イントラネットポータル:
パーソナライゼーションが流行し、モバイル化は停滞、統制が不可欠に

企業ポータルに関する新たに実施した19件のケーススタディで、新機能の浸透のペースはゆっくりしたものだった。重視されていたのは、情報の確実な統合と、会社として正式に統制を行うことである。

我々の前回のイントラネットポータルについての調査のタイトルは「企業ポータルは花盛り」だった。あれから3年が経った今、新しい調査で再度この場所を訪れた。我々の調査結果の一番うまい要約は「企業ポータルの安定化」ということになるだろう。新しい機能も目にしたが、そこで我々が一番推奨できるのは、今ある機能をより確実なものにして、うまく管理することだった。

今回の最新調査では、オーストラリアのANZ BankからイギリスのRed Cross、南アフリカのビール会社にいたるまで、地球規模にわたり、19の組織を調べた。すべての調査を合計すると、ポータルデザインについての我々の提案は、現在ではイントラネットポータルについての67件のケーススタディがベースになっている。

最初のころの「ポータル」の定義はゲートウェイという概念に焦点を当てたものだった。しかし、時代は変わってきている。ポータルをどこか別の場所への入り口にすぎないと見なすのは、それが果たしている高度な役割を説明するにはもはや不適切である。今日のポータルは単なるアクセス手段というだけではない。つまり、優れたポータルは、統一されたユーザーエクスペリエンスで、企業の情報や、リソース、ツールを真に統合させる。ポータルはダッシュボードであり、従業員が仕事をするのに必要とする、その企業の情報とアプリケーションをすべて提供するのである。

と同時に、企業がイントラネットをポータルとして見なすことが増加するにつれ、イントラネットとポータルの差異は小さくなっていっている。時代は「イントラネットはイントラネットであって、それ以外の何ものでもない」という流れに向かっている。ポータルは従来以上に多くのシステムを統合した、より良質で、機能的なイントラネットなのである。

ポータルがそのあるべきビジョンをすべて達成したときに得られるROIは明らかである。そうでない限り、様々なシステムの情報を探し回り、互換性がないユーザーインタフェースを覚えることに浪費されることになる、高価な労働時間を大量に節約するからである。もちろん、理想的なビジョンというのはめったに実現するわけではない。例えば、シングルサインオンは依然として捕らえどころのない荒唐無稽な話という状態である。我々がこの問題を調べるたびに、企業はその達成に向け、徐々に近づきつつあるが。

ゆっくりとしたモバイル化の進展

企業ポータルに関する新しい調査から得られた一番大きな発見は何かって? 悲しい事実だが、期待されたほどの速さでは、ポータルにモバイル機能が追加されていっていないということである。ファイアウォールの外ではモバイルスペースにたくさんのイノベーションがあふれている。しかし、企業の中ではモバイルの進歩はのろのろとした速度で進んでいるようにみえる。良い知らせは、出遅れたモバイル業者にとっては、これはAppleに追いつく明らかなチャンスだということだ。(控えめに言っても)彼らには企業関連の偉大なストーリーはないからである。

モバイルのイントラネットポータルを立ち上げたい人は全員、我々の実施したモバイルウェブサイトに関する調査から得られた説得力のある結果に注意を払うとよい。すなわち、良質なモバイルユーザビリティに必要なのは、モバイルのユースケースのために機能を減らし、時間や場所に左右されるタスクに重点的に取り組んでいる独立したデザインである。既存のポータルを携帯電話経由でアクセスしやすくすれば良いというものではない。なぜならばそこでのUIはデスクトップでの利用に最適化されているからである。

例を挙げると、我々が調査したある大学では、学生が自分の携帯電話を使って、構内のカフェテリアの食券の前払い金の残高とメニューのチェックができるモバイル機能を考えていた。これらは平均的な企業では必要不可欠な機能というわけではないだろう。しかし、学生の食生活の支援というのは、大学にとってはモバイルのキラーアプリになりうる。重要なのは、ただ単にごく小さな画面に何もかもを押し込もうとするのではなく、まず最初に、ユーザーのモバイルへの実際のニーズをタスク分析することである。

