UXSG 2013にて

6月末、シンガポールで開催されたUXSG 2013に参加してきた。その概要や、僕が関心を寄せた、Low Cheaw Hweiのキーノートについて紹介したい。

UXSGのWebサイト
(2013年7月現在)

シンガポールで6月27-28日に開催されたUXSGに参加してきたので、その報告をしようと思う。UXPA (もとUPA)には世界中にchapterがあるが、アジアでは中国、台湾、香港、それとシンガポールあたりが活発に活動している。これら4つのchapterは、UXPA Asiaという組織を作ろうとしているが、それについてはまた改めて紹介することにする。

UXSG 2013のキーノート

中国のUser Friendlyというイベントは今年で10周年になるようだが、シンガポールのUXSGは今回が初回。プログラム的には特に発表の場はなく、基本となるのは1トラックのキーノートとワークショップである。キーノートには以下の人たちが呼ばれていた。

  • Low Cheaw Hwei (Global Creative Director, Philips Design)
    “Common Senses”
  • Jason Pollard (Co-founder, Public Design Group, Australia)
    “Predictably Human”
  • Daniel Szuc (Design Researcher, Apogee Asia Ltd., Hong Kong)
    “Global UX”
  • Anders Ramsay (User Experience Designer, Produxt Strategist and Agile UX, USA)
    “The UX of Minimum Viable Products”
  • Bojan Blecic (Head of User Experience, OCBC Bank, Singapore)
    “The Power of Design”
  • Sarah Bloomer (Principal Consultant, Sarah Bloomer & Co., USA)
    “Changing the UX Mindset”
  • Joel Pennington (Principal User Experience Designer, Autodesk, Singapore)
    “Designing for Creative Minds”
  • Giles Colborne (Managing Director, CXpartners, UK)
    “Designing for Delight”

これを見てもわかるように、世界各国から著名人を集めていた。参加者のほうはほとんど全員が企業関係者で、内71%がシンガポール、17%が東南アジア、3%がオセアニア、そしてその他、という具合だった。ある講演者が挙手をさせた時にみたら、約半数が30才以下だった。

キーノートの内容だが、講演者の肩書きやタイトルを見てもわかるように、ビジネス寄りのものが大半だった。要するに「UXで売る」「売れるUX」というスタンスである。このあたりについてUXHKの代表者でもあるDanielと話をしたが、どうも企業側のスタンスが強すぎて、本当にユーザに受容されるかどうか、特に長期的に受容されるかどうかはあまり問題にしていないように思えた。Danielは他の講演者とはちょっと考えが違っているようで、彼が言いたかったであろうポイントを「the art of living」と要約してみたらとても気に入ったみたいだった。

Common Senses

さて、これらのキーノートのなかで、Daniel以外で僕が関心を寄せたのは、Low Cheaw Hweiだった。まず機器開発の歴史を振り返り、1970年代までをmechanical、1980年代までをelectrical、2000年代はじめまでの時期をelectronicと呼んでデジタル時代の曙と位置づけていた。また1980年代半ばから1990年代をブラックボックス時代と呼び、さらにその後をmicro-electronic…nanoというデジタルな時代としていた。そこからデジタルなインタラクションが急速に立ち上がった訳だが、彼の所属するPhilipsは家電製品など、そうした動きとは少しギャップがあった。

彼は車を例にとってプロダクトは単品だとboxed experienceであるとし、実は、そこにはモチベーションから試乗、購入に至り、さらに維持管理や保証に至るvertical experienceがあり(注 この部分はメモが不完全なため正確さに欠けます)、また移動という同じ目的を果たすためには電車や歩行、自転車などというhorizontal experienceがある、としていた。このあたりは僕のUXの時間軸の話や人工物発達学における水平展開の話と類似していて大いに共感した。

さらにUXの10原則として、次のことを指摘した(注 これはSketchpostに書かれていたので正確だと思います)。ついでに僕のコメントを付けておく。

  1. You will grow old too
    ユニバーサルデザインの考え方で不自由者や高齢者への配慮が必要と声高に言っても、一般に若年のデザイナにはピンと響かない。しかし「自分も」なるんだ、となると、自分のこととして考えるようになる。
  2. Be as natural as possible
    自然さ、ということをどう捉えるかがキーになるけれど、たとえばaffordanceのような自然な行動原則と読むこともできるし、人間の認知的限界を考慮してということにもなるだろう。
  3. If you don’t understand, others won’t eather
    自分で分からないことが他人に分からないのは当然考慮すべきポイントだけど、ここはIf you understand, others may not.として欲しかったな、と思う。
  4. It never exist alone
    システム的な発想はとても大切で、それは単にシステムとして販売されているという意味ではなく、すべての人工物が相互に関係しあっているという意味で考えるべきだろう。
  5. Use our ears too
    音のデザインというのはあまりやられていなくて、デザインは視覚偏重になっている。その点へのアンチテーゼと考えたい。機器が発する音を人工的に変えてしまう(たとえばミキサーの音を鳥の鳴き声にする)なんてことは不可能だし意味がないが、機器の音はそれが動作していることを確認させる手がかりになっている。つまり、静音化ばかりが目標ではないということでもある。
  6. New may not be better
    これもいいなあ、奥が深いなあと思った。学会にしても製品にしてもnoveltyということをあまりに重視しすぎている。人間は新しいモノに惹かれる性質をもっているけれど、だからといって過度にnoveltyを志向する必要はない筈だ。
  7. Don’t prescribe ergonomics
    人間工学は基礎の基礎。だからその知識やガイドラインを学んでおくことは常識である。しかし、人間工学にあまり囚われすぎると面白いデザインはできない。要は程々にということだろう。
  8. Let form & material do the job
    これは2番とも関係しているように思うのだが、形態や素材を「素直に」使うことが大切だ、ということかと思った。無理は禁物。
  9. Pleasure is also a form of interaction
    楽しさや嬉しさは使っている時だけでなく、使い始める前や使い終わった後にも関係してくる重要な特性で、インタラクション場面というととかく操作時のことを考えてしまいがちだが、そうしたことに対するアンチテーゼと受け止めた。
  10. There is no 10th principle – I’m going to leave it to the designers!
    彼自身はデザイナだからだし、たしかにデザイナ的マインドや態度は必要なもので、それを自分自身で考えようね、他人の言うことばかり聞いていないで、という意味と考えた。その意味では、何を言ってるのか分かりにくいかもしれないけど、とても大切なポイントだと思う。

という具合である。なかなか含蓄のある表現ばかりで、こんなに秘密を暴露していいのか、とも思ったほどだ。

ともかく、シンガポールを始めとして、中国、台湾、香港と来れば、韓国やインドと並んでアジアのデジタル産業をリードしている国々であり、そこでこうした活発なUX活動が展開されていることは、(UXというキーワードがいささか広範に使われすぎているきらいはあるが)日本にとっては脅威となるものだ。アジアの力を見た、という印象のUXSGであった。

公開:2013年7月16日
著者:黒須教授

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