デザインプロジェクトのROIを計算する4つのステップ

デザインの取り組みに対する価値を、投資収益率を見積もることによって証明しよう。

UXの専門家として、我々は製品やサービスのエクスペリエンスの向上にはそれ自体に価値があると考えている。しかし、そう考えない人は多い。そして、ときにはあなたの資金調達について決定を下すのがそうした人たちであることもある。

デザインの取り組みに対する価値を証明しなければならない場合に、最も効果的な方法の1つが投資収益率(ROI)を計算することだ。ここでは、基本的には、デザインの変更が最終的な収支、つまり、収益、コスト削減、その他の重要業績評価指標(KPI)などにどのような影響を与えるかを示す必要がある。

ROIを計算するには4つのステップがある:

  1. ベンチマーク調査でUX指標を収集する。
  2. KPIを選択する。
  3. UX指標をKPIに変換する。
  4. 責任をもって計算結果を報告する。

ステップ1:ベンチマーク調査でUX指標を収集する

ROIの計算は、プロジェクトや機能、製品に対して実行可能である。そして、あなたの仕事の対象がそのどれであっても、UX指標(ユーザーエクスペリエンスに関する情報を示す数値データ)を選択しなければならない。

次のように自問してみよう。エクスペリエンスの改善を証明できるものは何だろうか

ROIに有効なよく使われる指標はいろいろとあるが、その多くは以下の4つの情報源のいずれかから取得することになる:

  • ユーザーテスト中に配布されるアンケート
  • アナリティクス
  • 定量的なユーザビリティテスト
  • カスタマーサポート

UX指標の例

アンケート アナリティクス 定量的なユーザビリティテスト カスタマーサポート
  • 満足度評価
  • 使いやすさの評価
  • 知覚されたユーザビリティ
  • アンケートスコア(NPS、SUS、SUPR-Q)
  • 再訪頻度
  • 機能の利用数
  • 新規のアカウントまたは訪問者の数
  • コンバージョン率
  • リピーター数
  • 更新率
  • 解約率
  • 完了率
  • エラーの数・率
  • 成功率
  • タスク時間
  • エラー率
  • 生産性(たとえば、1時間で処理される注文数)
  • カスタマーサポートチケット
  • 電話、チャット、メール、テキスト
  • 必要なトレーニング時間
  • クライアントからの苦情件数

デザインによる影響を測定するには、デザイン変更の前後にベンチマーク調査を実施して、UX指標を収集しなければならない。

事例:健康保険Webサイト

我々は今、健康保険契約者のためのオンラインアカウントの登録プロセスに取り組んでいる。定性的な調査から、ユーザーがしばしばアカウント登録に苦労していることがわかっている。

見込みのある、登録タスク向けのUX指標

  • 成功率(定量的なユーザビリティテスト):参加者にタスクを完了するように依頼した場合、どのくらいの割合の人が成功するか。
  • 完了率(アナリティクス):サイトで登録プロセスを開始したユーザーでみた場合、どのくらいの割合の人がそのプロセスを完了させられるか。
  • 使いやすさの評価(アンケート):ユーザーにプロセスの容易さを尋ねた場合、どのように評価されるか。
  • カスタマーサポートチケット(カスタマーサポート):このプロセスを完了させるためにサポートに連絡する人が何人いるか。

我々はベンチマーク調査を実施する際、サイト全体のエクスペリエンスを説明する他の指標と合わせて、これらの指標のいくつかを収集することにする場合もある。ただし、ROIの計算では、これらのUX指標の1つのみを使うことになるだろう。

手順2:KPIを選択する

次に、UX指標を変換するKPIを選択しなければならない。自問してみよう。自分の組織が重視していることは何だろうか。デザインチームだけでなく、全員が注意を払うべき指標は何か。

あるいは、より具体的には、このROIの計算結果を誰に提示するのかを考えてみるとよい。ステークホルダーか役員かそれともクライアントか。そして、彼らが重視しているのは何か。

KPIは組織の特質や文化によって変わってくるが、ほとんどのKPIは(非営利団体であっても)お金に帰着する。

KPIの例:

  • 利益
  • コスト
  • 顧客生涯価値(CLV)
  • 従業員離職率(ETR)
  • 従業員の生産性
  • 寄付者数と寄付者数の増加率

ほとんどの場合は、UX指標を金額に変換することを試みることになるだろう。しかし、必ずしもそうしなければならないわけではない。思い出してほしいのは、ROI計算は、その企業が重視していることにデザインがどのような影響を与えたかを示すものだということだ。たとえば、それがより効率的なデザインによって節約できた時間の計算にあたる場合もある。

もちろん、UXの成熟度が高い組織では、KPIとUX指標が同じになる可能性もある。それはおそらくすでに皆がタスク時間の短縮を非常に重視しているということだ。こうした場合には、ROIの計算は不要だろう。なぜならば、デザインの価値を証明する作業はすでに完了しているからである!

