イントラネットポータル:
企業情報のためのツールメタファー

インターネットポータルは、事実上、死に絶えてしまった。だが、ポータルアプローチによって、企業内ネットワークという手に負えないカオスに収拾をつけることができる。イントラネットポータルは、インターネットポータルが持つ制約の多くを乗り越えていて、生産性や統一的なユーザーエクスペリエンスにとっては、最良の希望となるかもしれない。

イントラネットポータル(またの名を「企業ポータル」)は、業界で話題の流行語である。もっとも、この業界はいつも流行語に飢えていることで有名だが。これら一連のポータルは、大規模イントラネットの多くがそうであるように、カオスと低いユーザビリティでもって一儲けをたくらむソフトウェアベンダーの起死回生の試みなのか、それとも、従業員の業務向上を補助する手段なのか?いずれの問いにも、答えは「たぶん」としか言えそうにない。

ポータルは、従業員が情報を見つけ、業務を遂行するのに役立つ可能性があるが、購入直後の状態で理想的なデザインになっているポータルはほとんどない。ポータルによるユーザビリティ向上効果の一端は、特に規模の小さい企業なら、もっと簡単な手段でも実現できる。特筆すべきは、私たちの調査したすべての企業で、優れたイントラネットポータルを構築するうえでもっとも大きな問題になったのが、技術ではなく、政治と組織の問題だったということだ。基本的に、ソフトウェアを購入するだけでは優れたポータルは手に入らない。企業内部の力関係を調整しなくてはならないのである。優れたポータルを立ち上げる上で、技術が占める割合はおよそ全労力の 1/3 であり、残りは、内部プロセスが占めるのだ。

本当に難しいのは、各部署の協力者にポータルのルールを守らせ、適切なメタデータを入力させ、ポータルの目の届かないところで勝手なイントラネットサーバを運営しないようにさせることである。私たちが話を聞いたポータルチームの多くは、おきまりの手段をいくつか使って、取り込みに成功していた。たとえば、重要な部署から代表を出してもらって顧問グループを結成し、プロジェクトの初期段階から、このグループを巻き込んでいくという手法だ。

その他の標準的手段:トップマネジメントからの支援をとりつけ、各部署が単独でやるよりも、ポータルに参加したほうが楽になるようにする。おもしろいことに、昨今の景気低迷は、後者の点で追い風となっている。自前でイントラネットサイトを運営していたら必要になったはずの予算を節約できるなら、どの部署も大歓迎だからだ。あるポータル管理者がこう言っていた。「どこもイントラネット開発の予算はないんです。しかも、私たちはすでに彼らの分まで作ってある。だったら、彼らにしたって、なにもじっと我慢して、歯ぎしりしながら自前でやる方法を探す必要もないでしょう?」

ポータルで解決できる問題

大部分のイントラネットは、まったく始末におえない状態で、かなり分断化されおり、ユーザ体験を混乱におとしいれている。一貫性がなく、ナビゲーションのサポートもほとんどない。この問題を修正するために、その企業の全情報、全サービスへの単一のゲートウェイを設けるポータルが現われている。

一貫性あるルック&フィールによって、学習負担が軽減され、ユーザが大規模な情報空間をナビゲートする際に、自分の現在位置と、そこで選択可能な移動先が把握しやくすくなる。また、サービスを統合し、パーソナライズされた情報を初期画面に簡潔に表示することで、イントラネットポータルは、移動の手間を省き、業務をより効率化する環境を提供する。

理想をいうなら、イントラネットポータルで統一的なセキュリティ環境を提供し、単一サインオンをサポートしておくべきだ。残念ながら、私たちの調査したポータルで、この目標を達成していたところはほとんどなかった。ヘルプデスクへの電話のほとんどはパスワード紛失に関するものだし、ログイン障壁を複数箇所に設けるとユーザの妨げになるのだが。

インターネット vs. イントラネットポータル

ポータルという概念は、そもそもインターネットのバブル期に始まったものだ。いくつものウェブサイトが出現して、いずれもワンストップのウェブの入口になることを目指していた。AltaVista、Excite、Disney の Go、Lycos といった名前が思い起こされる。Yahoo はあいかわらず強い。だが、それ以外のポータルのほとんどは、既になくなってしまったか、野望の縮小を余儀なくされて、再び検索に注力するようになっている。

