医療現場のユーザビリティ:
悪しきデザインがいかにして患者を死に至らしめるか

あるフィールドスタディから、自動化された院内システムは22通りの方法で患者に誤った投薬を強いる結果になり得ることがわかった。多くは、何十年も前から既に知られている古典的なユーザビリティ上の問題である。

ユーザビリティが生死の問題に繋がることは往々にしてある。たとえば、戦闘機のユーザインターフェイスの場合。照準を合わせて攻撃をするためのシステム操作を規定時間よりもほんの1秒早く行うだけで、パイロットは、空中戦を圧倒的に有利な立場で闘うことができるようになる。

悪しきデザインがいかにして人命を奪うことになるか、もっとも顕著な例として、車内のインターフェイスが挙げられる。年間に何千という命が、過度に複雑なデザインに気を取られたドライバーに起因して奪われている。逆に、良く出来たデザインが命を救うこともある。例として、最近購入したLexus LS 430の少し口やかましいカーナビをご紹介しよう。高速の出口が左右どちら側にあるかを驚くほど早いタイミングで教えてくれるのだ。おかげで、車線変更にはゆったりと時間をかけられる。道路標識を見つけてから急いで車線変更をしなくても済むのだ。(道路標識が分かりにくいばっかりに奪われてしまう人命の数には驚かされるに違いない。)

医療システムにも、人命を危険にさらすデザインのものがあり、これまでにも数多くが報道されてきた。放射線治療用機器のオペレータ・コンソールが複雑で、誤解を招くものであったがために6人の患者の命が奪われたことなどはその一例である。まだあまり知られていないのは、医療現場で使われている時代遅れのオフィス・オートメーション・システムがユーザビリティ上の問題を抱えており、治療用機器の場合と同様に深刻な危険を患者にもたらし得ることだ。

とある病院でのフィールドスタディ

最近の Journal of the American Medical Association の中で、Ross Koppel らは、医師が患者への投薬を指示するのに使う院内オーダー・エントリーシステムに関するフィールドスタディの結果を報告した。そのシステムは、22通りの方法で患者に誤った投薬を強いるものであることが明らかにされた。多くは、ユーザビリティ上の問題だ。興味深いものをいくつか簡単にご紹介しよう。

誤解を招くデフォルト値。システムが画面に表示する投薬量は、病院の薬剤部で取り扱っている単位に基づく。病院のスタッフは、処方頻度の低い薬剤の投薬指示を受けたとき、画面上で確認される単位を典型的な投薬量として信頼してしまうことが多い。数字の意味するものは違うにもかかわらず。たとえば、20mgないしは30mgを一回の投薬量として処方されることの多い薬剤は、薬剤部では10mgの錠剤で在庫されていると考えられる。そうすればニーズがあったときに対応できるし、使用頻度の低い薬剤の過剰在庫を避けることもできるからだ。この場合、ユーザは、20mgないしは30mgがより適切な投薬量である薬を、10mgで処方してしまう可能性がある。解決策はいたって単純。各画面に、典型的な処方量をガイダンスとして表示すべきなのだ。長きに渡り、様々な領域でユーザビリティの研究が重ねられてきた。その結果、ユーザは、デフォルト値や例示を、自分のおかれた状況に適合すると考えてしまう傾向があることがわかっている。

新規のコマンドが直前のコマンドと照合されない。ある患者の一回の投薬量を変更する際、医師は、それまでの投薬量をキャンセルせずに変更後の投薬量を入力してしまうことが多く、その結果、患者は、変更前後の投薬量を合計した量を服用することになってしまうのだ。この種のユーザエラーはありふれたもので、銀行のインターフェイスエラーと同じだ。ユーザが一日に二度、同じ人に、同じ額の振込みを行った場合、銀行のウェブサイトは、この種のエラーを見つけて、再確認を促し、ユーザが重複して支払いをしてしまうことのないようにしてくれる。一般的には、ユーザが既に一度行ったことを繰り返して行おうとするときには、二度の操作をともに有効とすべきか、二度目のコマンドが一度目を打ち消すとして処理すべきかをシステム側が確認すべきと考えられている。

可読性の低さ。患者の名前は小さくしか表示されないので、とても読みにくい。そのため、ユーザが患者を取り違えてしまうのも簡単だ。また、病棟ごとに区別することもなく、アルファベット順に表示されているだけなので、問題は一層深刻になる。ユーザは、似通った名前が複数ある中から特定の患者を探し出さなければならないからだ。さらに、個々の患者の記録を見ると、関係する全ての画面に患者の名前が表示されているわけではないのがわかる。そのため、ユーザが途中でエラーに気付く可能性が低くなってしまっているのだ。

