クリック率データを活用したWeb広告デザイン
検索エンジン広告は、ウェブ広告形態として実際に有効なもののひとつである。ベストな広告を制作するには、迅速な実験をして、オンライン文章作法のユーザビリティ原則にもとづいた再デザインを行うことだ。こうして、広告のクリック率を55%から310%向上させることができた。
最近、私はGoogleの広告を経由して2つの買い物をした。私は4年の間、ウェブでは広告はうまくいかないと言い続けてきたので、これは矛盾したことのように思えるかもしれない。
しかしながら、検索エンジンはウェブ広告原則の例外だというのも、また私の持論である。理由は2つある。
- 検索エンジンは、ユーザができるだけ早く別の場所に移動しようというはっきりした意図を持って訪れる唯一のサイトである。
- ユーザが探しているものがわかっているので、検索エンジンは現在のユーザのナビゲーション目的に合った広告を出せる。ユーザが今欲しいと思っているものの広告を表示する方が、一般的なユーザ・プロファイルやデモグラフィックにもとづいた広告よりもはるかに強力である。
Googleの広告はさらに優れている。広告がテキスト・オンリーなので、ユーザが実際に目を止める可能性があるのだ。バナー広告には目もくれない人にまで訴求できる見込みがある。また、文字数が限られているので、Google広告では明快で平易なコンテンツに注力することを求められる。このため、ユーザが広告のために割いてくれる通常1~2秒の時間内に、実際にユーザに何かを伝えられる可能性がある。
最近、あるプロジェクトのために広告を出したのだが、このクリック率の統計から、広告デザインに関する興味深い洞察がいくつか得られた。ちょっとした変更によって、広告効果の向上率は55%から310%の範囲で変動した。ユーザビリティ中心の再デザインなら、これくらいの幅で改善が見られることは珍しくない。
キーワードの絞り込み
検索エンジン広告ではキーワードが中心となる。キーワードを買い取って、ユーザがこれらの単語を入力した際に広告が表示されるようにするわけだ。よって、まずは的確なキーワードを購入することが決定的なステップとなる。的外れの単語に、予算をあっという間に使い果たしてしまうのは簡単だ。
実例として、「要求仕様」というキーワードとその類語いくつかを、フィールド・スタディ・チュートリアルの広告用に購入した。広告そのものの文言を何種類か変えてみた(うち2つを以下に示す)のだが、他の国ではいくらかクリックが得られたものの、合衆国でのクリック率はまったくゼロだった。
|
|
私は、とうとう本当の問題点を認めざるをえなくなった。リアル・ユーザの自然な行動を観察するフィールド・スタディが要求仕様を集めるための優れた手法だと、いくら私が確信していても、要求仕様に興味のある人がそう思っていなければ、3行の広告で、その人たちの考えを変えさせることはできない。
どんなメディアにも、それぞれの利点がある。ウェブは人を説き伏せるのに適したプラットフォームではない。通常、ユーザはあっという間に求めるものをクリックしてしまうので、それ以外の選択肢が考慮の対象になることはない。
このため、製品のコンテクストを理解することが重要だ。要求仕様工学については、明確な意見を持っている人が多い。彼らを椅子に落ち着けさせ、1時間かそれ以上の時間を使って、様々なデータと驚くべき実例を見せつけることができるなら、今後はユーザ・データにもとづいたデザインを行うべきだと、彼らを説得することもできるだろう。だが、3行では、プロジェクトの進め方を変えさせることはできない。バカバカしくて、試す価値すらない。
テキストの最適化
クリック率を高める上では、広告の文言を適切に選択することが非常に重要だ。以下の例は、私たちがヨーロッパで展開した広告の文言の最初の版と改訂版を、それぞれのクリック率と合わせて掲載したものだ(アメリカのカンファレンス用には別の広告を展開した)。結果はどうだったか?改訂版では、ユーザがクリックする確率は55%高くなった。
|
|
元の広告(左側)はかなりありふれていて、信用促進型のデザインにはなっていない。たいていのカンファレンスは「世界最高のエキスパート」(と言っているのは誰?)を唄い文句にしているし、いずれにしろ、ウェブユーザはとても忙しいので、あなたがどれほどすばらしいか、などという凡庸な文章にかまっているヒマはない。改訂版の広告はより特定的だ。講演者の名前をひとり挙げているし、カンファレンスについての具体的事実を提供している。
地理的絞り込み
数多くの国際ユーザビリティ調査から、国によって、ウェブの使い方に違いがあることがわかっている。このため、地域によってクリック率が劇的に変化しても、さほど驚くには値しない。