2000~2001 年にかけて、Octopus や OnePage といったいくつかのサービスが現われて、ユーザが自分専用のポータル的画面を作り、個々のウェブサイトから集めてきた画面を一目で見られるようにしていた。その目的は、ユーザが、自分の情報ニーズを満たすために複数のサイトを訪問する手間を省くことにあった。そのポータルページひとつだけ見ていれば充分というわけだ。こういったサービスも、やはり、今はもうない。

インターネットポータルがたどった惨胆たる過去の記録を考えると、イントラネットポータルにどれほどの望みがあるというのだろう?その答えは、一般向けのウェブと社内イントラネットとの根本的な違いにある。インターネットでは弱みになっていた部分が、イントラネットでは強みになるのだ

ビジネスモデル

インターネットポータルは広告に頼っていた。これは情報系ウェブサイトではうまくいかない。ユーザの興味の中心はコンテンツにあって、広告にはないからだ。検索エンジンでは広告が非常にうまくいく。なぜなら、この種のウェブサイトに限っては、みんなが、そこ以外の行き先を探すために訪れるからだ。検索エンジンを発祥とするポータルは、そのほとんどが、原点に戻っていった。そこに広告収入があるからだ。

イントラネットポータルは、生産性向上を目的として構築されている。従業員の業務効率を向上できるのなら、それは企業にとって利益になり、それをポータルプロジェクトのために振り向けることもできる。(これと対照的に、インターネットウェブサイトでは、ユーザにさっさとタスクを片付けられては儲からない)。ポータルチームとのインタビューの中で、ポータルの ROI の判断基準として、生産性を重視しない企業が多いことがわかった。あっちで数分、こっちで数分、節約できたところで、業績が上がるわけではないと思っているのだ。だが、私は生産性の向上は本物の経済的利益だと信じている。従業員には、業務上の問題に取り組んだり、顧客と語らったり、その他の生産的なタスクに取り組んでもらった方が、複雑なイントラネットをナビゲートしたり、言うことを聞かないコンピュータと格闘してもらうよりは、企業のためになるはずだ。

多くのチームにとって、ROIを論じる上でもっとも強力なポイントは、二度手間の排除という点にあったようだ。技術的インフラと、コンテンツおよびサービスをインターネット上に配置する手間、この両面で効いてくる。Sprint では、もっとも大規模なイントラネット 5 件を運営するのに必要なハードウェア、ソフトウェア、保守契約の分だけで、年間 1500 万ドルの節約になるとなる見込んでいる。Verizonは、報告書をポータルで入手できるようにしたおかげで、1 日 3 回、ユーザに送信する場合に比べて、年間 1500 万通の電子メールを節約できた。インフラ面での節約も確実にある。だが、ユーザの受信箱の混雑が軽減されたことによる生産性向上にも、触れないわけにいかない。

電話会社は巨大で、このため非常に感動的な数値を残しているが、もっと小さな企業でも、二度手間の削減と、情報およびサービス提供の能率化から得られるものは大きい。

ユーザプロファイル

インターネットポータルで、ターゲットをしぼりきった情報を提供することはできない。「マイページ」でも無理なのだ。これは予想できたことだ。理由はふたつある。第一に、ウェブサイトには、それほどユーザのことがわかっていない。利用する側は、さほどカスタマイズに時間をかけてくれない。プライバシーが心配だし、面倒臭いからだ。第二に、一般的なウェブサイトで提供できるのは、一般受けする一般的なサービスにとどまる。本当に専門的なサービスは、インターネットポータルではめったに利用できない。だが、実際には、誰に対しても同じサービスよりは、自分の関心にぴったりマッチしたサービスの方が、得るものは大きいのだ。ワールドニュースには、オハイオ州養豚ニュースほどの価値はない。もちろんこれは、あなたがオハイオ州の養豚業者だとして、の話だが。

イントラネットポータルでは、ユーザのことがよくわかっているから、いちいち聞かなくても、カスタマイズが可能だ。役割ベースのパーソナライゼーションでは、既存のデータベースを使って、それぞれの職種、部署、地域に適した情報を提供する。多国籍企業なら、役割ベースのパーソナライゼーションを利用して、その国独自の情報を提供し、大部分のユーザに合わせて、言語の設定もしておけるだろう。

