年頭所感

あけましておめでとうございます。2005年、ユーザビリティをますます活性化させるため、次のような目標を設定して頑張ってゆきたいと思っております。皆様と手をつなぎ、より大きな輪にひろげ、同時に足下をきちんと固め、次のステップに向かってゆきたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

1. ユーザビリティ活動の組織的活性化

ユーザビリティと兄弟分のユニバーサルデザインの分野では活動主体となりうる組織がいくつもある。いくつもあるところが却ってユニバーサルデザインの問題にはなっているのだが、それはさておきユーザビリティに関してはこれまで活動主体としての組織がなかったといっていいだろう。関連した組織として人間生活工学研究センターやユーザビリティ専門研究会などがあったが、前者はユーザビリティ専門ではないし、後者は学会の研究会。ユーザビリティという領域に関して主体的に活動していくものではなかった。

そんな中、昨年度、人間中心設計推進機構というNPO法人を立ち上げることになった。NPOとしての認可はこの1月中には取れる見通しだ。この組織についてはまた改めて紹介をしたいと考えているが、ともかくこれで一つステップを前に進めることができたと思っている。この組織にはユーザビリティに関連した日本のプロフェッショナルの大半の方々が参加してくださっているし、またこれからも参加してくださることだろう。日本を代表するユーザビリティ組織として活動を開始するのだ。

やはりどの分野でも活動主体というものは必要だと思っている。特にそれが学問の世界にとどまらず、人々の日常生活や企業の生産活動などに関連している場合には、主体がないと概念そのものも広まらない。アメリカにはUPAがあり積極的に世界的規模での活動をしているが、どちらかというと学会的な活動が中心になっている。名前がAssociation、つまり学会だからそれは当然なのだが。しかし実務的な活動の中で実践をしていくためには単に専門家集団としてまとまるだけでは十分ではない。一般の人々、いや、すべての人々を巻き込んだ動きにしていくこと、すべての人々にその認識をもってもらうことが必要だ。その意味でNPO法人の件は実に重要な意味を持っていると考えている。詳しくはまた後日。

2. 概念や手法の再整備

ユーザビリティという概念もいろいろな分野でいろいろな立場の人たちが使いはじめるようになると、方言が沢山でてくる。私はISOの規格を一つの拠り所としていきたいと考えてはいるし、最近ではだいぶその方向で整理がされてきたようには思うが、まだ新しい概念がどんどんと出てくる。概念というのもある意味では新鮮味が必要だ。というか、新しい領域に拡大して利用されるようになると不可避的にその見直しをする必要がでてくる。だから概念が広がり、多面的になることは、動向そのものとしては悪いことではない。ただ、その交通整理の努力を怠ってはいけない。たびたび引き合いにだして恐縮だが、ユニバーサルデザインはある意味でそうした危機の中にあると思っている。特にアクセシビリティとユニバーサルデザインという概念の間の混乱が、ユニバーサルデザインという概念の根元を揺さぶりかねない状況になっていると思っている。

ユーザビリティで利用される手法については大分体系化がされてきたようには思っている。しかし、まだこれだけでは十分といえない。次の項目に書くような対象領域の拡大に伴って、あるいはユーザビリティという概念の拡大に伴って、そこで利用される手法についてもどんどんと新しいものが必要になるだろう。そうした動きは基本的には「発展」という言葉に集約することが許されるだろう。ただし概念の場合と同様に、無定見に発展させてしまうと収拾がつかなくなる。そんな意味で、若い皆さんには果敢に新しい取り組みに挑戦していただき、我々中堅どころとしては、その動きを見ながら全体としての方向付けをしていくような連携の仕方を取る必要があろうと考えている。

3. 対象領域の拡大

ユーザビリティはHCI、つまりコンピュータ技術との関連において特にめざましい発展をとげてきた。しかし、ユーザビリティが対象とすべき問題はコンピュータにとどまるものではない。いや、コンピュータが利用される領域そのものがどんどん新しく展開されつつあるから、それと同期して考えてゆけばいいともいえるのだが、それにしても特に社会的な広がりを持ったシステムのユーザビリティを考えた場合には、そこで利用されるコンピュータ技術だけでなく、そもそもその基盤を構成している社会関係や組織的問題についての視線が重要となる。その意味で、ユーザビリティ関係者は、より広く深く人間科学にもとづいた洞察力を持ってゆくことが必要になるだろう。

たとえば医療という場面におけるユーザビリティを考えた場合、従来は医療従事者にとっての使いやすさといったニュアンスでとらえられることが多かったが、近年医療分野で叫ばれるようになってきた患者中心主義の立場から問題をとらえ直そうとすると、単なる機器の使いやすさの問題では不十分であることがわかる。これはQOLに直結した問題として考えられるべきであり、その意味で看護学や臨床心理学などの知見を内化した上でユーザビリティの問題を考えて行く必要がある。また医療関係者といっても非常に複雑な社会組織となっているものであり、電子カルテという課題に見られるように、単なる既存システムを情報システムに移し替えるだけでは問題は解決しない。誰がどのような目的でどのような情報をどのような形で利用し、それを他の関係者にどのような形で伝えるべきか、そういうことを考える組織論的な観点が必要となる。

こうした意味でも、対象領域を拡大するときにもあくまでも基本スタンスは人間におくべきであり、その個人的特性だけでなく社会的特性についての考慮が必要となる。ユーザビリティが今後、よりいっそう日常生活や業務に密着したものになるためには、とにもかくにも人間についての知見と洞察が求められるようになるだろう。

4. 次なる目標の設定

取り組むべき課題を拡張すること、そのために新しい概念や方法論を提起することも重要だが、その一方で足下を固めるような目標設定も必要となるだろう。

たとえばユーザビリティ専門家をどうやって育成するのかというような課題がある。どこまでが教育や研修によって伸ばすことが出来るのか、どこの部分は個人のセンスや洞察力に依存するものであって教育よりは選抜の問題と考えるべきなのか。また、教育をするといった場合、どのような手段でどのようなやり方をすれば効果的なのか。

こうした問題を解決しておかないと、組織的活動といったところでじきに壁にぶつかってしまうだろう。足下を固めつつ新しい領域に挑戦していくという二つの方向を同時に考えねばならない。まだまだやるべきことは多い。しかし、究極的には人々の幸せ、意味のある生活の構築を手伝うことなのだ、という自覚をもちつづけていれば、その苦労もいつか喜びとなるだろう。大変だが頑張らねば。

公開: 2005年1月4日
著者: 黒須教授

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