記憶負荷の高さ。時には、一人の患者の投薬を全て確認するために、20もの画面を見なければならない。人間の短期記憶にはご存知のように限界があり、それだけ多くの画面に目を通して、全てを記憶するのは不可能だ。72%のスタッフが、一人の患者の投薬を全て確認するのが大変なために、処方内容や投薬量をしっかり把握できないことがしばしばあるとサーベイを通じて報告している。人間は、正確に情報を記憶することを極めて苦手とし、ユーザの記憶負荷をできるだけ小さくしてあげることは、コンピュータのユーザビリティ・ヒューリスティクス上位10項目の中にいつも挙げられてきた。ユーザは、画面を切り替えても情報を覚えていてくれると期待するのではなく(20画面なんてそもそも論外だ)、必要なとき、必要なところで、何度でも必要な情報が表示されるようにすべきなのだ。

日付表示のエラー。インターフェイスは、ユーザに“明日”の投薬を伝えている。手術が一日の終わりにあって、投薬指示が夜中の0時を過ぎて入力された場合、患者は一日分の投薬を受けられないことになるだろう。

複雑過ぎるワークフロー。システムは、多くの局面でおびただしい数の画面に目を通すことをユーザに要求し、それが病院のワークフローとは相容れないものとなっている。システムは、必ずしも意図したとおりに使われていない。たとえば、看護師はシフトの終わりに、システムに入力したのと同じ記録を紙にも残すことになっている。これは、エラー発生のリスクを高めると同時に、各患者が受けた投薬についてリアルタイムの情報をシステムが反映できないという状況にも繋がっている。ユーザが付箋紙や何らかの紙媒体を使って次善策を講じている場合には、UIに問題があると考えられるのが一般的だ。

調査手法の問題

ユーザの行動を現場で観察した結果を補うために、調査者は、過去三ヶ月間にどのくらいの頻度でエラーが起きたかを病院のスタッフに問うサーベイを実施した。ユーザビリティの問題を評価するにあたり、この自己報告データに依存しすぎてしまっているのは非常に残念。コンピュータを使って行ったことを記憶するのはかなり難しいことだと言われている。有効なデータは、発話ではなく、行動から得られる。

悪しきデザインに起因するユーザエラーの話となれば、さらに問題がある。インターフェイスが適切なフィードバックを返していないのだとすると、ユーザは、自身がエラーをしていたことに気付いてさえいないかもしれない。医療現場でのエラーを調査するときには、患者が誤った投薬を受けた可能性を病院スタッフが可能な限り低く見積もろうとする可能性も十分に考えられる — サーベイが、いくら匿名性を保証すると言ったとしても。

私であれば、誤りがちな人間の記憶やバイアスのかかっている可能性の高いサーベイの結果よりも、観察に基づいてエラー頻度を評価するだろう。サーベイの結果は、それでも、多くのエラーが少なくとも週に一度の割合で起こっていたことを明らかにした。真のエラー率は、サーベイで自己報告された数値よりも高いと考えられる。

ユーザビリティが、当初の枠組みを超えて広く考えられるようになり、臨床疫学の研究室で調査されているとは嬉しいことだ。過去25年に及ぶユーザビリティリサーチの成果を知らずに取り組んだがために、調査手法に問題がみられるのは残念だが。60の参考文献のうち、92%は医療関係のジャーナルなどだった。ヒューマンファクター関連の文献はわずか5つ。ソフトウェアデザインに関する調査であるにもかかわらず、その5冊の参考文献には、ヒューマン・コンピュータインタラクション分野のジャーナルや学会、書籍や専門家の名は一切みられなかった。

院内システムの例は、限られた領域でのみ使われるシステムに、ユーザビリティ上の問題が蔓延していることを示すほんの一例に過ぎない。そのようなシステムが公の目に触れることは稀であり、ウェブサイトのように分析されることも少ない。ベンダーは、分野に長けた人材を擁していれば、現場で機能するソフトウェアを作れると考えがちだ。しかし、人間は、理屈どおりに行動するものではない。システムが専門性を有すれば有するほど、それが上手く機能することを確かめるにはユーザリサーチが必要となる。医師から消防士にいたるまで、ユーザを観察し、ユーザの協力を得てデザインを評価するのだ。さもなければ、間違いなく、ユーザビリティ上の問題が後を絶たない結果となるだろう。

