ユーザ情報のポータルサイト

  • 黒須教授
  • 2003年10月6日

ユーザに関する情報は社内に分散している。たとえば企画担当者は業界動向の数値データを持っている。ライフスタイルに関する分析結果なども持っている。また営業担当者は店頭で顧客に接し、その興味関心などについての情報を持っている。量販店とのつきあいの中で、その関係者によって要約された顧客情報を貰うこともある。受注型のソフトウェアの場合、SEは顧客に接しているので、その要求をダイレクトに聞かされている。また経験を積んだSEは、当初の要求の他に、後になってからどのような要求が追加されそうかという予測をすることもできる。保守担当者はユーザの利用現場に直接赴くため、実際に利用されている状況を知っており、そこでどのような点が問題になるかも知っている。顧客相談窓口の担当者もクレームや質問という形で、ユーザの利用状況に関する情報を得ている。

さらにデザイン部署では、必ずしも方法として確立され、全員が同じ手法を使っているわけではないが、プロダクトデザイナーの習性として各自の独自のやり方でユーザに関する情報を得ている。また、当然のことながらユーザビリティの担当者は、ユーザに対するインタビューや観察によってユーザの利用状況や要求内容について詳細な情報を得ており、評価の活動を通してユーザの利用形態の特徴についても詳細に把握している。

企業の中にはこれだけ豊富なユーザに関する情報がありながら、残念なことにそれらが十分に活用されてはいない。それはユーザビリティ担当セクションを除いて、各担当が自分の保有している情報を他の担当者に積極的に渡そうとせず、また反対に他の担当からユーザの情報を入手しようともしていないからである。

これには各セクションにそれぞれ特有の事情があることも関係している。たとえば保守担当者の場合、顧客から問題の発生を告げられると、ともかくその問題を解消してしまうことが急務となる。正攻法で対応することもあるが、時にはトリッキーな対応に頼ってしまうこともある。そして担当者は顧客の満足した顔を見て、それで自分の活動は完了したと考えてしまう。本来なら、そうした問題点を他の関係者と共有することにより、もっと本質的な解決が可能になるにもかかわらず。

またSEの場合、顧客となる企業の情報部門の担当者やマネージャと接触していることが多い。いいかえれば実際のエンドユーザと接触していることは少ない。昔は顧客サイドに情報部門が存在していないことが多く、SEもエンドユーザから情報を得、彼らの業務の実態や要望を直接把握することができていたのだ。しかし情報部門ができることで逆にそうした場が失われてしまった。その場合、情報部門が自社内のエンドユーザの実態や要望を的確に把握していれば良いのだが、そうした活動をするには彼らはあまりに専門家でありすぎることが多い。そのため、SEがエンドユーザの実態を把握しているとは言い難い状況になってしまっているのが現状といえる。

このように、それぞれの担当者がユーザに関する自分だけの情報を持ち、ユーザに関する独自のイメージを抱いており、しかもそれが必ずしもユーザの実態を的確に反映したものとはいえない場合すらあるという現状は、ユーザに適合した製品やシステムを提供するという目的からするときわめて問題である。

そこで私は社内のイントラの上にユーザ情報ポータルを構築することを提唱している。管理はユーザビリティ担当者が行うようにすればいいだろう。ここに来れば、ユーザに関連した情報、たとえばユーザが実際に機器やシステムを利用している状況や環境についての生々しい情報、良く利用されている機能、さまざまな評判、ユーザが不明に思う点、トラブルの種類やその対処の仕方など、ユーザに関する多面的な情報が機種別に、あるいはユーザの属性別に検索することができる。このようなシステムを構築しておけば、関連する部署の人々は他の部署で得られた情報を利用して、新しい機器やシステムの企画を行ったり、既存の機器やシステムの改善の方策を練ったり、ユーザへの対処の仕方を学んだりすることができる。

ユーザ中心の設計を行うためには、まずユーザに関する多面的な情報を関連する部署で共有することが必要である。もちろん会議やレポートという形式も考えられるが、ユーザ情報の利用形態を考えると、必要な時に必要な情報を引き出せるポータルサイトが一番適切ではないかと思っている。