機能性表示食品市場の読み方(1):
トクホと同成分なのに少しリーズナブルな機能性表示食品

日々トレンドを追っている研究者・リサーチャー・マーケターに、最近の市場の流れを語ってもらう、トレンドリサーチ対談。今回は、機能性表示食品市場の見込みと市場成長の方向性について、シード・プランニングの奥山氏と対談しました。

  • U-Site編集部
  • 2015年8月5日

左:株式会社イード リサーチ事業本部リサーチ事業部の田村嘉康、右:株式会社シードプランニングの奥山裕子氏。機能性表示食品制度に関する意識調査をもとにした対談(インタビュー実施日:2015年5月20日)。

予防・未病の観点で投入した機能性表示食品

田村: 奥山さんが専門領域として追われてきた「ヘルスケア」ですが、健康食品市場は近年中に2兆円を超すと予測されています。医薬品市場だけではなく、こういった健康食品市場が拡大してきている背景はどのようなものなのでしょうか。

奥山: 先日弊社が発行した「2014年版 特定保健用食品・栄養機能食品・サプリメント市場総合分析調査」というレポートがありますが、これは2000年ごろから継続して追ってきたテーマで、高齢化社会に突入して医療費が30兆円に近づいたころから、国の政策として医療費削減のためにセルフメディケーションの考え方がさらに着目されるようになりました。これは自分の健康は自分で守ろうというもので、世の中では病気が発覚したあとの治療だけではなく、病気になる前の予防や未病の時期も認識して病気になる前のケアに力を入れていきましょうという流れになっています。

田村: 病気になってから治療するのではなく、病気になる前から自分の健康を自分で守ることに気を配るという流れですね。かつての健康食品やトクホ、そして4月に施行された機能性表示食品制度の流れが、自分の健康を自分で守るという流れですよね。

奥山: 2008年にさかのぼりますが、特定健康診査・特定保健指導が導入されることになって、メタボリックシンドロームが話題になりました。この流れに合わせて、各メーカーが体脂肪やメタボリックシンドロームに焦点をあてて訴求したトクホ飲料や食品をこぞって発売しました。自分の健康を自分で守る具体的な商品が出てきたことで、みなさんが自分の健康に気を付けるようにしようということにつながったのです。

実際、トクホ市場の急激な伸びに伴い、健康な日々を過ごせる食品として健康食品やトクホの商品数も延びました。

トクホと機能性表示食品はメタボやロコモ防止で日々の生活を手助けする

田村: トクホ商品というと、体脂肪やメタボリックシンドロームに目がいきがちですが、トクホ関連商品はそればかりではなく、高齢者が日々の生活をより健やかに過ごすための商品も出ていますよね。

奥山: 高齢に伴う体の症状として、病気ではないのに体に不調を感じることがあります。代表的な不調はひざが痛いというものですが、痛みを感じる方の多くが医師の診断を受けて薬の投与を受けるほどの不調ではないと思っています。しかし、不調が続いてもいいとは思っていなくて、これ以上進行しないようにしたいというニーズがあります。また、病気ではないことがわかっているものの、改善できるならば少しでも改善したいというニーズもあります。これらをロコモティブシンドロームといいますが、ロコモティブシンドロームを放置すると、徐々に体の不調が強くなっていき、やがて体を動かしにくくなっていき、いずれはメタボリックシンドロームや認知症という病気につながる可能性もあります。

たとえ、ロコモティブシンドロームでなくても、高齢になるとアルツハイマーや認知症を予防したいというニーズが高まります。日々の生活で予防したいと考えるので、健康食品に目が向きがちになります。

メタボリックシンドロームにロコモディブシンドローム。言葉だけが先行して世の中に広まっているが、該当者にとっては医師の診察も受けにくい切実な課題である。食品の持つ機能を露出できる機能性表示食品の意味は、健康的な日本社会の形成につながる。
メタボリックシンドロームにロコモディブシンドローム。言葉だけが先行して世の中に広まっているが、該当者にとっては医師の診察も受けにくい切実な課題である。食品の持つ機能を露出できる機能性表示食品の意味は、健康的な日本社会の形成につながる。

田村: 予防や未病へ着目する機会は、メタボリックシンドロームやロコモティブシンドロームへの対策ニーズから始まるわけですね。このほかの機会としては、ダイエットニーズもありませんか?

奥山: アメリカではダイエットの意識が強くありますが、ダイエットというよりも大きな意味での美容全般かもしれません。ここには、加齢に伴う美容やアンチエイジンクへの考え方も含まれます。

当初は、健康という流れから健康食品への着目がはじまりますが、やがては美容の側面でも健康食品をとらえるようになることがこの分野の商品の特徴です。

日本再興戦略の1つ。健康産業に民間投資が流れ込むことを期待した

田村: ところで、数年前には閣議で日本再興戦略が決定して、健康・医療が戦略分野になりました。これは日本にどんな影響を与えていくと考えますか?

奥山: 2013年6月に閣議決定して、日本国民の健康寿命を伸ばすことを目的にして、内閣府の中に健康・医療戦略推進本部が設置されました。着目してほしい点は、「平均寿命を伸ばす」のではなく、「健康寿命を伸ばそう」としているところです。健康寿命を伸ばすことは、病気になって病院で長生きするのではなく、健康に老いていこうということです。

一般的に、体の不調は70歳ごろから強く感じ始めます。平均寿命を84歳とすると、70歳から84歳までの14年間が不健康な時期になりますが、健康寿命を伸ばして不健康な期間を短縮してQuality of Lifeを高めます。この結果、健やかに老いることになり、医療費問題の解決にもつながります。

同時に、医療をとりまく産業を戦略産業として位置づけ、日本を活性化させようという動きもあります。いずれにしても、国をあげて健康産業を活性化し、健康寿命を延ばして病気や不調を減らすことに取り組もうというものです。

田村: 国が医療をとりまく産業を戦略産業とするというと、健康産業はこれまで滞っていたようなイメージを持ちますが、そんなことはないですよね?

