設計品質と利用品質(後編)

ユーザビリティとUXの関係から始まり、満足感の位置づけ、利用品質という概念、感性的魅力など、さまざまな概念が、この図によって、それらがほぼ所定の位置に収まったと考えている。おまけ的にUI/UXについても整理がついてかなり気分的にはすっきりした。

  • 黒須教授
  • 2015年10月5日

(「設計品質と利用品質(前編)」からのつづき)

設計品質(UI)と利用品質(UX)の関係

客観的設計品質

まず客観的設計品質から説明すると、その大半は従来のものと変わっていないが、最初の変更点は、ユーザビリティに使いやすさという副題を付けた点である。これは、僕が、設計品質に含まれているものの大半には-abilityという語尾がついていて、それはabilityでありpotentialであることをあらわしていて、利用した結果ではないということを力説したのだが、Nigel Bevanがなぜかユーザビリティの代わりにease of useという言い方がいいと主張したので妥協したものである。もっともNigelも-abilityが設計品質に含まれていることには反対はしていなかったのだが、旧ISO 9241-11のusabilityの定義がISO/IEC 25010の製品品質、つまりquality in useに含まれているという点にややこしさを感じていたからかもしれない。

次にユーザビリティの副特性として発見しやすさ(discoverability)を含めた。これは議論に参加していたGer Joyceの指摘によるもので、たしかにハード的にもソフト的にもインタフェース部品や機能が発見しやすいというのは設計品質として人工物に織り込まれているべきだと考えた為、含めることにしたものである。認知しやすさを広義に解釈すれば、それもここに含まれてしまうだろうが、あまり広義にすると記憶しやすさなども認知しやすさに含めることになってしまうから、ほどほどのところで独立させるべき特性は独立させておくのが良いだろうと考えた。

主観的設計品質

ここでの大きな変化は、美しさや可愛らしさの扱いである。これまでは、人工物品質として美しく作ってあっても、すべての人がそれを利用品質において美しく感じるわけではないということを言うために、表現に苦慮していたのだが、あるところでappeal(訴求性)という表現を見つけ、それだ、と思った。その結果、感性訴求性とかニーズ訴求性という表現を魅力の副品質として位置づけることになった。こうすれば、設計品質の感性訴求性として、大きな目、丸い顔、笑みを浮かべた口元などから構成されているぬいぐるみや人形が、必ずしも利用品質的にカワイイと感じられる保証はないという事実を説明しやすくなる。

設計品質とUI

客観的設計品質と主観的設計品質をあわせた設計品質は、どのような品質特性を持ったモノとして対象となる人工物を設計するかということに関するものであり、いいかえればユーザインタフェースをどのように設計すべきかという話に直結する。したがって、UI/UXと言われているなかのUIは、この設計品質に対応していると考えることができるだろう。

客観的利用品質と主観的利用品質

そこに含まれる内容、つまり特性や副特性については旧来の版とほとんど変更はない。ただ、主観的利用品質のなかに、反復利用への意欲というものを追加した。この反復利用の話はISO 9241-11の満足感の定義にも含まれているし、SUSにも含まれている内容で、いささか感性的側面に偏ったこの図の特性リストをバランスの取れたものにするのに有効と考えた。

また、客観的設計品質から主観的利用品質への矢印と、客観的利用品質から主観的利用品質への矢印には「知覚」という言葉を付した。これによって、ユーザビリティや機能性などが知覚されることによって満足感に影響を与えるし、有効さや効率が知覚されることによって満足感に影響を与えるということが説明しやすくなった。ちなみにNigel BevanはSUSで測定されている内容は、すべて知覚されたユーザビリティであると指摘した。あらためてSUSの項目を見ると、たしかにそういえると思う。

利用品質とUX

客観的利用品質と主観的利用品質からなる利用品質はモノやコトなどの人工物の品質特性であるが、それにユーザ特性と利用状況を加味することによりUXが構成される。

最後に

ユーザビリティとUXの関係から始まり、満足感の位置づけ、利用品質という概念、感性的魅力など、さまざまな概念がこれまで僕の頭のなかで渦巻いてきたが、この図によって、それらがほぼ所定の位置に収まったと考えている。おまけ的にUI/UXについても整理がついてしまったことでかなり気分的にはすっきりした。読者諸氏のご参考になれば幸いである。

なお、ここでは以前の記事を読んでおられることを前提にした書き方にしているが、全体の概要については、これから執筆するTaylor and Francisの“Encyclopedia of Computer Science”のなかの一項目“Usability and UX in the Context of Quality Characteristics”に含める予定でいる。参考にしていただければありがたい。この本は原稿締め切りが9/1なので、恐らく2016年には刊行されるものと思う。