ユーザーエクスペリエンス実践における、アクセス解析の3用途

アクセス解析データを最大限に活用するために、UXの専門家は、リソースを奪うのではなく質的なプロセスの価値を高めるよう、こうしたデータの統合をする必要がある。

従来、アクセス解析はマーケティングの戦略や戦術を伝えるのに利用されてきた。しかし、現在では、調査やデザインの支援として、こうした定量的なソースに頼るユーザビリティやユーザーエクスペリエンスの専門家が増えているように思う。

アクセス解析の最大の課題は、人の気を惑わすブラックホール、つまり、アクションを起こせる知見が何もない「興味深い」データにすぐなり得ることだ。

おそらく、やると最悪なのは、誰かにアクセス解析システムの利用方法を教えて、彼女があなたに興味深い調査結果を持ってきてくれると期待することだろう。「無料」のアクセス解析サービスであっても、それによってより生産的な用途からリソースの充当先を切り替えればコストは発生する。多くの初心者は以下の3つの障害のうちの1つ以上に悩むことになる:

  • 指標の範囲: 非常に多くのことが測定可能だが、どれが本当に重要なのか。
  • 指標間の違い: それぞれの問いに対して最適なのはどの指標か。
  • インタフェースの複雑さ: 知りたいことをどうアクセス解析システムに表示させるか。

この最後の点のおかげで、多くのユーザーが難しいことに首を突っ込んでいって、ツールに集中してしまい、ツールが支援するはずの作業自体に結局、集中できない。そうした点を考慮し、ステップごとにバックアップを取り、プロセスや解析データが現状のやり方をどう補いうるかについて考えるよう、UXの専門家には勧めたい。

さまざまなUXチームにアクセス解析等のWebデータの利用に関するインタビューをしたことで、UXに付加価値を与えるアクセス解析の興味深い用途が明らかになった。この記事ではその中から以下の3つを取り上げようと思う(そして、「アクセス解析とユーザーエクスペリエンス」というコースではさらに多くの用途を取り上げる予定である):

  1. 課題の指摘: チームに目標を達成する際の潜在的な問題を通知。
  2. 調査: 課題の潜在的原因を特定。
  3. 三角測量: 定性的調査を補完するデータを追加。

用途1: 課題の指摘

いくつかのUXチームは、サイトのデザイン時、あるいは測定計画の開発と実装用の新機能を立ち上げる際、最適化の専門家と共同作業をしていた。そうしたUXチームはそのサイトが掲げている目標を達成できているかを測定するレポートを毎日、あるいは毎週受け取る。Webの指標を利用することで、特定の課題の原因の分析や、それを手がかりにしてのさらなる調査が可能になるからである。

測定計画の構成要素は以下である:

  • 目標あるいはマクロコンバージョン: これらは大局的な行動で、サイトが成功するためにユーザーがサイト上で完了する必要のあることである。例としては、購入完了数やリードの送信数等が挙げられる。
  • 望ましい行動あるいはマイクロコンバージョン: これらはより局所的な行動で、組み合わされることで、見込み客のファネルに沿った絞り込みといった目標の達成を支援する。例としては、特定のページへの訪問、特定リンクのクリック、フォームへのデータ入力等が挙げられる。
  • Webの指標: これはWebの解析データのことで、こうした望ましい行動が起こるかどうかを示すものである。それによって、UXチームは潜在的な課題を特定しやすくなる。
測定計画例: 「コンサルティング契約を毎月50件獲得」を目標とした場合
サイト訪問者による望ましい行動 Webの指標 説明
コンサルティングサービスセクションの訪問 Unique page views(:ページビュー) 「Unique page views」が示すのは、何人のサイト訪問者がこの特定のページを訪れたかである。「unique」とは、同一ユーザーがそのページを複数回訪問しても、1回しかカウントされないことを意味する。
コンサルティングサービスについて読むこと Average time on page(:平均滞在時間) 「Time on page」が示すのは、そのページに費やされた時間の平均である。滞在時間が減ったり増えたりするのは必ずしも良いことではない。従って、こうしたデータはコンテクストの中で常に観察すること、期間のほぼ同じものと比較することが重要である。
ホワイトペーパーのダウンロードや、フォームフィールドへのデータ入力、リードフォームの送信 Events(:イベント) 「Events」が参照するのは、トラッキングしているサイト上でのユーザーの行動すべてである。Googleアナリティクス (や他の多くのシステム)では、どういったイベント事例を記録すべきかが定義可能だ。イベントの例としては、PDFのダウンロードや、特定のボタンのクリック、入力欄へのテキスト入力、ビデオ閲覧等がある。

用途2: 調査

この用法では、UXチームは、自分たち自身でやるにせよ、最適化の専門家の助けを借りるにせよ、マクロコンバージョンの課題のための仮説を立て、アクセス解析を利用して、その仮説が正しいこと、あるいは誤っていること、を証明する。調査方法を左右する課題のカテゴリーには、トラフィック、技術、コンテンツ、ナビゲーション、ビジュアルデザインがある。以下で我々が提供している例のほとんどはGoogleアナリティクスが無料で提供しているものから取っている。

1) トラフィックの課題

調査事例: ページ訪問者の減少に影響を与えているトラフィックソース(例えば、Google、Bing、Yahoo、ダイレクトメール、Eメールキャンペーン等)があるか確認する。

有効な分析レポート: Pages(:ページ) (ページのURIでフィルタをかけ、Source(:ソース)をSecondary dimension(:セカンダリディメンション)として利用)

Googleアナリティクスでは、ページごとのレポートを作成して、ページへのトラフィックの発生源(例えば、検索、Eメール、ダイレクトメール等)を表示することが可能である。

