WAPフィールド調査結果

英国でのフィールド調査の後、ユーザの70%はWAPを使い続けるつもりはないと答えた。今のところ、サービスのデザインは貧弱で、タスク分析も十分できていない上、従来の非モバイルでのデザインガイドラインを濫用している。WAPのキラーアプリは、暇つぶしである。この先数年は、mコマースの実現は見込み薄だ。

2000年秋、私たちはロンドンでWAPユーザを対象にしたフィールド調査を行った。1週間WAPを利用した後、この調査の参加者ははっきりした結論をひとつ下した。

  • 彼らの70%が、今後1年以内にWAPを使うつもりはないと語った

この調査では、20人のユーザにWAP端末を与え、1週間使ってみて、その印象を日誌に記録してもらうよう依頼した。また、フィールド調査の開始時、終了時に、ユーザを対象にした従来のユーザビリティ調査も行っている。ユーザの半数にはEricsson R320を、残りの半数にはNokia 7110eを与えた。

この調査をロンドンで行ったのは、英国の方が米国よりも携帯電話市場が進んでいたからだ。英国のWAPサービスは、米国よりも先に開発が始まっていて、調査の時点では普及率もより高かった。

特に気をつけておきたいのは、ユーザがWAPについて否定的な評価を出してきたのが、この技術を丸1週間、実地に利用したでの話だった点だ。フォーカス・グループに参加した人に、使ったこともないものを気に入るかどうか予想してもらっても意味がない。よって、有効性のあるデータを得る唯一の方法は、意見を聞く前に、ユーザにその技術を実地に体験してもらうことである。

WAPは役に立たない

もちろん、単に意見を集めただけではない。時間を測りながらのタスク・パフォーマンス調査も行っている。観察こそ、最良のデータソースだからだ。ユーザに対しては、その週の初めと終わりに、WAP端末を使った単純なタスクをやってもらうようお願いした。その結果を、一部ご紹介しよう。

時間
ニュースの見出しを読む 1.3分 1.1分
地元の天気予報をチェックする 2.7分 1.9分
テレビの番組表を見る 2.6分 1.6分

上の表で、最初の数字は、ユーザが調査開始時点でタスク達成に要した時間(分)の平均値、2番目の数字は、調査終了時の平均値である。

表にあるとおり、基本的な結論として、WAPのユーザビリティは実にお粗末なものと言えよう。もっとも簡単なタスクでさえこれほどの時間がかかるのなら、到底ユーザを満足させることはできまい。最新の天気予報を調べたり、午後8時からのBBC1の番組は何か調べたりするのに2分もかかるようでは話にならない。

これらタスクの所要時間としてはどれくらいが望ましいと思うか、(このデータを見せる前に)インターネットの専門家グループに尋ねてみた。30秒未満、という答えがほとんどだった。WAPユーザは、時間単位で通話料を支払っている。あるユーザの計算によると、WAP端末で今夜のBBCの番組表を調べるよりも、テレビ欄だけ抜き取って後は全部捨てるつもりで新聞を買った方が安いそうだ。

デジャヴ-1994年が再び

2000年後期に行ったWAPユーザビリティ調査の結果は、1994年(Mosaicの時代)に行ったいくつかのウェブユーザビリティ調査の結果と驚くほどよく似ている。まさにデジャヴ(既視感)だ。ここでの結論の多くは、ウェブの黎明期に私たちが達した結論と同じである。その後数年(特に1997年前後)で状況が改善されてくると、より多くのユーザがウェブを利用するようになり、商業利用は爆発的に増加した。

現在のWAPサービスのユーザビリティは非常に低いが、これは、今までのウェブデザイン原則を間違って適用していることにその原因がある。1994年のウェブデザイン問題と、状況はまったく同じだ。当時は、数多くのサイトに「パンフレットウェア(brochureware)」が含まれていたが、これは印刷で有効だったデザイン原則(例えば、大きな画像など)に従ったものだった。しかし、インタラクティブなメディアではうまくいかない。例えば、たまたま見たExciteのWAPデザインでは、2画面に収まる情報を4画面使って表示していた。おまけに、イントロ(splash)画面まで付いている。こういった豪勢なデザインは、ユーザが大画面のPCを持っているウェブでならうまくいっただろう。だが、画面の小さいデバイスでは、デザイナーは各サービスを究極まで煮詰め、提示する情報をもっと絞り込まなくてはならない。

