モデレーターありのリモートユーザビリティテスト:実施する理由
モデレーターなしのユーザビリティテストは、すばやく容易に実施可能なので、UXチームの中にはこのやり方でしか評価をおこなわないところもある。しかし、より堅牢な代替手段である、モデレーターありのリモートユーザビリティテストを敬遠してはならない。より多くの情報が得られるし、費用もそれほどはかからないからだ。
通常の状況でも、対面のユーザビリティテストを自分たちの希望通りに実行できる十分な時間とリソースをもつチームは少ないものだ。しかし、最近の隔離や移動に関する制限により、今やほぼすべてのUXチームが、対面での手法が現状では不可能であることに急速に気づきつつある。
多くのチームが、どんなユーザーデータでもデータが何もないよりはよいという(正しい)仮定のもと、リモートのユーザビリティテストに取り組み始めている。そうしたリモートテストで最も人気のあるバリエーションの1つが、モデレーターなしのユーザビリティテストだ。
モデレーターなしのユーザビリティテスト(非同期テストともいう)は、移動が不要で、あまりお金をかけずに、製品をユーザーにテストしてもらえるということで、よくおこなわれる。この手法では、通常、数ある利用可能なサービス(What Users Doなど)のうちの1つを利用し、タスクをいくつか設定して、データが集まるのを待つことになる。
この手法には、いくつかの大きな利点がある:
- リクルートが発生しない(リモートテストサービスが提供する既存のパネルを利用する場合)。
- モデレーションスキルが不要。
- テストのセットアップが容易。
- 結果が出るのが早い。
- コストがあまりかからない。
ただし、このようなリモートのモデレーターなしのセッションから取得したデータは、多くの場合、対面テストのデータに比べると詳細さに欠ける。この差はモデレーターなしのリモートテストがもつ以下の深刻な欠点による:
- テストセッションが短い(セッションの長さはテストサービスの規約で決まっているが、対面調査の場合は1~2時間であるのに対し、リモートでは20分程度であることが多い)。
- 指示が少しあいまいだったり、不明瞭だったりする場合に、それについてわかりやすく説明する手段がない。
- ユーザーにコメントを詳しく説明してもらったり、そのデザインの中のあるエリアの利用を続けるように依頼したりすることができない。
- テスト参加者がユーザーの代表にならない。(訳注:モデレーターがいないと、参加者は想像力や意思決定、感情的な反応に依存するタスクへの取り組みに消極的になり、現実ではおこなわない行動を取ることが多い。モデレーターなしのユーザーテスト:方法と実施する理由より)
- 参加者によってテストに対する意欲や態度にばらつきがある。
- テスト参加者がテスト中に並行して別のことをしたり、周りの状況に気を取られたりする可能性が高い。
対照的に、モデレーターありのリモートユーザビリティテストは、両方の手法(対面テストとモデレーターなしのリモートテスト)の利点を兼ね備えている。つまり、(対面テストに匹敵する)高品質の調査結果を提供できる一方で、(モデレーターなしのリモートテストのように)気軽に実施可能で、費用もあまりかからない。モデレーターありのリモートユーザビリティテストの利点には以下のようなものがある:
- 進行役が、随時、タスクを変更したり、スキップしたり、並べ替えたりすることができる。
- 進行役が、必要に応じて、フォローアップの質問をしたり、わかりやすく説明してくれるように参加者に依頼したりできる。
- 参加者が、テストとは関係のない活動に時間を使いにくい。
- 大きな声で独り言を言うよりも、状況として自然である。
- テストセッションの時間をモデレーターなしのテストよりも長くとれるので(通常は約1時間)、デザインを深く掘り下げて検討する余地がある。
- チームの皆で同時にテストを観察し、セッションの直後に調査結果について議論することができる。
モデレーターありのリモートテストで、最もリソースを必要とする部分は以下の2点である:
