ペルソナが失敗する理由

ペルソナはUXの作業に有益なツールであるのに、なぜしばしば失敗するのか。ペルソナの失敗の原因になる問題と、そうした問題を回避して克服する方法を知ろう。

  • Why Personas Fail
  • by Kim Flaherty
  • on January 28, 2018
  • 日本語版2018年8月30日公開

ペルソナは私にとってのお楽しみだ。私はペルソナの1日トレーニングコースを担当していて、ペルソナがどういうもので、なぜ機能し、どのように作成して、素晴らしい成果を挙げるためにはどう利用すればよいのかなどを教えている。私はこのコースを教えることを楽しんでいる。というのも、ペルソナは、UXという非常に分析的な分野で最も抽象的な要素の1つだからだ。私はこうした抽象的なテーマの謎を解明して、具体化し、UX実践者が遭遇しがちな問題を指摘することが大好きなのである。

ある製品に対して同じような態度や目的、行動を取るターゲットユーザーのグループを架空に作り出して、一般化したものがペルソナだ。ペルソナは、その製品の顧客に関連性の高い意味のある性質を人物のかたちにまとめた概要といえるが、ユーザー調査をベースにしている。ペルソナの見た目はほぼ以下のようになる:

図
ペルソナの例(出典:www.christinanghiem.com/images/persona-01.jpg)

ペルソナは抽象的なため、長年にわたって、誤解されたり、誤用されたりしてきた。ペルソナは作成されても、さまざまな理由によって失敗することが多い。UX実践者はたいてい、ペルソナに関して苦い経験を経て、何が悪かったのか、そして、どうすれば次はもっとうまくいくのか、という答えを探しに、私のクラスにやってくるのである。

そこで、この記事では、ペルソナの失敗の原因として最もよくある問題を分析し、今後、成功するための方策を提供したい。

ペルソナを作成したのに利用されなかった

一度、ペルソナづくりを失敗したことが、将来成功するための最大の障壁になることは多い。ペルソナがプロジェクトに有意義な影響を何も与えられないまま、途中で挫折するのを見てきた人たちは、ペルソナを愚かな時間の無駄遣いだと、それ以降ずっと決めつけてしまいがちだからだ。こうした懐疑論者に、ペルソナは価値がある、ということを納得してもらうには強く働きかける必要がある。しかし、彼らを教育し、(あなた方自身の組織での例が理想だが)ペルソナの成功例を示せばうまくいくはずだ。

ペルソナは機能する。より正確にいえば、たいていの場合、機能する。しかし、人間は一度しか見ていないものを一般化する能力にたけている。そのため、経験した一度きりのペルソナ(などのUXのテクニック)のエクスペリエンスが苦いものだった場合、その人がこうしたテクニックに興味を失ってしまうのはわからなくもない。だが、たった1つの例から一般化をするのは誤っていると指摘することで、ほとんどの人の論理的な側面に訴えることはできる。とはいえ、前回は何が悪かったのかを突き止め、次のペルソナのプロジェクトではそうした間違いを確実に回避できるようにしなければならない。この記事ではこの後、ペルソナのそうした最もよくある問題について論じる。

「ペルソナなんてうまくいかないよ。前に作ったことがあるけど、誰も使わなかったし」

上層部からの賛同がない

ペルソナの取り組みに対して意思決定をおこなう人たちからの賛同が得られない場合は、スタートすることすら難しい。上層部が懐疑的なのには、ユーザーがどういう人たちかが「すでにわかっている」などの何らかの理由がある。

「でも、スーザン、なんでお客さんと話しをして調査するのに時間やお金をかけようとするの? 私たちはお客さんがどんな人かはもう知ってるでしょ。25年もお客さんたちのことを調べてきてるんだから!」

