使えるモバイルデバイスの登場は間近

新しいモバイル機器やサービスは、昨年のモデルよりもずっと現実的かつ実用的になっている。モバイル機器の普及にも拍車がかかりそうだ。ユーザビリティとシンプルさをデザインすることがキーであり、特にクルマ市場では複雑性は危険につながりかねない。

今月のDEMOmobileカンファレンスでわかったのは、モバイル機器の実用性がますます向上していて、一部の新しモノ好きの人から一般層へと、範囲が広がりつつあることだ。このカンファレンスでは、いくつかのキーとなる変化、および業界動向が明らかになった。

  • iPaqは、現在のモバイル機器の決定版であり、ほとんどの新しいサービスのプラットフォームとなるものだ。昨年は、大部分の新興企業がWAP端末をベースにシステムを構築していたが、今では、プレゼンターのほぼ全員がWAPを死んだテクノロジーと見ている。昨年、ベンチャーキャピタルがWAPユーザビリティ調査をやっていれば、何億ドルものお金が無駄にならずにすんだろう。
  • Palmも依然としてカンファレンスでの存在感があった。だが、昨年に比べると、これを採用するサービスの数は激減していた。
  • PCは個人用サーバとしての側面が強まってきた。それはユーザのモバイル機器を補助するものであり、ここを経由して有線インターネット接続する機器も多い。例えば、SimpleDevicesでは、ユーザの設定に従って音声コンテンツをPCにダウンロードするようになっている。この音声ファイルは、圏内にいる時に、ワイアレスでユーザのクルマに転送される。
  • ネットワークに付加価値を与えるのは人間である。CopytalkWebhelpは、いずれも、モバイルシステムに完全なインテリジェンスを与えるための独創的な手法を提示していた。ユーザは、単にどんな情報が欲しいかしゃべるだけでいい。この音声録音はデータファイルとして圧縮され、インターネット経由で送信される。相手先は、非常に能力の高い労働力を、実質上無料で提供している場所だ。例えば、ウェブ検索のエキスパートがユーザの質問について調査して、1ドル以下の料金で回答する。音声合成によるテキスト読上げを使って回答すれば、海をまたいだ通信費はさらに節約できるし、コールセンターのエキスパートも、ウェブページの情報をカット&ペーストして回答を作成できる。

接続方式の動向

802.11が、現在のワイアレス接続の主流であり、DEMOmobile 2001でもほぼ全員がこの方式を利用していた。昨年はBluetoothが目立ったが、今年はほとんど影も形もない。

DEMOmobileではまた、ベンダーがますます転送コストに敏感になり、ネットワーク間のスムーズなハンドオフを求めているという傾向も明らかになった。例えば、NewsTakesではパケット単位の課金を行っており、マルチメディア版コンテンツの豪華さ(すなわち値段の高さ)を選べるようになっている。高価なワイアレス接続を使っているのなら、フルモーションのストリーミングビデオはいらないだろう。

iConverseの提供するサービスは、たとえユーザがネットワーク間を移動しても途切れることがない。例えば、アクセスポイントの圏内では安価で高速な802.11接続を利用し、802.11の圏外に出たら、高価で低速な電話会社のワイアレスサービスにハンドオフ。次のアクセスポイント圏内に入ったら、再び802.11に戻るということが可能だ。ユーザにとってはありがたいことだが、電話会社にはおもしろくないだろう。彼らの高価な第3世代システムは、ユーザが802.11の圏外にいる時にしか使ってもらえそうにない。大部分の高付加価値モバイルサービスは、ホテル、空港、エスプレッソバー、オフィスビルといった場所で、802.11接続経由で提供されるようになるだろう。

ただし、802.11の課金モデルはまだできていない。今のところ、ユーザは各アクセスポイントのすべてに加入するしかないのだ。私は、近いうちに、国内、あるいは国際ローミングサービスが登場すると予想している。ひとつ加入するだけで、どのアクセスポイントからもサービスを利用でき、課金はバックエンドで目に見えない形で処理されるという仕組みだ。

Danger Device:ふたつの二重性

もっとも期待されていた製品発表は、Danger Researchの新しいモバイル機器だ。同社は、Hiptop(実際はオシリではなくて手で持つのだが)という気取りすぎた名前のついたこの製品の売り込みにかけていたが、他のみんなはこれをDanger Device(危ないデバイス)と呼んでいた。

