イントラネットユーザビリティ:
1兆ドルの問題
平均的な中規模企業は、従業員の生産性を年間 500 万ドル向上させることができる。イントラネットデザインを改善して、イントラネットユーザビリティ比較調査で上位 1/4 に入るレベルにすればいいのだ。投資利益率は?… 1000 パーセント、あるいはそれ以上だ。
私たちはイントラネットユーザビリティの国際調査を行った。広範なイントラネットデザインを対象に、何が有効で、何がそうでないかを明らかにするため、14 の企業で従業員を使ったユーザテストを実施した。10 件は合衆国、3 件はヨーロッパ、1 件はアジアで行った。これは、今まででもっとも包括的なイントラネットユーザビリティ調査といえるかもしれない。
管理職のサポートと予算
今回の調査では、経営陣からのサポートが得られるかどうかで、イントラネットの品質が大きく左右されることがわかった。特に、ユーザビリティが低迷している企業では、デザインの決定権をもち、充分な予算を与えられた中核となるイントラネットグループがほとんど存在しない。それどころか、社内にいくつものイントラネットが並存し、統一的なナビゲーションシステムもなければ、単一のスタート地点もないのだ。
イントラネットデザイナーにインタビューしてみてわかったのだが、イントラネットは、企業ウェブサイトよりも低い優先順位しか与えられていないことが多いようだ。顧客の目に触れるデザインにばかり気を取られ、イントラネットからドットコム部隊に転籍することが昇進と受け止められるような考え方では、企業の生産性は損なわれる。
いくつかの企業ではブランディングを重視しすぎていて、これも生産性に悪影響を与えていた。社員はすでにその企業で働いているのだから、商品の売り込みや、機能の宣伝は必要ない。特筆すべきは、キャッチーで作為的な名前よりも、飾り気のない、記述的なラベルの方が、ユーザビリティがつねにベストだったことだ。また、視覚的デザインはおおむねすっきりと節度あるものがよく、一般向けのウェブサイトによく見られるような過度なデザインは不要、という点もはっきりしていた。
イントラネットチームの仕事は、英雄的な努力なくしては完成しない。経営陣は、彼らが必要なソフトウェアを購入したり、デザイン標準を策定したり、ユーザビリティ調査を実施したり、その他、コンテンツの執筆や、従業員の生産性向上に役立つツールの実装に必要となる予算を与えなくてはならない。イントラネットチームにはまた、デザイン標準を強制し、確実にイントラネットを統一していくための権限もなくてはならない。
検索
はっきりした傾向のひとつとして、検索機能が幅広く採用されていたということがある。すべてのイントラネットが、全ページに検索窓を用意しているわけではなかった。ぜひそうするべきだと思うが、ともかく、どのサイトにも何らかの形で検索は用意されていた。
経営陣からのサポートおよび予算の欠如をのぞけば、調査対象となったどのイントラネットでも、ユーザビリティ低下の最大の原因となっていたのは、おそまつな検索機能だった。ユーザビリティの高いイントラネットと低いイントラネットとの間で、検索ユーザビリティは、従業員生産性に 43 %の違いを産み出していると見られる。
検索ユーザビリティの主なポイントのどれを外しても、ユーザにとっては問題となる。
- 検索機能の中には、イントラネットの全ページを網羅していないものがあった。また、サイトの中には、すべてをカバーするためには、2つの異なった検索を利用しなければならないものも見られた。
- 検索結果に、きちんと優先順位がついていない。「おすすめ」機能がついているものはほとんどなかった。これは、特に有望な検索結果をリストのトップに表示する機能である。
- ページタイトルの書き方がなっていない。そのため、ユーザは検索結果リストをすばやく斜め読みすることができず、興味あるアイテムを選び出すことができない。
- ページの要約が、タイトル以上に出来の悪い場合があった。検索結果の内容を正確に要約できていないのだ。
検索ユーザビリティを改善するには、まず次の 2 つが基本となる。(1) 検索エンジンに投資する。イントラネットの全体を対象に統一したインデックスを作り、それに従って検索結果の優先順位をつけるものが求められる。(2) コンテンツ提供者を教育する。ページタイトルと要約の重要性を説き、検索結果リストを斜め読みするオンライン読者を想定した文章作法を教え込む。
ナビゲーション
すばらしい努力が見られるイントラネットも存在する。ページの見た目や、イントラネット内でのナビゲーションがおおむね一貫されているのだ。だが、多くのイントラネットには一貫性あるナビゲーションが欠如していて、これが大きな問題となっている。バラバラなデザインと、部署ごとにがらりと変わるルック&フィールに、ユーザは戸惑ってしまうのだ。できれば、小さくて、一貫性のあるグローバルナビゲーションがあれば役に立つ。パンくずリストも有効だ。
古くからあるウェブユーザビリティの推奨事項の多くが、イントラネット調査でも再び顔を見せた。クリックしやすいようにリンクやボタンは特に目立つようにしておくこと。訪問済みのものがわかるように、リンクは色分けしておくこと。この2つのガイドラインを守らないと、ナビゲーションはかなり混乱する。選択肢を見落としたり、訪問済みかどうかが見分けられずに堂堂巡りしたりしてしまうのだ。
