UXのためのAI:入門編
生成AIツールを、あなたのUXスキルを代替するためではなく、サポートし、強化するために使おう。小さなUXタスクから始めて、ハルシネーションや誤ったアドバイスに気をつけよう。
最近、ヤコブは、UX分野は早急にAIに取り組む必要があると書いた。これは、既存のAIツールのユーザビリティ向上が切に求められていることもあるが、AIを適切に活用することで、UX業務に大幅な進化がもたらされる可能性があるからだ。
幸運なことに、UXコミュニティのメンバーの多くがこれに同意し、UXの作業にどのようにAIを使うべきかを我々に尋ねてきている。そこで、ケイトは、彼女のLinkedInのフォロワーに、これまで仕事でAIを使ったことがないUX専門家にどんなことをお勧めしたいと思うか、逆に尋ねてみた。この投稿には、優れたアドバイスが書かれた40以上の回答が寄せられた。この記事は、そうしたクラウドソーシングの知恵と我々自身の経験を組み合わせたものがベースになっている。あのスレッドでの素晴らしい議論に貢献してくれたすべての方々に感謝したい。
免責事項
この記事は、我々の現時点でのアドバイスを紹介するものである。最も基本的な点は何年も変わらない可能性が高いが、具体的な部分はAIツールの進歩とともに変わっていくだろう。また、我々はこの記事でいくつかのリソースを推奨しているが、それらの推奨を我々によるお墨つきと取るべきではない。我々はこれらのリソースの何もかもに同意しているわけではないし、それらが必ずしも将来もずっとベストであるとは思っていないからだ。
さらに、この記事の画像はNN/gの典型的なデザインスタイルとはかなり異なっていることにも注意してほしい。なぜなら、この記事のイラストはすべて、AI画像生成ツールを使って作成したものだからである。
UXの仕事にAIを使う理由
AIを利用すると、以下のことが可能になるからである:
- 生産性が向上する。
- 仕事の質が上がる。
- 現在のスキルセットが強化される。
生産性の向上と品質の改善
多くの調査で、ビジネス専門職はAIを利用すると、より早く成果物を作成できることが示されている。たとえば、AIを使うことで、ある一流コンサルティング会社のコンサルタントは、生産性が33%向上し、成果物の評価品質が40%向上した。
スキルの強化
Doris Linは、AIはUX専門家の助手、という素晴らしいたとえを提示してくれた。AIはプロセスをスピードアップさせ、成果を向上させ、UX業務をより多くこなすことを可能にするが、人間の判断力に置き換えられるものではない。人間とAIが共生することで、どちらか一方が単独で達成するよりも品質が向上するのである。このように、AIには人間のスキルを拡張する力がある。
UX専門家がAIを学ぶ究極の理由は、ヤコブのAIに関する第二法則である、「AIに仕事を奪われるのではなく、自分よりAIをうまく使う誰かに仕事を奪われる」からである。AIによってパフォーマンスが大幅に向上することを考えれば、AIなしでは勝ち目はない。AIツールの改良が進むにつれて、これは今後さらに真実味を帯びてくるだろう。
AIは経験豊富なUX専門家にとって最も安全
すべてのUX専門家はAIを使うべきである。AIはあらゆる経験レベルにおいて、またUXライフサイクルのさまざまなタスク(調査、デザイン、ライティングなど)において有用である。(そして、我々の調査によると、UX専門家の大多数はAIをすでに利用している)
AIから最大限の価値を引き出すために不可欠な要素とは、ワークフローに人間の判断を大いに組み込むことだ。これには3つの理由がある。
AIが提案するアイデアを人間が選択する必要がある
アイデア出しを実質的に無償で行えるAIの能力は非常に貴重だ。つまり、AIはあっという間に欲しいだけのアイデアを生成してくれる。対照的に、人間がアイデアを生み出すには多大な労力が必要とされる。
一方、無限にアイデアを生み出せるということは、キュレーションの必要性が高まるということでもある。AIが生み出すアイデアのすべてが有用とは限らない。その中からさらなる探求と実装に値する数少ないアイデアを人間が選別する必要がある。たくさんのアイデアの中から当たりを選ぶには、判断力と知識が求められる。そのため、昔ながらのやり方で経験を積んできた熟練のUX専門家がそれを行うのがベストなのである。