そう、彼らがすでに顧客に関するたくさんの情報を持っているのは事実だ。そのため、自分たちが長年、仕事の対象にしてきたユーザーをさらに調査するということを正当化しにくいときもあるだろう。このような場合は、ペルソナを考え出し、それを調査の成果物というよりは調整ツールとして提示するほうがメリットがある。全員が顧客についてすでにたくさんのことを知っていても、それぞれの知識や仮定が揃っていないと、共通の土台がないために意思決定に混乱が生じるからである。

ペルソナを作成・設定することの最大のメリットは、全員が同じ立場で集中して考えることのできる特定のユーザータイプが明確になることだ。ユーザーの代表を具体的に設定することで、自分たちのためにデザインしてしまったり、「そのユーザー」が欲しがっているものに反対するといったことをしないですむようになる。

ペルソナを縦割り型システムで作成して、強要する

ペルソナが広く採用され、有意義な影響を与えるための最大の障壁がこれだ。ペルソナをUXチーム単独の取り組みとして請け負って、美術作品のように発表するようなことはしてはならない。そうしてしまうと、アート作品のようにパーティションの壁に貼り出され、たまに感心されるといった使い方しかされなくなるからだ。

「このペルソナは一体どこから来たんだ?」

利害関係者がペルソナを利用するには、彼らがペルソナの正当性を信じ、それに時間や労力をつぎ込んだと感じていて、当事者意識をもっている必要がある。また、最も成功するペルソナとは、作成にエンドユーザーが関与しているものだ。そうしないと、ペルソナがデータを元にして、厳密に作られているとは理解してはもらえない。UXチームはこの数週間、何かの読み聞かせをしに出かけているが、インチキ集団のように登場して、皆に協力を頼んでいるだけだと同僚たちに思われている可能性もある。しかし、これは我々が組織内に作り出したいと思っている態度では「ない」。

この問題を回避するには、ペルソナの作成プロセスに、そのペルソナのエンドユーザーを加える必要がある。そして、利害関係者には、調査セッションを傍聴するように勧めよう。ペルソナ作成のために取り組んでいる活動の要約を毎日送信しよう。また、早い段階で、どのように調査から顧客セグメントを見つけるのかがわかるようにするとよい。そうすれば、こうした先行投資のおかげで、ペルソナを公開したときには、ペルソナは正当で価値があるものだと皆が考えるようになっているだろう。

コミュニケーションの失敗:ペルソナがどういうものなのか、それがなぜ有益なのかを知らない

ペルソナは作成してみたものの、その後、何も起こらず、ペルソナについての議論も徐々にされなくなった。そして、ペルソナは今ではどこかの共有ドライブ上でほこりをかぶっている。プロジェクトに影響を与えるためのペルソナの効果的な利用方法を知らないと、こういうことになることが多い。これは結局のところ、コミュニケーションと教育がうまくいっていないということだ。

「ペルソナって何? ああ、去年、誰かが送ってきた写真が載ってたやつのこと?」「それを使っていったい何するの? 私たちの仕事にどう役立つの?」

ペルソナとはA4サイズの配布資料のことを指すのではない。そうした資料はペルソナを説明したものにすぎない。本当に望ましいのは、ペルソナがそうした書類から離れて、同僚たちの心に入り込むことだ。すべての議論や判断がおこなわれるたびに、自然にかつ有機的にペルソナについての言及があるべきなのである。したがって、ペルソナは作成するだけでは駄目なのだ。発表した後に、今日はここまで!というようにそこで終わらせないようにしよう。

ペルソナがどうして有益なのか、どのように参照したらよいのかを誰もが知っているわけではない。利害関係者を教育し、ペルソナの効果を説明して、プロジェクトでの利用の土台固めをするかどうかはあなた方次第だ。模範を示して先頭に立とう。作ったペルソナが尻つぼみにならないようにしなければならない。ミーティングでは継続的にペルソナの話題を持ち出し、議論の土台作りをしよう。結局のところ、ペルソナを設定して、その正当性を信じてもらうことができれば、ペルソナの価値の90%を提供したことになる。また、利害関係者がペルソナの価値を理解できるようにするだけではなく、プロジェクトでの公式な利用方法のアイデアも提供するといいだろう。

