかはわからなかった。低解像度のモニタ(今までのコンピュータ画面は、すべてこれに該当する)は可読性が低い。印刷した紙と比較すると、コンピュータ上では読む速度が25%低下する。実験段階の300dpiのディスプレイ(価格は3万ドル)で測定したところ、印刷物と同じ速さで読めることがわかった。やがてはもっとましな画面を手にすることができるようになるだろう。読書スピードが低下した状態で長いテキストを読む人はいない。だから、もっと画面がよくならないかぎり、電子書籍が抱える問題は解決しないだろう。

もうひとつ注目を集めているプロジェクトがある。MITのMedia Labがやっている「the last book」プロジェクトだ。このプロジェクトの目標は、紙ばさみのような形態のコンピュータを作ること。これは「デジタルインク」を利用したページをとじ合せたものだ。ユーザは、ちょうど印刷した書籍と同じようにページをめくりながら情報を読み進む。だが、この電子書籍が使っているのは特殊な紙で、コンピュータ制御でページの内容を書き換えることができるのだ。こうして、物理的な1冊の本を、お望み次第でどんな作品にでも作り変えることができる。そのためには、関連するファイルをダウンロードしてくるだけで済む。いつの日か「デジタルインク」の画面文字が、印刷物と同等のスピードで読める解像度を達成できるよう、MITの科学者たちに期待している。

電子書籍が印刷物と同じスピードで読めるようになったとしても、やはりこれはまずいアイデアだと言わざるを得ない。電子テキストは昔のメディア、およびそれに付随するリニアな方法論を模倣すべきでない。ページをめくるというのは、インターフェイスとしてはやはりよくないのだ。「次のページ」ボタンをマウスでクリックするよりは確かにましかもしれない。しかし、コンピュータ化したテキストを、印刷物と同じスピードで読めるようにすると言うのでは、ゴールとして不十分である。昔と同じではなく、昔よりよくなっていなくてはいけないなのだ。

書物というのが喩えとしてあまりにも強力すぎると言うのが、根本的な問題だ。これがデザイナーやライターの迷いの元になりやすい。電子テキストはインタラクション、ハイパーテキストリンク、ナビゲーション、検索、それにオンラインサービスとの連動や、絶え間ない更新といったものにに基礎を置かなくてはならない。こうしたニューメディアが持つ可能性は、リニアなテキストの流れを超える、はるかに強力なユーザ体験を可能にする。エジプト人が任意の長さでパピルスの巻物を作れるようになってからというもの、リニアなテキストは世界を支配してきた。だが、この歴史にもそろそろ終止符を打つべきだ。もはや、長い報告書など誰も読んではくれない。情報はダイナミックでなくてはならないし、その主導権は、著者ではなく、読者が持つべきなのだ。

有益な電子書籍

意義のある電子書籍として、2つのタイプがあげられる。

  • プリントオンデマンド(必要に応じた随時印刷)で書籍を作って、地方の印刷業者を通じて流通させたり、あるいは出版社からの直販を行う。こうすれば、膨大な既刊書目録を絶版にすることなく維持していけるし、荷物をあっちこっち運ぶ必要もない。たとえ年に数冊であっても、売れるかぎりはオンラインカタログに載せておく意味があるし、数メガバイト使って印刷用ファイルを保管しておく価値もある。大学教授や、その他の教育者なら、授業での講読用に特製本を作ることもできよう。
  • ダウンロード可能な音声ファイルは、テープ録音した書物に取って代わる可能性がある。テープをあちこちへ配送したり、製造業者からできあがってくるのを待つ必要はない。人気のある本なら、声優の朗読が終わり次第、すぐにダウンロードしてもらうことだってできる。音声ファイルは比較的小さく収まるので、長い通勤時間に楽しむための朗読も、インターネット経由でクルマ用PCにものの数分でダウンロードできる。

いずれの場合も、キーポイントは同じだ。これらの「電子書籍」は画面で読むことは始めから想定していない。それぞれ、今までどおりの紙の書籍と、リニアな音声朗読である。インターネットを利用して、その製造、流通が今までより効率的に行えるというだけのことなのだ。

公開:1998年7月26日(原文:1998年7月26日)
著者:Jakob Nielsen
原文:Electronic books - a bad idea

分類キーワード