PDF:人間が消費するには不向
ユーザは PDF ファイルの中で迷子になっている。たいていは、大きくてリニアなテキストのかたまりになっていて、印刷用には最適化されているものの、オンラインで読んだりナビゲーションしたりするのは不快である。PDF は印刷には適しているが、あくまでそこまでのものだ。オンラインの閲覧用に使ってはならない。
PDF はひとつの面で抜きん出ていて、そこだけが優れている。それは印刷用文書としての用途だ。さまざまな面で、紙はコンピュータ画面よりも優れている。長すぎてオンラインで読みにくい文書は、印刷するユーザが多い。
しかし、オンラインでの閲覧という点では、PDF はアマゾンの半魚人みたいなものだ。じっとり湿った手で人々をなでまわし、情け容赦ないその手で捕らえた獲物を離さない。
PDFのユーザビリティ犯罪
ウェブサイトやイントラネット上の PDF が引き起こすユーザビリティ問題には、以下のようなものがある。
- リニアな提示方法。PDF ファイルは、印刷用の文書からコンバートされることが多い。よって、その執筆者がウェブ用の文章ガイドラインに従っているとは思えない。結果は?何画面も続く長いテキストで読むものを不愉快にさせ、退屈させてしまう。
- ユーザ体験の撹乱。PDF は独自の環境の中で表示され、コマンドもメニューも別物である。印刷や文書の保存といった簡単なことでさえ難しくなってしまうのは、標準的なブラウザのコマンドが使えないからである。
- クラッシュとソフトウェア障害。昔ほどではないが、HTML ページの代わりに PDF ファイルを読み込ませた場合、ブラウザやコンピュータがクラッシュする可能性は、今でもやはり高いだろう。
- 流れの阻害。コンテンツを見るには、専用の閲覧ソフトが起動するのを待たなければならない。また、PDF ファイルはダウンロードにも時間がかかることが多い。プレインなウェブページに比べて、たくさん余計なものが詰まっていることが多いからだ。
- 位置感覚の喪失。PDF ファイルはウェブページではないので、標準のナビゲーション・バーが表示されない。そのサイトのホームページに戻る方法すら見つけられないユーザが珍しくない。
- コンテンツの単位。PDF ファイルはコンテンツのひとかたまりが大きく、内部にナビゲーションを備えていないことが多い。有効な検索手段にも欠けている。完全一致した文字列へジャンプするという非常に原始的な機能がついているだけだ。求める答えが 75 ページ目まで出てこないとすれば、ユーザがそこへたどり着く確率はほとんどゼロに近い。
- コンピュータ画面ではなく印刷物に合わせたテキスト。PDF のレイアウトは、オフィス用紙に最適化されていることが多い。これがユーザのブラウザ・ウィンドウに合致していることはめったにない。スムーズなスクロールには、さようなら。細かいフォントよ、こんにちは。
ユーザはPDFがきらい
最近のいくつかのユーザビリティ調査で、PDF ファイルに遭遇したユーザから悲痛な不満の声が聞こえた。
以下は、企業ウェブサイトの投資家エリアのテストに参加した投資家たちの発言である。
「PDF をいちいちダウンロードさせられるのは苦痛ですね。頭痛のタネですよ。イライラしてしまいます。読み込みも遅いですし、中身を検索するのもたいへん。HTML の方が扱いやすいですね。チャートのかわりに、全部 PDF になってますよね。私の理想のサイト、それは過去 10 年の売上のバーチャートがすぐに入手できるサイトなんです」
「Adobe Acrobat は大嫌い。PDF があっても、一部を選択、コピーして Word に移すことはできません。必要のないグラフィックなんかが入っていたりしますしね。文書は HTML の方がいいですよ、編集できますから」
以下は、企業ウェブサイトのPRエリアのテストに参加したジャーナリストたちの発言である。
「あれ(PDF ファイル)は、ウェブページらしくないよね。スピードの問題じゃないんだ。流体の代わりに固体を与えられたみたいな感じ」
「で、手に入ったのが PDF 文書。プリントアウトにはいいけれど、画面上では読みにくいんです。文字が小さすぎて」
「Acrobat には少し不満があります。全ページがひとつのファイルになっているんです。それでどうなるかというと、スクロールするとジャンプしてしまう。これではあまり役に立ちません」
以下は、イントラネットのテストに参加した従業員の発言である。
「1 ページ目がインデックスになっていて、そこへスクロールできるようになっていると助かるでしょう。横についている部分はそのためのものなんでしょうけど。誰にいえばいいんでしょうね?」
最後の発言からも明らかなとおり、PDF ファイルには独自のナビゲーション補助が装備されているが、ほとんど役には立っていない。なぜなら、それは非標準的であり、ハイパーテキストのナビゲーションではなく、紙のメタファーにもとづいたものだからだ。
この他の数多くの調査でも、同様の反応が返ってきた。その中にはB2B のウェブサイトも含まれていたが、製品スペックや顧客の成功事例をウェブページではなく PDF で提供している点に、ユーザは不満を表明した。以下は、サイト内で PDF になっていたその種の部分を避けて通った顧客の声である。
「どうやら PDF へ行かざるをえないようですね。でもそれだけは絶対にいやなんです」
次回のコラム: やるべきこと
オンラインでの閲覧という面での PDF のユーザビリティの貧弱さを考えたとき、ウェブ・デザイナーがなすべきことは何か?次回の Alertbox では、ユーザの苦痛を最小限に押さえる PDF の提示戦略について論じる予定である。
2003年7月14日