フィールド調査がうまくいかない理由:
よくある5つの問題点
フィールド調査では、訪問の目的を早い段階で伝え、参加者との協力関係を維持し、抽象的な一般論よりも具体的な例を探すことで、調査の目的に集中し、不満を長々と聞くことを避けるようにしよう。
企業の世界では、シャドーイングが広く実践されている。つまり、インターンや見習い、新入社員は、職場の人たちを観察して、彼らがどのように仕事をしているのかを理解しようとする。しばらくの間、経験豊富なスタッフのシャドーイングを行うというのは、特定のタスクのやり方を学習するためによく利用されている方法である。
フィールド調査は、そのシャドーイングに基盤を置くUX調査手法だ。この調査では、参加者が自然な行動を取り、日常生活を行っているところをその環境で観察し、インタビューを実施する。フィールド調査では、多くの場合、特定の活動やユーザーを対象にする。たとえば、ユーザーがどのように購入の意思決定を行い、デバイスを利用し、職場で他者とやりとりをしているのかを確認したいとしよう。その際、重要になるのは、オフィスや自動車、店舗、路上、生産ラインなど、ユーザーがいる場所にどこにでも行くことである。
フィールド調査でユーザーをシャドーイングするときは、そのユーザーの後をついて回って、起こっていることをメモし、その場で介入して質問するか、それともその作業(またはセッション)が終了するまで待って後で質問するかを決めることになる。フィールド調査には、コンテキストインタビューと直接観察の2種類がある。コンテキストインタビューでは、リサーチャーはユーザーの作業中に明確化のための質問をすることによって介入することができる。一方、直接観察では、リサーチャーと参加者のやりとりは、調査対象の作業をしている間は最低限に抑えられ、質問は通常、作業またはセッションが終わるまで保留される。
作業を観察したり、質問をしたり、起こった出来事について話し合ったりするのは、理屈の上では難しくないように思える。しかし、実際には、コミュニケーションがうまくいかなかったり、部署内の政治に阻まれたり、予算やユーザーのリクルートに関わる問題が起こるなど、さまざまな障害に直面する恐れがある。以下に、フィールド調査でよく見られる5つの障害と、それを回避する方法についてのアドバイスを示す。
1. ある時間の長さがあらゆる調査に合うわけではない
現場訪問の時間はどのくらいの長さにするべきか。その答えは、もちろん、調査対象の作業や行動による。調べたいタスクのそれぞれにかかる時間を概算し、話すための時間をそれに追加することで、セッションの長さを見積もるとよい。
とはいえ、フィールド調査の種類によっては、長時間のセッションが実現不可能な場合もある。たとえば、フィールド調査を対面式で実施する場合、特に何回かに分けてユーザーを観察する場合は、かなり長時間のセッションでもうまく運営できると思われる。しかし、リモートでフィールド調査を行うと、画面を見ることからくる眼精疲労により、60分を超える観察セッションを実施して、集中力を維持するのは難しいかもしれない。だが、途中で中断して、明確化のための質問をし、ユーザーとのやりとりができるような場合は、比較的長時間のリモートセッションも実施可能だろう。
一般的な目安として、1人のユーザーに2時間以上かかるスケジュールは組まないほうがよい。大急ぎでさまざまな作業を行って、それを1回のセッションに収めようとするよりも、セッションの数を増やすほうが賢明だからだ。覚えておいてほしいのは、タスクの数は少ないほどよいということだ。なぜならば、観察や分析の質のほうが、観察するタスクの数よりも重要だからである。
そういうわけで、現場訪問の前に行う最初のインタビューでは、参加者のスケジュールと日々の決まった作業についての話をするとよい。そうすれば、彼らの昼休みの時間に行ってしまったり、観察したいソフトウェアが使用されるタイミングを逃してしまったりすることはなくなる。
2. 現場訪問が不満申告セッションになる
あなたの役割が不満を記録することであると参加者が信じている、つまり、ようやくシステムやプロセスに関するすべての悩みについて聞いてくれる人に会える!と彼らが思ってしまった場合、参加者とのセッションが「要求リスト」の話ばかりになる恐れはある。こうした危険性を軽減するために、セッションの目的はアプリケーションまたはサービスに関する「すべての」問題を記録すること「ではなく」、参加者のタスクと日々の習慣を理解することであると明確にする必要がある。参加者の中には、あなたと一緒に検討するつもりの問題のリストを携えて観察セッションに来る人もいるだろう。そういう参加者には、彼らの心遣いに感謝して、不満が書かれたそのリストを受け取り、そのリストはデザインチームに引き継ぐと請け合って、習慣的な行動やプロセスという調査対象の観察に戻ろう。そして、不満のリストを担当者に渡して、その参加者が製品の最新版をどう利用するかを詳しく調べよう。ユーザーは、機能についての要望をするときに、製品全体を考慮に入れていない恐れがあることを忘れてはならない。したがって、彼らにどうしてほしいのかを尋ねるのではなく、彼らの行動や作業、それらが展開されるコンテキストを理解することに集中するほうがよい。
