ISO 13407におけるユーザビリティの概念

人間中心設計に関する国際規格であるISO13407では、ユーザビリティという概念を、有効さ(effectiveness)と効率(efficiency)、それに満足度(satisfaction)という要素から構成されるものとして定義している。Tom StewartがISO13407をまとめるにあたっては、基本的な概念の定義については、Nigel BevanがとりまとめたISO9241-11に準拠しており、この定義の大元はISO9241-11にあるといえる。

また、現在、アメリカのNISTが中心になって文書規格としての最終テスト段階に入っているCIFにおいても、ユーザビリティという概念の定義には、ISO9241-11やISO13407と同じく、有効さと効率、満足度というものが使われている。CIFは、いずれANSI規格として制定する方向で検討がなされており、ゆくゆくはISO規格にも提案しようと考えられていることからすれば、それは当然の流れともいえるだろう。

ところで、この定義は、Jakob Nielsenが提唱しているユーザビリティの概念とは多少異なっている。Nielsenは、ユーザビリティをユーティリティと対比的に用いており、それらの上位概念としてusefulnessという概念を位置づけているからである。私は、Nielsenの使っているusefulnessという概念は、ISO13407におけるユーザビリティという概念とほぼ同じものと考えて良いと思っている。なぜなら、有効さの定義である「ユーザーが、指定された目標を達成する上での正確さと完全さ」ということは、ユーティリティの面で、ユーザのやりたいことを実行できる機能が用意されていれば達成されると同時に、(Nielsenの使っている意味での)ユーザビリティの面で、わかりやすい操作手順で間違えずに機能を実行できれば達成されるからである。

また、効率の定義に関していえば、その定義である「ユーザーが、目標を達成する際に正確さと完全さに費やした資源」は、ユーティリティ面で、簡単操作で短時間に実行できれば達成されると同時に、ユーザビリティの面で、エラーなしに正確に実行できても達成できるからである。さらに、満足度の定義に関しては、「不快さのないこと、及び製品使用に対しての肯定的な態度」ということは、ユーティリティの面で優れていても、ユーザビリティの面で優れていても、起こりうることだからである。このように考えると、ISO13407のユーザビリティの定義は、Nielsenの定義におけるユーティリティとユーザビリティの両方を含んだものであり、Nielsenのいうusefulnessと同じものと考えて良いと考えられるのである。

私個人としては、Nielsenの定義の方が、インタフェースのポジティブな面としてのユーティリティと、ノンネガティブな面としてのユーザビリティを区別しているという意味において、また、usabilityという言葉がuse+ableという語源からしてインタフェースの必要条件を規定しているにすぎないことを過大評価していないという意味において、優れていると考えてはいる。

しかし、今や産業界はISO13407への対応に向かって大きく動き始めている。したがって、この規格の中におけるユーザビリティの定義が、これからのスタンダードになってゆくであろうと予想している。まあ、言葉というものは、長いこと使われている間に、その意味が拡大されることはしばしばあるので、このような傾向も仕方ないだろうとは思っている。

ただし、ユーザビリティの中に有効さと効率を入れることについては妥協できても、満足度を入れることについては個人的には反対である。有効さと効率については、かなりの程度客観的に測定できるし、CIFにおいてもそうした指標がmetricとして規定されているが、満足度については、主観的にしか評価できず、CIFにおいてもSUMIやSUS、QUISといった主観評価尺度を利用することになっている。

心理学的な態度尺度や感覚尺度が客観的であるかどうかという点については、元心理学の学徒としてもそれなりの客観性があることは認めるが、そもそも特定の価値観や価値体系によって異なる結果となるであろう満足度というものをユーザビリティという概念の中に含めたことには反対の気持ちを持っているのである。

私はuse+ableであることは、人間の基本的な動作や認知の仕組みと関係していると考えており、それ以上のものではないと思っている。したがって価値観や価値意識のような高次の判断体系や感情、動機付けなどに関連した側面は、ちがった概念として定義されるべきだと思っている。たとえばvaluableというような概念をユーザビリティの上位概念として持ち込むなら、そうした問題は解決できるように考えているのだがどうだろうか。

公開:2000年10月10日
著者:黒須教授

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