新しいケーススタディの1つは、以前はポータル上でモバイルの中途半端なユーザーエクスペリエンスを提供していた。このことに気づいたチームメンバーは、モバイルを新しいポータルの必要条件と認識した。そして、評価できることだが、彼らはその開発を延期し、後ほどきちんとやることに決めた。過去に挑戦し、失敗していることで、それがいかに難しいかを知っていたからである。

我々が調査したほとんどの企業が、適正なモバイルポータルの公開にはあと数年かかると考えていた。また、多くの企業がそこに入れる最初の機能の1つとして、営業支援を計画していた。

きちんと解決できるまで待つ、という考えには全く同感だ。貧弱なモバイルのデザインはユーザーにとって本当に不幸なものだからだ。そして、企業の利用であることを考えると、ひどいUIのおかげで従業員が何もできずに時間を浪費している間も費用はかかっている。それでもなお、企業にはすぐにでもイントラネットのモバイル化の計画を立てるように私は勧める。オープンなインターネット上でモバイルユーザーエクスペリエンスの急激な進歩を目にする従業員が増えれば、彼らは所属する組織にもそれを求めるだろうからである。

統制はうまくいってない

経営幹部の参加を説得することから、分散型コンテンツ管理を運用することにいたるまで、企業は統制に苦労している。そして、不幸なことだが、我々の新しい調査がこの問題を解決することはない。現時点では、イントラネットの統制を「解決済み」で、成功事例として広く応用できる洞察を提供できるような企業が十分にはないからである。

唯一の万人向け結論は、この、完全な統制が存在しない、ということへの解決策に実際、関連している。すなわち、その解決策を売り込もうとする人は怪しげな万能薬を売り歩いているようなものだということである。

その代わりに推薦するのは、我々の調べた様々なケーススタディの中から、機能している一般的な統制方法を選び出し、あなた方の組織特有の文化等の環境に適合させることである。

例えば、Duke Energyは5段構えの統制をしている:

  • ニューメディアチーム:ユーザーエクスペリエンスを監督、統制し、新しいコンテンツオーナーを訓練し、基準を順守しているかを確認するためにサイトを検査し、どうやったらサイトの価値を高められるかに取り組み、コンテンツを継続的にアップデートし、新技術やソーシャル機能の実装を行う。
  • サイトマネージャー(ビジネス全般にわたって):サイトのコンテンツに責任を持つ。
  • 内部コミュニケーション部門:ホームページのコンテンツを管理する。
  • ポータル運営チーム(コミュニケーションや人事、IT、マーケティング担当の副社長と取締役で構成):ビジネス価値に基づき、どこを強化するかの優先順位付けを支援し、強化による組織と技術への影響を管理する。ミーティングは月1回。
  • ポータル執行委員会(コミュニケーション、人事、IT担当の上級副社長で構成):長期的戦略を承認し、予算を割り当て、上層部からなる指揮部隊と共にポータル関連のイニシアチブを主導する。ミーティングは四半期に1回、あるいは必要に応じて。

あなた方の会社にはこのすべてが必要だろうか。もしあなたの会社の規模がここよりももっとずっと大きいというのなら、これよりさらに多くの統制が必要かもしれない。しかし、それ以外の会社はこれよりも少ない統制でうまくいくはずである。例えば、Ohio State UniversityのMedical Centerにはかなりシンプルな統制委員会があるだけである。ともかく、我々のケーススタディの多くから得られる重要な教訓は、ポータルのプロジェクトを開始する前に、その組織は統制を行うための機構について考えるべきだということである。成功はソフトウェアパッケージを買うことでもたらされるのではなく、プロジェクトを正しく運営して、公開後、質の高い統制を継続することでもたらされるからである。

ポータルに継続的なメンテナンスと、たゆまぬ品質改善が求められていることには、重要な意味がある。それは、ポータルは仕事であって、付随的なプロジェクトではない、ということを指す。そこには、正式な担当業務に、ポータル、と書かれた誰か、あるいは大企業であればひょっとすると一部門が必要なのである。

