WebサイトでのPR:ユーザビリティの向上
企業ウェブサイトの PR エリアで情報を探すジャーナリストを対象にした新しい調査では、2001 年の同じ調査と比較して、ユーザビリティがいちじるしく向上していることがわかった。成功率は 5 %向上、ガイドラインへの適合率は 15 %向上していた。
企業ウェブサイトの PR エリアを利用するジャーナリストを対象にした新しいテストが、最近完了した。2001 年に実施した同様の調査と比較して、サイトのユーザビリティ面でかなりの進歩があったことをお伝えできるのを、うれしく思う。
2003 年の今、ジャーナリストの平均成功率は 73 %となった。2 年前を 5 ポイント上回る数値である。当時の成功率は 68 %だった。(成功率とは、タスクを達成するユーザの能力のことで、この場合、ジャーナリストがさまざまな PR 情報を見つける能力のことになる)。
特にうれしかったのは、ガイドラインに準拠して、ほとんどのウェブサイトが PR 担当者へのコンタクト情報を見つけやすくしていたことである。これは、ジャーナリストにとって、もっとも重要なタスクのひとつだ。成功率は今や 82 %という立派な数字になっている。2001 年の 55 %というみじめな成績からすると、相当な進歩だ。
私たちが PR エリアにおけるユーザビリティ改善のためのデザインガイドライン入りレポートを出版して以来、この 2 年間で、一般的なガイドラインへの適合率が向上した。例えば 2001 年には、これらのウェブサイトは、オンラインプレスリリースのガイドラインのうち 63 %に準拠していた。2003 年には、ガイドラインへの適合率が78 %に向上している。15 ポイントの向上である。
ガイドライン適合率が、実際のタスク達成率以上に向上したのはなぜだろう?ユーザビリティには、たんにガイドラインの文字面に従う以上のことを求められるからだ。また、その精神をとり入れることも重要だ。この点で、企業ウェブサイトには、まだまだ至らない面がある。やさしい言葉で何を行っているのかを語り、簡潔に要点を伝えるということができていない企業が多い。
ユーザビリティ理解度の評価
2 年の間に、平均成功率は 5 %向上し、ガイドライン適合率は 15 %向上した。私は、ウェブ全体のユーザビリティの向上は、対数的にではなく、直線的に進化すると信じている。なぜなら、あらゆるウェブサイトで、同じユーザビリティ問題を何度も何度も修正する必要があるからだ。
とはいえ、ウェブ全体でのユーザビリティの成長が、ほんとうに直線的か、対数的かという点に関して、私にもまだ十分な確証がない。だが、直線的成長をとげるものと仮定すれば、年間改善率は、成功率で 2.5 %、ガイドライン適合率で 7.5 %となる。
昨年、私は e コマースサイトのガイドライン適合率の年間向上率を 2.7 %と推定した。今みているオンラインプレスリリースのガイドラインについての記録よりも、かなり低い。
この違いの説明として、207 カ条ある e コマースユーザビリティガイドラインのすべてを e コマースサイトが実装するのは、非常に難しいということが、ひとつ挙げられよう。プレスリリースの見た目を整えて、オンラインメディア向きにするのよりも難しい。過去には、多くの企業の PR 部門がまったくわかっていなかったため、ウェブユーザビリティにこれっぽっちも注意を払うことなく、プレスリリースをそのまま再利用していた。今では、数多くの PR 部門が、少し時間をかけて、ユーザビリティガイドラインに適した形にプレスリリースを加工している。
さまざまな推定すべてに共通するひとつの大きな結論として、ウェブユーザビリティは毎年改善しているということがいえる。どんな問題を再評価しても、事態は改善しているのだ。
ふたつめの結論は、改善の足並みがかなり遅いということ。おそらく、毎年 2 %から 8 %といったところだろう。
どうして、こんなに改善が進まないのだろう。数多くの再デザインプロジェクトの分析からもわかるとおり、ユーザビリティプロセスを少し取り入れるだけで、ユーザビリティ測定結果は平均 135 %も改善するというのに。いくつか理由がある。
- ほとんどのウェブサイトが、もはや毎年デザインをやり直したりしなくなった。
- 再デザインの際に、それなりにユーザビリティ手法といえそうなものを取り入れるウェブサイトが少ない。
- もっとも重要なのは、インターネット全体の現状評価と、個別のウェブサイトのユーザビリティ評価の間には大きな違いがあること。特定のサイトがユーザビリティに力を入れれば、劇的な改善をみることができる。だが、ウェブ全体の変化は、非常に遅々としたものだ。
これらの要素を勘案すると、毎年数パーセントずつでも、ウェブ全体のユーザ体験が向上していると言えるのは、感動的かつ喜ばしいことである。
ガイドラインは不変
今回の調査は、2001 年の調査レポートでまとめた PR ユーザビリティに関するオリジナルのガイドラインのすべてを再確認するものだった。
