色覚障害に対するユニバーサルデザイン

2004年6月9日付けのUSA TODAYに「Colorblindness, crew fatigue cited in crash」という小さな記事が載っていた。2002年7月26日にフロリダ州のタラハシーで起きたFedExのジェット機(ボーイング727)の事故についてのNTSB(National Transportation Safety Board)の調査結果がまとまったというのだ。それによると、操縦士を滑走路に誘導するのに使われていた色光によるシステムの表示色を色盲だった操縦士が誤認し、さらに彼らの疲労と相まって、普段使われていない滑走路に着陸してしまおうとして事故が起きたというのだ。操縦士側の弁護士は「光システムに問題がある」と指摘したというのだが、まったくその通りだと思う。

日本人では男性の4.5%、女性の0.2%が色覚障害と診断され、また欧米では男性の7-8%、女性の0.4%が色覚障害と言われている。したがって日本の人口を約1億2700万人とすると、およそ300万人の色覚障害者がいることになる。ちなみにUPAという学会での報告では、米国では約1000万人、中国では4880万人、インドでは4000万人の色覚障害者がいるとのことだ。改めて、その多さに驚くことだろう。

色彩を感知する細胞の特性についてみればたしかに正常な機能からは逸脱しているわけで、その意味で色覚障害を色覚異常と呼ぶロジックは理解できる。また、私のような赤色盲の場合には、濃い緑の葉の中に咲いている椿の赤い花を見つけるのに苦労したり、モノの色がピンクなのか空色なのか分からずに苦労しており、正常な色覚をもっていればなあ、と嘆息することもある。

しかし、社会生活において色覚障害者が苦労を余儀なくされるのは、人工物のデザインに問題があるといえる。いいかえれば、社会生活における色覚障害の問題は、社会によって作られた障害の典型といえる。これは比喩的にいうと、たとえば身長150cm以下の人々の存在を無視して家具や室内の設計をしてしまい、彼らが背伸びをしたり踏み台に乗らなければ生活できないようにしてしまうようなことに似ている。

一般的な生活環境での例を取り上げると、信号の色の問題がある。最近の信号機は発光ダイオードを使うことになってきて色の値が安定してきたが、ひところは退色の関係もあり、緑に近い色の青信号をしばしば見かけた。日本語で「あお」と「みどり」という色名が紛らわしい関係になっていることも影響していたのかもしれない。信号機が緑青と赤で表示されていると確かに赤色盲の私などには判別がつらい。また船舶の信号では左右を表すのにあろうことか赤と緑の色光を使っている。これなどは意図的に色覚障害者を排除しようとしたのではないかと勘ぐりたくなってしまうほどである。

色にコントラストをつけると見やすくなるというのは一般的な常識である。明度でのコントラストは白と黒の場合に一番明瞭になる。彩度のコントラストというのはあまり使われていないが、その他に、色相でのコントラストがしばしば利用されている。黄と青、緑と赤という補色関係が、色相環の上では角度でいうと180度の関係にあって一番相互に遠いところにあり、色相コントラストでは一番強いものと考えられている。しかしここに落とし穴がある。色覚障害者はその補色関係において弁別能力が低下しているのだ。だから、単純に補色を使うのでなく、色相環上の角度で言えば90度から120度くらいの位置にある赤と青や黄と緑などを使えば、色相の弁別が一般人にも色覚障害者にも可能になる。

こうした点は、プロダクトデザインやグラフィックデザイン、ウェブデザインなどにおいても注意する必要がある。そしてちょっと注意さえすれば、それだけでユニバーサルデザインにすることができるのだ。300万人の日本人がそれによって救われるのである。

ユニバーサルデザインに対する関心が高まっているが、色覚障害という、ある意味であまりに一般的な障害については、意外な程、社会的関心が低い。想像するに、色覚障害者は、外見上、その障害の有無が判別できない、というところに障害者としての認識が生まれにくいという事情があるのかもしれない。しかし、軽微な障害なのだからあまり考えなくてもいいだろう、といった考え方があるとしたら、それはユニバーサルデザインの精神に反する。

近年は、学童への強制的な色覚検査の適用に対する反省も生まれ、また就職における差別的な処遇も減ってきている。色覚異常という言い方から色覚障害という言い方に改めようとする動きもあり、色覚障害に対する社会的認知は徐々に変化しつつある。その意味で、人工物のデザインにおいても、是非認識を改め、ユニバーサルなデザインにさらに一歩近づけるような努力を関係者に求めたい。

公開: 2004年7月26日
著者: 黒須教授

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