Usability Professionals' Association
ユーザビリティに関連した発表が行われている学会としては、ACM SIGCHI(Special Interest Group for Computer Human Interaction)やHFES(Human Factors and Ergonomics Society)などがあるが、これらは一般に研究成果の発表の場という性格が強い。ただし、ユーザビリティに関連した研究、特に新しいユーザビリティ評価法などの技法の開発は、1980年代後半から1990年代前半にあらかた行われてしまった感があり、SIGCHIなどでは、最近は講習会のテーマとしてユーザビリティは盛んに取り上げられているが、研究発表の数はさほど多くなくなってきている。
SIGCHIでは、前半の講習会と後半の学会で、参加者がかなり入れ替わるのは有名な話で、前半は実務担当者が最新技術や動向を習得する目的で参加しており、後半は研究者が自分の研究成果を発表する目的で参加している傾向がある。
これに対して、UPA(Usability Professionals’ Association)という学会は、実務家が実務家にむけて発表をし、またお互いに研鑽しあう場という性格をもっており、現在ユーザビリティ関連ではもっとも活発な中心的学会ということができる。
名称がユーザビリティ専門家の学会となっていることからも想像できるように、これは実務家を中心にした学会である。今手元に会員名簿(1997年版)がある。会員総数のような統計値は出されていないが、1ページ平均24名掲載されていて、36ページあるから、およそ860人程度が登録会員の数ということになる。その意味では小規模な学会で、毎年の大会参加者も(全員が登録会員ではないにしても)700人程度である。
ちょっと気になったので、名簿登録者のうち大学の人間が何人いるかを数えてみた。CMUやStanford Univ.それにShizuoka Univ.(これは私)などを含めてたったの24人であった。このほかに若干の政府関係者(NISTなど)がいると思われるが、9割以上は企業関係者ないしコンサルタントという実務家であるといえるだろう。
この学会は毎年アメリカ各地で大会を開いているが、今年はNorth Carolina州のAshvilleというところで行われた。前半が講習会、後半が発表というパターンは一般的なものであるが、参加者が多くないため、たとえば講習会は小さな部屋で十数人の参加者で行われることが多い。そのため私が出席した講習会では盛んに質疑応答がなされており、時には参加者同士で議論が始まることもあった。こうした点は小規模学会の良さであると感じた。また発表も、参加者が聞いて役に立つことを念頭に置いているらしく、発表時間が90分またはショートで45分と長めであり、特に90分の発表は、発表というよりは講演といった方がいいようなものである。
また、一般発表と同じ時間に招待講演が被さっており、J. SpoolやJ. Nielsenなどの講演が行われていた。(特にNielsenの講演は超満員であり、それと同じ時間帯になってしまった私の部屋や他の部屋は閑散としてしまった。残念)。したがって4パラレルで行われるにしても全体の発表件数は多くない。
発表される内容をプログラムから拾ってみると、今年は、方法論に関連したものでは、言語プロトコルデータの取り方についてのものやログツールの活用法についてのものなどがあった。しかし数の多いのは、より実践的な内容のものであり、企業でのユーザビリティ活動とコンサルタント活動の比較、ユーザビリティの企業内での位置づけ方、キラーアイデアを創出するために適切な人材配置を行うこと、ユーザリサーチのための時間を確保することの重要性などのテーマで発表が行われていた。
また、実践活動報告もあり、対話型テレビプログラムの設計や車載PCのユーザビリティに関する報告などがあった。また、今年の特徴として、WEB関連のものが目立っており、たとえばWEBのフォーラムをユーザビリティに利用する方法とか、WEBナビゲーションに関する効率的なユーザビリティ調査法などの発表が行われていた。
日本でも、ヒューマンインタフェース学会にユーザビリティ研究談話会があり、160名ほどの登録メンバーで活動をしているが、談話会という性格上、少なくともこれまでは年間2,3回の講演や依頼発表による活動が主体となっており、UPAのような形での活発な活動をできるようになるかどうかは今後の課題といえよう。もちろん、その背景には、ユーザビリティ活動が社会全体に根付いている米国と、これからの日本との違いもあることを指摘する必要があるだろう。