ユーザビリティをどう説明するか

ユーザビリティについてまだなじみのない人たちに対して、その概念を説明するのはなかなかに厄介なことだ。いや、もちろん面倒臭がってはいけない。もっと多くの人に、その意義を理解して貰わねばならない現状だからだ。

いちばん分かりやすいのは「ほら、こういう問題があるでしょう。こういうことを無くさなきゃいけないと思いませんか」といったアプローチである。問題指摘型、つまり評価中心のアプローチである。

実際、ユーザビリティ活動の歴史を振り返っても、その活動は評価からスタートしてきた。その結果、様々な評価手法が提案され、実際に利用されてきた。しかし、このやり方には、ユーザビリティ活動が問題改善型のアプローチとして捉えられてしまうという問題があった。さらには、「そんな些末な問題だったら特に時間をかけて検討する必要はないでしょう。そもそも設計されているやり方にしたがって使っていけば、ちゃんと使えるんだから」とか「そういう活動をしても、それがどの程度売り上げに反映されるのか」といった指摘を受けることが多かった。いわゆるsmall usabilityの活動が陥った限界性である。

しかし、ユーザビリティの重要性を理解してもらうためには、やはり問題指摘が効果的なのも事実だ。問題を提示されると、それを放置していいとは言いづらくなるからだ。ハイライトビデオなどで現実に困惑しているユーザの姿を見せられると、「たしかに・・」と改善の必要性を理解してもらえるからだ。

逆に、いきなりISO9241-11の定義を示して、これがユーザビリティです。だからこれを目指してやっていきましょう、と言ってもすぐに共感を得られることは少ない。少なくとも抽象的な表現で「有効さ」とか「効率性」とか「満足」といっても、それがどういうことなのか理解してもらうのは困難だし、具体的に説明をしても、「まあ、それは結構なことだとは思うけど、それってユーザビリティなんですか」となってしまうことがある。

特に難しいのは「満足」だ。満足という概念に関係している事柄は多岐にわたり、有効さや効率性だけでなく、安全性や信頼性も、またユーザの側の感情や動機付け、価値観なども影響してくる。かなり広範な概念であり、逆にいえば規定することが難しい概念であるともいえる。いわゆるbig usabilityの中で、位置づけや説明が最も困難なのがこの満足ということだろう。

さてどうしたらいいだろう。僕は次のように考える。

(1) まずは具体的な問題点を示し、そうした問題を引き起こさないことの重要性を理解させる。

ここでポイントは、すぐに解決アプローチに至らないことだ。「ここをこうすれば使いやすくなるんですよ、だから評価手法を使って問題点を見つけ出せば、機器やシステムのユーザビリティを向上させることができるんです」と言ってしまうと、small usabilityと同じ結果に陥ってしまう。

(2) そうした問題が発生した原因を設計プロセスに求める。

「こうした問題が発生したのは、設計の時にユーザが何を求めていて、どのようなことを考えるかをきちんと予想していなかったからなのです。だから、設計の前段で、そうした問題の発生しないような対策を講じておくことが必要なんです」といった言い方をするのが良いだろう。

(3) 問題点の構造を説明する。

相手の受容能力を見極める必要はあるが、この段階で9241-11的なユーザビリティの概念を説明すると、その後の話が進めやすくなる。

(4) 上流プロセスからの一貫したアプローチの必要性を説く

単に設計者のアイデアに頼るだけでなく、もっと根源的に上流から首尾一貫した人間中心設計をとることによって、可能な限り、いろいろな問題点の発生を防ぐことが可能になる、といった話をする。

(5) マーケティングとの相違点を明確にし、多様な関係者によるトレーサビリティの高いアプローチが必要であることを説く。

(6) そして上流で利用すべき手法から説明し、中流でのラピッドプロトタイピングの効果を説明し(形成的評価を含む)、最後に総括的評価について話をする。

僕が講演をするときには、こうした流れで話をすることが多い。聴衆の皆さんの感想文を読むと、それなりに適切な概念イメージを持って貰えているように思う。もちろん、講演という場と、顧客に話をするという場、頭の固い設計担当マネージャを説得するという場では、それなりにバリエーションが必要だ。

しかし、問題指摘の有効性を活かしつつ、本来のbig usabilityを目指したプロセス指向的なユーザビリティ活動を説明するには、かなり有効な説明の流れだろうと考えている。あらためて指摘しておきたいのだが、問題指摘をした直後、そこからsmall usabilityに進むかbig usabilityに進むかという大きな分かれ道がある、ということだ。この点には十分に注意する必要があるだろう

公開:2006年9月5日
著者:黒須教授

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