イントラネットのナビゲーションは、次の 2 つの目的を満たすべきである。最初の、そしてもっとも重要な目的は、タスクの効率を向上させ、ツールやコンテンツへ誘導すること。従業員は、どの部署がどの機能を管轄しているか、などということに気を取られるべきではないし、組織図に従ってナビゲーションするべきでもない。第二に、部署や会社組織の情報が必要になる場合があるので、組織図に準拠したナビゲーションも用意しておくべきだ、ということだ。
特に、人事やITといった部署に関する情報は、タスク指向の情報とは分けておくべきである。組織の階層構造とは独立したタスクベースの情報構造の中から、必要な人事やIT関連のツールが見つけ出せるようにしておこう。
コンテンツユーザビリティ
検索やナビゲーションが存在する理由はたったひとつ。ユーザがコンテンツを見つけるのを助けることだ。会社に関する最新ニュースの提供に成功しているイントラネットはたくさんある。この機能は、イントラネットユーザビリティの主問題を乗り越える上で役に立つ。それはすなわち、従業員に、とにもかくにもイントラネットを利用させることだ。だが、古いニュースの扱いや、アーカイブの作り方、そして、これをメインのイントラネットと統合するのに成功しているイントラネットは、かなり少ない。
イントラネットのコンテンツを着実に増やしていこうと思うなら、従業員がコンテンツの追加と更新をしやすいようにすること。常に更新されていれば、部署レベルのページと従業員の個人ページは、イントラネットにより大きな価値をもたらしてくれる。だが、イントラネットコンテンツの制作がメインの仕事という人は少ないから、簡単に手早くできるようにしておかない限り、よいコンテンツは生まれないだろう。
厄介者の PDF
あるシンプルなデザイン上のミスについて、特に言及しておきたい。それは、今回の調査でも甚大なユーザビリティ問題を引き起こしていた。それはすなわち、変換していないPDF ファイルである。これは、単一の、ナビゲーション不可能な圧倒的量のデータとして、従業員ハンドブックや、その他の大部の文書の全文掲載に利用されると、特に大きな問題となる。
印刷目的なら PDF はすばらしい。印刷用の文書をイントラネット上に用意しておくのは有益だ。配布の経費を節約でき、従業員が手軽にアクセスして、必要なものを印刷できるようになる。だが、手抜きをして、PDF 版のハンドブックをイントラネットに貼り付けてはいけない。ユーザには、同じ情報にアクセスするための他の手段も与えるべきだ。コンテンツを変換して、きちんとデザインされたイントラネットページに仕立て上げておけば、検索、ナビゲーション、それにオンライン閲覧の、すべてにおいて得るところが大きい。特定のトピックに関する情報を意味のあるまとまりでページに分割し、関係文書への相互参照リンクを張っておこう。
生産性と投資利益率
私たちは、14 のイントラネットで、よくある従業員タスク 16 件の効率を測定した。予想通り、ユーザビリティには幅があり、あるデザインが、他よりも、はるかに高い効率を産み出していた。
給与と固定費を計算に入れると、今回の調査でもっとも使いにくいデザインとされた企業では、測定した 16 のタスクに費やされた時間をまかなうために、年間、従業員ひとりあたり 3042 ドルかかっていると算定される。
反対に、平均的な企業では年間ひとりあたり2069ドル、ユーザビリティ面で最高のデザインの企業では、1563ドルだった。
イントラネットは、ミッションクリティカルなアプリケーションと、それ以外の、企業によってまちまちで、比較のしようがない特定のタスクの、両方をサポートしていることが多い。これら企業特有のタスクでイントラネットを利用する量は、今回調査した 16 の一般タスクと同じ量と想定した。これによって、ユーザビリティがまちまちな企業の、イントラネット利用年間コストが見積もれる。1 万人のユーザがいる企業では、年間コストは以下のようになる。
- 高ユーザビリティ(ベスト 25 %以内):1560 万ドル
- 平均的ユーザビリティ:2070 万ドル
- 低ユーザビリティ(ワースト 25 %以内):3040 万ドル
見てのとおり、低ユーザビリティの企業を平均的ユーザビリティに底上げするのが、もっとも生産性向上が大きい。だが、平均的なユーザビリティを上位レベルにまで押し上げることから得られる利得も、同じくらい大きい。
1 万人のユーザのいる企業がイントラネットの品質を改善するには、ユーザビリティへの投資が 50 万ドルほど必要になるだろう。よって、イントラネットユーザビリティの投資利益率は、20 倍(低レベルから平均レベルへ改善する企業)から10 倍(平均レベルから上位レベルへ改善する企業)となる。
世界経済への影響
世界中のイントラネットのユーザビリティを、今回の調査での上位 25 %のレベルにまで引き上げることができれば、16 のテストタスクだけでみても、世界経済は、毎年 311,294,070,513 ドルの節約になる。企業特有のタスクについても同じような節約ができるとすれば、生産性向上は、全体で年間 6000 億ドルという計算になる。イントラネットの生産性でこのレベルというのは、ごく普通の目標である。年間 310 億ドルをイントラネットユーザビリティに投資するだけで、これが実現できるのだ。
さらなるユーザビリティ向上を想定して、調査対象タスクのすべてで最高レベルに達したあかつきには、世界経済は毎年 1.3 兆ドルの節約ができることになる。ここには、企業特有のタスクでの改善見積りも算入されている。
くわしくは
イントラネットユーザビリティ調査のレポート完全版は、222 ページの文書の形で用意してある。これには、イントラネットをより使いやすく、より生産的に使えるようにするための111 のデザインガイドラインが含まれている。
2002年11月11日