ステップ3:UX指標をKPIに変換する

ROIの計算とは、基本的には単位を変換することである。1つの単位(たとえば、ユーザーがタスクを実行するのにかかる平均秒数)を選んで、それを別の単位(金銭的なコスト削減)に変換するということだ。

では、2ガロンは何リットルにあたるかと尋ねられたら、あなたはどうするだろうか。

2ガロンは何リットルにあたるか:
2つの空のガロン容器には何リットルの水が入るだろうか。これは変換(コンバージョン)とはどういうものかを示す質問であり、ROIの計算もまったく同じだ。

もちろん、単にググればいいのはわかっている。しかし、Googleを取り上げられてしまった場合には、コンバージョン率を知ることが必要になる。1ガロン(3.8リットル)が何リットルにあたるかを把握してから、それに2を掛けて、答え(7.6リットル)を得なければならない。

同様に、ROIを計算する場合もコンバージョン率を見つける必要がある。つまり、UX指標をKPIに変換する方法を見つけなければならない。

この変換はときにはかなりシンプルで、単に2つの数字を掛け合わせるだけでよいこともあるし、もっとはるかに計算が複雑な場合もある。

事例:健康保険Webサイト

登録についてのカスタマーサービスチケット数をUX指標に決めた場合、これを金額に換算するのは非常に容易である。

チケット1枚あたり、いくらのコストが会社にかかるかを把握するだけでいいからだ。ほとんどのカスタマーサービス部門は、こうした情報を提供しているはずだ。

その数字がわかれば、あとはそのコストに削減できたチケットの数を掛け合わせるだけである。

チケットの削減数 = デザイン変更「前」のチケット数 - デザイン変更「後」のチケット数
削減できたコスト = チケットの削減数 × チケット1枚あたりのコスト

デザイン変更前のチケット数からデザイン変更後のチケット数を引くと、チケットの削減数が得られる。次に、チケットの削減数にチケット1枚あたりのコストを掛けて、削減できたコストを求める。

では、デザイン変更の前月には、登録関連のチケットが23,000枚あったとしよう。そして、デザインを改善したところ、いくつかの顕著なユーザビリティの問題が修正され、プロセスがはるかにスムーズになり、ユーザーは自力で楽にこのタスクを完了できるようになった。デザイン変更の翌月のチケットの数は1,100枚だった。つまり、21,900枚のチケットを削減できたということだ。

また、チケット1枚あたりのコストは6ドルとする(カスタマーサポート担当者が1枚のチケットを解決済みにするまでにかかる時間の平均コスト)。21,900枚にチケット1枚あたりのコストを掛けると、予想される毎月のコスト削減額は131,400ドルになる。(年間の削減額は、季節変動がない限りはこの数字×12である)。

ステップ4:責任をもって報告する

よく覚えておかなければならないのは、ROI計算とは、デザインプロジェクトの相対的価値を概念化するのに役立つ戦略的な演習であるということだ。ROI計算は財務予測では「ない」。したがって、どうか、この数字を財務部門にただ提示するのはやめてほしい。そうではなく、彼らには最終的な収益がこれだけ増加する見込みだと伝えればよい。

そのため、ROIの計算は完璧である必要はない。見積もりは、やろうと思えばいくらでも詳細にすることができる。チームの中には、インフレを考慮したり、オフィスの電気代や暖房費、従業員の時間のコストを追加するところもある。しかし、通常、UXのコスト削減のためであれば、見積もりは(訳注:詳細でなくても)問題ない。この計算をする主な理由は、改善のための研究開発費と比較検討するためで、たいていの企業では、そうした研究開発費も(大まかな)見積もりになっているからだ。

重要なのはレポートの透明性だ。見た人にその数字がどこから来たのかが確実にわかるようにしよう。これは、期待値の設定に有効なだけでなく、ROI計算の信頼性の裏づけとしても有用である。

また、プロジェクト自体のコストも考慮する必要がある。さらに、デザインの改善は累積的なものであることを覚えておこう。つまり、デザインを改善することで、今年、新たに30万ドルの収益を得られるとしたら、その翌年も同様の増加が見込めるということだ。このため、2~5年後に予測されるROIも確認しておくとよい。

事例:健康保険Webサイト

ステークホルダーへの報告には、たとえば以下のように重要な詳細情報をすべて盛り込むようにしたいと考えている:

「登録タスクに関して、21,900枚のサポートチケット数の削減が認められた。サポートチケット1枚あたりのコストを6ドルとすると、そこから予測される削減可能なコストは、1年間で131,400ドル、3年間では393,000ドルである。

デザインプロジェクトの費用は約75,000ドルなので、3年間のリターンは約318,000ドルになる見込みである」(訳注:21,900枚の削減は、先ほどは1か月だったが、ここでは1年間になっている模様)

なぜわざわざROIを計算するのか

多くの場合、UXの問題とは敬意の問題である。より多くのリソースとインクルージョン(:多様な人材が活躍できる状態)を獲得して、最終的に組織のUXの成熟度を高めるには、UXが尊重されるようになることが非常に重要だからだ。したがって、特にUXの影響を定量化できる場合は、その影響の大きさを示すことが重要である。

オンラインにはたくさんのROI計算機が存在していて、あなたの代わりに計算をしてくれる。しかし、そうした計算機が役立つのは、自分たちのシナリオがその計算機が想定したとおりのものである場合のみだ。

自分たち独自のROIコンバージョン率を決める方法を学び、そして、自分たちでその計算を実行することには価値がある。このスキルを習得すれば、それほど明白ではないシナリオにもそのスキルを適用できるし、スキルによって「あらゆる」プロジェクトの改善を計算して証明できるだろう。

あらゆるシナリオのROIを計算する方法を学ぼう

この記事にある健康保険Webサイトの事例は、かなりわかりやすい。我々は他にも実際の企業(Acorda Therapeutics, Inc.のイントラネットMozilla)の例を提供している。

しかし、以下のことをしたい場合にはどうしたらいいだろうか:

  • 満足度スコアを利益に変換する。
  • タスクの完了を売上に変換する。
  • デザインシステムを利用することでチームがどれだけの時間を節約できるかを計算する。
  • プロジェクトが始まる前に」潜在的なROIを計算する。

自分たち独自の継続的なベンチマーク活動の実現方法や、自分たちのプロジェクトのROIを計算する方法については、我々の1日セミナー、「Measuring UX & ROI」をチェックしてみてほしい。