タブレットのユーザビリティ

タブレットのユーザビリティを脅かす最大の脅威は、フラットデザインと不適切に縮尺を変更されたデザインである。そしてその後には貧弱なジェスチャーとワークフローが続く。

  • Tablet Usability
  • by Jakob Nielsen
  • on August 5, 2013
  • 日本語版2013年8月22日公開

これまでタブレットユーザーを対象にしたユーザビリティ調査を6回実施してきた。良い知らせは、タブレットのユーザビリティがまぁまぁ信頼できるものであり、初期の、奇抜なiPadアプリのまとまりの頃に比べると、大幅に改善されてきていることである。あれはユーザーをすっかり当惑させることが多かった。

テストしてきたのは数世代にわたる大小のiPadと、(Kindle Fireを含む)Androidタブレットの多数のモデル、(Microsoft Surfaceを含む)いくつかのWindowsタブレットである。そこからわかったのは、ほとんどのウェブサイトはタブレット上でもそれなりにユーザブルで、この環境に適合させるにはごくわずかな修正しか必要ないということだった。(対照的に、携帯電話でのウェブサイトの利用には小さな画面に適応させるため、ずっと多くのデザイン変更が要求される)。

驚くことではないが、人々に自分のタブレットをどのように使っているかを尋ねると、Webの閲覧が例外なく一番に挙げられた。

タブレット専用のアプリケーションにはユーザビリティ上の欠点がたくさんあるが、主な問題は従来のアプリケーションデザインを悩ましている問題と変わらない。つまり、難しい機能やユーザーのワークフローとのずれ、ユーザーが読もうと思わない出来の悪い説明、がそれである。

ユーザビリティに優れたアプリケーションをデザインし、構築しようとすると、相当な量の作業が必要だ。そのうえ、タブレットのアプリには、タブレットのモデルごとにユーザーインタフェースを修正しなければならない等、さらにいくつかの課題もある。これにタブレットの人気度合いと、タブレット上でのウェブサイトの利用しやすさを考え合わせると、そもそもなぜ企業がタブレットアプリを持とうとしないのかという疑問は消える。実際、我々もほとんどの企業にはウェブサイトを重視し、Webのユーザビリティの向上にリソースを注ぐようにアドバイスをしている。たいていの企業はまだその点にかなり問題があるからである。

タブレットアプリは、ウェブサイト以上の付加価値のある機能を提供できるときにのみ作ればよい。たとえば、メインのタスク1つだけをサポートすることに焦点を当てたアプリを作り出す等だ。

とはいえ、どんな場合でも、タブレットアプリをスマートフォンアプリの拡大版にしてはならない。スマートフォンユーザー用と基本が同じデザインをタブレットユーザーにも提供するという、間違った画面スペースの使い方をしている(主にAndroidの)アプリを何百と見た。

フレームの復讐

1996年に、私はWebページのデザインでフレームを利用することを非難した。案の定、初期のそうした酷いフレームは今ではほとんど見られなくなった。インラインフレームやパララックススクローリング等のデザインテクニックの進化で、優れたユーザビリティを保ちつつ、同じ目標を達成できるようになったからである。

しかし、ある種のろくでもないデザインはユーザーの前に現れるためにゾンビのように死からよみがえる。その結果、フレーム的なコンセプトが、今、多数のタブレットデザインで、ユーザビリティ上の問題を引き起こしている。ここでよく見られる2点の問題とは、画面を分割したデザインと検索結果等のための一時的フレームである。

タブレットはスマートフォンに比べれば大きく見えるが、画面としては小さい。したがって、それをさらに小さなフレームに分けたり、表示を分割したりするというのは、ユーザーが2種類の情報に同時にアクセスする必要が本当にあるとき以外は、通常、行うべきではない。画面の一部が分離されるたびに、コンテンツを表示するための残りのスペースは減るからである。