ハルシネーションには説得力がある
人間の判断が必要な2つ目の理由は、AIが自信満々に誤った主張をする、「ハルシネーション」(幻覚)を見抜くためだ。AIの出力を人間が確認する限り、ハルシネーションが結果にダメージを与えることはないが、注意深くハルシネーションに気をつけなければならない。AIが才能あるコピーライターとして、よく練られた説得力のある文章を作成するのは、ほとんどの場合、素晴らしいことだ。一方、その優れた文才は経験の浅いユーザーを欺き、AIの持つ知識は他のあらゆることに普遍的に適用できると信じ込ませてしまう。誤ったアドバイスも、アヘン窟の靄(もや)の中から現れる幻覚とは対照的に、慎重に検討された分析の産物のように見えてしまうのである。
学習データに潜むバイアス
最新のAIにもバイアスが見られるが、それは学習データのほとんどがインターネットから得たものであるためだ。インターネットには良い情報もたくさんあるが、不快な情報や不正確な情報、さらにはまったくのデマもある。これは他の分野と同様にUXの分野にも言えることで、ネットで得られるUXのアドバイスがすべて良いアドバイスであるとは限らない。
さらに、良い情報源であっても、それは主に西洋諸国、特に英語圏の文化を反映している。この西洋的な視点は、特に国際的な市場に製品やサービスを提供する製品チームにとっては課題となる。ウィキペディアを広大なインターネットのシンプルな代理とみなして、いくつかの言語のウィキペディアに掲載されている単語数を見てみよう:
- 英語:670万記事で43億語
- ドイツ語:280万記事で15億語
- デンマーク語:29万4000記事で9100万語
- ヒンディー語:15万9000記事で5500万語
- スワヒリ語:7万9000記事で1200万語
新人のUX担当者がAIを使い始めるためのヒント
UXの初心者であっても、自分の仕事にAIを使ってみるべきだ。しかし、AIの出力について判断する際には特に注意を払う必要がある。生成AIは、たとえそうでない場合でも、合理的で真実のように見える応答を作成することにとりわけ長けていることを忘れないようにしよう。
UXの仕事にAIを使う際にはミスをしないために以下のヒントに従うといいだろう:
- AIツールは出発点として扱う。たとえば、UXは専門用語が多いことで有名な分野だ。ChatGPTのような生成AIボットは、UXのさまざまな用語やテクニック、ツールについて教えてくれる。
- ソースやリンクを要求する。現在、ほとんどの生成AIボットは自動的には出典を示さないが、出典を尋ねることは可能だ。出典へのリンクも要求し、提供された情報の再確認をしよう(提供された出典が不正確だったり、存在しなかったりすることもあるので注意する必要がある。たとえば、ChatGPTは、出典を求めたときに、存在しないNN/gの社員を引き合いに出したことがある)。
おすすめのAIツール
AIツールは数多くあるが、毎週のようにさらに多くのものが市場に登場してきている。しかし、最初のうちはシンプルにいこう。ChatGPTとMidjourneyが良い出発点になってくれるだろう。
ChatGPT
まずはChatGPTの無料版から始めるとよい。しかし、AIを頻繁に使うようになったら、有料プランの契約をして、無料版(v.3.5)よりもはるかに優れた最新版(現在v.4)を入手することを強くお勧めする。ChatGPTのサブスクリプションには、チャットボット(現在最高のテキスト生成AIツール)と画像生成ツールのDALL-E 3(Midjourneyには及ばないが、非常に優れている)の両方が含まれている。
Midjourney
業務にビジュアルデザインも含まれる場合は、併せてMidjourneyのサブスクリプションもお勧めしたい。Midjourneyは、画像関連の便利な機能を幅広く備えており、利用可能なAI画像生成ソフトの中で最も美しいアートワークを生成する。残念ながら、現行版のMidjourneyはユーザビリティが最悪で、習得するのが不必要に難しいが、改良版が間もなく出るという噂もある。
AIの使い方