人間工学の変化は非常に遅い。なぜなら、それはユーザインターフェイスの実装に使われている特定のテクノロジーではなく、人間行動に関係するものだからだ。ジャーナリストが記事を書く上で、同じ仕事をし、同じ情報を必要とするかぎり、オンライン PR のデザインガイドラインは変わらないだろう。
だが、今回の調査では、いくつか新しいユーザビリティガイドラインも発見した。前のガイドラインは今なお重要だが、それらは、以前より幅広く実践されるようになってきた。つまり、前回の調査で、ジャーナリストたちがユーザビリティ問題のせいで立ち往生していた個所も、今では、かなり乗り越えられるようになったわけだ。このせいもあって、次のレベルのデザイン問題に対処するためには、新しい問題に目を向け、新しいガイドラインを作る必要が出てくる。
ユーザビリティの仕事に終りはない。なぜなら、完璧なユーザインターフェイスなどないからだ。どんなデザインにも改善の余地がある。よって、ユーザ体験を向上させるために、常に新しいガイドラインが作り続けられる。
現状の改善率でいくと、これから 10 年で成功率が 100 %に近づくことも考えられる。もしそうなっても、さらによいデザインを作るために、やはりユーザビリティガイドラインは必要だ。もちろん、これは必須の要求事項だが、ウェブサイトでタスクが達成できるだけでは不十分なのだ。利用して楽しいこと、生産的であること、見返りがあること、本当にユーザのニーズを満たしていること。これらは、より難しい目標である。
危機管理
2003 年の調査で得られた新しいガイドラインの一部は、ウェブサイトがスキャンダルや、その他の企業関連の危機にどう対応するかのテストから生まれている。ここのところ、数多くの企業スキャンダルがあった。いちばん有名なのは Enron だ。同様に破産、その他の不運な状況もあった。テスト開始直後に、ふたつの企業が危機に見舞われた。Tyco (前 CEO が何億ドルもの不正利益で告発された)と Vivendi (深刻な債務と 2002 年の 260 億ドルの損失)である。
危機管理は、一般広報活動の重要な責務のひとつである。企業ウェブサイトにおける投資家向け広報の調査では、ひとつ大きな発見として、投資家たちが、いざという時の企業のくわしい見解をウェブサイトに期待していることがわかった。残念ながら、ウェブサイトはこの役目を果たせていなかった。状況に対するその企業の見通しを提示できていない。それどころか、これらのウェブサイトは、何事もなかったようなフリをしていた。
当然ながら、ジャーナリストは、ある企業に何かとても目立った問題があれば、そのことを知っているし、記事を書くときもそれを避けて通るわけにいかない。だが、その企業からの反応や説明も取り入れるだろう。もし、それが入手できれば。
例えば、Tyco のサイトを利用していたあるジャーナリストは、同社の危機を BBC の記事で初めて知った。だが、これに関するコメントは、その企業のサイト上で見つけられなかった。
「ゆかいなことに、Tyco のウェブサイトによれば、BBC や他のみんなが間違っているというんです。そんな事実はないといってね。この時点で、イスからずっこけそうになりましたよ……私の記事の中でも、この健忘っぷりに触れるかもしれません」
事実を直視し、この機会を生かして有利なコメントを記事に入れてもらった方がずっといい。あるジャーナリストいわく、
「ウェブサイトに何か声明があれば、例えば、Tyco 社は『投資家の皆さんに対しておわびし、地方検事に全面的に協力する所存です』というような一言があれば、記事の中にも引用したでしょう。でも、今のところ、そんなものは見つかっていません。
記事では避けて通れないわけですから、それが目立てば目立つほど、謝罪が真摯であればあるほど、そして、事態修復へのステップが明確であればあるほど、私にとっては役に立つわけです。記事にすべて取り入れられますから。」
問題に関して明示的なコメントを掲載する場合もあるだろうが、もっと間接的なアプローチの方が有効な場合もあるだろう。例えば、Microsoft は、最近、主要幹部が多数離脱したことに関してかなり否定的な報道をされた。だが、彼らの PR チームは非常に効果的にこの問題に対処した。常識外れにくわしい役員バイオグラフィーを使って、まだまだたくさんの役員が残っていることを示したのである。
現代の PR 戦略において、企業ウェブサイトは明らかに重要な要素である。幸い、多くの企業がこれを認識している。前回の調査から 2 年の間に、企業の PR エリアはめざましく改善された。自社ウェブサイトを危機管理にも利用する企業があるが、その他の大部分は、まだこの方面は手付かずである。
くわしくは
75 のデザインガイドラインを含む企業ウェブサイト PR セクションのユーザビリティに関する 218 ページのレポート(第二版)全文がダウンロードできる。
2003年3月10日