後ろ姿にも気を配ろう

パソコンなど、事務機器の背面の見てくれは惨憺たるものだ。あのような背面を客の側に向けてカウンターに配置することについて、メーカーの方ももう少し配慮してくれていいのではないだろうか。

ちょっと旧い表現にバックシャンというのがある。後ろ姿(だけが)美しい女性を形容する表現である。ただし後ろ姿にも二種類ある。天然自然に生まれたままの容姿で美しい人。頭部も肩も二の腕も腕先も腰も臀部も脚部全体も美しい体をもっている場合と、後ろ姿にも気配りを忘れないでいる場合とである。前者は身体的バックシャンであり、後者はファッション的バックシャンとも言える。理想的には両方とも備わっているのがいいのだけれど、両方とも欠落した人を見るとちょっと見ていられないので目を逸らす。セーターの裾がひっくり返っていたり、コートのベルトがベルト穴から外れていたり、襟が折れ曲がっていたりするのは論外である。もちろん、これは見る人(voyeur)としての自分の勝手な理屈であり、自分自身の後ろ姿については全く自信はない。

さて、機器の場合である。まずは自動車。カタログやテレビのCMでは前方斜めから撮ったフロントビューの映像が良く使われている。しかし、たまには脇目をしてサイドビューを見ることもあるが、実際に運転している人間が見るのは基本的に前にいる車のリアビューである。駐車している場合にはフロントビューももちろん見るけれど、時間的な比率からいったらリアビューを見ている時間が(少なくともドライバーにとっては)圧倒的に長い。自動車のデザイナーはそのことをどこまで意識しているのだろう。どうもリアスタイルにはあまり力を入れていないように思えてならない。これは消費者も同じで、運転中に自分の車の外観を見ることがないからか、フロントビューが意識の中心にあるようだ。もっと後ろ姿にも気を配ったらどうなの、と言いたくなる。運転していて見える前車のリアビューには、ただの四角い箱のようにしか見えないものが結構多い。また、セダンのデザインに後部空間を付け足したような不細工なものもある。RVの場合には、スペアタイヤをつけたり、ハシゴをつけたりして、ちょっと野性味を演出しているが、そういう例は少ないようだ。

そしてパソコンなどの事務機器である。先日行った薬局の処方薬の窓口ではパソコンを使っていてプリンターなどの周辺機器がカウンターに置いてあった。ただ、カウンターの設計がまずくて機器の背面が客の待つ席から丸見えになっていた。特にひどいのがプリンター。背面は塗装もしていない金属板が3枚ほど組み合わさっていて、適当な場所に穴があいていたり、でこぼこしていて、正に内臓丸出しという感じだった。ケーブルの取り回しも適当で、出したい場所から出している感じだ。僕の使っているプリンタは、USBケーブルと電源ケーブルが近くからでていて、それなりに美的に処理することも可能になっている。リアビューも美的とは言い難いものの背面板も一応塗装してある。いったいどこのメーカーの製品かと思ったが、じろじろ調べるのも遠慮されたので確認はしていない。

ちょっと話が違うが、背面デザインには型番表示の問題もユーザビリティの面で関係している。メーカー窓口に電話したり、ネットで取説を探そうとした場合、型番は必須情報になるのだが、それが背面に記されていることが多い。ひどいものは底面に貼り付けてあって、本体を持ち上げないといけないこともある。こういう情報は前面から確認できるように表示しておくべきだろう。

さて、パソコンのリアビューに話しを戻すと、デスクトップパソコンのそれは惨憺たるものだ。換気のための穴は開いているし、いろいろなコネクターが並んでいる。当然、それらには様々なケーブルがつながっている。それらの多くは初期設定の時につないでしまうから、初期設定が終わってしまえば、もう見えなくなっても仕方ないとも思える。しかし、ユーザビリティの点から考えると、USBやオーディオプラグあたりは入れたり外したりすることもあるのでリアパネルにだけしかないのは不便である。そういう反省からか、最近の機種では、フロントにUSBやオーディオジャックが付いているものが多く、それなりにユーザビリティは考慮されていると言ってもいいだろう。ただ、あのリアビューの見てくれの悪さはどうしようもない。あれを客の側に向けてカウンターに配置するのは、店のセンスの問題でもあるが、メーカーの方ももう少し配慮してくれていいのではないだろうか。車両のデザインではネジ穴の数を減らすのが工業デザイナとしての腕のふるいどころだというが、それと同じような種類の問題だろう。

公開:2014年8月19日
著者:黒須教授

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