アクセシビリティだけでは不十分
得点表の一項目であるアクセシビリティに重点的に取り組んだとしても、障碍を有するユーザの支援にはならない。彼らが重要タスクを完遂できるようにするには、ユーザビリティの向上こそが考えられなければならないのだ。
最近、政府機関に勤める読者から、次のような質問が寄せられた。
某社のXYZというポータル技術が、アクセシビリティの高いものかどうかを調べています。これがアクセシブルな製品であると言うのは、これを作った人たち、つまりFooCorp社の人たちばかりです。スクリーンリーダーでこれを利用する人々にとってアクセシブルな技術かどうかを確認したいのです。
質問の中に登場する製品(ここでは“XYZ”と呼ぶことにする)は、我が社が最近実施したイントラネット・ポータルのユーザビリティ評価では評価対象となっていなかったため、これが課題を抱えたものかどうかについては言及できない。ポータル製品の多くは、使い始めのユーザビリティにまで考慮されていないことがこれまでの調査で分かっている。最悪の事態も十分あり得ると考えられるのだ。また、ユーザ・エクスペリエンスに関して、業者の営業マンが言うことを鵜呑みにするのは得策ではない。この読者に言ってあげられるのは、自分で確認しなさい、ということだけである。
そんなに難しいことではない。障碍を持つ従業員4~5人にお願いして、その製品を1時間ばかり使ってもらうのだ。手に入るバージョンでできる現実味のあるタスクをいくつか実際にやってもらえば良い。大切なのは、協力してもらう従業員には、いつも使っているスクリーンリーダーや画面拡大器、キーガードやマウス、その他、日頃から仕事をするときに使うことのある支援技術はなんでも使ってもらうことである。
障碍者に協力してもらってウェブサイトやイントラネットの評価をするときの注意事項を記した39項目のガイドラインがあるにはあるが、今回のようなケースではそこまで気にする必要はない。製品のデザイン変更に備えて公式にユーザビリティ評価を実施するわけではないのだから。この製品が、従業員の仕事を支援するものかどうかを単に確認したいだけである。1時間も使ってみてもらえば、答えは見えてくるだろう。
アクセシビリティに関する誤信
しかし、ここでもっと重要な論点は誤信にある。アクセシビリティは、ユーザやタスクとは切り離して考えられるものであり、評価もされ得るという誤った仮説がここにある。確かに、ウェブサイトをアクセシブルなものにするための技術的な基準のようなものはある。しかし、優先順位の高い項目をすべてクリアーしているとしても、障碍を有するユーザにとってはまったく使いようがないというウェブサイトもあり得るのだ。
調査結果をまとめたレポートに「ALTテキストを越えて:障碍者にも簡単に使えるウェブサイトの実現を」というタイトルを付けたのには理由がある。アクセシビリティ・ルールの#1に、画像にはALTテキストを添えることで、視覚障碍者も画像を音声で確認できるようになるというのがあるのはご存知だろう。アクセシビリティのチェックリストは、しかし、ALTテキストの記述方法 は教えてくれない。つまり、視覚障碍者にウェブサイトを使ってもらえるようにするには、どんなコミュニケーションが必要になるのかまでは教えてくれないのだ。
アクセシビリティのビジネスゴールは、第508条に準拠して高得点をとることではない。ウェブサイトなら、障碍者にもたくさんの製品を買ってもらうことであり、イントラネットなら、障碍を有する従業員の生産性をあげることである。これらは、ユーザビリティの向上を狙うプロジェクトのゴールととても似たものに聞こえるだろう。実際、目指すところはまさに同じなのである。
もちろん、ユーザビリティ上の問題点の中には、ユーザが障碍を有しているか否かで対処の仕方が変わってくるものはある。しかし、障碍の有無に関係なく、共通する問題点も非常に多い。また、ユーザは、障碍の有無で二分してとらえられるほど単純ではない。障碍は二元論で語れるものではなく、程度問題なのである。たとえば、45歳を過ぎたユーザの多くは、ある程度の視力低下を覚えるものであるため、フォントサイズを調整できるようにしてあげる必要が生じる。“弱視ユーザ”として公的な資格を有するようになるわけではもちろんないのだが。高齢者ユーザを悩ませるユーザビリティ上の問題点は、若い障碍者相手の場合と完全に一致するわけではないながらも、類似点は多くなる。
使い勝手が鍵になる
たとえば、お勤めの会社のモバイル戦略を担当しているとしよう。会社のウェブページを、携帯電話で見られるようにするだけでは十分な戦略とは言えない。技術的にアクセシビリティを満たしただけでは何もしていないに等しく、ユーザにサイトを使ってもらえるようにはならない。初期のWAPモード携帯電話の調査から、ユーザは、小さな画面用にユーザビリティがきちんと配慮されていないコンテンツやサービスの使用を拒むことが分かっている。携帯電話用のウェブサイトを準備し、簡単に使える ようにしてあげない限り、それまでの努力は水泡に帰すこととなるだろう。コンテンツに辿り着くまでに途方もない時間を要するとか、絶えずユーザを迷わせてしまうような出来では、ユーザの携帯電話にあなたの会社のサイトが表示されることはなくなってしまうだろう。
モバイル機器が一度に呈示できる情報量には限界があり、常に弱視ユーザを相手にしているようなものだ。想定する利用状況に応じてデザイン・ガイドラインは異なってくる一方で、ユーザの反応はいつも変わらない。サイト内の遷移が面倒だったり、コンテンツが分かりにくかったりすれば、ユーザは去ってしまう。画面拡大器でコンテンツを正しく表示できたとしても、ユーザがそのサイトを使い、中にある情報を読んでくれるとは限らないのである。
障碍を有するユーザにも使ってもらえるウェブサイトを作りたいならば、ゴールを見失わないことである。サイトを活用してもらえるように支援することがゴールなのだ。アクセシビリティは必要だが、それだけでは十分ではない。障碍を有するユーザにとってのユーザビリティこそがしっかりと考えられるべきであり、典型的なタスクを達成するのに、デザインの力でどれほどの支援ができるかが肝要なのである。
2005 年 11 月 21 日