3. 個人のセッションがフォーカスグループになってしまう
フィールド調査は、その個人の活動やコンテキストに没入する必要があることから、一度に複数のユーザーを観察するべきではない。グループでのセッションは避けるようにし、一度に複数のユーザーを観察することで時間を節約したい、という誘惑に負けないようにしよう。
フォーカスグループにもそれにふさわしい時と場所がある。しかし、フォーカスグループは、ユーザーが日常生活で行っていることについての十分なコンテキストを提供するものではない。これは、参加者と他者の自然なやりとりをフィールド調査では無視すべきだという意味ではなく、むしろ、リサーチャーに仕組みを説明してもらうために、他者にまでセッションに参加してもらうことは望まないという意味である。一方、まれではあるが、2人のユーザーが常にペアで作業するような場合は(ペアプログラミングなど)、2人でフィールド調査セッションに参加してもらってもよい。
4. 人間関係のモデルに歪みが生じる
フィールド調査では、参加者と協力関係を築くことによって、参加者に作業の様子をガイドしてもらい、気持ちよく彼らのエクスペリエンスを共有してもらう必要がある。しかし、こうした関係のおかげで、ユーザーがセッションにバイアスをかける行動を取ってしまう恐れもある。たとえば、質問をするのに大半の時間を取られるようになり、セッションがインタビューのようになってしまったら、再び作業に集中するようにして、話しをするのは一時中断したほうがよい。
また、自宅のようなプライベートな空間もバイアスが生じやすい。調査参加者は、思いやりのある友好的なホストでありたいと当然思うわけで、その結果、食べ物や飲み物を提供したり、観察者と会話しようとするなど、観察者に気を使いすぎることが考えられるのである。(どの程度、こうした行動を取るかは、文化によって大きく異なる可能性がある)。こうした行動パターンは、ユーザーの行動を通常とは異なったものにする。参加者にホストとしての役割を果たしたと感じさせ、彼らが目の前のタスクに集中できるように、コップ一杯の水を快く受け取ってみてもいいだろう。
5. 抽象的な説明によって具体的な行動が見えなくなる
ユーザーが普段どおりの行動をする代わりに、それを口で説明したり、あるいは彼らが将来するかもしれないことを話してくれるような場合、内容がかなり漠然としたものになり、具体的な出来事の詳細が軽く扱われてしまう危険性がある。説明が要約されたものであるかを確認するには、「一般的には…」、「私たちの会社では…」、「私たちは通常…」といった言い回しを探すことだ。リサーチャーは、参加者に作業について順を追って説明してもらったり、深掘り質問をしたりすることによって、抽象的な回答ではなく、具体的な事例を話すように彼らを誘導する必要がある。たとえば、朝をどういうふうに過ごしているかと尋ねてしまうと、その回答の詳細度は、今朝、どう過ごしたかを尋ねた場合とはまったく異なるものになるだろう。
結論
フィールド調査を行うことで、デザインチームは、顧客の実際のエクスペリエンスに基づいて開発を進めていくことができる。この調査手法は、ユーザーの普段の環境で彼らと一緒に時間を過ごすというものなので、かなり融通が利くし、本質的に深い内容になる。しかし、一部のステークホルダーは、観察者効果(参加者は、観察されているとわかっていると、行動を変える恐れがある)があるということで、民族誌学に基づいた手法には懐疑的だ。本来の民族誌学者は、観察者効果を考慮し、研究者の存在に慣れてもらうために、長い時間を調査参加者と一緒に過ごすものだからだ。
UXリサーチャーには参加者を長時間観察する余裕はない。しかし、フィールド調査からでも貴重な知見を得ることは可能だ。適切な設定(調査時間、期待値の設定、協力関係の構築など)を行うことで、参加者はすぐに自分の作業フローに入り込むことができ、あなたがそこにいることを忘れてしまうからだ。集中してディープワークを行っている瞬間、ユーザーは最終的にはデフォルトの行動や反応に戻っていく。それを観察することで、リサーチャーは結果的にUXの改善を促進させる貴重な知見を引き出すことができるのである。
参考文献
Hugh Beyer. and Karen Holtzblatt., 2017. Contextual Design: Design for Life Ed. 2, Morgan Kaufmann Publishers.
変更履歴
同日16時:見出し “#1: One Length Does Not Fit All” “2: Field Visits Become Complaint Sessions” “5: Abstract Descriptions Hide Concrete Behaviors” 、本文の “field visit” の訳を変更しました。