モバイルユーザビリティ
ユーザテストにおいて、モバイル機器上でウェブサイトを使用したときのスコアは非常に悪く、特に、モバイル用にデザインされていない「フル」サイトにユーザがアクセスしたとき、悪い評価となった。
モバイル利用は多くのウェブサイトが直面している最大のチャレンジの1つである。モバイル利用はイントラネットにとっても重要だが、特に外出の多い従業員を多数抱える企業には重要なものである。
ユーザビリティ調査
モバイル機器上でウェブサイトを使いやすく、あるいは使いにくくしているものは何かを発見するために、我々は以下の3つのユーザビリティメソッドを組み合わせた:
- ダイアリー調査。6カ国(オーストラリア、オランダ、ルーマニア、シンガポール、イギリス、アメリカ)、14人の参加者に、約1週間自分のモバイル機器で行った、電話発信以外の全ての行動の記録をつけてもらった。一つ一つの行動に対して、その場でTwitterのメッセージを我々に送ってもらったが、1日の終わりには我々の方から質問を送って、さらに詳しい情報を収集した。
- ユーザテスト。48人が自分の携帯電話を使ったユーザビリティ調査に参加し、我々はそのセッションを書画カメラで録画した。参加者の男女比は半々。年齢は20歳から49歳にかけて、ほぼ平均的に分布していたが、50歳以上のユーザもごく少数いた。48人の参加者のうち、33人はアメリカ在住(2地区)、15人はロンドン在住であった。
- クロスプラットフォームレビュー。6種類の携帯電話(1種類のフィーチャーフォン、3種類のスマートフォン、2種類のタッチフォン)を使って、20サイトのデザインレビューを実施した。
ユーザビリティテストでは、参加者に自分の携帯電話で行う典型的なタスクを実行するように依頼した。例えば、mobile.winespectator.comのテストでは、参加者に1本のワインボトルを見せ、その情報をそのサイト上で探すように依頼した。m.lufthansa.comに対するタスクの1つは次のようなものだった:「あなたの友人が今日の昼12時頃、ドイツのミュンヘンからロンドンに到着する予定になっています。彼女の乗った便が定刻通りに運行されているかどうかを調べてください」。
全体では、36のウェブサイトをテストし、ユーザに各サイト上で特定のタスクを試すように依頼した。これらの各サイト特有のタスクによって、違う種類の携帯電話を使って、同じことをしようとしている何人かのユーザをシステマティックに観察できるようになった。また、参加者が彼らの使いたいサイトをどれでも使えるウェブ横断型の34件のタスクについてもテストした。こうしたタスクの1つは次のようなものだった: 「あなたとあなたのベジタリアンの友人は近所でいいインド料理のレストランを探そうとしています。ウェブを使って、あなた方が行きたいと思うような、ベジタリアン料理が出るレストランを見つけてください」。このようなタスクによって、人々が自分のモバイル機器でどのサイトを訪問するかをどうやって決めるのかを我々は理解し、さらに何百ものサイトについてのユーザビリティに関する見識を得ることができた。
テストで使ったタスクはダイアリー調査で記録されたユーザの行動からアイデアを得たものである。ダイアリーのおかげで、ラボでの調査よりも自然な設定で、より長期にわたる追跡調査をすることも可能となった。
モバイルのユーザエクスペリエンスは悲惨
「モバイルユーザビリティ」という言葉はかなり矛盾したものである。というのも、モバイル機器でのウェブの使用は簡単なことでも楽しいことでもないからだ。セッションの間、ユーザが苦労している様子は、最初期のユーザビリティ調査を思い起こさせた。それは1994年に従来のウェブサイトを使って実施したものである。つまり、今回の状況はそれほどひどかったのだ。
今回のモバイル調査での成功率の平均は59%だったが、これは1990年の成功率よりは明らかに高い。しかし、今日の一般的なパソコン上でのウェブサイトのテストの成功率がおおよそ80%であるのに比べると相当に低い。
この調査の実施前、我々はロンドンでのテストの方が良い結果になるだろうと予想していた。なぜならば、イギリスはアメリカよりもモバイルサービスが従来から充実しているからである。しかしながら、実際のセッションは予想したような結果にはならなかった。つまり、イギリスのサイトもアメリカのサイトと同じくらいにひどい状況で、タスクを終わらせるのにユーザは同じくらい四苦八苦していた。
モバイルの主な問題
モバイルユーザは主に4つのユーザビリティ上の障害に直面している:
- 小さな画面。機動力のあるものは持ち運びが楽でなければならず、その結果、そのサイズは相対的に小さくなる。小さな画面のせいで、見える選択肢の数は常時少なくなり、オンライン上の情報空間を理解するために、ユーザは短期記憶に頼らざるを得なくなる。これによって、ほとんど全てのインタラクションはより難しくなる。また、製品を比較して調べる、というようなより進んだ行動を支援する複数のウィンドウやその他のインターフェイス上の解決策のためのスペースを見つけることも難しい。