それ以上のカスタマイズに、労力に見合うだけの価値があるかはわからない。インタビュー対象となったポータルチームの多くは、これに否定的だった。(役割ベースのパーソナライゼーションに加えて)個人用パーソナライゼーションも可能にしているポータルでも、ほとんどのユーザがこれを利用していないことがわかっている。

イントラネットポータルのアプリケーションは、インターネットポータルのアプリケーションより、ずっと有益だ。たとえば、ミッションクリティカルなアプリケーションと個人の雇用手当は、特定のユーザにターゲットを合わせているので、必要となる要素をほとんど網羅している。たんに楽しめるとか、あればいい、という程度のものではないのだ。

検索

Yahoo ですら、完全に自己完結はしていない。たしかに、内部で開発したサービスの数は、他のどのインターネットポータルよりも多い。これが、今まで生き残ってこられた理由のひとつかもしれない。インターネットポータルは、その価値の相当部分をウェブに頼っている。特に、彼らにとって何よりも重要な検索機能に関して、それがいえる。これは弱みになる。なぜなら、外部のサービスを、単一のユーザインターフェイスにうまく統合化するのは至難の技だからだ。そこで、検索エンジンは、肝心なところの抜けた外部サイト知識という地位に甘んじることになる。これは、独立したページをコツコツと回れば、集められるものなのだ。

ひとつのシステムで検索エンジンとコンテンツの両方を運営していれば、検索効率はかなり向上できる。コンテンツに対する理解もより構造的になるし、メタデータも適切に利用できるし、ユーザがどんなページに来て、情報空間の中でどういう経路をたどるかを分析すれば、ユーザの行動やニーズも読めるようになるからだ。また、キーワードのインデックス化も、領域がはっきりした空間なら、それだけ強力になる。Credit Suisse のポータル管理者が語ったように、銀行のポータルなら、ユーザは「銀行用語をしゃべる」のだ。

イントラネットポータルの検索は、かなり改善の余地がある。だが、私たちがインタビューしたポータルチームの中には、成功事例を語ってくれたところはほとんどなかった。

デザインプロセス

実際の開発プロセスからみれば、インターネットポータルにも、イントラネットポータルを上回る利点がいくつかある。特に景気のいい時代には、インターネットポータルには莫大な予算があったし、大規模なプロのデザインチームもあった。そこには専業のユーザビリティ専門家も含まれていて、頻繁にユーザテストを実施していたのである。イントラネットにはリソース不足がつきもので、ポータルチームもこの例外ではない。フルタイムのユーザビリティ専門家がいることはめったにない。今回、話を聞いたチームでも、希望よりもずっと少ない回数しかユーザテストができていなかった。「ディスカウントユーザビリティ手法」を採用して、シンプルなやり方で貴重なユーザからのフィードバックを集めていたチームもいくつかあった。だが、従業員の生産性でみて何 100 万ドルのお金がかかっていることを思えば、ポータルのユーザビリティでやるべきことは、まだまだあるはずだ。

ワイルドウェブ vs. 単一ツール

開発が始まって以来 10 年の間、イントラネットはウェブをモデルにしてきた。集中的な管理もなく、互換性のないサービスが大量に作られた。このモデルは実験段階では利点もある。だが、最終的には労力の無駄、二度手間につながる。結果的に、ユーザ体験は水準以下となる。

イントラネットポータルは、ワイルド(原始的)なウェブモデルを脱してツールのメタファーを指向している。そこでは、企業のコンテンツとサービスは、お互いの邪魔をするのではなく、協調して機能する。単一のスタート地点、各ユーザにとって最重要なサービスを一望できる単一のオーバービュー、単一の検索、単一のナビゲーションスキームと情報アーキテクチャ、それに一貫性ある単一のページデザインテンプレート。これらすべてが合わされば、イントラネットポータルは、企業の情報インフラとして、より有望なものになるだろう。

くわしくは

より豊富な事例研究と、58 の画面ショット、分析を含んだイントラネットポータルのユーザビリティについての 104 ページのレポートがダウンロードできる。

2003年3月31日

公開:2003年3月31日(原文:2003年3月31日)
著者:Jakob Nielsen
原文:Intranet Portals: A Tool Metaphor for Corporate Information

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