ユーザのユーザによるユーザのためのユーザビリティ

ユーザビリティという概念は、本来ユーザのためのものである。ユーザが機器やシステムの利用時に不便や不満を感じないようにすること、さらには利便性や満足感を感じられるようにすること、これがユーザビリティの目標とするところであるならば、ユーザビリティという概念は、もっとユーザ自身によって意識される必要があるだろう。

ISO13407の登場を契機として、製造業の中にはユーザビリティに関する関心の高まりがでてきた。それはそれで大変好ましいことなのだが、一方のユーザとなると、まだまだユーザビリティに対する認知度は低い。現状では、一般ユーザの中でISO13407の名前を聞いたことがある人はほとんど全くいないだろう。

また、用語の点でも、ユニバーサルデザインという用語はかなりの人が知っていると思うが、ユーザビリティはまだほとんど知られていない。使い勝手という言葉は企業が広告に使うこともあるし、一般的にも使われているが、その概念をきちんと把握しているかどうかは疑問である。何となく便利であること、といった程度の認識ではないだろうか。ユーザビリティの高い製品を購入し、利用することは、ユーザの権利であるはずなのだが、そのユーザが、ユーザビリティという概念を保有せず、商品選択の際の基準として考えていないとすれば、これは重大な社会問題というべきだろう。

その原因としては、我々関係者が企業に対する啓蒙活動や実践活動に力を注いできた割には、ユーザビリティという概念を知らしめる努力が足りなかったということが大きいと思う。この問題をマスコミに取り上げさせる努力も不足していた。いわゆる業界誌や業界紙には関連記事も幾つか載っているが、一般誌や一般紙、そしてテレビラジオには、まだ全くといっていいほど、取り上げられたことはない。

このように、一般ユーザの間でユーザビリティの認知度が低いということは、企業側のユーザビリティ向上に対する努力がユーザによって正当に評価されない可能性を示唆する。これでは、企業側のユーザビリティ向上に対する動機付けを低下させてしまうことにもなりかねない。

その意味で、これからは、一般ユーザを対象にした啓蒙活動にも力を入れなければいけないと考えている。その一環として、2000年1月に、「ユーザ工学研究所」というサイトを開設した。これは、ユーザが経験した、製品のユーザビリティの問題点を製品の実名入りで紹介しあう、ユーザによるユーザのためのユーザビリティの情報交換の場として設置したものである。

しかし、いわゆるクレームサイトになってしまうことを恐れたため、寄稿する際に、一旦ユーザ情報を入力してもらい、メールで承認してから始めて投稿ができるという仕組みになっていたため、そうした煩雑さが寄稿の頻度を低下させてしまったもののようである。一年たった時点で、参照数が750件程度(これも少なすぎるとは思うが)あったのに対し、投稿数はなんとたったの8件である。サイトのPRが不足していたとも考えられるが、それにしてもあまりに少ないのは、やはりサイトのインタフェースがユーザフレンドリになっていなかったためと反省している。そのため、近々システムの改築を行おうと考えている。

この他に、ユーザの日常経験の報告という形ではなく、ある組織が系統的に特定のカテゴリーの製品をテストしてその結果を報告する、という形での製品情報提供いう活動形態も有効と考えられる。その一つがNOVASが1999年11月に開設した「使いやすさ研究所」のサイトで、これまでにi-mode、デジカメ、PS2、カーナビを取り上げている。私も、ある出版社と連携して、このような新しいサイトを立ち上げる計画を立てている。

なお、国民生活センターの判例情報も、似たような働きを持っているといえるが、焦点がユーザビリティではない点が残念である。このほかにも、幾つか、類似の目的を持った民間のサイトがあると思われる。このようなユーザによるユーザのための情報提供サイトがどんどん出てきて、積極的に参照されるようになることを期待したい。

今回は、ユーザに対して製品ユーザビリティ情報を提供しているサイトを取り上げたが、ユーザの間にユーザビリティという概念を普及させるためには、評価の方法論などを説明した技術者向けのサイトとは別に、身近な製品情報を提供するサイトを開設することが有効であると思われる。

公開: 2001年1月22日
著者: 黒須教授

分類キーワード