ChatGPTやMidjourneyのようなAIツールとのインタラクションは主にプロンプトを介して行われる。プロンプトとは、ユーザーの要望をツールに理解させるための質問やコマンドのことである。特に使い始めのうちは、こうしたプロンプトを作成するのは難しいこともあるだろう。最良の結果を引き出すには以下のようにするとよい:
- プロンプトでコンテキストを十分に提供する。
- 候補を複数出させる。
- 出力を反復する。
- プロンプトライブラリを作成する。
十分なコンテキストを提供する
UX担当者は、どんな質問にも「場合によります!」と答えることで悪名高い。なぜなら、最適な解決策というのはコンテキストに大きく依存するものだからだ。特に、ユーザーがどんな人で、その人がどのようなタスクを行うかによって、答えというのは常に変わってくる。
そこで、Vinay Mauryaは、AIに何かを依頼するときは、たいていの場合、プロンプトにコンテキストを入れておくべきだとアドバイスしてくれた。たとえば、ChatGPTに調査計画の立案を手伝ってほしい場合、調査の種類、ターゲット層、調査予算、スケジュールなど、さまざまな詳細情報を提供する必要がある。
Arnav Dhanukaが推奨してくれたのは、プロンプトにペルソナやタスク、関連する背景情報を入れておくことだ。このアイデアの例として、Florian Bölterは以下のように書いていた:
「マイクロコピーを書いてもらうときはいつも、このコピーが登場する状況や、そのコピーで必ず伝えなければならないことを説明し、AIがすべての制約条件を把握できるようにしています」。
こうした詳細な情報は、以下のように複数の場所で提供することが可能だ:
- 非常に具体的で長い最初のプロンプト1つで
- いくつかのプロンプトのシーケンスで
- ChatGPTのカスタムインストラクションで
ChatGPTのカスタムインストラクション機能を利用すると、AIに常に考慮してほしい情報を指定しておくことができる。特定のドメインで同じタイプのユーザーを対象に繰り返し同じような作業をする場合、カスタムインストラクションを利用すれば、プロンプトにコンテキストの基本的な要素を毎回入れる必要がなくなる。
また、求めている出力を生成するのに役立つような詳細情報が欠けている際にはフォローアップ質問をしてくるようにChatGPTに指示することもできる。
ほとんどの場合、UXについて最良の成果を得るには、かなり具体的なプロンプトを用いるべきだ。しかし、アイデア出しの場合は、簡潔な、ときには単語1つだけのプロンプトを用いることにも意味がある。そうすれば、ほとんどの解釈をAIの気まぐれに委ねられる。この方法は、(人間の判断で絞り込める)大胆なアイデアを求める最初のアイデア出しの際に有効だ。AIに1つの単語を与えると、多くの場合、あなたが考えもしなかったような結果がもたらされることになるからである。このやり方が特に有効なのがビジュアルデザインである。たしかにそうしたアイデアのほとんどはひどいものになりがちだ。しかし、1語によってもたらされる山の中には金塊のような素晴らしいアイデアもある。
候補を複数出させる
文書を書いたり、デザイン案を作成しなければならないとき、真っ白な画面には恐怖を感じるものだ。そこで、Raghuvamsi Ayapilla、Chris Callaghan、Ayushi Choudharyの3人は、文書の最初の草稿にAIを利用することを勧めている。数秒で、ほぼ完全な成果物を手に入れることができるからである。
しかし、この最初の草稿をクライアントやステークホルダーに渡すべきではない。AIの出力はあなたが編集するための出発点にすることだ。編集するほうがゼロから作成するよりもはるかに容易であるため、このシンプルな手順こそが、AIによってUX業務の生産性を向上させる主な方法の1つだといえよう。
そのときには、AIに文書やデザインを1つだけ作るようには頼まないことだ。その代わりに、3つか5つのバージョンを出してくれるようにお願いしよう。「XXXについてまったく異なるバージョンを5つ出して」というような感じのプロンプトを作成するとよい。AIを使えばアイデア出しは無料なので、UX関係の同僚を部屋に集めてブレインストーミングセッションをする必要がある場合よりも経済的に、UXワークフローの多くのステップでAIを活用することができるはずだ。