前回の調査で、イントラネットの所有者は誰かとたずねると、ITやマーケティング、人事部門の組み合わせで答えられることが多かった。今回、わかったのは、その責任部署が企業コミュニケーション部門へ一貫して移ってきているということである。そこではIT部門は分別を持った(そして欠くことのできない)管理人の役割を演じ、技術的な決断についてのアドバイスやポータルへのサポートを提供していた。ケーススタディの中には、ポータルが複数部門に所有されていても、うまく機能しているところもいくつかあった。こうした取り決めが正式なものでなかったとしても、成功しているポータルプロジェクトのほとんどでは、組織を横断して、オーナー、あるいはポータル運営委員会のメンバーが参加しているように思われる。

古くなった、あるいは負担がかかり過ぎているイントラネットに関して言うと、組織というのは「触らぬ神にたたりなし」という古いことわざに従ってしまいがちである。。しかし、そのイントラネットが本当に壊れて、それを解決するのが新しいポータルになるとき、そのポータルはイントラネットだけでなく、組織の形を変えることもできる。それらを支援するためには、ポータルに強力な統制を行うための機構が必要だというのが理由の1つであり、ポータルによる解決策を打ち出すことで、かつては贅沢なように思われていたであろう、統制を行うための機構の必要性を後押しすることが可能である。

例えば、ANZでは、新しいポータルを立ち上げるためのプロジェクトで、シックスシグマや、ユーザー中心設計、集中型パブリッシングのようなプロジェクトモデルへの適応が必要だった。イントラネットの管理についてのこうした改善策は、結果的にはユーザーエクスペリエンスの向上につながっていた。つまり、社員によるタスクの完了時間は平均50%速くなっていた。また、回数でいうと、情報を見つけようとしてうまくいかなかったということが70%近く減少していた。この大きな金融サービス会社の従業員数で考えると、これらは間違いなくROIの数値につながるだろう。

ユーザビリティのためのROIについてのレポートでさらに議論されているが、作業時間をt分節約するためのデザイン改良の年換算値はt×e×n×sとなる。ここではeは、そのタスクを実行する従業員の数、nは、典型的な従業員1人当たりのそのタスクの年間実行回数、そして、sは、1分ごとの従業員の平均給与である。大企業では、良質なデザイン変更の価値は数千万ドル(tens of millions)にもなり得る。その結果、t×e×n×sという公式は覚えやすくなっている)。

イントラネットの改善によって、大規模な組織は非常に大きなROIを得られるが、彼らは特殊なタイプの無気力症のもと、苦しむこともある。経営幹部というのは同じ会社に10年かそれ以上いることがよくある。そのため、良質なイントラネットがどのように成立することができるかを他の会社で経験したことがない。この結果、新しいポータルへの出資を渋るということが起こりうるのである。(対照的に、一般のウェブサイトや、通常のソフトウェアに対しては、上層部はAmazon.comやGoogleなどを個人的に経験しているので、自社の提供するもののユーザーエクスペリエンスが不足するとどうなるかについては嫌というほど理解がある)。

熱意を再燃させるわかりやすい方法の1つが、他社のポータルを研究して、「どうなりうるか」というビジョンを構築することである。それこそが我々の仕事の主要なゴールの1つである。

パーソナライゼーションが非常に重要になる

過去のポータル関連のプロジェクトでは、パーソナライゼーションというのは任意であるように思われていた。しかし、現在ではそれは変化してきており、流行という意味でいえば、適切にデザインされたポータルにおいて、パーソナライゼーションは非常に重要なコンポーネントになっている。

なぜこのように変わったのか? それは中身が増えたからである!

情報の過負荷という言葉は決まり文句のようになっているかもしれないが、事実でもある。ポータルを抜きにしても、従業員は情報の中で溺れているからである。逆説的ではあるが、ポータルというのはこれまで以上に情報ソースとアプリケーションを統合させることができるようになってきているので、自らの成功の犠牲者になってしまう可能性もある。ポータルがユーザーに合わせて多くの役目を果たそうとすればするほど、1人1人が何を見ているかを監督する必要は高まる。そうしなければ、ユーザーは本当に圧倒されてしまうだろう。

例えば、ANZは32カ国で営業活動を行っている。縦割りになっている情報を統合するというのは良いことだが、オーストラリアにいる従業員は自分の検索結果の中にあるニュージーランドの情報を普通は見る必要がない。これはパーソナライゼーションによって解決することができる。