- ユーザーのリクルート:既存のパネルを利用することができない。しかし、ターゲットオーディエンスに合わせてユーザーをリクルートすることはできる。リクルート会社、自社のユーザーデータベースがある場合はそのデータベース、自社のWebサイト、ソーシャルネットワーク、友人や家族を活用しよう。
- オンライン会議ソフトウェアのセットアップ:ソフトウェアがテストの参加者、観察者、そして、自分たちのために確実に機能するようにするには、時間と労力が追加で必要になる可能性がある。
このようなハードルがあっても、モデレーターありのリモートテストはほとんどの人が考えているよりも容易に実施可能だ。以下の、テストの各ステップの説明を記載したチェックリストを確認してみてほしい。
3つのユーザビリティテスト形式の比較
モデレーターありの対面ユーザビリティテスト | モデレーターありのリモートユーザビリティテスト | モデレーターなしのリモートユーザビリティテスト | |
---|---|---|---|
進行役が必要 | はい | はい | いいえ(テストプラットフォームが進行役としての役割を果たす) |
詳しく質問することができる | はい | はい | いいえ(ただし、各タスクの後に一般的なフォローアップの質問を設定しておくことはできる) |
タスクを並べ替えたり、変更したりできる | はい | はい | いいえ |
参加者のために指示をわかりやすく説明できる | はい | はい | いいえ |
参加者に思考発話法を教えたり、促したりできる | はい | はい | いいえ(ただし、思考発話をするようにセッションの開始時に指示することはできる) |
テスト会場が必要(たとえば、ユーザビリティテストラボやフォーカスグループ用の施設) | はい | いいえ | いいえ |
一般的なコスト | 高 | 低 | 低 |
セッションのスケジュール設定 | セッションの日時は固定 | セッションの日時は融通が利く(参加者の都合によって変更可能) | スケジュール設定は不要(ユーザーは自分の都合のよいときに参加) |
セッションの一般的な長さ | 短い場合(30分)と長い場合(2~3時間)がある | 短い場合(30分)と長い場合(2~3時間)がある | ほとんどのプラットフォームではセッションは短時間に収める必要がある(約30分) |
「ズルをする」またはやる気のない参加者というリスク | 低 | 低 | 高(参加者のリクルート方法による) |
モデレーターありのリモートユーザビリティテストを利用するタイミング
チームのUX調査のリソースが非常に限られているようなら、モデレーターなしのリモートユーザビリティテストが唯一の選択肢になるだろう。定量的なユーザビリティ調査をしようとすると、そうなることがよくある。30人以上の調査参加者を必要とすることが多いからだ。このような状況でも、ユーザビリティテストを実施「しない」よりも、モデレーターなしのリモートユーザビリティテストをするほうがよいのは間違いない。
しかし、以下のような場合は、モデレーターありのリモートユーザビリティテストのほうが、モデレーターなしのリモートテストやモデレーターありの対面テストよりも適切だろう:
- 深い知見と豊富なデータを必要としている。
- 参加者が、多忙である、地理的に分散しているなどの理由で、テスト会場に移動することができない。
- リサーチャーが、各参加者と個別に面談できるだけの時間を十分に確保している。
モデレーターありのリモートテストを試してみよう
モデレーターなしのリモートテストは、すぐに結果が出る、コストがかからない、実施が容易、という利点をもつ。何らかの素晴らしい知見を得ることもできるので、すべてのUXリサーチャーが自分の道具箱に入れておくべき手法である。
しかし、モデレーターありのリモートテストをおこなえば、モデレーターなしのリモートテストよりもはるかに有用で、興味深く、詳細な調査結果を得ることができる。モデレーターなしの調査よりはもう少し調整が必要になるが、この手法が調査にもたらす有益な影響は、ほんの少しの余分な労力に十分に見合うものだ。まだ、モデレーターありのリモートテストを一度も試したことがないというなら、今がまさにそのタイミングであるといえるだろう。