出力を反復する
多くの投稿者は、AIを使って作業をする際には繰り返し結果を改善していく必要があることを強調していた。AIを利用するプロセス(特にプロンプト生成)は反復的であり、結果を微調整するための修正が必要だからだ。最初のプロンプトの結果に満足してはならない。アコーディオン編集や選り抜き作業のようなテクニックを用いてAIの出力を微調整し、結果をより良いものにしよう:
- アコーディオン編集:ユーザーがAIの出力を短縮したり拡張したりすることで、AI生成テキストの長さを反復的に調整する。
- 選り抜き作業:ユーザーがそれまでのAIの返答の要素を参照して、後続のプロンプトを修正する。
あまり体系的にやらずに、実験的にAIに変更を求めることだ。経験を積むにつれて、どのようにすれば自分の作業成果物の種類に合った最適な結果が得られるかをよく理解できるようになるだろう。
プロンプトライブラリを作成する
Arnav Dhanukaは、自分のシナリオでうまく機能した、ぴったりのプロンプトの文言を集めたプロンプトライブラリを構築することを勧めてくれた。このライブラリは、特に一般的なUXコンテキストを指定する際に、入力の手間をかなり省いてくれるはずだ。また、最初のプロンプトで望ましい結果を得られなかった場合に、それに代わる有益な代替案を思い出させてくれるだろう。
例として、この記事の最後にあるドングリのイラストは、「neo-impressionism expressionist style oil painting, smooth post-impressionist impasto acrylic painting, thick layers of colorful textured paint –ar 16:9 –s 20」(新印象派の表現主義スタイルの油絵、ポスト印象派のなめらかなインパストアクリル画、厚く塗り重ねられた質感豊かなカラフルな絵の具、アスペクト比16:9、スタイライズ20)というプロンプトを用いて、ヤコブによって生成された。これは彼がイラストによく指定するスタイルである。
AIにできる具体的なUXタスク
以下は、回答者から寄せられた、AIが支援できる具体的なUX作業に関するアイデアである。
デザイン
- 創造力を刺激するアイデア生成(Doris Lin)
- ペルソナやジャーニーマップのためのイラスト作成(Chris Callaghan、Elsa Ruiz)
- ワークショップのアジェンダの立案(Doris Lin)
- プロトタイプで使用するテキストや画像を作成。これにより、「lorem ipsum」に代わって、リアルさと関連性を高める。(Matt Feilmeier、Doris Lin、Elsa Ruiz)
調査
- ユーザーインタビューの質問作成(Doris Lin)
- 最初のテーマ発見のためのセンチメント分析(Lawrence Williams)
- ユーザーフィードバックの分析:「以下のユーザーフィードバックで、最もよく挙げられているペインポイントを特定して:(フィードバック)」(Vinay Maurya)
- 調査レポートを読者にとって、よりわかりやすく編集(読者はUXの専門家ではないことが多いため)(Mohammad Fejlat)
コンテンツ
- Eメール、コンセプト、投稿などを、提示したアウトラインに基づいて効率的に文章化(Vicky Pirker)
- UXライティングの改善:「次のテキストをより簡潔かつユーザーフレンドリーにして:(テキスト)」。(Vinay Maurya)
まさにこの記事でも、ほとんどのUX業務に頻繁に登場する2つのシンプルなタスク:(a)ケイトに寄せられたコメントからテーマを構造化して抽出、(b)イラストをすばやく生成、にAIを利用している。
AIにはできないこと
これまで概説してきたように、UX業務においてAIはさまざまなことを行うことができる。しかし、誇大広告には気をつける必要がある。AIツールはデザイナーやリサーチャー、あるいはユーザーにさえ取って代わることができると主張する者もいるからだ。