- 入力の厄介さ、特にタイプするとき。マウス無しにGUIウィジェットを操作するのは難しい。メニュー、ボタン、ハイパーテキストリンク、スクロールなどの操作は、それがタッチ式であれ、ごく小さなトラックボールを使うものであれ、時間もかかるし、間違いも起きやすい。文字入力は、たとえ専用の小型キーボードが付いている機器を使う場合でも、特に遅くなり、タイプミスも多い。
- ダウンロードの遅延。いつまで経っても次の画面にならず、よりスピードがあるはずの3G接続サービスを使っていても、ダイアルアップ接続以上に時間がかかることも多い。
- デザインが間違っているサイト。ウェブサイトというのはデスクトップのユーザビリティに最適化されていることが一般的なため、それらはモバイルでのアクセスをユーザブルにするために必要なガイドラインに従っていない。
最初の2つは根本的な問題のように思われる。そう、こうしたことは古い携帯に比べると、新型の携帯電話では、(以下で論じるように)より問題になりにくい。しかし、それでも、本格的なパソコンと同じくらい大きな画面や同じくらい良い入力装置をモバイル機器が提供することは決してない。
接続に関する問題は将来的には消えてほしいものだが、モバイルでの接続がほどほどのクラスのケーブルモデムの速さにすら追いつくのに何年もかかるだろうし、有線通信技術の進歩によって可能になるブロードバンド接続の速さに追いつくのはなおさらたいへんだろう。
モバイルはデスクトップと同じには絶対にならない。したがって、モバイルユーザビリティ改善のため、ウェブサイトが再デザインすることに我々は希望を残している。
モバイル専用サイトはフルサイトにまさる
我々のテストの参加者がモバイル機器専用にデザインされたサイトを使ったときの平均成功率は64%となり、デスクトップユーザも閲覧する「フル」サイトの使用時に記録された成功率53%よりも相当に良い結果となった。
ユーザのパフォーマンスが5分の1改善されるというのは、モバイルに最適化されたサイトを作るのに十分な理由である。そういうサイトは心地よく使えるので、ユーザの主観的満足度も高くなる。この事実はモバイル専用サイトを作るさらなる理論的根拠も提供してくれる。つまり、ユーザというのは成功し満足すれば、また戻ってくる可能性が高い。したがって、モバイル利用があなた方のインターネット戦略に対して重要なら、モバイル専用サイトを構築するのが賢明だということである。
さらに、企業がモバイル専用サイトを提供していたとしても、ユーザはそのモバイルサイトにたどり着くのに苦労していることも多い。ここでの一番良いやり方は、ユーザが使っているデバイスの種類を自動的に検知して、(たとえ彼らがハイエンドの携帯電話を使っていようとも)モバイルユーザであればモバイルサイトに自動的に送り込んでしまうことである。また、デスクトップサイトからモバイルサイトへの明確なリンクも提供するべきだし、フルサイトにリンクで戻れるようにする必要もある。リンクのラベルに関しては、「Mobile Site(モバイルサイト)」と「Full Site(フルサイト)」を各々使うことを我々は推奨する。
フルサイトへのリンクによって、モバイルサイトではサポートしない高度な機能を使いたいユーザを支援することができる。こうしたフォールバックによる解決策を前提として、モバイルサイトの機能を縮小し、モバイルでのシナリオで実際に使われそうな機能に重点的に取り組むべきだ。ヘビーなインタラクションや情報の徹底的な熟読を含むタスクをモバイル機器ではやりたくないというのは、ユーザから繰り返し言われたことである。
良い携帯電話ほどパフォーマンスも高い
モバイルのユーザエクスペリエンスには3つのクラスがあり、主に画面のサイズによって定義される:
- フィーチャーフォン(一般的な携帯電話)。かなり小さい画面とテンキーを持つ。市場の大半はこの種のデバイスによって占められている(少なくとも85%の占有率を持つという統計もある)。
- スマートフォン。形状はさまざまで、中程度の大きさの画面とアルファベットのフルキーボードが付いているのが一般的。
- タッチスクリーンフォン(iPhoneが例)。デバイス自体のサイズとほぼ同じ大きさの画面を持ち、ダイレクトマニュピュレーションとタッチジェスチャーによって操作する完全なGUIを実現している。
当然だが、画面が大きくなればなるほど、ウェブサイトにアクセスする際のユーザエクスペリエンスは向上する。各クラスでの平均成功率は以下の通りである:
フィーチャーフォン | 38% |
---|---|
スマートフォン | 55% |
タッチフォン | 75% |
この数字を見る限り、消費者へのアドバイスは簡単だ。つまり、あなたにとってウェブサイトの利用が重要なら、タッチフォンを買いなさい、ということだ。