奥山: 大きな伸びもなく、鈍化もしていなかったです。そこへ、「日本再興戦略」改訂2014のアベノミクス第三の矢のテーマとして、健康推進に民間投資を喚起するという成長戦略が盛り込まれました。これからの日本をより強くしていくには、健康産業の成長が必要だと判断したわけです。そして、健康推進策の1つとして、機能性表示食品も含まれました。

田村: 機能性表示食品法の施行によって、健康市場の拡大と日本の市場を広げていく成長戦略が始まりました。消費者庁には4月1日段階で100件以上の届け出があり、5月中旬で21件の商品群が受理されています。受理された商品数はいまでも増えていますが、機能性表示食品はどういった機能のものが受理されているのでしょうか。

奥山: 第一号の商品は、ライオンの「ナイスリムエッセンス ラクトフェリン」です。ライオンはラクトフェリンを使った商品をトクホで販売しておらず、機能性表示食品で販売を開始します。ライオンの訴求方法は、トクホと同じで、内臓性脂肪を減らすという訴求をしています。

キリンビバレッジの「食事の生茶」はトクホ商品で使われている難消化性デキストリンが成分です。キリンビバレッジは「メッツコーラ」ですでにこの成分を使っているので、「食事の生茶」をトクホとして申請すれば、トクホ商品としても流通させることもできます。

キリンビバレッジの戦略は、激戦のトクホ緑茶系飲料市場に認可コストをかけて参入するのではなく、トクホと同じ成分でありながらスピーディーに認可が得られる機能性表示食品にしたという点です。

この流れはとても重要で、トクホで使っている関与成分を入れた機能性表示食品も出てくるでしょう。

機能性表示食品が店頭に出回り始めた。はじまったばかりの制度のため、これまでの健康食品となにが違うのかなど、生活者には混乱も生じている。
機能性表示食品が店頭に出回り始めた。はじまったばかりの制度のため、これまでの健康食品となにが違うのかなど、生活者には混乱も生じている。

トクホと同じ成分を使うことで、販売価格で優位に立てる戦略

田村: トクホと同じ成分を使うとなると、マーケティングコストをそれほど投入せずに、売れる見込みがあるものが作れます。マーケティングのスピードとコストを重視するのであれば、すでに出回っていて効果が分かっている成分から攻めるというかたちが増えそうです。

奥山: これから参入するメーカーは、こうしたことを意識しながら参入するでしょうし、飲料系商品では効果がある成分を使って機能面で付加価値を追求したり、有効成分を使ったサプリメントも出てくるかもしれません。いずれも、機能性表示食品であれば、臨床試験をせずに製品開発ができるので、有効成分をいろいろな食品へ展開しやすくなります。

キユーピーとアサヒフードアンドヘルスケアは、認知度の高いヒアルロン酸ナトリウムを使った商品を出しているので、ヒアルロン酸の機能を全面に押し出しています。さらに、ファンケルの「健脂サポート」は、トクホでも使われているモノグルコシルヘスペリジンが成分で、サプリメントでよく見かけます。こうした成分をもつ食品が、機能性食品として受理されていて、認知度の高い成分を使った商品が多いのが現状です。

田村: ヒアルロン酸の市場は飽和状態になっていて伸びも止まっています。ところが、ヒアルロン酸を使った機能性表示食品が投入されることで、市場が再び盛りあがるかもしれません。ヘルスベネフィットの表示で市場が活性化できるならば、機能性表示食品は停滞している市場を再度活性化できるかもしれません。これは制度がもたらすかもしれない新しい発見で、市場での有効性を示すものになるかもしれません。この側面で現在公開されている機能性表示食品の商品群を見たときに、何か気になる成分を使った商品はありますか?

奥山: ファンケルの「えんきん」は、ルテイン、アスタキサンチン、シアニジン-3-グルコシド、DHAと複合的に成分を入れることで、ヘルスベネフィットを作っています。今後は複合成分で他社との差別化をしかけていくメーカーが増えて、メーカー間の競争が始まるかもしれません。

ところが、この制度は病院に行くほどではないけれども、体に不調があるという人に向けた食品であることが特徴です。あらゆる有効成分を入れればいいのではなく、疲れ目を緩和したり、膝が痛いのを軽減するなど、薬を処方するほどでもないけれども、なんとかして症状を和らげて進行を抑えたいニーズに対した食品作りになるでしょう。

田村: 機能性表示食品はマーケティングコストを抑えられるので、価格での差別化もできます。こうした背景を考慮すると、機能性表示食品の販売価格帯は、どれぐらいになると思われますか?

奥山: 機能性表示食品は、届け出を受理するまでにかかる年月が短く、コストも低くすむので、一般の商品に近い価格帯で販売できると思います。このことは、マーケティング戦略として考えていかないといけないでしょう。

機能性表示食品の価格は、おそらく既存商品とトクホの間あたりになるでしょう。普通のお茶が120円なら機能性表示食品が140~150円、トクホは170円といった価格帯で、トクホよりは安価で通常の商品よりも少しだけ高い金額帯になりそうです。

(第2回「店頭の棚をめぐってマーケティング合戦が勃発する」へ →)

2015年12月3日追記: この対談記事は、当初、3回シリーズとすることを予定しておりましたが、都合により2回で完結とさせていただきます。ご了承ください