ユーザーインタフェースのデザインをスクリーンショットやモックアップをアップロードして、AIに見せ、批評を求めることは可能だ。これは有益なステップである。なぜなら、AIはあなたが考えもしなかったような新しいことに言及してくれることがあるからだ。しかし、AIによるデザイン批評は危険でもある。たとえそれが確立されたユーザビリティの原則を参照しながら、洗練された言葉で主張されているものであったとしても、その知見の多くは誤っているからである。AIは非常に説得力があっても、誤っていることがある。あなたが経験豊富なUX専門家であれば、おそらく、デザイン変更についてのハルシネーションによる提案と適切な提案を区別し、後者を着想のヒントとして使うことができるだろう。しかし、経験が浅いUXスタッフは、デザインの批評にAIを使わないほうがいいかもしれない。
うまくいったデザイン分析の例を挙げよう:ヤコブはLinkedInの先日の記事の投稿で、どのイラストを使うか思案していた。彼は3つの候補をChatGPTにアップロードし、おすすめを尋ねた。これが選ばれた画像とChatGPTの言い分である:
実際のユーザーを対象としたユーザー調査に、AIが取って代わることはできない。AIはユーザビリティ調査で調べるべき問題点についてのアイデアを大量に与えてはくれても、我々の顧客が何をするかを予測することはできないからだ。良くも悪くも、人間は予測不可能な生き物であり、特に実際のインタフェースを使用するような複雑な行動に関してはなおさらである。さらに重要なことは、現在のAIツールの「知識」は、想定される「典型的な」人間の行動を反映している。しかし、皆さんの顧客である特定のユーザーグループは、「典型的な」人間とはかなり異なる背景やニーズ、動機を持っている可能性が高い。それこそが、我々がユーザー調査を行う理由なのである。
ほとんどのUX手法は、現実、つまり実際のユーザーから得た実際のデータに裏づけられている必要がある。AIはこのデータを構造化し、解釈する手助けをしてくれるが、その解釈はUXの専門知識に基づいてダブルチェックされる必要がある。しかし、AIにデータを作成させると、そうしたデータの解釈はすぐに役立たなくなったり、誤解を招いたりする。
AIの仕組みを知る必要があるか
この記事は、UXプロジェクトにおけるAIの応用について書いたものである。しかしながら、UX専門家はAIの仕組みを理解する必要があるのかと聞かれることも多い。その答えは「ほぼ必要ない」だ。他のツールと同じように、ツールを使うためにその構造を知る必要はない。統計パッケージを使うのに正規分布の数式やt検定の計算コードを知る必要はない。Webサイトをデザインするのにフロントエンド開発者やバックエンド開発者である必要もないし、SQLやHTML、JavaScriptの知識も必要ない、ということだ。
同じように、Midjourneyから美しい画像を導き出すために拡散モデルの仕組みを知る必要はないし、ChatGPTに長い文書をその10%の単語数で要約させるために大規模言語モデルを理解する必要もない。AIの理論や技術の詳細な検討に貴重な時間を費やすことを我々がお勧めすることはない。
ただし、そのデザインを構築するために用いられる基礎技術や関連する学問分野をUX専門家が理解することは有益である。統計学の基本的な概念を知らずに統計パッケージを使うのは、かなり危険だ。また、開発者が何をしようとしていて、技術的な制約にどのように対処しているかを理解することは、あなたのデザインビジョンが実際の製品に実装される可能性を高めてくれるだろう。
同様に、UX専門家はAIの基本も理解すべきである。この知識は、技術系の同僚とのコミュニケーションや、AIの限界を克服する方法の発見に役立つ。AIの基礎知識は、高度なUXプロジェクトでAIを利用する際にも必須である。たとえば、GEが行った大量のユーザーコメントの定性分析では、これらのコメントを追跡可能で具体的な対策につながる数値データに変換している。