インターネット管理者へのアドバイスはこれより難しい。フィーチャーフォンのひどいユーザビリティを考えて、フィーチャーフォンまでサポートすべきか。あるいは、あなた方のサイトを広範囲に使う可能性のあるスマートフォンやタッチフォンのユーザに対象を絞るべきか。これには絶対的な答えというのは存在しない。
ニュースやソーシャルネットワーキングのような、モバイル利用に極めて向いているサービスに対しては、よりハイエンドの携帯電話に最適化したサイトと共に、フィーチャーフォン専用のサイトを作るのが良いだろう。それ以外のほとんどのウェブサイトについては、スマートフォンやタッチフォンに最適化された単一のモバイルサイトに投資を集中してしまった方が良いかもしれない。最終的に、複雑な処理や詳細なコンテンツにフォーカスしてしまうと、別サイトの存在を正当化するには少なすぎるユーザしかいなくなってしまう可能性はある。
2000年から進歩していないのか
ロンドンでのセッションでは、2000年のWAPユーザビリティ調査で実施した2つのタスクを再度テストした。タスクの実行に関しては、ある程度、改善が見られるだろうと予想したのにもかかわらず、結果はその予想(そうなると思ったからこそ我々はわざわざ調査をしたのだが)に反したものとなった。2つの調査でのタスク実行にかかった平均時間は以下の通りだった:
タスク | WAP携帯電話 (2000年) |
現在の携帯電話 |
---|---|---|
今晩のこのエリアの 天気を調べる |
164秒 | 247秒 |
今晩8時にBBC 1で何が 放映されるかを調べる |
159秒 | 199秒 |
驚くべきことに、ユーザによる今回のこの2つのタスクの実行には、2000年に比べ、38%も長く時間がかかった。最新のモバイル機器は、ひどかった昔のWAP携帯電話に本当に劣るのだろうか。それほどまでにサイトのユーザビリティは後退したのだろうか。この答えはどちらもいいえである。携帯電話もサイトも今の方が良くなっていることは間違いない。
変わったのはその使用環境だ。2000年時点では、ユーザは携帯電話会社が提供する「塀で囲まれた庭」に留まるように制限されていた。WAP携帯電話にはいくつかの選ばれたサービスへの直接のアクセスを提供する「deck(デッキ)」が、最初から組み込まれていたからだ。このやり方はユーザの自由を制限し、ユーザが実行可能なタスクを最もシンプルなものに限定する一方で、ユーザは数回キーを押すだけで情報を得ることができた。
現在のモバイルユーザは極めて検索優先の使い方をする。我々がどのサイトを使うか指定しないと(そして、指定しているときでも頻繁に)、ユーザは自分の好きな検索エンジンを最初に見ようとする。繰り返すが、この結果、ユーザは大量に文字入力しなくてはならなくなる。モバイル機器でのそうした入力は遅く、厄介なもので、打ち間違いも起きやすい。
今日、モバイルユーザはなんでもできる。にもかかわらず、大抵のことをモバイル上で行うのに非常に長い時間がかかるということは、機能を削ったモバイルサイトをデザインする必要がどうしてもあるということである。
我々の今回の調査では、1人のユーザが本当にうまくタスクを実行した。このユーザは天気予報のアプリケーションのをインストールしたiPhoneを使用していたが、そのアプリケーションを使って、(2000年の最速のスピードの3分の1の時間の)たった18秒で天気予報を調べた。モバイル専用のデザインにどんな利点があるのかという証拠がさらに必要だと言うなら、この例が間違いなくそれにあてはまる。
モバイルユーザビリティは難しい
今回、我々が新たに発見した全ての事柄はたった1つの結論をサポートしている。それは、モバイル用のデザインは難しい、ということである。モバイルの技術的なアクセシビリティは容認可能なユーザエクスペリエンスを提供するにはほど遠いレベルにある。携帯電話上にあなたのサイトが表示されるだけでは十分ではないのだ。の「フル機能」のブラウザを提供するタッチフォンですら、ウェブサイト上でユーザが実際に作業をなしとげる、という観点からは、パソコンレベルのユーザビリティは提供していない。
モバイル用にデザインをする際、(a)目的を達するのに人々が苦労しないようにコンテンツとナビゲーションを目立たせること、と、(b)小さな画面と遅いダウンロード速度のためにデザインすること、の間には対立関係がある。だからこそ、ほとんど全てのデザイン決定はデザイン中のサイトのコンテクストに応じて行われなければならないし、あるサイトでうまくいったことが別のサイトであてはまるとは限らない。
モバイル利用特有の環境に合わせて、ウェブサイトを再デザインしない限り、モバイルのウェブは幻想のままである。ユーザはモバイルベンダーの約束する恩恵に気づかないし、忠実なモバイルの顧客を大量に集めることによって得られる利益をサイトオーナーが手にすることもないだろう。
85のデザインガイドラインを含む132ページからなるモバイルユーザビリティについてのレポートがダウンロード可能である(有料)。
2009 年 07 月 20 日