中心になってくれる支持者のグループを作って、ペルソナの取り組みを牽引してもらおう。昼食時に説明会を開催したり、何度かランチミーティングをするとよい。開発チームを訪問して、作成したペルソナがどこから生まれたもので、どうやって使うとよいのかを紹介しよう。テストに代表的なユーザーをリクルートする方法や、デザインのインスピレーションやユーザビリティテストのタスクのためのシナリオの作成方法、作成したペルソナのデータによってアナリティクスデータをセグメントする方法を教えよう。もし彼らが取り組んでいるのがアジャイルプロジェクトの場合は、参考となるユーザーデータとしてペルソナを使い、セレモニー(ミーティング)や議論に影響を与える方法を指導しよう。

ペルソナには根本的な欠点がある

ペルソナは1つ作ればすべてのケースに当てはまるような汎用的なツールではない。したがって、明確に定義された具体的な目的をもって利用する必要がある。ペルソナを有益なものにするには、ペルソナに取り込むデータは、そのペルソナの目的や想定している業務範囲を反映すべきなのである。

自分たちのニーズに合わないツールを作成してしまったり、まったく異なる目的のために作成したペルソナを(再)利用してしまうことは多い。しかし、それは丸い穴に四角い釘を入れようとするようなものだ。

銀行向けに作成された以下の2種類のペルソナについて考えてみよう:

  1. 広範囲のマーケティング用ペルソナ:大手銀行のマーケティングチームから依頼されたペルソナのセットで、普通預金、当座預金、住宅ローンといった、銀行のさまざまな商品のすべての顧客を表現するためのもの。このペルソナの対象になる目的や範囲は非常に広い。そのため、このペルソナに集約され、組み込まれる情報は非常に一般的なものになるので、主にマーケティング部門が商品のメリットを潜在的な顧客に伝えるのに有益である。
  2. ターゲットを絞ったUX用ペルソナ:普通預金口座の顧客向け決済サービスのデザイン変更をおこなっているプロジェクトチームから依頼されたペルソナのセット。この2番目のグループが対象にしている目標や範囲は非常に粒度が細かい。このペルソナに組み込まれる情報は、新しい決済機能のインタラクションデザインやユーザーエクスペリエンスに良い影響をもたらすだろう。

決済サービスのプロジェクトに広範囲のマーケティング用のペルソナを利用したらどうなるかを想像してみるとよい。そこにある情報では具体性に欠け、役に立たないことだろう。また、その逆に、新規顧客獲得用のマーケティングツールの作成に、決済プロジェクト用のペルソナはそれほど有益ではない。

結論

あなた方の組織でペルソナの取り組みがうまくいかなかったことがあるなら、その理由は上記のよくある問題のうちのどれかではないだろうか。どこで間違ったのかを特定して、プロジェクトという船の向きを正しい状態に戻そう。また、初めてペルソナを作成しようとしているなら、今回挙げた問題をチェックリストにして、途中で出てくる課題を回避したり、対処したりするとよい。

アクションプランをまとめて、ペルソナを上層部にプレゼンしよう。以前の失敗について分析して、対応策に取り組み、ペルソナのビジネス価値を伝えて、合意を形成するとよい。そして、同僚を教育して、ミーティングではペルソナについて言及するようにし、プロジェクトでのペルソナの存在を揺るぎないものにしよう。これまでの状況を調べて、ユーザーの代表をプロジェクトで具体的に設定し、それを利用することで成功した例を積極的にPRしよう。

今回紹介したよくある問題を回避することができれば、最初からペルソナの取り組みを成功させることができ、反対論者も納得して、「ペルソナなんてうまくいかないよ。前にやってみたことがあるけど、誰も使わなかったし」とは二度と言われなくなるはずだ。

そうなれば、あなたにとってもペルソナはお楽しみになるだろう。