オンラインの読者には算用数字で数を示そう
算用数字“23”の方が、スペル表記“twenty-three”よりも、ウェブページを眺めて事実を読み取ろうとするユーザの目には留まりやすいことが、アイトラッキングのデータから明らかになった。
ウェブに文章を書くときのガイドラインについては、1997年頃の調査ですでにその基本的な部分がまとめられていた。ウェブサイトのユーザは一言一句を読んでいるわけではない、というのが主要な見解だ。ユーザは、テキスト全体を眺め、タイトルや強調されている語句、箇条書きやリンクなどを中心に拾い読みするのだ。メール配信されるニュースレターになると、この傾向はさらに顕著になる。
(ただし、いくつかの例外がある。まず、識字能力の低いユーザは拾い読みができない。一方、識字能力の高いユーザの場合は、本当に 興味があるときや情報をどうしても必要とするときには、ページ全体をしっかり読むことがある。しかし、あなたが書いたものの全てに全員の顧客がとても関心を寄せている、などと考えているとしたら傲慢の極み。関心があっても、読んでくれるのは数ページで、残りは流し読みされていると考えるのが妥当だろう。)
アイトラッキングの一番の利点は、ユーザがウェブをどのように読んでいるのかをかなり詳細に追求できるところにある。特に、調査を終えてからスローモーション再生してみると、随分と分かることがある。最近実施したアイトラッキング調査でも、箇条書きのリスト、FAQのトップに目次スタイルで用意されていることの多いリンクのリスト、ユーザの視線がほとんど留まることのない広告など、ウェブサイト上のさまざまな構成要素をユーザがどのように読んでいるのかについて新しい発見があった。
その中のひとつに、さまよっていたユーザの視線が数字にしばしば捕まっている、ということがあげられる。単語の連なりの中に埋もれていたとしてもユーザは数字に視線をとられ、見つめてしまっていたのだ。数字がなければ、おそらく素通りしたことだろう。
- なぜ、ユーザの視線は数字に留まるのか? 数字は、ユーザが好んで知りたがる事実を表しているからである。製品の重さや大きさといった具体的な事実を探している状況は往々にしてあり、製品情報のページはまさに、数値を算用数字で示すべき場所のひとつと言える。製品の属性に限った話でなく何か確実な情報を記載するときには、美辞麗句を並べ立てるよりも、数字の方がずっと小さくまとまって(だからこそ興味を引きつける)分かりやすい表記になる。
- どうやって、単語を飛ばし読みする中でユーザは数字に視線を合わせるのだろう? アラビア数字のまとまりは、単語のまとまりとは明らかに違って、目立つ。そのため、ユーザの視点が数字に合う前 に、周辺視でそれをとらえてしまうのだ。同じ4文字でも、2415 と four は見え方が違うのだ。(アラビア数字なら太字で強調されていなくても十分に目立つ、ということをこの一文でお分かりいただけるだろう。)
アラビア数字のおかげで、ウェブのコンテンツをいっそう流し読みしやすくなる。それだけのことだ。
従来の書き方から脱却する
従来の印刷物向けのガイドラインでは、数字の多くをスペル表記することになっている。たとえば、The Chicago Manual of Styleでは次のような場合はスペル表記が原則である。
- “one (1) からninety-nine (99) までの整数”
- 後に“hundred (百)、thousand (千)、hundred thousand (十万)、million (百万)など”の桁数表記が続く場合
- 概数
- とても大きな数字(millions (~百万)、billions (~十億) など)
- 文頭に数字が来る場合
オンライン向けの書き方と印刷物向けの書き方とは違うという話は、これまでもよくしてきた。ここで、数字の書き方もウェブサイトと印刷物とでは異なるというガイドラインを追加したい。
ウェブ向けに書くときは、
- 数値は、スペル (twenty-three) ではなくアラビア数字 (23) で表記すること。
- 数値が文や箇条書きの先頭に来る場合でも、アラビア数字を使うこと。
- 大きな数値も、十億まではアラビア数字を使うこと。
- 2,000,000と書いた方が、two million (二百万) と書くよりも好ましい。
- Two trillion (二兆) の方が、2,000,000,000,000よりも好ましい。ゼロがこれだけ並んでしまうと読み取るのが難しくなるからだ。
- 落としどころとして、有効数字をアラビア数字で示し、桁数をスペル表記することもできる。twenty-four billionや24,000,000,000ではなく、24 billion (240億) という具合。
- 事実の記述ではない場合の数値はスペル表記とすること。
最後のガイドラインについて例を示そう。“最近、数千人規模の調査をした結果、パンくずを利用するユーザが増えてきていることが分かった”などと書くときには、“1,000s”よりも“thousands (数千)”と記述した方が良い。ここに登場する“thousands (数千)”というのは正確な数値データではなく、調査の規模を伝えようとしているに過ぎない。一方、正確な数を示したいときにはアラビア数字を使おう(“2,692名のユーザを調査した”)。正確な数を公表すれば、信憑性も上げられる。
大きな数字
あまり数字に強くない読者が想定される場合、大きな数字に関しては、スペル表記にするだけでなく、説明も添える必要が出てくるかもしれない。たとえば、trillion (兆) はthousand billions (1000×10億) といった説明である。
billion (10億) を超える数字を理解する人は多くないし、中にはbillion (10億) が何を表しているのかさえ分からないという人もいるだろう。世界規模で読者を想定するときにも問題になる。billion (10億) は、アメリカ英語ではthousand millions (1000×100万) だが、多くのヨーロッパの言語ではmillion millions (100万×100万) を意味する。ガイドラインは次のとおりだ。
- trillion (兆) を超える数字には、説明を添えること。数字に弱い読者が想定される場合や世界中に読者がいる場合には、billion (10億) から説明を添えること(たとえば、「trillion (兆) はthousand billions (1000×10億) に相当」と記すことができる)。
ここ数ヶ月、eコマースサイトの調査を実施してきたが、“1 TB”という記述を理解できないユーザが大勢いることに気がついた。ハードドライブの容量を“1 TB”と記述しているウェブサイトがいくつかあったのだ。テラバイト(訳注:情報量の単位の一つで、1兆(=10の12乗)バイト)を超える容量のメディアを聞いたことのないユーザがほとんどで、“1 TB”と言われても何のことかさっぱり分からなかったのである。この事例から、次のガイドラインが書ける。
- 馴染みの薄い略語や単位については説明を添えること。特に、大きな数字を表すときには。
コンピュータ周辺機器を取り扱うウェブサイトでTBという単位を使うなら、現時点では、スペル表記と説明が必要だろう。数年もすれば、ユーザも聞き慣れてしまうだろうから、説明は不要になる。TBには説明を添えるようにとガイドラインを作っても数年ともたないかもしれない。しかし逆に言えば、ユーザの耳に馴染みのない単位には説明を添えるべきとするガイドラインは永遠に廃れることはない。
アラビア数字がユーザビリティと信頼性を押し上げる
事実に関しては、スペルではなくアラビア数字で表記した方が、具体的に欲しい情報があって、それを探していたり、ページの要点をつかもうとしているユーザには分かりやすい。買い物をしているのか、単に情報収集をしているだけなのかには関係なく、eコマースサイトやB2Bサイトのユーザはまさにこれに当てはまる。
データを見ている場合に限った話ではない。事実はアラビア数字で表記して、ユーザの目に留まりやすくすることだ。そうすることで、役立つ情報の載ったページとしてユーザに受け止めてもらえる。ページの信頼性を容易に上げることができるのだ。
2007 年 4 月 16 日