不幸なことに、効率的なパーソナライゼーションというのは難題である。先進的なポータル向けソフトウェアプラットフォームはパーソナライゼーション機能を提供してはいるが、それを完全に実装するにはどれだけの作業が必要かを過小評価すべきではない。

我々が調査した多くのポータルが、パーソナライゼーションに追加して、あるいはその代替策として、カスタマイゼーションを試みていた。(パーソナライゼーションが付いていれば、何を自動的に表示するかは、ポータルが決定する。一方、カスタマイゼーションではユーザーが手動で様々な機能を選ぶことが求められる)。ユーザーに自分自身で選択させるというと聞こえは良い。しかし、実際にやってみると、カスタマイゼーションはたいていはうまくいかない。ビジネスパーソンは忙しいため、UIの選好に関わらなければならないということを煩わしく思うことが多いからである。

よくある妥協案はマイページ機能を提供することである。多くのユーザーは一般的なウェブサイトでこうしたデザインに慣れている。当初、各ユーザーのマイページは、役割ベースのパーソナライゼーションと、ユーザーがコンテンツウィジェットを足したり、外したり、自分のページのルックアンドフィールをコントロールすることが可能な、さらなるカスタマイゼーションによって、よく訪問されることになるだろう。(もしこの手でいくというなら、ユーザーの多くはカスタマイズをせず、デフォルトのマイページ をただ利用するだけになる、ということは知っておこう)。

ソーシャル機能からコラボレーションプラットフォームへ

従業員検索は依然としてイントラネットのキラーアプリである。同僚とのやり取りより重要なものなどないが、それには、まず、連絡先を見つけなければならないからである。ほぼすべてのポータルがこうしたツールを従来的な従業員名簿の検索と、様々なフィルタリングオプションを持つ、より凝った専門知識検索サービスの両者によって、中心的機能として提供している。

大切なのは、こうした昔からあるツールも極めて重要であるということを覚えておき、より効果的なものになるように努力し続けることである。しかし、同時に、オープンなインターネット上でのソーシャル機能の成長と並行して、ポータルそれ自体もコラボレーションプラットフォームに発展していっているのである。

多くのポータルには従業員がお互いを知り合うのを助けるためだけの、ウェブ的なソーシャル機能がいくつか含まれているが、それ自体がビジネス価値になっている。しかし、ゴール志向のコラボレーションはさらに重要である。Goodwin Procter法律事務所で新しいイントラネットを作るための原動力の中心になったのが、コラボーレーションだった。つまり、ゴールは、弁護士達にコラボレーションをさせ、情報を再利用することにあった。そのことで、効率化が進み、請求額も抑えられるだろうからである。

ポータル上で、ソーシャル機能とコラボレーション機能は本当に別々のものなのだろうか。ほとんどのケーススタディでは、企業はその2つをはっきりとは区別していなかった。それよりも区別がはっきりしているのは、コラボレーションが公式か非公式か、ではないだろうか。例えば、Ciscoでは公式なコンテンツは会社によって管理されているが、非公式なコンテンツはとりあえず出てきたままの状態で放置されている。どのように線引きをするにしろ、ポータルがコラボレーションプラットフォームに変化していっていることで、これは解決しなければならない、統制に関しての新たな問題の1つとなっている。Ciscoは、自社のTelePresence映像技術等の、コラボレーションプラットフォームでのマルチメディアとリアルタイムフォーマットの統合により、先進的なケーススタディでもあった。

堅調な企業ポータル

イントラネットが個々の部門に属する型破りのコンテンツプロバイダーによって行き当たりばったりに構築される、という西部開拓時代的な日々は終わった。今日のポータルはもっと文明化された場所で、すべての利害関係者が参加する中央集権的な統制体制のもと、一元的に管理され、コンテンツやアプリケーション、コラボレーションのための統合化されたプラットフォームを提供している。

まぁ、これは、とりあえず、理想ではある。たいていのケーススタディはまだそこまでは到達してはいない。しかし、順調に進んでいっているとはいえるだろう。