論文の置き場所:さらにユーザビリティを検証する

私は、Journal of the American Medical Association の定期購読者ではない。この調査のことは、New York Times の紙面で知った。残念ながら、紙面から論文にたどり着くまでの道のりは試練に満ちたものだった。

大学のウェブサイトの酷いユーザビリティに驚かされることは途絶えることがない。Webは、学術論文を広めるために作られたはずなのに、学術機関のウェブサイトで研究の結果を見つけることは、いまやほとんど不可能だ。

今回、紙面では紹介されていなかったので論文のタイトルがわからなかった。第一著者がわかっていたため、それで検索し、すぐに University of Pennsylvania のある教職員のホームページにたどり着いた。残念ながら、このページは使い物にならなかった。他の教職員のホームページも同じだ。“業績リスト”にある一番最近のものは2002年のものだった。教授の主要研究分野は色のついた文字で表示され、さもクリックできるかのように強いアフォーダンスがみられた。しかし、リンクは張られていなかった。経歴のページにも、教授の研究に関する詳しい情報は見当たらなかった。履歴書(PDFだ!)にはリンクが張られていたが、2003年の3月以来更新されておらず、そこから先へのリンクもなかった。

著者からでは研究に関する情報を得られそうになかった。プロジェクトを実施した学術機関からではどうだろう?親切にも、部門の正式名称が紙面に記載されており、おかげで簡単に検索をかけることができた。検索結果のトップに出たのが、まさに欲しい情報だったが、そのページタイトル — CCEB — には情報の臭いがない。さらに調べていくと、CCEBは、“Center for Clinical Epidemiology and Biostatistics”の略称であることが判明した。正式名称を略さずに書いておいてあげれば、不慣れな外部のユーザにも配慮する組織と考えてもらえるのに…。

しかし、これが一番厄介な問題ではなかった。悲しいことに、大学は、PRにWebを使う方法をまったく理解していないようだ。“CCEB”が New York Times のビジネス面で特集されたその日、部門の最新ニュースは10ヶ月前のものだったのだ。

University of Pennsylvania が見事に失敗している一方で、American Medical Association はよくやっていた。Journal of the American Medical Association(訳注:以下「JAMA」)で検索すると、Journal のウェブサイトがトップでヒットした。JAMA のホームページには、私が探していた論文への直リンクがあり、ホームページ・ガイドラインにのっとって、優先順位の高いコンテンツが目を引くようにしてくれていた。

JAMA のメインナビゲーションにも、過去の刊行物へのリンクが目を引くように置かれていた(色のコントラストが低く、全て大文字表記だったのが残念だが)。このリンクは、最新のものを含む業績のアーカイブへと飛ぶもので、探しているコンテンツが最新のものかどうかを知らないユーザ — いかにも私のような — にはとても有用だ。

総じて言えば、JAMA のウェブサイトにはユーザビリティ上の問題がたくさんある。画一的な More リンクがあちこちに置かれているのは、多くの問題に繋がっている。目の利くユーザにとっては、ホームページの一覧性が損なわれているし、目の不自由なユーザはアクセシビリティが低いと感じるだろう。検索エンジンは、アンカーテキストからキーワードを拾い、目的のページに関連付けることができないでいる。

しかし、JAMA はWebを使ってなすべき仕事をしている。論文の著者やその所属機関ではなく、出版元から検索をしようと戦略をかえた途端、主要な検索エンジンを使ってJAMA のサイトにある論文にたどり着くのに1分かそこらしかかからなかった。

学術機関のウェブサイトがあまりにも使えないという事実が、研究成果を隔離し、効果を減じる要因になっていることは間違いない。外部の人間が、他の分野の研究結果をもっと簡単に自分の研究に生かすことができれば — 研究者同士の個人的な繋がりがなくても– もっと相互の交流を深め、知識を共有して、研究をさらに深めていけるだろう。統合された、ワールドワイドのハイパーテキストシステムこそが、Web構築のもともとの動機だったことを考えると尚更だ。

参考情報

Koppel, R., Metlay. J.P., Cohen, A., Abaluck, B., Localio, A.R., Kimmel, S.E., and Strom B.L. (2005): “Role of Computerized Physician Order Entry Systems in Facilitating Medication Errors,” Journal of the American Medical Association Vol. 293 No. 10 (March 9), 1197-1203.

2005 年 4 月 11 日

公開:2005年4月11日(原文:2005年4月11日)
著者:ニールセン博士
原文:Medical Usability: How to Kill Patients Through Bad Design

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