Web UXの浸透

最近のコンピューター利用におけるWebの優勢ぶりを考えると、Webのユーザーエクスペリエンスがプラットフォームの違いを超えて浸透し、人々のタブレットアプリの利用に影響を与える、という考えに我々が行き着いたといっても驚くにはあたらないだろう。ここでの重要な例としては、検索の優勢さと、戻るボタンへの依存の大きさを挙げることができる。

ユーザーはタブレット上で検索をしたがることが多い。その結果、検索結果にも戻ろうとする。しかし、残念ながら、ユーザーが容易に戻ることが可能な目立つナビゲーションオブジェクトとして、アプリの多くは適切なSERP(検索エンジン結果ページ)を提供していない。それどころか、検索結果はゾンビのように何度も甦ってユーザーを困らせているフレームの内の1つに、瞬間的な画面として現れるだけである。

戻るボタンは長年にわたり、Web上でユーザーの頼みの綱だった。タブレット上ではそれはさらに重要だ。タッチスクリーンインタフェースでは、意図しない起動がよく起こるからである。しかし、残念ながら、きちんと戻るがあるアプリですら、ユーザビリティの問題が定期的に起こることがテストで明らかになっている。その機能自体が見つけにくかったり、ユーザーの直前の行動を期待通りに取り消さなかったりするからである。

ジェスチャー問題

ジェスチャーユーザーインタフェースには固有の問題がいくつかあるが、それはタブレットアプリでは最小限に抑えなければならないものである:

  • 意図しない起動: ユーザーは誤って何かに触ってしまうことがよくあるため、そうした結果を取り消すための手段が必要である。
  • スワイプの曖昧さ: 画面が(我々が警告しているフレームのように)さらに小さな区域に分かれていると、ジェスチャーがそのどこで起動されるかによって、同じジェスチャーでも結果が異なってしまう可能性がある。この問題は区域の境界線がはっきりしないフラットデザインがトレンドになっていることでさらに悪化している。
  • 不可視性: ユーザーが自分が行ったばかりのジェスチャーを見ることができない。さらには、タッチすべきものを見ることすらできないこともある。繰り返すが、フラットデザインによってこの状況は悪化している。
  • 学習のしにくさ: 先述したすべての問題が合わさった結果、ジェスチャーを学ぶのが難しくなってしまっている。タップやプレス、スワイプ、ドラッグ、ピンチといった基本レベル以上のジェスチャーを使えるユーザーがほとんどいないため、高度なジェスチャーは存在していないのと同じような状態にある。

こうした固有の問題があるにもかかわらず、テストしたタブレットアプリの大半はジェスチャーをまずまずうまく用いていた。初期の誇張されたスキューモーフィズムも落ち着いてきてはいる。

この先危険

タブレットのユーザビリティを脅かす最大の脅威は以下の2つである:

  • フラットデザイン。ユーザーが自分のできることを容易に理解できるようにしてはどうか。UI要素用の特徴的なシグニファイア不足とスキューモーフィズムとの間に最適な妥協点を見つけることが必要だ。
  • 縮尺を変えただけのデザイン。大きな画面を無理矢理小さくしたものであれ、スマートフォンの画面をグロテスクに激しく引き伸ばしたものであれ、Androidのデザインにはタブレットの実際の画面サイズに適合してないものが多すぎる。(お粗末にデザインの縮尺を変えただけのデザインはiPadやWindowsタブレットにはそれほど多くないが、それはおそらくデバイスの種類の少なさ故だろう)。

フラットデザインによる脅威は流行のトレンドの1つで、ユーザー(と企業)への損害が大きくなりすぎる前に収まることが期待できるだろう。しかし、2番目の脅威はもっと長く続くのではないか。というのも、リソースからくる制約、および、今ある画面スペースに適応できる限りは1つのデザインで十分という甘い考えがその根底にあるからである。

調査のフルレポート

タブレットのユーザーエクスペリエンスのための126のユーザビリティガイドラインが入った、この調査のフルレポートがダウンロードで入手可能。

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調査レポート(英語)