かなりの数のユーザが、WAPデザイナーの発案になる特殊用語で書かれた意味不明のラベル、メニュー選択肢に出くわしている。ウェブの創生期にも、造語(NewSpeak)が幅を利かせていた。自分たちのサービスのために気の利いた言い回しを考え出し、独自の言葉でサイトのブランドを確立しようと血迷った努力をするサイトがたくさんあった。これはうまくいかない。ユーザは簡単なデザインを求めている。標準的な機能には標準的な言葉を使ったものである。WAPデザインでは、なおさら言葉を簡単にしておく必要がある。なぜなら、標準的でない語法を解説するためにロールオーバー効果やアイコンやキャプションを使おうと思っても、そんな余地はないからだ。

テストしたWAPサービスの中には、情報アーキテクチャがユーザのタスクにマッチしていないために、必要以上に使いにくくなっているものがあった。例えば、テレビの番組表は放送局ごとに分類されていた。つまり、午後8時にやっている番組を調べようと思ったら、このサービス内の複数箇所を回らなくてはならないということになる(BBC1用に1画面、BBC2用にまた1画面、といった調子で、イライラするほど遅い画面を何画面も見ることになる)。

WAPサービスを成功させるには、きわめて正確なタスク分析が必要だろう。残念ながら、ほとんどの人にとってはタスク分析など魔法のようなものであり、ユーザビリティ工学の中でももっとも人気のない分野である。従来のウェブも、貧弱なタスク分析の犠牲になっている。ユーザがタスクに対して通常どういったアプローチをとるか、という点からではなく、企業の管理職の考えに沿って作られたサイトは数多い。タスクサポートが貧弱だと、大画面のウェブサイトでも深刻なユーザビリティ問題となるが、画面の小さいWAPサービスでは、ユーザビリティの破滅になるだろう。大画面なら、ユーザは選択オプションをたくさん見ることができるので、デザイナーが各ステップごとに最適なものを精選しているかどうかは、それほど致命的な問題にはならなかった。WAPでは、ここを間違うと死を招く。

WAPユーザビリティの結果で、ウェブでは見られなかったものがひとつあった。サービス間の見分けがはっきりつかないということである。ユーザのひとりが書いているのだが、Financial TimesThe Guardianを見比べた時、現実世界ではこれほど違った新聞もないと思われるのだが、WAPでは、まったく見分けがつかなかった。ウェブサイトでは、普通、この反対の問題が起こる。あまりにも違いすぎるのだ。WAPでは、サービスの表現力は著しく低下する。あらゆるものを極端に短いメニューの中に押し込み、すべてのコンテンツを超短編の圧縮バージョンで提示しなくてはならないからだ。サービス提供者は、新しい言語感を養わなければならない。そして、最小の語数できわだったメッセージを作成できるコピーライターを雇うべきだ。WAPサービスを見分けられるようにするには、これが本当のやり方だろう。

WAPのキラーアプリ: 暇つぶし

モバイルインターネットサービスは、まったく対照的なアプローチをとる2つのモードで供給されており、この両方ともユーザに受け入れられている。

  • 高度にゴール志向のサービス。特定の問題に対する回答をすばやく提供することを目的とする。例:「フライトがキャンセルされてしまったので、新しい飛行機を予約してほしい」「天気は?」
  • エンタテイメント志向のサービス。その唯一の目的は、暇つぶしである。例:ゴシップ、ゲーム、スポーツ関係のサービス。ゴシップは特にWAP向きだ。コンテンツを短くできるし、それでも満足度は減らない。

モバイルサービスは、ユーザに合わせて、その場、その時に則したコンテンツに絞り込まなくてはならない。ショッピングのような一般的サービスは、モバイル環境ではあまりうまくいかないだろう。実際、ユーザがブックマークしたサービスの一覧には、ショッピングはまったく登場しなかった。スポーツとエンタテイメントが、2大カテゴリーである。

暇つぶしは、モバイルデバイスの完璧な活用法だ。ユーザが何かを待っている時に、すぐに利用できるからである。パス停で?短いゲームをどうぞ。何かの行列で?ゴシップでもどうですか。交通渋滞で動けない?ひいきのチームの得点をチェックしよう。

くわしくは: 90ページのレポートをどうぞ

フィールド調査の完全なレポートはNielsen Norman Groupのウェブサイトからダウンロード可能。

レポートの著者は、私とMarc Ramsay。彼は、このプロジェクトでロンドン担当のリサーチャーを務め、ユーザの管理を行った。

2000年12月10日