AIの基礎を身につけるための教材はたくさんある。一般的な入門編として、Zahra RahmanはPBSの番組「Crash Course Artificial Intelligence」を推薦してくれた。この番組はYouTubeで約4時間無料で見ることが可能である。さらに深く学びたい場合は、MITの8週間コース「Designing and Building AI Products and Services」(2,625ドル)もお勧めだそうだ。この値段はお財布が痛いという方には、Suzanne WilliamsがIBMの無料のSkillsBuildシリーズのAIコースを勧めてくれている。
そして最後に、GoogleにはAI技術に関する無料コースのシリーズがある。これはGoogleが提供するサービスに少し重点を置きすぎているが、それでも役に立つだろう。
常に最新の情報を:おすすめのニュースレター
AIは常に進歩しているため、今、何を学んでもすぐに時代遅れになる。それでも、今すぐ始める価値はある。なぜならば、経験と理解を深めることで、今後の展開を読み解き、新しいツールや機能をより良く、より早く使いこなすことができるようになるからだ。
以下のニュースレターを読むことをお勧めする。定期的に更新される最新情報や、AIの新しい動向を主要なニュースメディアから得られる情報よりもわかりやすく説明する分析記事を読むことができるだろう:
- Nielsen Norman Groupのニュースレター。毎週、UX全般に関する新しい記事や動画を公開している。我々は現在、多くのAI調査プロジェクトを進行中であり、より鮮度の高いAIに関するコンテンツが間もなく公開される予定である。
- ヤコブ・ニールセンのニュースレター(「Jakob Nielsen on UX」)。ヤコブのニュースレターでは、AIとUXの接点に関する記事が公開されており、あなた方のニーズにぴったり合った内容となっている。
- Maginative。AIのニュースを扱うWebサイト。その週の主な動向をまとめた週刊ニュースレターの購読をお勧めする。
- Ethan Mollickのニュースレター(「One Useful Thing」)。Mollickはビジネススクールの教授であり、彼のニュースレターはAIをビジネス全般に役立てることに焦点を当てているので、特にUXに関するものではない。しかし、彼の知見とAI動向の最前線を追い続ける姿勢のおかげで、非常に有益なニュースレターになっている。AIの新機能がビジネスユーザーに与える影響についての最初の優れた分析はこのニュースレターで目にすることが多い。いずれにせよ、UXはビジネスで使われていて、UX専門家はビジネス専門職でもあり、UXのリーダーはビジネスのリーダーでもあるので、Mollickのアドバイスのほとんどは、たとえUX用語で書かれていなくても、我々にもしっかりと当てはまる。
また、LinkedInでヤコブやケイトをフォローし、最新情報やおすすめの情報、そこでの議論をチェックするといいだろう。最後になったが、フォローすべきニュースレターやインフルエンサーを自分でも探してみるとよい。自分の具体的な興味や状況に合うものがあればだが。そのようなものはいくらでもあるだろう。
小さなことから今すぐ始めよう
AI技術が進歩し、ビジネスへの応用が広がっていく数年後には、AIを使いこなす高度なスキルが不可欠になるだろう。今すぐに始めることだ。あとで高度な資格を取得し、経験を積むには、それまでに数年間の時間が必要だからだ。仕事の生産性や創造性はすぐに向上するだろうが、それ以上に重要なのは将来だ。AIを使わない日は、自分のキャリアの可能性を損なうことになる日といえるだろう。AIに全力で取り組み、急速に経験を積んでいる他のUX専門家にさらに遅れを取ることになるからである。
我々は、今すぐ、しかし小さなことから始めることを勧める。Vinay Mauryaはこう書いていた。
「UXの最大の問題をいきなりAIで解決しようとしないことです。ユーザーペルソナの策定やマイクロコピーの作成といった、小さなタスクから始めるといいでしょう」。
そうした経験を数ヶ月も積めば、中規模のAIベースの作業に取り組めるだけのスキルと自信が身につくはずだ。そして1年もすれば、UX業務のほとんどでAIに支援を求めるようになるだろう。ただし、重要なのは常に人間による判断を怠らないようにすることだ。
小さな規模から始めることの主な利点は、気後れしないですむことである。つまり、きょうからでも始められるということであり、そうすべきなのは言うまでもないだろう。