法律文のユーザビリティ

法的機関は、印刷の世界のルールをそのままウェブコンテンツに適用しようとしてはならない。そこではまったく異なった読み方をされるからだ。規制によって配慮すべきことは、実際の情報のユーザビリティと、それをユーザが理解できるかどうかだ。

法規が要求する条件は、ウェブコンテンツとしてのユーザビリティを損ねるものであることが多い。その結果、最終的に達成しようとする当の目的そのものを妨げる結果となる。法的機関が、法や規制のベースにしているデザイン基準は、紙ベースの文書に適したものではあっても、オンラインメディアには通用しない

法的に要求されていることが、ウェブユーザにとって有害である典型的な例をいくつかあげよう。

  • 登録商標が最初に「文書中で用いられた」時、登録商標のマークを入れたり、登録商標についての脚注を入れたりする。このよけいなゴミ情報がウェブユーザの足かせとなり、ウェブページから意味を読み取る妨げになってしまう。ウェブでは、登録商標に関する情報は、別ページにしてハイパーリンクしておくというのが本来のルールだ。
  • 一般的な免責条項、例えば有名なものに「過去の成績は、将来の結果を保証するものではありません」というのがあるが、これはあらゆる投資信託の広告やパンフレットでお目にかかることができる。善意の規制団体は、一般大衆を啓蒙するためにこの免責条項を入れるよう要求しているが、ウェブでは話が違う。ページが免責条項であふれてしまうと、ユーザにとって重要なポイントがますますわかりにくくなってしまう。
  • 登録やサイト利用の前に、ユーザの「同意」を求めるあらゆるダイアログボックス。

法的機関は、ウェブの時代、ハイパーテキストが利用可能な時代に適応すべく、自らのアプローチを再考しなくてはならない。情報は、必ずしもリニア(線状)に提示する必要はない。ユーザは何を知り、理解しているかを知ることが重要だ。これに比べれば、とうてい読んでもらえそうにない場所に、ある言葉がちゃんと配置されているかどうかなど、たいした問題ではない。

本当の目的を推し進めるためには、法的機関も、サイトのユーザビリティテストを行う際に、目標値を設定しておかなくてはなるまい。例えば、「金融ウェブサイトに初めて訪問した人の80%が、自分の個人的な投資が過去の結果を下回ることもありうるということを理解できること」。運がよければ、この目的を十分達成できるようなサイトを作れるかもしれないが、場合によっては、このパーセンテージは少し下げた方がいいだろう。

不正競争の規制

政府は、Microsoftがオペレーティングシステムにいろんな機能を組み込むことを禁じた。このせいで、同社のソフトウェアはなおさらひどいものになってしまう。私は、これが気に入らない。司法省がユーザインターフェイスをデザインするなんて、考えただけでもゾッとする。

だが、ユーザインターフェイスの世界では、合法的な不正競争が行われている。本当の問題は、Internet ExplorerがWindowsに統合されているかどうかということではない。これはユーザにとって利益になることだ。大事なのは、もしそう望むなら、他のものも使えるようになっているかどうかということだ。

法的なテストは以下のように行うべきだ。

  1. 一度もコンピュータを使ったことのない平均的な人を選んで、Windowsをインストールしたマシンを与える
  2. この人にはCD-ROMも渡す。これには、事案に関係する競合ソフトが収録されている(Netscape、Lotus 1-2-3、他社のマルチメディアプレーヤー)。
  3. この人が、すべての梱包をほどいた所から始まって、最後に代替ソフトのインストールに成功するまでの時間を計測する。

最低でも80%の初心者ユーザが代替ソフトのインストールに成功し、かつ、そのために必要な平均的時間が10分以下であるなら、基本オペレーティングシステムは、十分競争を許容しているとみていい。

現代の最先端のユーザビリティをもってしても、初心者ユーザの80%に、箱を開けてから10分以内に代替ソフトのインストールをさせることは不可能だ。だが、この線で考えていけば、公正な規制目標ができるはずだ。

ウェブコンテンツとしての法的文書

法的免責条項や、利用条件、ユーザ同意書、ライセンス条件、その他、企業弁護士が書いた規制文書を含んだウェブサイトは数多い。こうした法的文書は、たいていユーザビリティが恐ろしく悪い。顧客が理解するのはほとんど不可能といっていい。

ユーザビリティ調査からわかったことだが、ウェブサイトで出くわした法的文書にわざわざ目を通すユーザはほとんどいない。テキストは一瞥もせず、「了解」ボタンをクリックするだけだ。ユーザはこの手の承諾書を読まないということは誰もが知っているから、法廷で持ちこたえることすら可能かどうか、興味あるところだ。

法的文書を読んでみようとするユーザも少しはいるのだが、難解な法律用語にぶちあたって、たいていウンザリしてしまう。意図的にわかりにくく書いてあるとしか思えない。目指す目的はただひとつ。彼らの権利を奪うことだけを狙っているように思える。このような文書を掲載しているだけで、ウェブサイトはかなりの信用を失う

ウェブサイトで法的文書が必要なことは多い。だが、それもサイトのコンテンツのひとつとして考えるべきであり、弁護士に任せっきりではいけない。テキストは理解しやすいかどうかユーザビリティテストしておくべきだ。ターゲットユーザが理解できるようなものになるまで、何度でも書き直すこと。ウェブ用の書き方ガイドラインに従おう。当然ながら、書き直した原稿は、法務部門がレビューして、その有効性を判断するべきである。だが、ユーザ体験の一部に組み込むつもりなら、法的文書のユーザビリティはさらなる改善が必要だ。

本当にインターネット経済にとって有益な規制があるとすれば、それはたぶん、ターゲットユーザを対象にしたユーザビリティテストでパスしなかった法的文書には拘束力を認めない、という規制だろう。

2000年9月3日