例えば、同カンファレンスのアクセシビリティ・デーの最初の広告(下記、左側)は、ヨーロッパでは悲惨なほど低いクリック率だったが、合衆国ではそれなりの成績を上げた。ヨーロッパ向けに改訂したところ(右側)、クリック率は4倍以上になった。少し時間をかけて補筆した見返りは十分にあった。
|
|
ヨーロッパ人が最初の広告をクリックしなかったのはなぜだろう?ユーザテストを行わなかったので確実なことはわからないが、私の読みでは、最初の広告はあまりにもアメリカ風に映ったのかもしれない。私たちのアクセシビリティ・セミナーでは、国際的な障碍者ユーザ調査の結果を発表する予定だが、この広告にはそのことが触れられていない。この広告にはそこまで詳しいことを書くスペースはないが(もしあっても読む人はいないだろう)、その地域のユーザに合わせて広告を書き直すことで、クリック率は明らかに向上した。
迅速な実験
オンライン広告なら、実験は迅速にできる。「要求仕様」というキーワードで表示されるフィールド・スタディの広告では、私はわずか355インプレッションで広告を引っ込めた。この広告が長期的に1%のクリック率を出せるとすれば、355回表示されて1度もクリックされない確率は3%以下しかない。証拠としては十分すぎるくらいだ。もちろん、最終的に有効性を発揮する広告をお蔵入りにした可能性も3%はあるわけだが、だからどうだというのだろう?97%の確率でお金の無駄遣いになる実験を続けるよりは、何か別のものを試した方がいい。
私は、とりあえずデザインを壁に投げつけてくっつくかどうか見てみようというやり方には、いつも異を唱えてきた。インタラクション・デザインのプロジェクトでは、数人のユーザを対象にしてプロトタイプのデザインをテストし、その後に完全なデザインの実装と公開に取りかかる方がずっと優れたやり方だ。
広告は違う。これにはいくつか理由がある。
- 広告の有効性については明確な指標がある。それはクリック率だ。目標値(例えば1%)より低ければ、その広告はやめるべきだ。なぜうまくいかないかは問題ではない。ダメなものはダメなのだ。これとは対照的に、ウェブサイトのような完全なユーザ・インターフェイスは、かなり複雑なものだ。そのデザインをよくしようと思ったら、「このサイトは使いにくい」という以上の何かをもっと詳しく調べる必要がある。
- 非常に安価に代替の広告が作れる。特にテキスト・オンリーの広告なら、数分で書き換えられる。ひとつの広告に頭を抱えているよりは、どんどん書いてどれがうまくいくか見るほうがよい。
- 広告のクリック率をテストするために数100回表示させるのは安価だ。フィールド・スタディ広告を355回表示するのにかかったコストは5ドル。広告掲載の是非についてスタッフに考えさせるだけでも、コストはこれ以上にかかる。失敗の確率を10%としてこれを許容できるなら、クリック率を1%から0%の間で変動させるのには、229回の露出があればよい。数1000回の露出(コストは50ドル以下)があれば、はるかに正確な判定ができるだろう。
- うまくいかない広告をいくつか掲載したところで実害はない。誰もクリックしないが、あなたのサイトに腹を立てる人もいないし、会社に悪印象を持つ人もいない。(攻撃的な広告を掲載した場合はもちろん話は別である:あくまでも見てもらえない広告に関しての話だ)
最後に、クリック率がすべて、というのは文字通りの真実ではない。訪問客を、お金を使ってくれる顧客に変える転換率も考慮に入れる必要がある。あなたの製品を買う気のないユーザに、たくさんクリックされる広告というのもある。理想的には、クリックから販売までを追跡するべきだろう。
追跡するのがクリックであろうと、販売であろうと、重要な点は変わりない。いろんな種類の広告を、いろんなキーワードを購入して、たくさん試してみることができ、うまくいったものを残すことができるということだ。
この手法は、他のいくつかの領域でも応用できる。デザインの有効性を、有効/無効の二値で決められるような領域だ。一例として、サイト訪問者にニュースレターのサインアップをさせる場合を考えてみよう。やるか、やらないか。2つにひとつだ。結果は明確に定義されていて、利用回数でもって計測できる。広告と同じく、2つのデザイン案を試してみて、申込者の多いデザインを残すということが簡単にできる。
この種のデザインでは有効性の判断は簡単に行えるが、なぜユーザが想定したとおりの行動を取ってくれないのかは、それほどはっきりと推定できない。このため、デザイン案の選択は複雑になる。ユーザビリティ手法から得られる定性的な洞察がないので、単なる数字以上のことがわからないからだ。複雑なデザイン問題については、クリック数を見るだけでは十分ではない。
2001年9月2日