このDanger Deviceは、2イン1型のデザインになっている。しかも二重の意味でそうなのだ。

  • 第一に、これはPDA 兼 携帯電話(ヘッドセットを利用)である。データ機器があれば、携帯電話はいらない。音声もデータなのだから。
  • 第二に、そのフォームファクターに2種類の異なった形態がある。初期状態では画面だけが見えていて、デバイスは分厚いトランプの束くらいのサイズになっている。私が何度も必要性を訴えてきたとおり、親指で操作するボタン類を除いて、表面の全体は画面にあてられている。この基本フォームファクターは、スケジュールをチェックしたり、新着メールを読んだりするのにぴったりだ。電子メールに返信したり、データサービスとやりとりしたりする際には、このデバイスをロシアの嗅ぎ煙草入れのようにひねって開く。すると画面の下にキーボードが現われる。この状態では、デバイスの大きさは見た目にも明らかに2倍になり、もはやポケットには入らないが、それでも問題はない。タイプ入力が終わったら、またひねって元のコンパクトなサイズに戻せばいいからだ。

Danger Researchは、かなりよくやっている。キーボードは小さいが、両手の親指でタイピングするには十分だ。Blackberryのキーボードよりやや大きく、5分ほど試してみた感触では、こちらの方がやや高速にタイピングできそうだ。もちろん、条件を整えたタイピング調査をするまで、最終的判断を出すわけにはいかない。

モバイル機器にA-Zのキーボードがついているのはいいことだと思うが、小型キーボードがベストの長期的ソリューションになるとは思えない。手書き認識も向上しているし、現にPocket PC 2002では、特別な書き方をしなくても、かなり正確に認識してくれる。DangerもBlackberryも、その他ほとんどのデータ電話がそうなのだが、画面内の移動にはトラックホイールを使うようになっている。これはペンやマウスといった直接的な操作機器や、あるいは単純に画面を指でつつくといったやり方に比べると、非常に不自然で窮屈なものだ。

Danger Deviceにはもっと大きなマイナス点がある。それは、デフォルト画面が、ユーザの現在のデータを表示するホームベースビューになっていないことだ。今日1日を見渡せるようにしてほしい。もっといいのは、直近の予定や、それ以降の重要な予定、もっとも重要度の高い電子メールなどを優先度順にリスト表示し、緊急事項には簡単な説明もつけておくことだ。PDAを取り出した時に、いくつものアプリケーションを切り替えて見ないと、今の自分の状態がわからないというのはまずい。

このデザインには、他にも2、3弱いところがある。例えば、利用目的が明らかに共通しているにも関わらず、SMSとインスタントメッセージが、2つの独立したアプリケーションに分かれている。これまでのあらゆる調査で、メッセージ関係は統合した方が利点の多いことが証明されている。信号伝送の技術が違うからといってコミュニケーションを分割しても、ユーザのためにはならない。

クルマ用機器:複雑性=死

新しいモバイルサービスの多くは、クルマ、それも主としてドライバーに利用してもらうことをねらっている。この場合、ユーザビリティの方程式は変わってくる。普段、私たちは、ウェブサイトの利益率向上とか、イントラネットでの従業員の生産性向上とか、ソフトウェアアプリケーションのトレーニング費およびサポート費の削減といった日常的な問題に気を取られている。クルマのインターフェイスデザインでは、複雑性は死につながる

現在の推定では、ドライバの注意力散漫によって、合衆国だけで、毎年少なくとも1万人の死者が出ている。機器開発におけるユーザビリティの優先度を高くしないと、モバイルユーザインターフェイスのせいで、この数字はさらに増加しかねない。

音声認識のユーザインターフェイスにするだけで事故は防止できる、と考える単純な人もいるようだ。だが、携帯電話関係の事故の調査を見ると、手持ちの電話をやめてハンズフリーにしたからといって、それほど安全にはならないようだ。最近のある調査でハンズフリー携帯電話での通話をシミュレートしたところ、ドライバーが交通信号を見落とす確率は150%増加した。ドライバーが信号に気がついた場合でも、ラジオを聞いていた対照グループと比較して、電話をしていた人たちの反応時間は10%遅かった

電話で他の人と話をするのは、ドライバーにとって十分危険な認識的負荷になる。インタラクションデザインを理解し、音声メニューをたどりながら、状態遷移を記憶するというのは、これよりずっと大きな負担になる。

とはいえ、インターネットのコンテンツをクルマに持ち込めるというのは、すばらしい可能性を秘めている。SimpleDevicesは、夜間に音声コンテンツをユーザのクルマに転送する。あなたのクルマは、公開直後の朝、最新のAlertboxを読み上げてくれるようになるかもしれない。世界の新聞からお気に入りのコラムニストを選んで聞き入ることも可能だし、放送時間が合わなくて、クルマを運転している時に聞けなかったNPR(ショナルパブリックラジオ)の番組を聞くことだってできるだろう。こういったシステムがあれば、従来の地方ラジオチャンネルは必要なくなる。どのみち、こういった局では、聞きたいような放送は流れない。幅広い一般大衆向けの放送しかしていないからだ。

私はクルマでのモバイルテクノロジーやコンテンツに異を唱えるわけではない。重要なのは、こういったサービスを、極限までシンプルなデザインにすることだ。そうすれば、その代償に事故が増加するようなことはなくてすむだろう。

参考

2001年9月16日