URIでフィルタをかけ、ソースをセカンダリディメンションとして利用している(Googleアナリティクスの)「ページ」のレポート例。

2) 技術的な課題

調査事例: きちんと読み込まれないページ要素がないかを確認する。

有効な分析レポート: Event Pages(:イベントページ)

イベントページのレポートにはイベントをトラッキングしているページすべてがリストアップされる。調査する特定のページを選択することで、その特定ページでのイベントについての指標を得ることが可能である。

Googleアナリティクスの「イベントページ」のレポート例。

3) 4) コンテンツとビジュアルデザインについての課題

調査事例:

  • 新しくした言い回しがある特定の行動を取るメリットやプロセスを効果的に伝えてない可能性がないかを確認する。
  • 画像やタイポグラフィ、色、レイアウトが行動のきっかけとなる要素(CTAs)を邪魔してないかを確認する。

有効な分析レポート: In-page Analytics(:ページ解析)

ページ解析が表示するのはユーザーが選択したリンクである。

注意: Googleアナリティクスのページ解析には問題がある。具体的には、あるページ上に同じ行き先のリンクが複数あると、ページ解析ではそのリンクの内のどれが実際クリックされたかがわからない。提示されるクリックの割合やクリック数が各リンクで同じになるからである。そのため、Googleアナリティクスの数値をClicktaleCrazyEggのようなクリック追跡サービスで補完するユーザーが増えている。

ユーザーが選択しているリンクを示す「ページ解析」の例。

CrazyEggでのヒートマップの表示例。ここでは、クリック数もオーバーレイ表示で出すことが可能である。

5) ナビゲーションの課題

調査事例: クリックされない特定のリンクやボタンがないかを確認する。

有効な分析レポート: ページ(ページのURIでフィルタをかけ、Navigation Summary(:ナビゲーションサマリー)タブを選択)

(下図のように)ナビゲーションサマリーはタブになっていて、ページのレポートで選択が可能である。そこでは対象ページの訪問前にユーザーがどのWebページにいたのか、また、そのページの訪問後、どこに行ったのかが詳述される。

ナビゲーションサマリーを選択した、「ページ」のレポート例。

用途3: 三角測量

この用法では、UXチームはアクセス解析を利用して、定性調査(例えば、ユーザビリティテスト)から導かれた結果を検証し、解決策を明らかにするのに役立つさらなる手がかりを集める。最初のユーザビリティテストをだいたい5人のユーザーで実施すると(我々もこうアドバイスすることは多いのだが)、成功率のような数値の見積もりが間違ってしまう危険は常にある。しかし、そうした短時間でできるテストにはトラブルになりそうな箇所を即座に指摘できるというメリットがある。そして、その結果、ずっと正確な推定の裏付けになる数千もの解析データポイントを集めることを目的にした計測ができるようになる。

ユーザビリティテストの結果を解析データで検証した事例:

調査結果: 調査参加者があるトピックについての情報がどこにあるかわからない。そのサイトで使われている言葉が彼らが使っているものと違うからである。

追加された質問: 調査で参加者が指摘したような用語をユーザーは検索しているか。

有効な分析レポート: Search Terms(:サイト内検索キーワード)

サイト内検索キーワードのレポートでは、ユーザーが(Web全体の検索ではなく)そのWebサイト自身の検索ボックスに入力したキーワードがリストアップされる。期間ごとの検索キーワードリストはダウンロードが可能で、より詳細な分析に利用することができる。ユーザーが検索ボックスに自ら打ち込んだ用語はコンテンツをユーザー本位の言語に置き換える際の最有力候補である。

Googleアナリティクスでの「サイト内検索キーワード」のレポート例。

調査結果: ある機能が利用されない、もしくはあるページへのアクセスがない。調査参加者がそのリンクに気づかなかったからである。

追加された質問: 代わりにユーザーはどこに行っているか。

有効な分析レポート: ページ(そのページのURIでフィルタをかけ、ナビゲーションサマリータブを選択)と、検索ページ分析(上記の調査セクションでの事例を参照)。

調査結果: あるフォームが最後まで全部入力されない。要求されている情報の提供にユーザーがためらうからである。

追加された質問: どの欄でユーザーはフォームへの入力をやめているか。

有効な分析レポート: イベントページ(上記の調査セクションでの事例を参照)。

結論

ユーザビリティやユーザーエクスペリエンスの作業における、定量的データの重要性はますます高まっている。こうした変化によって、UXの専門家には、そこでの言語やツールをよく理解し、どの指標や機能がUXの実践に有効かを決断することが必要になってきている。

アクセス解析をUXの作業に追加することによって可能になるのは以下のようなことである:

  • 対策を早めに取ることで、コンバージョンの不必要な低下を防げる
  • 因果関係や相関が正しいか間違っているかをすぐに証明できる
  • 組織内のデータ指向の関係者をより多く、より上手に説得できる

アクセス解析システムの学習は気の遠くなるような作業になる可能性もある。そうしたシステムは複雑な上、マーケティング活動用に構築されてきており、UX用ではないからだ。しかし、学習プロセスは既存のUXのプロセスから始めて、そうしたプロセスのどこに指標による付加価値を付けるかを決めることで、より効果的なものになりうる。

今回、扱ったもの以外にも、UXの調査やデザインプロセスに組み込み可能な分析指標は多数ある。そうしたものについては「アクセス解析とユーザーエクスペリエンス」という新しいトレーニングコースで取り上げる予定である。

さらに学ぶ

調査レポート(英文)

関連記事